透き通るような世界観にいちゃいけないタイプのクリーチャーに成ったけど今日も元気に擬態する 作:食卓の英雄
カリンの決死の一撃。接近されたスナイパーとして、最後のチャンス。
その目論見は見事成功し、宙空を舞うリアンへ直撃した。自身が追われている状況で、落下後即座に狙った部位へと当てる絶技を披露した。
あの状況下においてあれができる人間がどれだけいるだろうかというほどの判断力。そしてそれを無事に成し遂げる実力。
双方共に備わり、並の相手ならば確実に成し遂げられたであろう。が、残念ながら今回の相手はその想定を上回っていた。ただそれだけのことだ。
(いやー、危なかった。まさか空中で気づいて即座に当ててくるとは…。咄嗟に上半身を守ったはいいけど、逆に無防備な脚に当ててきたし。焦って一瞬だけ翅を使っちゃったよ)
……まあ、それなり以上に焦らせることは出来ていたらしいが。顔に出ないのに助けられたな。
「……いや、それとこれとは話が別じゃないか?」
「…ん?そんナものか?……キヴォトスの生徒は重傷、重体でもそう日を跨がずとも完治するのだろう?」
「………?確かにそういう生徒はいるけど、その言い方は…」
「しかし、いい腕だな。前回は拝むことは出来なかったが……。卒業したら
「……呑気に話しててもいいのか?直ぐにネル先輩とアスナ先輩が追いつく」
「……アスナは兎も角、ネルは厳しいだろう。これまでの怪我と、最後のアレでは、何度も内部と外部に繰り返し打撃を与えた。……後遺症がない程度には抑えているが、即座の復帰は不可能だと言わせてもらう」
「……さあ、それはどうだろう。ネル先輩は私達の予想を超えてくるから」
まだ武装の解除すらしていないのに、勧誘を始めるリアンに怪訝そうな顔をしながらも、この距離ではこちらに勝ち目がないことも理解している。
先程からカリンの手元を注視している。カリンが動いたら、即座に鎮圧するためだろう。
だが、それでも。これが模擬戦だからといって、抵抗すらしないのも性に合わない。ぐっとホークアイを握る掌に力を込める。
ピクリ、とリアンが反応する。
「やあっ!」
カリンが選んだのは接近。僅かな角度の差が長距離射撃においての大幅なズレになる。当然、至近距離ならばそのブレも少なくなる。
どの道、離れることもできないし、射撃も躱される可能性が高い。ならばいっそのこと近づいて位置を固定させず、それでいてどこかしらに一撃を当てるべきだ。
そう判断し、最後のダメ押しへと駆け出して――――
「よう」
「!」
突如として開け放たれた屋上のドアから、聞き覚えのある声とともに銃弾が放たれた。
鉄扉を開け放ち、傷まみれの体を携えながらも二の足で直立。これだけの手負いでありながら威圧感を漂わせるその立ち姿は、彼女の真の強さとも言うことが出来る。
思わず顔を向けるリアンに、ネルは髪をかきあげて歯を剥き出しに笑う。
「また会ったなぁ…!」
「……少し頑丈過ぎでは?流石にこれ以上は殺してしまいかねないンだが」
「ハッ、やった奴が言うセリフかよ」
「ネ、ネル先輩、無事で…。無事なのか…?」
顔には痣が出来、出血により額から垂れる血が左目を塞いでいる。それでも、震える手足に活を入れてここまで追い縋ったネルは、立ち止まるリアンへと先制攻撃を仕掛けた。
「この場所ならテメェの立体機動も活かせねぇだろ!」
そう、ここは開けた屋上。使用できる構築物など、フェンスか他の建物くらいしかなく、それでいてこれまでの動きよりも制限がされていることになる。
ネルの猛攻を浴びながら、こちらも負けじと銃撃を繰り出すも、全て吹っ切れたネルに対しては決定打にならない。
「…チッ、普通に安静にして欲シいものだが……!」
リロードの隙をツイン・ドラゴンに付けられている鎖でカバーしたネルへと愚痴を零しながらも、リアンはカリンとネルの距離を見計らう。
そして、ネルの攻撃が一瞬止んだ瞬間に背を向け逃げ出した。
「は!?」
「放っておいても倒れる手負いの獣相手に、態々正面戦闘など選ブか」
ネルが背に追い打ちをかけるものの、それを意にも介さずその身を宙に踊らせた。
「っこのヤロッ」
「っ、狙撃する!」
ここで、恨み節を上げるネルに反応し、飛び出したのがカリン。身を投げた相手ならば、その落下時の無防備な時間に当てられるハズ。そう判断して屋上の縁に足をかけ、ライフルを下に構えた。
「…あ?……っ、待てカリン!!」
カリンがライフルを構えたと同時、ネルの怒声が飛ばされる。突然張り上げられた指示に驚いたのが一瞬。
「え?」
「…仲間も居ないヤツが、態々作戦を伝えながら撤退するとでも?」
そして、己が足をかけた縁の真下に、
「――っ、しまっ」
カリンが状況を理解したその瞬間、器用にも壁に手をつけたまま回転したリアンの脚がカリンのライフルを蹴り飛ばす。不意の蹴撃にカリンの手を離れた彼女の
そして、狙撃するために身を乗り出したままのカリンの首へとあるものを通し、それごとその身を放り捨てた。
「ぁがっ…!」
しかし、落下はしない。一定の距離で止まったカリンの体は、宙吊りになっていた。
太めのワイヤーが首に巻かれ、それを支えるのはリアンの片腕のみ。突然の衝撃と喉を圧迫する強烈な苦しさに、カリンが声にならない声を上げる。
「…っ、ガッ゙……!?あ、ぁ……!!」
バタバタと、足を振って揺れるカリンの体重を感じながらリアンは告げる。
「落ち着イて。その輪にはある程度スペースがある。指を入れて体を支えればいい」
「―――ハアッ…!はあっ、はっ…!けほっ、げほっ…!」
指示に従い、気道を確保したカリン。窒息から免れたカリンは、その安堵感と共に上を見上げる。
「……降参するか?するならコレも止めルが」
肝心のライフルはここより遥か下。狙撃手として活躍できることも無く、継続したとしても抜け出せるような手はない。何より、続けると言えば、このまま宙吊りにさせられることがわかると、カリンは己の心に従った。
「こ、降参で……」
カリンを回収し上に上がり直すと、そこにはご立腹といった様子のネル。どうやら同じ様な作戦で二度も上手くやられたのが気に食わないらしい。
「まあ、だから直接相手していないカリンに効くとは思っていたが…」
「うん…。普通に引っ掛かった……」
などと語り合っているが、やはり一応は戦線離脱者を置くためか、黙って眺めている。
それが終わると見るや、ネルは再び構えて一騎打ちを所望してくる。やはり、自身の怪我の具合と戦力を理解しているからか、今のうちに戦っておきたいとの考えからなのだが……。
最後の炎を振り絞るネルに対して、リアンは微妙な顔で佇んでいた。
「最後に、テメェをぶちのめして…!」
「……まあ、別に乗ってやってもいいガ。すまん、
「時間?」
怪訝そうにネルが呟くと、突如ネルの足から力が抜ける。ガクリと膝をつきそうになった所を何とかこらえ、けれど揺れる頭と定まらない視界がネルを混沌の渦へと陥れる。
「あ…。くそ。ふざ、けんな…。あたしは…まだやれ……」
ふらふらと、力のない様子でへたり込んだネルは、焦点の定まらない目でリアンを睨みつけると、次の瞬間には糸の切れた操り人形の様に地に伏せた。
「……ハァ、今やっと効き目が出たか。根性だけでここまで耐えるとハ……」
倒れたネルの体をそっと抱えると、清潔なケースの中から一本の注射器を取り出すと、手首へと打ち込んだ。
これにギョッとしたのはカリン。
「なっ、リーダーに何を…」
「安心シろ。これは解毒剤だ」
「解毒…。って、もしかして…!」
「ああ、予め毒を食らわせておいた。睡眠毒と出血毒だ。ほら、額の血が未だ流れていたダロウ?アレはこれのせいだな」
「ってことは、あのセリフって…」
最初は焦った様子を見せたカリンだったが、ふと思い返すと、それらしき言葉を言っていた節もある。
「放っておいても倒れるって、そういうことだったのか…」
「…まあナ。まさか毒と睡魔に襲われ、あれほどの怪我をしたまま気合で耐えていたというのは、ハッキリいって異常だが…。普通死なナいか?」
心底不思議そうに語るリアンに、返す言葉の見つからないカリン。そのへんは割と本人たちですらよくわかっていない。
「煙幕と吶喊の際に紛れ込ませていたが、痛みにより無理矢理目が覚めたのが悪かったか……?」
ぶつくさと呟きながらも、一先ずネルの応急手当をして、カリンの隣に並べていく。ネルは白目を剥いていて顔色も悪いが、少なくとも命に関わるほどではないようだ。
「…これで、後はアスナ先輩だけか」
カリンが達観したように吐き出す。まさか、C&Cが全員揃っておいて、ここまでしてやられるとは。と。アスナが残ってはいるものの、今回の目的は最早彼女一人では不可能にも近い。
それでも、何かと妙な勘を持つ彼女ならば、何か爪痕を残してくれるのではと仄かに期待して……。
リアンが倒れたネルの無線機へと手を伸ばす。怪訝そうな目を向けたカリンが尋ねるものの、リアンはそのまま喉を鳴らす。
「…降参しているのだから、口出しはしないデくれよ?ン、んんっ…。アー、アア。ん」
何事かを呟くと、リアンは無線機を残っている人物―――即ちアスナへと繋げる。
「“アスナッ!早く屋上に来い!ここで決めるぞ!”」
「ッ!?」
カリンが瞠目し、漏れそうになった言葉がリアンの手により塞がれ意味のない音として霧散する。無線機を切ると、解放したカリンが凄い剣幕で捲し立てる。
「い、今の声は!?少し違和感があったけど、間違いなくネル先輩の……っ、変声機か!」
「ああ。慣れ親しんだ人物にとっては違和感はあるだろウが、どの道機械を通す無線機越しならば然程でもないだろう」
何かもう、逆に何を用意していないのかが不思議になった所で、ドタバタと階段を駆け上がる音が聞こえてくる。
「来たよリーダー!」
ガチャリ、とドアを開け放ち現れたアスナ。しかしそこには既に鎮圧済みのカリンとネルが隅に寄せられ、リアンの手元にはネルの無線機。
「……えーっと。バイバイ!」
これだけで全てを察したアスナは、扉を静かに閉め、来た道を引き返そうと背を向ける。
「いや、普通に逃さないが」
「やっぱり?」
そのままアスナの肩に手をかけたリアンは、首と内太ももに腕を通すと、首の後ろに腰椎が来るように担いで締め上げた。要はアルゼンチンバックブリーカーである。
「痛たたたたたたっ…!ちょっと待って!痛い痛い!!降参!もう降参するから!」
一之瀬アスナ降参。
よってこの模擬戦の勝者、遊星リアン。
●
「…嘘。まさか本当に一人に負けるなんて…」
あの後、アスナを背負ったまま気絶したアカネを回収し、傷の多いネルはカリンに背負わせて帰還すると、セミナー会計の早瀬ユウカ氏が驚いた様子で口を開いていた。
「…3人はそこまでデはないが、ネルは少し怪我をさせすぎた。安静にできる場所に連れて行ってやりたい」
「ええ、まあ…そうですね。色々と聞きたいこともありますが、ネル先輩の怪我の度合いも気になりますし…。移動しながらにしましょう」
こうして危険のある廃墟から撤退し、目が覚めたアカネを連れ、気絶したように眠る(というか多分してる)ネルを乗せてミレニアムサイエンススクールへの帰路についたのだった。
電車の中では、ボロボロのメイド服の集団と異様に高身長な黒尽くめの女など悪目立ちするもので、電車の乗客からは遠巻きに眺められ、時にヒソヒソとこちらを指しているであろう声まで届く。
まあ、騒がしくないという点においてはネルの傷にも障らないためいいのだろうが。
唯一汚れ一つないユウカが居心地の悪そうに着席していた。疲れはあるものの、帰りの暇な時間に模擬戦の内容を振り返っていた。
その中でもアカネはまたもや最初に落ちたことに項垂れ、カリンも一度使われた罠で仕留められたことに眉尻を下げる。何なら、壁を走ったという事を見せているのにも関わらず、先入観からいないと思いこんでしまったことが恥ずかしいとのこと。
あと、戦いぶりとその酷さから時折ユウカが凄く引き攣った顔でリアンを眺めたりしていたが、特に問題はないだろう。
尚、アスナは熟睡中である。来る前にも寝たのに…というツッコミがされたが、これには理由がある。
途中の煙幕に紛れて、リアンが睡眠ガスを放出していたためだ。疲労の大きかったネルに比べて、少し前に寝たばかりのアスナでは効き目が異なり、電車に揺られるようになって一気に襲いかかったのであろう。
「なあ…。その、聞いてもいいか?」
一通り話し終えた後に、カリンが言葉を告げる。感情をまるで映さないその瞳にたじろぎながらも、気になったことがあるとのことだ。
「みんなから聞いてはいたけど、貴方は想像以上に強かった。それに、元何でも屋だからか、色んなことも熟せるのは分かってる。……手先も器用だし、アカネが貰ったティーセットみたいなものまで作れるだろう?」
「…ああ」
「その、言い方は悪いけど、何でブラックマーケットなんかに?あなたは他の所みたいな悪徳企業ってわけでもないし、他の連中みたいに技術や知識が足りないわけじゃない。普通に会社を立ち上げても十分やっていけるように見えた。……前に、設立理由は聞いたけど、それなら表でも……いや、表社会の企業のほうが良いと思ったんだけど…」
「フム…、まあ、確かに」
カリンの疑問も尤もだろう。確かに、同じ表社会のれっきとした企業の方が、世間からの目も幾分かはマシということも分かっている。
見れば、アカネとユウカも興味はあるらしい。多分、ネルやアスナは気にしないだろうなと思いつつ、それだけ常識人側の、特に諸々の技術を有して活かすミレニアムとしては気になるのだろう。
「……一つ、質問するが。……俺ノ名前は?」
「…?遊星リアンでしょ?」
当たり前の事を聞かれたかのように呆気ない反応。でも俺がそれに答えないことに気がついて、アカネがその後を引き継ぐ。
「まさか……」
「それも、偽名だと?」
「ああ、自分で考えタにしてはいい名前だろう?」
その反応はそれぞれだ。元々付き合いの薄いユウカは、社長として、ブラックマーケットの有力者として知られているそれが、全くのデタラメであることに驚き、アカネは反対に裏の世界で最初から偽名を使うことの利点を考える。
そして、カリンは最も気になっていることを口に出した。
「じゃあ、本当の名前は……?」
カリンが口に出し、二人も習うようにリアンの返答を待つ。暫しの沈黙。顎に手を当てるような仕草から放たれた次の台詞に言葉を失った。
「―――さあ?」
「…さあ?って、自分の名前じゃ…」
「…ト、言われてもな。知らないものは知らない」
「き、記憶喪失ってこと?」
「……そうなるのか?…まあ、ソレが理由だな。前にも言った通り、俺の身分は全て偽造。名前も、生年月日も、年齢も。俺にハ身分を証明してくれる様な人は居ないしな。そんな有り様デは、真っ当な社会で足がかりなど手に入らないだろう?だから身分問わず雑多な人間のいるブラックマーケットが適してイタだけだ」
「そ、そうだったんですか…」
「…なんか、ごめん」
やはり衝撃的なことだったのか、軽々しく聞いた彼女たちが少し暗い雰囲気を醸し出す。が、それをリアンは軽く遮った。
「…ああ、別に気にしなくてイい。今更自分の名前なんかに興味はない。今は遊星リアンだ。名を変える予定が今のところないのでな。そのまま呼んでくれればいい」
リアンはそうは言うが、そう言われてしまうと、今度は何故そこまで興味なさそうにいられるのかが気になったものの、再びの藪蛇をするつもりはない。
一まずは納得して、再び電車に揺られていくのであった。
「…空気を悪くして悪いな。そうだな、二人も起きたことだし、後でレストランでもドウだ?無論、ネルの怪我がある程度治ってからにはなるが」
リアンの言葉にギョッとして見ると、バツの悪そうに起き上がる二人。話題が話題だけに気まずかったらしい。
それを見抜かれていたことが気恥ずかしいのか、目を逸らしている。
「……ああっ、ウダウダしても仕方ねえ!……いいぜ。そこ、美味いのか?」
「最近ウチの傘下のグループが開いたところだ。味は保証するぞ?早瀬氏もどうダ?」
「えっ、わ、私ですか?」
「じゃあリーダーは早く怪我治してね!じゃないとアスナ達まで遅れちゃうよ!」
「うっせ、分かってるよ…」
と、ぎこちないながらも空気を入れ替え、約束をつけると六人はミレニアムサイエンススクールに辿り着くまで、他愛のない会話を続けるのであった。
因みに、ネルの怪我は3日くらいで完治し、その異常な回復力にリアンが引いたのはまた別のお話。
リアン「……トころで、あの勧誘は本気だ。頭の片隅にでも届メておいてくれると嬉しい」
カリン「えっ、で、でも私は殺伐としたのは嫌で……」
リアン「そういうことならヘルプで入ってくれるダケで、普段はかわいいカフェの店主でもしてくれればいい」
カリン「なっ、なっ…!?何でそれを……!!?」
リアン「……それに、ウチなら経理や税理士も紹介出来るシ、人員もある程度は集められる。勉強が苦手でもフォローはできるぞ。どうだ?」
カリン「え………それは、その……」
ネル「なんでカリンだけなんだよ。それならあたしの戦力はどうだ?」
リアン「戦力はともかく、短気で独断専行しがちな割に強いのは却って和を乱す。正直部下としてはいらん」
ネル「っ、んだとてめっ!!」
アスナ「あはは!リーダー言われてるー!」
ユウカ(分かるわ……)
ちょっと巻きすぎたかもしれませんが、とりあえずこれにてC&Cリベンジ!は終わりです。
ちなみにこのデータはエスカドラにも見せましたが、相手がリアンでそれに対応していたために全く参考にはならなかったとのことです。
尚、リアンは本当に自分で遊星リアンとつける前の名前を知りませんし、どうでもいいと思っております
先生の台詞にゲーム本編のように「“”」はいる?
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先生と一目で分かるからあった方がいい
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別にゲームテキストでもないのでなくていい