透き通るような世界観にいちゃいけないタイプのクリーチャーに成ったけど今日も元気に擬態する 作:食卓の英雄
やっと本編行けるぜ。
実は元々数話程度で完全に完結させるつもりだったのが、どんどん書きたい要素が増えていって、こうして長くなってしまいました…。
本編見たい方には暫く退屈だったでしょうが、次回からは話数に数字付きの本編へと一旦戻ります
モササウルスの保護から暫く。機器の撤去やモササウルスの健康状態の確認、設備の設置などをしていたら、いつのまにか西日が射していた。
美食研究会の面々も、昼にあんなことが起こった手前軽食程度で済ませており、みな空腹と疲れでへとへとになっていた。
丁度夕飯時。アカリに話していた通りに、特別に店で彼女たちを饗すことにするのだった。
―――…
まな板に置かれたトラフグを前に、リアンは包丁を瞬かせる。
背鰭、胸鰭を丸い肉体に沿うように滑らせ、可能な限り肉を傷つけないように分離する。
次に鼻から延長線上の両側面へと軽く線を入れ、丸く出たカマを落とさないように刃を通して口を落とす。
本来ならばこの工程は硬く、力と技術が要されるが、そこは人外ボディに加えて自らが鍛造した包丁。まるで抵抗などないかのようにストンと通る。
内臓を各種取り出し、そのつながりと肉の境目に包丁を差し込んで、完全に断裂させる。
口は歯の隙間から切り、そのまま潰すとなめだれを輪状に取り除き、口を中央から二つに切り分けた。
「確か、フグの口も食べられましたよね」
「…ああ、希少部位だな。ゼラチン質のねっとり感と裏の身からは骨の旨味が程よく出ている。……後でやろう」
「いいんですか?」
「今回は使わんからな。こっちで頂いてしまえ」
ぷつり、と柔らかに沈むように見えた刃が薄く皮を断ち、次の瞬間には皮が開かれ、背と腹に分ける。
両面とも通したら尾の側から肉に沿って刃を通して、半ばまで来たら尾を押さえて引っ剥がす。
腹も同じく、けれど内臓へ傷を与えないように気をつけて皮を剥ぐと、そこにはもう剥き出しの肉体のフグが転がっている。
腹側を上に、エラの下から刃を通してカマと内臓を取り除く。
外したカマから毒性のあるエラや心臓、脾臓や腎臓を除去して、粘膜と付着物を取り除くために鞣す。
後は骨と目玉などを取り除けば、カマの出来上がりだ。
胴体から粘膜と皮を削ぎ落とし、ヒレの付け根から差し込みうぐいす骨を取り外す。先端の血合いを取って、うぐいすを安置する。鍋などでは取り合いになる部位だが、今回は量は十分にある。
骨から血を出し、掃除をしてから三枚開きにする。
これでトラフグは捌き終えた。一連の動作はほぼ迷いなく、スムーズにかつ一つ一つ丁寧に行われており、早くとも身に余分な傷や粗が出ることはなかった。
可食部位を寄せ、毒性のある部位は専用の袋に入れてから、横を見る。
「…こうして河豚は捌く。基本的に毒性があるのは肝臓や卵巣といった内臓だが、種によって異なる。仮に捌く機会があるなら注意するといい。……免許取得には必須の知識なので、違法な手段にでも走らなければそんな事はないだろうが」
「…河豚を捌くのって、こんなに早く出来るんですね」
「…昔取った杵柄とも言えるが、今は特にな。毒袋の種類と場所まで手に取るように分かる。万一失敗してもそれは俺が食えばいい」
「……毒が回っても食べる手段があるんですか?」
「いや、単純に俺にテトロドトキシンは効かないだけだ。真似するなよ?」
「できません……」
約束通り、フウカを厨房に招き、海の幸をふんだんに使った食事を美食研究会へと用意する。中では従業員が忙しなく動き回り、けれど一品一品と、手間暇かけた料理がつくられていく。
出来は勿論だが、早さも重要視される。これはほとんどの料理にも当てはまるが、海鮮は傷みやすかったり、生で食すこともあったりと、特に鮮度や温度などの管理が繊細だ。
いや、思ったよりも消費が早い。特に鰐渕アカリの胃はブラックホールもかくやというほどで、瞬く間に料理が消えていく。
とはいえ、余裕が無いわけでもない。時間稼ぎに、自分たちでひと手間加える一品を拵えてやれば、その分だけ手も止まる。
その合間に、コストパフォーマンスのいい食材と、出来るだけ間を持たせやすい料理に手を加えて出していく。
活造りに始まり、刺し身盛り合わせなどで場を温めた所で、丼物などを提供する。
本来のコース料理ではあり得ない組み合わせだが、彼女たちの目当て的には十分満たせるだろう。
あえて濃い味の料理の後に、口直しのためのスープ。ブイヤベースの割と庶民的な味だが、やはり鮮度と手間が違う。
鱸のムニエルはこのあたりでいいだろう。下味に塩胡椒。少々のハーブを臭い消しに使い、小麦粉を塗してレモン果汁を少し搾る。
バターとサラダ油で旨味と焦げを両立させ、皮を下にして軽く2、3分蒸し焼きに。軽く焦げ目がついたらひっくり返して白ワインを鍋の中に注ぐ。
風味づけは勿論だが、どうもここキヴォトスでは酒類の規制が強い。何故か戦車の免許などは高校生でも取れるのに対して、どんな大規模な厨房を支える料理人であっても、酒類は同様に規制がされていた。
……なので、みりん風調味料などしか経験のないフウカへ違いや扱いなどを覚えさせるのにも適切だろう。
他にもいくつか任せてはいるが、学生では手に入りづらい代物を扱う際には一緒に作業をしている。
その間、テーブルに備え付けの金網で牡蠣やホタテといった貝類などを焼いて貰い、余ったスペースでアンチョビキャベツを加熱する。これは時間稼ぎもあるが、自分で焼いて食べるというのも小屋系の醍醐味である。
今はこうして次々料理を作っているが、本活動時は割とこっちもメインの一つである。
そうして、序盤であっさりとした品の数々を味わってもらい、中盤は少量取れる珍味で場を持たせつつ最後の大トリに向けての準備を整えていく。
途中、アカリから海鮮丼や大量のウニ丼のおかわりが入るが、そちらはどうとでもなる。
ぱくぱくとよく食う彼女たちの姿に厨房からも微かに笑みが溢れる。
そしてとうとう現れるのは、ウチの自慢の蟹。
あの件があった以上、抵抗もあるかと思いきや、サイズが違いすぎてそんな感想すら思い浮かばなかった様だ。
通常松葉ガニと認定されるサイズよりも更に一回りほど大きく、大きく太い脚にはぎっしりと身が詰まっている。
人数に合わせて4杯。
まずは、生で一口オススメする。甘く、濃縮されたカニの旨味が広がり、噛めば噛むほどに深い味わいに、誰もが目を輝かせている。
次に、蟹酢、醤油、ポン酢などを好みでつけて貰い、また一口。つけ過ぎないようにあえて皿は小さくし、新鮮な蟹の旨味と噛み合うようにしている。
よく、カニを食べるときは無言になるというが、彼女たちは真剣にカニの身を取り出しながらも各々の感想と会話に花を咲かせている。
そのスタイルは各々個性が出ている。
ハルナはほじり出したそばから少しずつ食べていき、ジュンコはある程度まで溜めてから一口に頬張る。
アカリが関節を折り、1本の足を丸々食べていると、それに感化されたのかジュンコも真似して、中途半端に失敗して嘆いている。
………イズミは、恐らく持参したであろう謎の調味料をかけている。いや、うん、そこは個人の自由でいいんだが、何かあれ紫色なんだけど。
そして、片脚を食べ終わった辺りで、蟹の甲羅が開かれる。そこには、体格に見合った立派なカニ味噌が詰まっていて、その香ばしい香りが、炙られてより濃厚になっている。
カニ味噌を啜り、ボウの身をつけて、また一口。濃厚な味わいの味噌と、甘く柔らかな身の相性は抜群だろう。
味噌も残り微かとなり、ボウの数も減ってきたこの頃、ふと思いついたようにハルナが呟いた。
「…確か、大人の間ではこうして食べた蟹の甲羅を使った『甲羅酒』というものがあると聞きます。私も、いつかは―――」
「……やってみるか?」
「へっ?」
素っ頓狂な声をハルナが上げた。
「よ、よろしいのですか?私たちはまだ学生なので…」
「別に、誰が見張っているわけでもない僻地だ。健康に害を及ぼさない程度なら……まあ、いいだろう。大人の体験版という奴だ。小さい頃、親族にねだったことくらいあるだろう?」
「ですが、飲食店としては……」
「別に、今回のこれは店としての営業じゃない。…それに、俺自身も良い人間という訳じゃないしな。…ま、無理にとは言わないが」
「で、ではお言葉に甘えて……」
「何でしょう…。ドキドキしますね」
おずおずと受け入れた彼女たちの蟹の甲羅に、少しだけ本醸造酒を注ぐ。
たちまち、ふわっと香る酒精と、蟹の甲羅の炙られた香ばしい匂いが広がって、色めき立つ。
「……こちらは?」
「百鬼夜行自治区老舗の本醸造酒*1だ。一応熱燗ということになるからな。辛口だが、あまり成分が濃くてもくどくなる。……無理なら残していい」
その一言に、ごくりと喉を鳴らした彼女たちは、恐る恐る甲羅を口元に運び、その透明な液体を啜る。
「「「ほぅ……っ」」」
と、3人の声が重なる。多分プラシーボ効果もあるだろうが、それにしたってよくこうまでいい反応をだせるものだ。
そして、3人ということは1人だけ沈黙したままの生徒がいるわけで……。
「…おや、ジュンコさん?」
「もしや…」
そう、ジュンコが口を引き結んで硬直していたのだ。
「………苦ぁ…。よくあんた達は美味しそうに飲めるわね」
「……口に合わなかったようだな。まあ、初心者向けというわけでもないからな。無理せず捨ててくれ」
「え、でも勿体ないし…」
「嫌々飲まれるのも、こちらとしてはあまり良くないだけだ。まあ、構わない。こちらで〆と口直しでもしてくれるといい」
彼女たちが蟹に夢中になっている間、リアンの手によって最後の一品が運ばれてきた。
浜鍋。
これだけ料理を出しておきながら、締めが浜鍋かとも思うかもしれないが、一応ここは極寒の地。体の温まる優しい味付けの寄せ鍋はありがたいと評判だ。
因みにチョイスはメニュー一覧から客の要望に合わせるようになっている。勿論食べ合わせが悪かったり、相性のよくない組み合わせがある場合は前もって言わせていただくが、なんだかんだで好きな味が食べたいのだ。
「ほわぁ、やさしい味…」
「…!これは中々…。この温かさと程よい濃さが染み渡りますね」
「具も豪華ですよ〜。今まで食べていたズワイガニに牡蠣にホタテ…。鯛のお頭や鮭に鱈……。こちらはフグと白子でしょうか…?…とぉってもクリーミーで美味しいです♡」
「ううぅ…。すっごい高級……。!色んなのがたくさん入ってこれだけ美味しいならチョコソースを加えれば……!」
「やめて」
「誰かイズミさんを止めてください」
わいわいと進む食事。
結局、雑炊まで食べた彼女たちは、いかにも満足といった様子で幸せそうにしていた。
フウカもフウカで、自分の分は確保しており、合間合間につまみながら堪能していたらしい。
既に日は沈んでいたため送ろうかとも提案したのだが、フウカの「ここにいてあげて欲しい」というお願いには流石に下がらざるを得なかった。
まあ、その代わりといっては何だが、こちらで作っている塩辛などの珍味の瓶詰めを各自に渡し、ついでに来れなかったジュリ宛に土産を持たせておく。
「今回はありがとうございました。普段中々手に入らない食材の調理方法も実践で学べてタメになりました」
「ええ、本当に、お世話になりました」
「すっごく美味しかったし、苦労した甲斐があったわ!」
「お土産までもらって何だか申し訳ないですね…」
「今度は私のお気に入りを食べさせてあげるね!」
みなが口々に礼を述べて(給食部の)車に乗り込んでいく。そんな中、ハルナが一人振り返る。
「…どうした?」
「その、彼女の容態は大丈夫なのでしょうか…?」
ひそひそと小声で尋ねるハルナ。気にはなるが、この雰囲気を壊してしまうのもよくないと思ったが故の事なのだろう。
そんな気遣いに、心の内で笑みをこぼして、堂々と答える。
「…心配は無用。既に患部は快方に向かっているし、義手のあてもある。後は
「…!ええ、安心しました」
「ハルナー?もう行くわよー!」
緊張の取れ、綻んだ顔を見せたハルナに、何事かを話している二人に訝しんだジュンコの呼びかけが届く。
「…呼ばれてしまいました。では、今回はさようなら、ですわね」
「ああ」
「……是非、
「………ああ、その際は頼らせてもらう」
「では」と一礼をしてハルナが乗り込むと、彼女たち5人を乗せた車はエンジンを吹かせてもと来た道を引き返すのであった。
「………あれで、テロリストでなければ……。いや、その強いこだわりと思想あってこそ、か」
誰となく呟いた一言は、陸風にさらわれて消えていった。
その後、リアンは暫く海域自体を封鎖し、カルキノスの脅威を除くまで漁の禁止とここで働く従業員の別件への斡旋を申し出たが、彼女たちの強い意向によりカルキノスを監視しながら、ルートを変えて漁を続けることになった。
そして、規模縮小に伴い人員も再配置し、内蟹漁船のメンバーからカルキノス対策として本社へと連れて帰った模様。
Q.ふぐ勝手に捌いて大丈夫なの?
A.リアンはふぐ調理師免許を持っている。勿論条件に当てはまる訳がないので、ブラックマーケットで行われたもの。ブラックマーケットに落ちた者などはその前提条件が満たせないことも多いので取っ払っただけであり、その試験内容は本物と寸分狂いない。
ブラックマーケットは中々そういうものに頼れないのでこういう所で用件を満たすことがある。
何がそうさせたのか、違法ではあるものの腕前自体は本場の協会からも言うことはないらしく、一応安全ではある。
尚試験自体は余裕で通った。昔取っていたから簡単だったとのこと。
Q.子供に酒飲ませていいの?
A.よくはない。でも別にリアンっていい人でも教職でもないし、何なら今回のは実施場所として店を使っただけで営業ではないので…。親戚の集まりとかで子供がお酒をねだったりしてちょっとだけ飲ませる感覚。
Q.ふぐの捌き方無駄に描写してたけどあれは?
A.省略はしたが、大体あれであってる
先生の台詞にゲーム本編のように「“”」はいる?
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先生と一目で分かるからあった方がいい
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別にゲームテキストでもないのでなくていい