透き通るような世界観にいちゃいけないタイプのクリーチャーに成ったけど今日も元気に擬態する 作:食卓の英雄
「……すみません。部外者ではありますが、これを見せられて、知らないフリはできませんわ。……一体、何があったのです?」
意を決して、ハルナはリアンへと声を掛ける。その姿はこれまで以上に淑女然としていたが、その身に秘める思いはひとしお。好奇心などではなく、固い決意によって歩み寄っていった。
「…客か。君たちは…美食研究会か。あのチラシを見て来たのなら悪いが、今は事故が発生していテナ。すまないが今はこちらの全業務を停止させている。…復帰がいつかはわからないが、また出直してくれると助かる」
前に進んだハルナをゆっくりと見下ろすリアンは、いつもより重い声音で宥める。
しかし、その慮るような言葉とは裏腹に、その纏う空気は異常の一言。何の変化もないはずなのに肌が粟立ち、目の前が真っ暗になったかのような錯覚に魘われる。これまでにも、圧倒的な力を持つ相手と相対したときにも似た威圧感と、内側から貪り食われるかの如き奇妙な殺気。
それはハルナを視認した時点で失われたが、その一瞬だけでも常人が腰を抜かすには十分な程。
目線は美食研究会全体にも向けられ、その威圧的な風貌と調子の見えない声に他の面々はたじろぐ。
「ちょっ、ハルナ!?駄目だって!あんなの私たちじゃどうにも出来ないし、怒ってるって!!」
「はい、気にならないと言えば嘘になりますが。…その、流石に私達も人の心を持っているものでして…」
「ひええ…」
「流石に、これに踏み込むのは…」
仲間からの反対も上がるが、ハルナは諦めない。先程の視線にも負けることなく、顔を上げて、目と目を合わせて再度繰り返した。
「分かっています。私達とは関わりのない事態であり、私達が邪魔になるかもしれません。……ですが、だからといってこの様な惨状を見て見ぬふりをして帰ることなど出来ようもありません」
更に、ハルナは続ける。
「私は美食をこよなく愛していると自負しています。それは環境や値段、食材の質や細やかな気遣い、適切な態度と、シチュエーションなど様々ではありますが、生産者の方も、もれなく含まれています。………食材を届けてくれる方々がいなければ、肝心の美食も成り立ちません。そして同じく、彼らの熱意や信念、込める想いも、方向性は違えど美食を愛する者として、敬意を抱いております*1」
ハルナのポリシーが語られ、視線は奥のベッドへと向けられる。これまで静かに、淑女のように落ち着いた口調から、次第に盛り上がっていく。
「一方的にではありますが、私は彼女の熱意と愛の一端を知っています」
掲げられるのは、とあるホームページ。それは件の彼女が発信しているブログのものだった。
そこには、蟹に関する情報や雑学の他、様々な蟹の調理方法や料理が掲載され、時に活動報告を載せ、時に仲間と共に美味しそうに蟹を食べる写真などが多く掲載されている。
一目見ただけで、本気で蟹のことが好きだと分かるほどのもの。何を隠そう、ハルナも高級食材である蟹ばかりを発信し、それでいてレベルも高く愛もあるこのブログはお気に入りの一つだ。それだけにここへの期待も高まっていたのだから。
「手間も素材もあってこその美食。それを阻むものがあり、また解決の一助になるのであれば、この黒舘ハルナ、身を切る覚悟は出来ていますわ」
毅然とした態度で堂々とした立ち姿。強い意志を見せる赤い瞳。黒舘ハルナはその矜持と想いを告げる。
無言でその姿を見下ろすリアンだったが、言葉で諭す程度で引く気がないと見るや、背後に控える面々へと目を向けた。
「…だ、そうだが。……お前達はどうする?一度踏み込めば、こちらの事情に巻き込まれる形トなる。引き返すなら今の内だ」
温度を感じない視線と言葉に、しかして美食研究会の面々は今度こそ動じずに答えた。
「そう言われて、引き返すってのは後味が悪いでしょ!」
「そうですね。ハルナが参加するのでしたら、それはもう私たちも一緒にいくしかないでしょう。…それに、どの道問題が解決しなくては海の幸も食べれないでしょうし、少しでも早まるならそっちの方がいいですよねっ☆」
「えっ!?そうなの!?じゃあ、早く解決しないとー!!」
「…ええと、いいなら…。うん、ハルナ達だけ残すのも心配だし、何か力になれるなら……」
どうやらみな同じ気持ち?らしい。
先程まで迷いの多かった面々が、乗ってきた。それぞれ自由人の様に見えるが、流石部長として集まりを作るだけあり、そのカリスマと信頼もあるにはあるらしい。
「……まあ、いいだろう。事の顛末は聞イてはいるが、肝心の本人ノ意識が戻ったばかりデな。これから聴取する予定だった。血の匂いに耐えられるなら共に聞くといい」
こうして、美食研究会withフウカが一員として加わったのだった。
―――…
テントの内部はむせ返る様な血と薬品の匂いが立ち込めており、食欲が失せる類の刺激臭が鼻腔を刺激する。
これでも幕を全開にしているため、薄くはなっているのだが、それでも普段より何倍も濃い夥しい血の痕跡に二の足を踏む。
テントに立ち入ったのは、リアンを筆頭に美食研究会とフウカが付き添う。
カニ道楽ちゃんのベッドに押し寄せていた船員達はこちらが入ってきたことに気づくと、やや名残惜しそうにしながらもその席を空け、耳を傾ける。
「…すまなかった。お前の目と腕が失われたのは、全て俺の責任だ。……許しを乞うわけじゃナいが、後の生活には手厚いサポートを約束する。治療、リハビリは勿論のこと、必要であれば専用の設備や義手も無償で揃える。…無論、俺が死んだとしても続けるように便宜は図っている」
目があったリアンは、真っ先に頭を下げる。
その姿を見て、当のカニ道楽ちゃんはというと、責めるでも、悲嘆に暮れるでもなく、下を向き、ただ口を引き結んで沈黙を貫いた。
「………」
その空気に、美食研究会も良くない流れを感じたからか、最も責任を感じているであろうリアンを心配そうに眺める。
「………やはり、そう簡単には………??? 少し、その動作を続けたマまこっちを向いてみろ」
視線を落とし、その対応に心苦しいものを感じた次の瞬間、リアンはその挙動を不審に思い指示をする。
ビクリと反応したカニ道楽ちゃんは、ゆっくりと顔を上げた。
気まずそうに、目をそらしながら上げられた顔。血痕の残る包帯が顔の半分を覆っている痛ましい絵面ながら、その頬は何度も上下に動いている。
「………何を、食っている……?」
「……いや、
「吐きなさい」
「え、でもまだ味残って…」
「吐きなさい」
「……ぅい」
差し出された紙にぺっと吐き捨て、それをしっかり包んで捨てる。
「…まだ麻酔が残っているから、暫く口に入れるのは避けろといったばかりだろ」
「だから…その、噛み切らないやつを…」
「その判断が出来るなら、何故我慢することを選ばなかった…。舌を噛み切れば、元も子もないだろうに」
「はい…。すいません……」
表情こそ変わらないが、身振りで呆れていることがハッキリと分かる仕草に、初めて人間臭さを垣間見る。
「まあ、何だ…。思ったほど落ち込んでいる訳ではなサそうで、安心した」
「あー、はい。みんなにも心配かけたしね…」
そうしみじみと語る彼女だが、その外見に反して悲壮感というものはあまり漂っていない。本来ならば、色々と過程を考えていたものだが、この精神状態ならば大丈夫だろう、と本題を切り出すことにした。
「それで、一体何があった?お前のところの船員から話は聞いているが、海中の様子はお前しか知らない。……クラーケンの目撃証言もあったが、あれには引きちぎることは出来ても、切断は不可能だ。………もう一度言ウぞ。お前は一体、
単刀直入に出された問いに、彼女は言い淀む。が、絶対に聞き出すという気迫が伝わったのか、ベッドから身を起こす。
「いてっ…」
「ちょ、ちょっと!安静にしてなさいよ!」
片腕を抑え、それに心配したジュンコが声を掛ける。
そして、楽な姿勢を作るとまずは背後に控える美食研究会達を見て、一度リアンに確認する。
「うーん、言ってもいいのかな…。そっちの子たちはウチのとこのじゃないし……」
「ああ、それなら問題ない。今回の事態に協力したいと申し出た美食研究会とゲヘナ学園給食部のフウカだ」
「おー、美食研究会。…名前は知ってる」
「ご紹介に与りました。美食研究会で部長を務めさせていただいている、黒舘ハルナと申します」
「ハルナね…。あ、もしかして前ここに手紙出したりした?」
「!ええ、その際はこの様な形での出会いになるとは思いませんでしたが……」
「あー、ごめんね。食欲失せちゃったでしょ?」
「いえいえ、そのようなことは…!」
お互いに、一方的な認知があったお陰か、初対面でも中々気が合う様だった。交流もそこそこに話を戻す。
「……ええと、確認も含めて最初から言います。まず、私が漁に出た朝方。海模様はいつも通りで、気象情報とかも特筆することはない状態でした。…多分、それは他の船と船員も理解してました。で、確か6:30を少し回ったくらいで、海が急に荒れたんですよね」
記憶を振り絞りながら、控える船員と確認し合い当時の状況を振り返っていく。
「ああいや、その前に凪いだんだった。それで、急に海だけが大荒れしたんです。地震も疑ったけど、それにしては妙な海面だったので、候補から外しましたね。その時、海面が大荒れしてからクラーケンまで現れた。聞いたのはここまでですかね?」
そこで手が上がる。挙手したのはフウカだ。
「ちょっと待って。その前にクラーケンって何?」
「確か…物語に登場するイカの怪物でしたよね☆」
「でっかいイカってこと?」
聞き慣れない単語に疑問を覚えたらしい。そう言われてみれば、これが当たり前過ぎて伝えるのを忘れていた。
「む、そういえばそうだった。この海域にはクラーケン……。まあ勝手にそう称しているだけだが、巨大なイカが度々漁船を襲う事例が発生している」
「襲うの!?イカが!?」
「ふむ、船を襲う程の大きさとなると、ダイオウイカなのでしょうか…」
「いや、舐めてもらっては困る。体躯はダイオウイカすら凌駕する40m程。戦闘力は大手学園の治安維持組織の幹部格総員でかからなければならない程度には強く、そのクセ形勢が不利と悟るや即座に逃走。回復したら再び襲いかかるくらいには執着が強い。これまでに何度か撃退しているが、未だ元を断ててはいない」
「よ、40m……ですか」
「ほとんど化け物じゃない!」
「とても強いイカさんなんですね…」
「そんなにおっきいと色んな方法で食べれそう…」
さり気なく語られたものが常識の外にあっては、この反応も納得だ。
「……でも、話を聞く限りではそのクラーケンも逃げていたんですよね?」
「はっ!そ、そうじゃん!?」
「動きを止めたはいいものの一撃でやられて逃げてたね」
思い返すカニ道楽ちゃんの顔には、呆れとも恐れともとれる妙な表情を作っていた。
「……何?仮にもデカグラマトン級戦力だぞ?一体どんな化け物だ?」
デカグラマトン級戦力という言葉の意味は美食研究会には伝わっていないが、前後の会話から、脅威度の高い存在であるとは理解した。
そして、それ程の存在を軽く一蹴するものとは一体何なのか。みながその続きに耳を傾けていた。
「……蟹」
「蟹?」
「あれは蟹だった。……色々と纏ってたり、岩盤そのものが付着しているみたいだったけど、外骨格や鋏、形状から考えて、間違いない。大きさは大体300mくらいだった。多分、海が荒れてたのも、そいつが地盤から出てきたからだと思う」
蟹。けれど巨大イカであるクラーケン以上に、超常の存在じみたそれには、とても理解が追いつかない。よしんば理解は出来ても、そんなものは目にしてみなければ信じられない。
だが、現実問題として、信じる他ない。
「300mの蟹…。ちょっと想像が…」
「まあ、信じられないか。……ただ、心当たりが一つ」
「心当たり…ですか?」
聞き返したハルナに対して、カニ道楽ちゃんは続けた。
「オーナーには話したと思いますが、私は以前ある学校の生徒会長だったんです」
「は?初耳だが?」
「えっ」
「えっ」
なんか地の文にカニ道楽ちゃんってあるのじわる。
本編では語られることのないおまけ
フ「ところで、手術をしたってことは、もしかして医師免許を持ってたり…?」
リ「持ってるぞ」
フ「すご…!……あれ、ちょっと待ってください。まさか、偽造したとかじゃ…」
リ「いや、普通に買ったものだ」
フ「ほっ、なら良……くない!?結局ちゃんとした許可は受けてないじゃないですか!!?」
リ「ブラックマーケットで売られている医師免許だな。ちゃんと試験やら諸々は合格している。…まあ、ただ金だけじゃ買えないものだから、そこは安心して欲しい」
フ「それなら…まあ…?でも、それなら普通に取ることも出来たんじゃ」
リ「戸籍も身分の保証も出来ない奴が受けられるトでも?」
フ「……ごめんなさい」
先生の台詞にゲーム本編のように「“”」はいる?
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先生と一目で分かるからあった方がいい
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別にゲームテキストでもないのでなくていい