透き通るような世界観にいちゃいけないタイプのクリーチャーに成ったけど今日も元気に擬態する   作:食卓の英雄

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何かコメ欄に鹿紫雲いて草

一応言うと、作中でリアンが全力を出したことは一回もありません。本気で事に当たったことはありますけどね。



第52話 ワルい大人

 

 

 ―――(ザン)ッ!

 

 

 鋭い斬撃音が木霊する。

 

 その一撃を受け入れたミカは、しかして訪れない痛みに疑問を覚える。それに疑問を覚えるまもなく、重力に従い落下する己の体が何者かに支えられる。

 

 タッ、という軽い着地音。背に感じるのは何者かの腕。

 

「私、死んで……?」

 

 瞳を開ければ、そのすぐ間近。月光を背にあいも変わらず表情の読めない顔を向けていた。

 

「なんで…?」

 

 漏れるのは、何ともつかない疑問の言葉。何故生きているのか。何故こうして支えているのか。

 

 それらの混じった問いを、リアンは呆れたように切り捨てた。

 

「イや、普通に考エて依頼主の前で対象を殺す訳なイだろ。……いや、ある意味では殺したかもしれんが……。よく言うだろう?」

 

 ばさりと舞うのは桃色の毛。

 何故そんなものが宙を舞っているのかと疑問を覚え、頭の軽さに気づいた。

 

「髪は女の命だと」

 

 手を頭へと伸ばせば、膝上まで伸びていた自慢の長髪は消え失せ、首元までのさっぱりとした短さになっていた。

 

「……酷いなぁ。もう」 

 

 呆然と、散らばるそれを見て一言。

 自慢の髪を切られたから、ではない。無論それもショックだが、それ以上に胸を満たすのは何故その程度で済ませたのか、ということだ。

 罪を抱え込んで潰れてしまっていた少女は、その沙汰を受け入れるつもりであった。それがこうして肩透かしを食らったのだから、さもありなん。

 

 そして、割れ物を扱うように丁重に地面に降ろされ、自らの足で立つ。そんなミカへと、リアンは尋ねた。

 

「……ゲヘナとの全面戦争とヤラはいいのか?まだやるつもりなら、付き合ッてやるが」

「…ううん。もういいかな。……このままやってもあなたには勝てないだろうし。今のでどうでもよくなっちゃった」

 

 そう語るミカの目には、諦めが染み付いていた。それ故か、拘束なしでも大人しくしていた。

 

 最後の残党にして、この襲撃の主犯である聖園ミカの制圧によってこのクーデターは終わりを迎えることとなる。

 

 そして、リアンはミカを連れ立って、先生達の目の前へ。

 

「……さて、後はどうする?聞きたいことがあれば、尋ねてみればいいだろう。………公式の聴取では、余計な感情は切り捨てられるからな。……今のうちに話しておけ」

「……はい。言われずとも…」

「“ナギサ…”」

 

 無力化されたミカへと、瞳を揺らしたナギサが正面に立つ。その視線から逃れるように、ミカは顔をそらした。

 

「ミカさん…」

「ごめん、ナギちゃん。今はちょっと顔をみたくないかも」

「ミカさん!」

「っ…!」

 

 怒鳴るような、それでいて悲しむような複雑な声音にミカの肩が跳ねる。暫しの間体育館が静まり返り、ぽつりとナギサが問いただした。

 

「今一度、問います。本当に、ミカさんの指示でセイアさんを襲撃したのですか」

「……そうだよ。私が指示したの。これは嘘でも否定でもない。……でも、ヘイローを破壊しろなんて言ってない。私の案を却下してきたことへの嫌がらせのつもりで送っただけ。……まさかあんなことになるなんて思ってなかった。…それ以上は、本人の口から聞いた方がいいんじゃないかな?……ねえ、白洲アズサ」

 

 ミカの証言は、アズサへと矛先を変える。その視線を受けて目に見えて狼狽えるアズサへと、皆の目が向いた。

 それは、何よりセイア襲撃の実行犯であると示しているも同然だからだ。

 

「…私は本当に殺すつもりはなかった。信じてもらえないだろうけど、そこは本当。……でも、今のアズサちゃんを見る限り、そんな風にも見えないよね…。…事故だったんでしょ?…セイアちゃんは元々体が弱かったし……それに……」

 

 それは、罪から逃れるための責任の押し付けではなく、己が命令した結果を受け止めているかのようにも感じられた。

 

「……セイアちゃんは無事です」

「……!?」

 

 ハナコの言葉に虚を突かれたように瞠目する。

 

「ずっと偽装していたんです。襲撃の犯人が見つからなかったので、安全のためというのもあって……トリニティの外で身を隠しています」

「セイアちゃんが……無事……?」

 

 信じられないと、わなわなと肩を震わせてその事実を噛み砕く。

 

「はい。傷が治らなくて、まだ目が覚めていないのですが……救護騎士団の団長が、今もすぐそばで守ってくれています」

「ミネ団長が…?」

「はい。そしてあの時、セイアちゃんを助けてくれたのは……」

 

 視線は再び白洲アズサへ。

 

「……いえ、これは直接ご本人の口からがいいでしょう」

 

 これだけお膳立てされて、気づけない方がおかしい。実行犯が白洲アズサであるのなら、最も近い位置にいたのも当然彼女になる。そして、そんな白洲アズサへと目を向けるのであれば、そういうこと、なのだろう。

 

「……そっか。生きてたんだ……」

 

 瞳を閉じ、受け入れようとする。

 

「……良かったぁ」

 

 その表情は、これまでの緊張が解れるような、心からの安堵が伝わってくる。それは、背負ってきた何かから解放されたかのように、少女らしい顔つきだった。

 

「……その格好で連行も嫌だろう。誰かかけるものを持っていないか?」

 

 ミカの姿は、リアンとの戦闘で服の一部や肩などが破けて露出していた。

 その言葉に、とっさに上着を与えようとしたヒフミを手で制する。

 

「友人同士にやらせてやろうじゃないか」

 

 ナギサは制服の上から着ていた上着*1をかけてあげると、これまでの様な笑みを落とした。

 

「……もう、狡いなぁ」

 

 そのぎこちない暖かさに、思わず一筋の涙を零す。

 その、どこか報われたような罪人の姿を見て、誰もが複雑な心境にさせられる。

 

 その瞬間、外から複数の足音が聞こえてきた。

 

「あ、足音!?」

「まさか、増援ですか!?」

「…ミカさんっ!?」

「え…?私、そんなの知らな……」

「いえ、これは……」

 

 響く足音に、すわ新たな敵襲かと身構えるも、それはハナコによって制される。

 

「シスターフッドか」

 

 リアンの言葉と共に現れたのは、ウィンプルと修道服に身を包んだ、武装した生徒の集団。

 

「浦和ハナコ……」

「……はい。ちょっとした約束をしまして。………………まあ、既に必要なくなってしまいましたが」

 

 それは、ハナコが足りない戦力の後押しに頼んでいた増援だ。……尤も、ナギサが雇っていたリアンという存在のせいで、すべて終わってしまっているのだが。

 

 そんな本来であれば補習授業部にとっての心強い味方となる筈の彼女達は、よく見れば服は焦げたり破れたり煤けたりと、どこかぼろぼろだ。

 

「今日も平和と安寧が、みなさんと共にありますように…」

「す、すみません、お邪魔します……」

「シスターフッド。これまでの慣習に反することではありますが……ティーパーティーの内紛に介入させて頂きます」

 

 そうして意気揚々と参戦したシスターフッドだったものの、既に制圧され、死屍累々の様相を見せるアリウス生徒達と、ナギサに泣き顔を見せるミカと、想定した状況とは余りに差のある現場に困惑の雰囲気が伝わってきた。

 

 そんなシスターフッドを見て、リアンは即座に先生とナギサに耳打ち。「話を合わせろ」と。

 問いを投げかける前にミカの前に進み出たリアンは、マスクを外すとふう、と顔へと息を吹きかけた。

 

「痛っ、なにこれ…。涙止まらない…。」

「硫化アリルだ。暫し我慢しろ」

「リアンさん、何を…」

 

 ミカの顔に吹きかけたのは、硫化アリルというガス。この名前に聞き覚えは薄いだろうが、玉ねぎを切ると涙が出る原因たるガスであると言われれば、最も身近な催涙ガスともいえよう。

 

 当然、いきなりそれを吹きかけられたミカはもろに受けてしまい、防御反応から涙を染み出させる。

 

「ナギサさんにハナコさん…。それに先生。これは一体…?」

「あら…、随分と遅れた到着ですね。サクラコさん?……見ての通り、もうすべて終わってしまいましたよ。折角あのような約束をしてまで申し出たというのに……」

「うっ…。それは、申し訳ありません。道中、罠の数と配置がかなり厄介で、遅れてしまいました…」

「ええ、それはもう。彼女がいなければどうなっていたことか…」

 

 よよよ、と泣き崩れるようなハナコの演技に狼狽える歌住サクラコ。この時点で、彼女達の関係性が伺える気もするが、ハナコの言葉でリアン(部外者)に気づいたのか、改めて顔を向ける。ほんと闇に紛れるのは巧いなこいつ。

 

「この方は?」

「…お初にお目にかかります。名は遊星リアン。桐藤ナギサに雇われていた護衛の者です。そちらはシスターフッドの歌住サクラコさん、で宜しかったでしょうか」

「はい。この状況は、もしやあなたが…?」

 

 そのどこか恭しい話し方に、ギョッとする一同。より立場が上で、依頼主でもあるナギサに対しても口調は変わらなかったのだから、余計に驚いている。

 

「……ええ。私が対応させて頂きました。狙われたナギサ様と、対処に当たった補習授業部は疲労も溜まっているでしょう。私が事情をお話しします」

 

 そう言って、少し離れた箇所で説明している合間にも、シスターフッドの面々は倒れたアリウス生徒達を次々に拘束していった。

 その様子を眺めながら、取り残された補習授業部は各々会話を進めていく。

 

「これで終わった……のよね?」

「は、はい。多分……」

「ふふ、外部からシスターフッドが駆けつけた時点で、既に主だった残党はいないということでしょう」

「…ああ、アリウス側としても、これ以上は割に合わないはずだ。露呈のリスクもあるから、仮にいたとしても、もう手は出せない」

「“これにて一件落着、だね”」

 

 ようやく一連の襲撃が終わったことを体が理解し始め、緊張しっぱなしだった肉体が弛緩する。

 

「あの、ミカ様は…」

 

 全てが終わったことを理解したヒフミは、今も涙を流しナギサの側でへたり込むミカの姿が映っていた。

 

 やったことは変わらないし、許されないという思いもある。ただ、その心情の吐露を、その決断に至った原因を目の前で見てしまった。

 きっと、ナギサさえいなければ、諦めこそすれどここまで露わにはしなかっただろう。

 それは当然だ。補習授業部は所詮はナギサがかき集めた存在でしかなく、ミカにとっては特に深い関わりもないスケープゴートなのだから。

 

 けれど、今は違った。

 

 最初のきっかけは、ただのすれ違い。他ならぬ友人を、自らが殺してしまったと罪を抱えたまま、止まれなくなってしまっていただけの存在だと判ってしまったからこそ、ヒフミはこれからの沙汰に不安を見せる。

 

「…確かに、酷い目にはあったけど……」

「………私も、その指示を実行しようとした側だ。……正直、何も言えない」

「……そう、ですね。確かに所業こそ本物ではありますが、そこに至る経緯もまた、判断材料にはなると思いますが……」

「……ですが、これは前代未聞の事件です。たとえ未遂であったとしても…」

「“…でも、悪いことにはならないんじゃないかな”」

 

 それを聞いた他の面々も同感なのか、複雑そうに顔を歪ませる。けれど、先生だけは真っ直ぐにリアンの方を向いて呟いた。そして、一通りの説明が終わったのか、サクラコが近づいてくる。

 

「…補習授業部の皆様、先生、それにナギサさんもお疲れ様でした。……遅れたお詫びというわけではありませんが、後のことはお任せください」

「あ、あの…。ミカ様のことは…」

 

 咄嗟に、ミカのことを庇うような嘆願をしようとしたコハルだったが、それはサクラコによって制される。

 

「…話は聞いています」

 

 そして、ミカの目の前に来たかと思えば、自ら身を屈めてこう言った。

 

「……確かに、行ったことは許されることではありません。ですが、既に追い詰められたあなたをそれ以上責める、というのも筋違いです。……どうなるかは分かりませんが、判決の際には、可能な限り私もお力添えいたしましょう。主はきっと、あなたの思いにも応えてくれることでしょう」

 

 登場時から一転、優しげな笑みを浮かべてミカへと語りかけていた。

 

「…へ?」

「どういうことですか…?」

「“……なんて言ったの?”」

 

 その変わりようは、普通に説明しただけではそうはならないだろうといった類のもので、先の口調も相まって、何か吹き込んだのだろうとリアンに目が向いた。

 

「何も特別ナことは言っていない。…ただ、聖園ミカの状態と、百合園セイアの生存という情報を知らなかったこと、これまでの言動の一貫性のなさは、大体録音してイル。アリウスという明らかな殺害をも手段として保有している組織に接触し、その指示は聖園ミカの想定を超えた過激なもノであッた。………そして、俺は精神科医の資格も保有しテいる。と言えば分かるな?」

 

 ……つまるところ、そういうわけである。歌住サクラコにとって、聖園ミカは乱心の末に他勢力を率いてクーデターを図った人物、という印象から一転。友人同士の戯れから始まった出来事で、アリウスの予想外の手段によってその罪を背負ってしまい、ましてや既に接触してしまっていたアリウスとも離れることも出来ず、結果精神を病んでしまいこのような凶行に及んでしまった。アリウスに利用され、最終的に生存していることを知ってその均衡が崩れ投降した、ということになっている。

 

 嘘は言っていない。ただ、少し個人の解釈や精神状態の異様な高低、責任能力の所在、知り得るはずのない情報が却って退路を絶ってしまった…等のことを交えただけである。

 

 ついでに言うと、乱雑に切られた長髪も、同じ女性であるサクラコの同情をひいた。

 

「まあ、確かにミカさんの様子はただならぬ様子ではありましたが…」

「ええっと、つまりミカ様の罪は軽くなる可能性がある、ということですか?」

「……仔細は後にナルだろうが、そうなるように調整したカラな。桐藤ナギサが現場にいたのも良かったな。説得力が高まった。………もっとも、事実は変えられンから、沙汰自体は下るだろうが……。まあ、余程のことにはならないだろう」

「な、何でそこまで…?」

「……ええ、確かにあなたはこの問題に介入したかもしれませんが、このような手まで使ってミカさんを擁護する理由もありません」

「“…確かに、私もそれは気になるかな”」

 

 その判断と行動に文句はない。むしろ、あの安堵とナギサに向けた笑みを考えれば、本心からあのような凶行を踏み切っていたわけではないと感じたゆえに。

 

 だが、何故それを第三者であるリアンが行うのか、という話だ。

 

 それを問われたリアンは、少しだけ周囲を見渡して、シスターフッドの面々が動き回っていることを確認すると、顔を寄せてこう囁いた。

 

「……簡単なことだ。今、ミカの処断を巡ってトリニティ内で内乱や内紛が起こるのは後々面倒なことになるだロうからな」

「それは、そうなんですが…」

 

 確かに三大校でもあるトリニティが混乱状態に陥ったら、その自治区内での影響は出るだろうが、むしろ元々が治外法権であるブラックマーケットを拠点とするリアンにとっては余り影響はない。むしろつけ入りやすくなるから都合がいいのではないかと思った所で、確信を持って言い放たれた。

 

「白洲アズサ」

「…何だ?」

「いるだろ。この事態の裏に、生徒じゃない何かが」

 

 その発言は全員の背筋を凍らせるには十分なものであった。

*1
これもリアンが支給したもの




2025/10/27 17:26
誤解を与えたり紛らわしい後書きだったので修正しました。


はい。というわけでミカ減刑??です。

「ミカって心神耗弱に当てはまりそうな気はするんですよね。
そのつもりのない殺害により、自分が殺したと思い込み追い詰められてるわけで…。言動とかも安定してませんし。
何より、ミカの戦闘力という評価を抜きにすると、自分が命令した派閥が友人を殺して、それを機に襲撃かけようとするような勢力から逃げることも勇気がいると思うんですよね。だってもし今ここで引き返したら、友人のように殺される可能性もあるので。
まあミカは強いからそう思わない方もいるかもしれませんが、個人の戦闘力を除いた客観的な様子はこんな感じに追い詰められてやるしかなくなった子供」

って感じな説明をサクラコ様は受けたわけです。

同じ罪状でも、納得、同情の余地があるかで世間の対応や言葉掛けは結構変わります。

例えば、同じ暴行罪でも「人を殴ってすっきりしたかった」と「いじめを受け続けて、ずっと我慢していたが、ある時とうとう耐えられなくなった」では後者のほうが同情的だったり、その後の人の対応も軟化すると思うんですよね。

先生の台詞にゲーム本編のように「“”」はいる?

  • 先生と一目で分かるからあった方がいい
  • 別にゲームテキストでもないのでなくていい
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