「ふっ!」
「くぅぁああ!?」
冬木市円蔵山、そのはらわたにある地下大空洞。
そこで、二人の戦士が戦っていた。方や白い鎧を身に纏い、片手に銃を持った狐面。方や紫の鎧を纏った大剣を持つ牛面。狐面は銃を撃って牽制するが、牛面はそれを真正面から喰らいながらも真っ直ぐ狐面へと向かい、その大剣を大きく振るう。しかし、その大振りの一撃は軌道が読み取りやすく、狐面は軽々と躱す。目標を失った大剣はそのまま地面を抉る。
「やれやれ、随分と殺る気満々なことで。そこまでして聖杯が欲しいのか?」
「黙れ!!」
流れるように大剣を下から斜めにかけて振るうも、狐面はそれを銃で受け止めつつ左腕部に装着された短銃を展開し牛面の腹部に光弾を放つ。そうして牛面の体が後退した瞬間に右手に持った銃から光弾を連発する。
「くっ!?」
「例えお前がどれだけ抵抗しようと、あいにく聖杯を渡すつもりはサラサラ無い。お前にも、あいつらにも。あいつは、必ず俺たちが守る」
「守るだと・・・?世界から、俺たちから聖杯を奪ったお前が?ふざけんな!!」
牛面は激昂し、自らの腰に装着されていたドライバーの左半分に、新たなバックルをセットする。それに合わせ、狐面の同じように左半分に赤いバックルをセットし、再びぶつかり合う。
その数秒後、大空洞は光に包まれ、二人はこの世界から消失した。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
私立穂群原学園初等部5年1組。
待ちに待った終業のチャイムが鳴り、そこにいた一人の少女は鞄を持って立ち上がる。
銀色の長髪に真紅の瞳。およそ日本人には見られない外見を備えた彼女は、正に西洋人形を彷彿とさせる。
まだ小学5年生、年齢としても10歳であるが、既に将来の美貌は約束されているといっても過言ではないだろう。
「イリヤちゃん、一緒に帰ろ」
イリヤと呼ばれたその少女、本名『イリヤスフィール・フォン・アインツベルン』は、声をかけてきた親友に申し訳なさそうに手を合わせる。
「ごめ〜ん!今日はお兄ちゃんと帰る日なの!」
終業のチャイムが鳴るとほぼ同時に立ち上がったのは、そういう意図があったのだろう。対する親友も、彼女とその義兄の仲の良さは知っているため、あっさりと納得する。
「あ、お兄さん、今日は部活ないんだね」
「うん!そうなんだ!」
納得しているからこそ、あまり引き止めるのも申し訳ない。2人は会話をそうそうに切り上げ、イリヤは再び駆け出そうとする。
「ちょ、ちょっと待ってよ、イリヤ!!」
「遅いよ、翔!!早くしないとお兄ちゃん来ちゃうよ!!」
慌てた様子でイリヤを引き止める1人の少年の姿が。イリヤと異なり彼は鞄に荷物を詰めていなかったのだろう、その手は忙しなく机と鞄を行ったり来たりしていた。
『衛宮翔』。それが彼の名であり、そしてイリヤの義弟である。その風貌はイリヤとは異なり、日本人然としたものであること、また苗字が異なることから最初は誰も彼らが姉弟であることに気づかないが、そこには少々複雑な家庭の事情というものがある。
取り敢えずは、彼らが姉弟であるということを把握しておけば問題無い。
さて、翔に呼び止められてその場に止まるイリヤだが、その足は忙しなく上下に動いている。あまり時間をかければ置いていってしまいそうだ。それに気づいている翔は早々に支度を終えると、急ぎイリヤを追って教室を出るのだった。
・・・・・・・・・・・・・・・・
この穂群原学園は初等部と高等部はかなり近所に作られている。そのため、それぞれに通う生徒が合流することはそう難しいことでは無い。
今現在、高等部の正門前では座り込んでる翔とピョンピョンと中を覗き込んでいるイリヤの姿があった。その微笑ましい光景に、帰宅していく高校生たちは笑みを浮かべている。
「お兄ちゃん、遅いね〜」
「約束はしているから、待っていれば来るよ。だからもうちょっと落ち着こう?」
ただでさえ注目を集めるような風貌のイリヤだ。そんな彼女が可愛らしい行動をすればより注目は集まる。それが少し恥ずかしいのか、翔はイリヤを落ち着けようとするが、そう簡単には行かない。
あとは待ち人が来るのを待つしかないが・・・。
果たして祈りが届いたのか、翔が早く来てと思ったところで件の人物が校舎から姿を現す。自転車を押しながら正門に近づいてくるその人物を視界に収めたイリヤは手を大きく振り、自分達の存在をこれでもかと示す。
「お〜い、お兄ちゃん〜!!」
その声に反応した、少し赤みがかった髪を持つ青年は自身を待っていたであろう妹と弟を見つけ、こちらも手を振る。
彼の名は『衛宮士郎』、イリヤと翔の義兄である。
「イリヤ、翔。悪いな、待たせちまったか」
「ううん、ちょうど終わったとこ!」
「いや、ちょっとだけ待った」
「ちょっ、翔!?」
「ははは、それは悪いことをしちまったな」
赤、銀、黒と並ぶその髪色からは、とても彼らが兄弟だとは思わないだろう。しかし、三人はそんなことは関係無いとばかりに、仲良く帰路に着いていた。
・・・・・・・・・・・・・・
帰宅の途中にあり得ない大事件が・・・・・・・起こるはずなどなく、三人はごく普通に衛宮邸へと帰って来ていた。
いや、ごく普通にというと少し語弊があるかもしれない。自転車がある士郎はともかく、小学生の2人は肩を上下に動かし、その息は切れていた。
「いや、そんな無理について来なくても・・・」
半ば呆れるように弟妹達を見る士郎。しかし、2人がこうなった原因は他でもない士郎にある。
そもそものきっかけは、士郎が自転車に乗っていたところでイリヤが走ってついていくと言ったところ、士郎が「家まで競争だ」などと言ったことだろう。
普通であれば無理だなんだと言うところなのだが、生憎このイリヤという少女、足はなかなかに速いほうなのだ。それこそ50m走であれば男子にも負けない程に。
そうして拒否する前に勝負を受けてしまったイリヤ。3人の内2人がそうして走り出してしまった以上、残った1人も参加を余儀なくされた訳だ。お陰で翔の息は絶え絶えである。
「はぁ・・・・はぁ・・・・・」
「翔、大丈夫?」
「大丈夫じゃ・・・・ない・・・・」
イリヤほど足に自信がない翔からしたら迷惑この上ないものだ。既に限界間近・・・・否、限界など通り越していたのではないだろうか。
「まぁ、2人とも、さっさと着替えてジュースでも飲もうか」
「ジュース・・・!」
少し翔の目に光が灯った。
そうして玄関を潜っていく3人を出迎えたのは、とても落ち着きを払った1人の女性だった。
「あら、お帰りなさい。3人一緒とは珍しいですね」
彼女の名は『セラ』。この衛宮邸に勤める2人の使用人の内の1人である。とはいえ、イリヤ達からしたら彼女も家族の1人という認識をしているため、その間に他人行儀なんていうものは皆無だった。そしてそれは、もう1人の使用人も同様である。
「ん、おかえり〜」
ソファーに座って気怠げな様子をそれはとても使用人の姿には見えないが、彼女こそがもう1人の使用人である『リズ』だ。彼女が見ているテレビにはステッキを持った少女、魔法少女と称すべき存在が敵に向かっていくという様子が流れていた。
そのテレビ画面を見て、イリヤは今日がかねてから注文していたアニメ「魔法少女マジカル⭐︎ブレードムサシ」のDVDセットが到着する日だったことを思い出す。
最も、それを注文したのはイリヤではなくリズなのだが。
リズが見ているそれが自分が待ち望んでいたものだと気づくや否や、イリヤは着替えることなど忘れてリズに抗議する。
「あ〜、リズお姉ちゃん先に見てる〜!!」
イリヤはこのアニメのファンであり、よく見ている姿は家族の中ではいつもの光景であった。
「ねぇリズお姉ちゃん、最初っから見よ!ね!」
おねだりをする妹に、リズは表情1つ変えずに行動で答える。リズは弟妹達には少々甘い部分があるのだ。
「翔も一緒に見ようよ〜!」
「ん〜・・・ニンジャが出るなら考える」
「も〜、またそれ〜?本当にニンジャが好きだよね、翔は」
補足しておくと、彼らの両親は仕事の都合で海外を飛び回っており、家にはほとんどいない。そのため、セラとリズの2人はなくてはならない存在なのだ。
彼らの1日は、こうして過ぎていく。
ごく普通の小学生達の、ごく普通の日常。
今日が運命の日だとは誰も思わず、ただ当たり前の日常を過ごしていく。
・・・・・・・・・・・・・・・・
星空の輝く夜空。そこでは本来あり得ないような赤と青の光が幾度となく衝突し合う光景が広がっていた。
その幻想的な光景に、何も知らない人間であれば目を奪われるものだろう。
残念ながら、その光景が生まれている原因は幻想とはかけ離れていることだが。
夜空を駆ける2つの人影。片やその長い黒髪を両サイドでツインテールにしている、赤い服を身に纏った少女。片や長い金髪を縦ロールにし、対照的な青い服を身に纏う少女。その見た目は、まさしく魔法少女、と称すべきなのだろう。
2人の手の中にはそれぞれ一本のステッキが握られており、光はそこから放たれる光弾であるらしかった。
本来あり得ない人が空を飛ぶという現象などなんとも思っていないように、彼女達は何度も何度も光弾を放ち合う。
「だぁあああ!!なんで攻撃してくるのよ、こいつは!!共同任務だってこと、忘れてんじゃないの!!?」
『全く、困ったちゃんですね〜。結構な本気弾でしたよ、あれ』
なにやら怒り叫んでいる赤い少女に、手にしたステッキは呑気な返事をする。
対する青い少女は勝ち誇ったように高笑いをあげる。
「お〜ほほほほほ!!こんな任務、私1人でもどうにでもなりますわ!!あなたさえ居なくなれば、全て丸く収まるんですの!!」
『マスターは人手なしと評します』
「お黙り、サファイア!!」
彼女もまた、手にしたステッキから冷静な指摘を受ける。最も、その内容は辛辣なものだが。
さて、人が空を飛ぶ、光弾を放つ、ステッキが喋る、などといった不可思議な現象はひとまず置いておいて、ここまででも十分理解出来ることがある。
それは、この2人の少女はめちゃくちゃ仲が悪い、という点だ。
先ほどから彼女たちが放つ光弾には手加減などというものは一切無い。『手加減?何それ美味しいの?』状態である。本気で相手を撃ち落とす気満々の攻撃をし合い、なお決着がつかないのは2人の実力が拮抗しているからに他ならない。
「さぁ、私の輝かしい未来のために、ここで散りなさい『
「だぁぁぁぁぁ!!ルビー、障壁!障壁張って!!」
『常に張ってますよ〜、ただ・・・・・・・』
残念ながらルビーと呼ばれるステッキが張った障壁は完全に防ぎ切ることはできなかったらしく、晴れる土煙の中から姿を表した彼女はボロボロになっていた。
とはいえ、本来であれば死んでいてもおかしくない一撃を喰らってその程度で済んでいる分、全く意味がなかったというわけではないのだろう。
『まぁ、
しかし、遠坂凛と呼ばれた彼女もまた、ただ黙ってやられるわけにはいかない。今回任されたこの任務、共同ということもあって、いくら相手が嫌いな奴だとしてもある程度は我慢し、一応は協力するつもりでいたのだ。それが開始早々に行われる協力相手からの攻撃、それも手加減など一切ないそれに、元々対して広くもない凛の心は怒りで染まりきっていた。
「あんたの気持ちはよ〜く分かったわ。そっちがその気なら・・・・この場で引導を渡してやるわよ!!」
凛が抜き取ったそれは、『Archer』と書かれた、一枚のカード。それを見た青い少女もまた、同様に『Lancer』と書かれたカードを抜き取る。
「クラスカード『ランサー』!」
「クラスカード『アーチャー』!」
「「
互いに抜き取ったカードをそれぞれのステッキに翳すと、それらのカードは光出し・・・・・・・特に何も起こることなく光は収まった。
「「・・・・あれ?」」
このような事態は完全に想定外であったらしい。二人の少女は一瞬惚けると、再度カードを翳す。しかし、特に何か変化が起こる気配はない。
「ちょっと何やってるのよルビー!インクルードよ!!」
「どうしましたのサファイア!!」
本来であればあり得ない不足の事態。その疑問に答えたのは他ならぬステッキであった。
『やれやれですね〜、もうお二人には付き合いきれません』
「は!?」
『大師父が
「くっ!?」
さっきまでと変わらないおちゃらけた口調ではあるが、反面その内容は正に正論。グゥの音も出ない。
そしてルビーのその考えに同調するものがもう1人・・・・否、もう1本。
『ルビー姉さんの言う通りです』
「サファイア!?」
ルビーに比べるとかなり落ち着いた雰囲気で話す青い少女が待つステッキ。彼女(?)もまた、言いたいことがあるらしい。
『大師父の御命令でルヴィア様が私のマスターとなってまだ数日ですが、任務を無視したその傍若無人な振る舞い・・・・恐れながらルヴィア様はマスターに相応しい方ではないと判断します』
「なっ!?」
かなり辛辣な意見を淡々と述べていくサファイアと呼ばれたステッキ。あくまでも冷静な口調な分、おちゃらけた言動を取るルビーよりも恐怖がある。
『ですので・・・・』
『誠に勝手ながら・・・・』
『『しばらくの間、お暇をいただきます!』』
「「ちょっと〜!!?」」
唐突なステッキ達の離反。凛達は当然だが慌てふためくことになる。
「待てやコラァ!!ステッキの分際で主人に逆らう気!?」
『もっと私たちに相応しいマスターを探してきますよ〜』
『失礼します、元マスター』
このステッキ達による切り替えの速さたるや、すでに離反したマスターの意見など関係ないとばかりに飛び去っていく。
と、その途中でルビーが立ち止まる。
『あ、それと凛さんルヴィアさん、もう転身も解いておきましたので、早くなんとかしないとそのまま落下しますよ』
「・・・へっ?」
ルビーの言葉にすぐさま自分の姿を確認する凛とルヴィアと呼ばれた青い少女、『ルヴィアゼリッタ・エーデルフェルト』。確かに先ほどまでの魔法少女の姿ではなく、ごく普通の服へと変わっていた。それを認識すると同時に唐突に感じる重力。
「だぁぁぁーっ、落ちるーーーっ!!」
「おのれ、許しませんわよサファイアーーーっ!!」
・・・・・・・・・・・・・・・・
「ん・・・くっ・・・・ぁぁああああ・・・・・・ふぁああ・・・」
自室にて椅子に座りながら伸びをする翔。夕食を食べ、そのまま流れるように宿題へと移った翔であったが、流石に疲れたらしい。少し眠そうになっている目でボーッと窓の外を眺めていた。
「ん・・・・・あれ?」
ふと、視界に映る赤と青の光。今まで見たことがない夜空の光に、翔は目をゴシゴシと擦る。再度夜空を見上げた時には、それらも光はすでに見えなくなっていた。
「気のせい・・・・・?ーーーーーーいや」
そのままジッと夜空を見ていた翔は、まるで意思を持つように方向を変えてこちらに、正確には衛宮邸に向かってくる赤い光に気づく。その光は何やら下の階へと入っていくように見えた。慌てて窓を開けて覗き込んだ時には、家の裏には特に何もないように見える。
とはいえ、先ほどのアレが気のせいなどではないことは分かりきったこと。翔は真相を確かめるべく、部屋を出るとこっそりと家を出て裏側へと向かう。
「ちょっと、どういうつもりよ!?」
「手が離れないんです〜!?」
『ふっふっふ、無駄ですよ!』
目的地に近づくにつれ大きくなる誰かの言い争う声。そのうちの一つは明らかに聞き覚えのある姉の声だ。
「イリヤ、こんなところで誰と話し・・・・・て・・・・・・」
「ふぇ!?し、翔!?」
曲がったと同時に視界に飛び込んでくる姉の姿。しかしその姿は見慣れた制服や私服、部屋着などではなく、ピンクを基調としたフリフリ衣装、俗にいう魔法少女衣装であった。