スマホロトムの中から聞こえてくる歓声。
画面中央には、我らがリーグ委員長であらせられるローズ委員長が、ポケモンリーグの開催を宣言していた。
傍には彼の相棒であるゾウドウを侍らせ、ガラル地方でこの時期を待ち侘びていた老若男女全てを熱狂させる言葉を選び、演説をしている。
収録済みの映像を延々と流し続ける夜間帯のワイドショーのコメンテーターたちも、皆一応にうき足だち、各々好き勝手に今シーズンの戦績予想を繰り広げている。
「やっぱこの人、こういうの上手いよなぁ」
流石はガラルが誇る超複合会社を取りまとめる人である。
基本的にそういうことに無関心なダリアであっても、その演説の妙においては思わず感心をせざるを得ない。
「ここでガラル全体のボルテージを上げてくれるから、僕らはとても白熱したバトルをできるんじゃないかな」
「そりゃあ盛り下がった現場よりかはマシだけどさぁ」
ファン層が厚いトレーナーを相手取る時、とてつもなくアウェーを感じてしまうのがたまにきずだろうか。
主にメジャーリーグ常連組の連中。
今やジムチャレンジ最初の関門と言われるぐらいには安定してメジャーリーグに残ることができている、燃える男ことカブの空いたグラスにホウエン産の酒を注ぎながらダリアは眉を顰めるようにしてため息をつく。
口の固い店主が経営する個人居酒屋は、今はカブとダリアというたった2人のトレーナーの貸切状態となっていた。店主が皿を洗うかちゃかちゃという音と、熱されたフライパンが焼ける音、それからお互いが酒を飲む音がやけに響く。
見るからに酒精の強いホウエンの透明な酒をロックで嗜むカブを横目に、ダリアはツボツボのきのみジュースカクテルに口をつけた。
モモンの強い甘みとナナシの酸味。きのみジュースは頼むたびに味が変わる。それはダリアが最も好む味の一つだった。
「それで?」
「ん?」
カラン、と。
カブのグラスから氷がぶつかる透明な音が響く。
こちらを見る燃える男は、その人当たりのいい微笑みを顔に浮かべながら、こちらを見定めるようにして目を細める。黒い瞳の中にはキョダイゴクエンを凌ぐ炎のかけらが、ちらりと広がっていた。
「僕への敵情視察はうまくいったかい?」
「……ほんっと、おごりがいのないやつ」
メジャーリーグ常連、ほのおジム。
かつてはマイナー落ちを経験しながらも、今やガラルの花形の一つ、エンジンシティを任せられるジムチャレンジ最初の高き山。
燃えるポケモンたちを携えて、その上で誰よりも情熱と魂を燃やし尽くす、永遠のチャレンジャー。
そんな男が自分を品定めをするかのように見ている。その感覚に、ダリアは悪態をつきながらも、思わずその口の端を笑みの形に歪め、肩をすくめた。
「今年の俺を、今までの俺と同じに思っていたら火傷するぜ?カブ」
「ほのおの使い手にやけどをさせることができるのか、そのお手並みをぜひ間近で拝見させてもらうとしようか」
お互いに睨み合って、そうしてどちらからともなく、吹き出した。
何度目になるかわからない乾杯に、お互いのグラスが高い音を鳴らす。
ファン層が厚いメジャーリーグ常連組のトレーナーに挑むアウェー感。自分と自分のパートナーたち以外は自分の敗北を望むものしかいない極限の環境。
それを味わうことができるのは、いつだって自分たちのような挑戦者だ。
かつては、マイナーリーグに落ち、そうして常時挑戦者を掲げたカブは、それを理解しているからこそ、ダリアを対等に扱い続ける。
「隙あり」
「あ、こら」
カブの飲み差しのホウエン酒。
見た目と香り以上にエゲつないアルコールは、イタズラにカブの隙を見て口に運んだダリアの急所に当たり、喉と胃を焼かれたダリアは目を回して机に突っ伏した。
「…おまえ、どんだけ強い酒飲んでんだよ」
「あはは…ガラルの酒はどうにも飲んでる気がしなくて」
「ホウエン男児の肝臓ってどうなってんのマジで」
チェイサーがわりのおいしい水をいそいそと口に運び、今もなお口内を燃やし続けるアルコールを洗い流しながら、ダリアは腰に下げたモンスターボールに人差し指を這わせて、すり…と撫でた。
子どもたちに焚き付けられた、とは違うけれど、もうそろそろ一矢報いたっていいだろう。
万年マイナーだの、そらとぶタクシー専門ジムリーダーだのと言われるのも今年までだ。
「…今年は勝つぜ、あんたにも、ドラゴンストームにも」
「うん、僕も、僕たちも楽しみにしているよ」
ところで初戦はどこと?
とにこやかに尋ねるカブにダリアは再び机に突っ伏した。
「いわジム」