Fate/ Geats Cross   作:蛇廻

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第十話

いつも通りに接続(ジャンプ)した五人。その先には見るからに嫌な雰囲気を漂わせる森が広がっていた。

 

「・・・・妙ですわね」

 

入って周囲を見渡したルヴィアが苦言を漏らす。いつも通りに接続(ジャンプ)し、その先には跳ぶ前と同じ光景でどこか隔絶された空間。変わらない鏡面界の姿。どこに違和感があるのか。

 

「カードがないのはいつも通り・・・敵までいないとはどういうことですの?」

 

すでに鏡面界に来てから数分の時間が経過していた。普段であれば入った瞬間、遅くても数秒後には姿を現していた敵だったが、どういうわけか一向にその姿を見せる気配がない。

 

「場所を間違えた・・?」

 

「まさか、それはないわ。元々鏡面界は単なる世界の境界・・・空間的には存在しない場所だわ。それがこうして存在しているということは、必ずどこかに原因(カード)があるはずよ」

 

「う〜ん・・・・来そうにないなら、こっちから探すしかないんじゃない?」

 

『ん〜む・・・なんとも地味な』

 

とりあえずありきたりな提案をする翔だが、ルビーはどこか不満げである。

 

『もっとこう、魔法少女らしくド派手な魔力砲ぶっ放しまくって一面焦土に変えるくらいのリリカルな探索法をですね・・・』

 

「それは探索じゃなくて破壊だよ!!」

 

なんとも物騒な提案を寄越してくる相棒(ステッキ)をブンブンと振り回しながら叫ぶイリヤ。そもそもそんなことをしたら自分達の身も危険ではないか。

 

「・・・・ん?」

 

立ち止まっていてもなんだからとひとまず翔の提案通り歩き始める一同だったが、何やら気配を感じた翔がその足を止める。

 

「翔?どうしたの?」

 

「・・・何か動いたような・・・・・ううん、なんでもない」

 

しばらく周囲を見渡していたが、特に何かがあるわけでもない。結局気のせいだったかと、翔は前を向き直し・・・・・映った光景に目を見開く。

 

「イリヤ!!」

 

翔の叫び声に全員が動きを止め、そしてイリヤの首にナイフが差し迫っていたことに気づく。

 

「美遊!!」

 

すぐさま指示を出すルヴィア。美遊はイリヤの背後に向けて魔力弾を放った。

 

砲射(シュート)!!」

 

次の瞬間、イリヤに迫っていたナイフは消える。しかし、それは敵を倒したというわけではないらしい。

 

「手応えがない・・・・」

 

どうやら敵は想定以上に俊敏らしい。すでに敵がどこに潜んでいるのか分からなくなってしまった。

 

「あうっ・・・」

 

「イリヤ!!」

 

『大丈夫です、なんとか物理保護が間に合いました。薄皮一枚斬られただけです!』

 

咄嗟ではあったものの、なんとか物理保護が間に合ったらしい。おかげで命に別状はないようだ。そのことにひとまずの安心を覚えるも、現状は全く宜しくない。

 

敵の正体も、どこに潜んでいるのかも、全てが不明。明らかに自分達が不利な状況であった。

 

「方陣を組むわ!!全方位を警戒して!!」

 

的確な凛の指示に、五人はそれぞれ背中を合わせ、どの方向からの襲撃にも耐えるようにする。

 

「不意打ちとは、やってくれますわね」

 

「攻撃されるまで、全く気配を感じなかった・・・・。その上完全に急所狙い、気を抜かないで!!下手すれば即死よ!!」

 

そんな凛の忠告を聞きながら、翔は自身の手をポケットの中へと入れる。そこにあるのは、セイバーの英霊を打ち破ったあのカード。全く気配を感じさせずに命を刈り取ろうとするやり方。この敵がアサシンの英霊であることは間違いない。いざとなれば自分自身も戦いに参戦するつもりで、翔は準備をしていた。

 

やがて、敵が姿を現した。

 

それは、あまりにも想定外の事態。

 

木の影から。

 

枝の上から。

 

草むらの中から。

 

森のありとあらゆる場所から、そいつらは五人を取り囲むようにして現れた。全身が黒く、顔を骸骨のようなマスクで覆っている不気味な風貌。それが一人や二人ではない。ざっと見ただけでも五十・・・いや、もっと。それら全員が五人を狙っていた。

 

「まさか軍勢なんて・・・」

 

「なんてインチキ・・・・」

 

本来カード一枚につき英霊は一人のはず。前回は二人目の敵と遭遇したが、あれはカードが2枚あったからだ。しかし、今自分達を取り囲んでいる英霊はその似通った風貌から、明らかに一枚のカードから出てきている。

 

ただでさえ不利な状況だったのが、さらに不利な状況へと加速していく。

 

このままでは全滅になることは想像に難くなかった。

 

だからこそ、凛の指示も早い。

 

「止まらないで!!的にされる!!火力を一点に集中して包囲を抜けるわよ!!」

 

すぐさま凛とルヴィアは宝石を構え、美遊はサファイアを振りかざす。そうしてなんとか作り上げた小さな包囲の穴めがけて、四人(・・)は駆け出そうとした。

 

「っ、イリヤ!?」

 

翔は立ち止まって振り返る。その先には、地面に倒れ込んでいるイリヤの姿があった。どうやら先ほどイリヤの首に突きつけられたナイフには毒が塗られていたらしい。物理保護のおかげで命に別状はないが、それでも彼女の自由を奪う分には充分だった。

 

「まずい!!」

 

「待って、翔!!」

 

慌てて引き返そうとする翔とそれを追いかけようとする美遊。だが、それよりも早く、イリヤに向けて大量のナイフが一斉の投擲された。

 

まるで、時間がゆっくりと流れるような感覚だった。

 

イリヤへと迫っていく大量のナイフ。

 

翔も美遊も、凛もルヴィアも、イリヤを助け出そうと走り出すももう間に合わないのは明白。

 

 

 

 

その時、イリヤの脳内に先のルビーの言葉が過ぎった。

 

 

『ド派手に魔力砲ぶっ放しまくって一面焦土に・・・』

 

 

 

 

 

次の瞬間、イリヤを中心に大量の魔力が辺りを一気に包み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

「何・・・これ・・・・」

 

目の前に舞い降りるアサシンのカードを・・・いや、周りの敵諸共焼き払われた周囲の地面を見ながら、イリヤは茫然自失につぶやく。

 

「わたしが・・・やったの・・・・?」

 

「い、イリヤ・・・」

 

ふと投げかけられた声に、イリヤは顔を向ける。そこにいたのは共に戦っていた美遊や凛、ルヴィアの姿。皆先ほどの爆風に巻き込まれ、服はボロボロ、体の至る所からは血が流れ出ている。

 

「あ・・・あ・・・・・」

 

だが、それだけではない。美遊の後ろ、そこには三人と同じように血を流し、そして地面に倒れ伏している弟の姿が。それが目に入った瞬間、イリヤは体を震わせ、思い出す。何があったのかを。何をしたのかを。

 

「翔!」

 

「美遊、急いで彼の治療を!!」

 

「はい!」

 

慌てて治療促進(リジェネレーション)を翔にかける美遊。見る見るうちに傷は塞がっていく。しかし、それを見ても尚イリヤはそこに駆け寄ることが出来ない。

 

大切な弟を、他でもない自分が傷つけてしまった。その事実が確かに彼女の心に重石となってへばりつく。

 

「なん・・・なの・・?どうして、わたしがこんなこと・・・敵も・・・・美遊たちも・・・翔も巻き込んで・・・・もう・・・・もう・・・」

 

「イリヤ!!」

 

「もう嫌っ!!!」

 

瞬間、イリヤは接続(ジャンプ)する。まるで全てから逃げるように。

 

「ん・・・っぅ・・・」

 

「っ、翔!」

 

一足遅れて翔が目を覚ます。

 

「美遊・・・・一体、何が・・・・」

 

「そ、それは・・・・」

 

言い淀む美遊。起こったことをありのまま伝えるべきかどうか、判断に迷っているようだ。

 

「・・・・・治療をかけてくれたみたいだね、ありがとう美遊」

 

「う、うん・・・」

 

自分の体を確認し、傷が塞がっていることを確認しながら体を起こして周囲を見回す。ある一点を中心として一面焦土になっている光景に、翔は驚くというよりもどこか納得したような表情を浮かべる。

 

「・・・イリヤ、もう帰っちゃった?」

 

「・・・あまり、驚いていないんだね」

 

「ん?ん〜・・・・まぁ、ね。それよりも、僕たちも戻ろう。イリヤもきっと家に帰っただろうし。いいですよね、凛さん」

 

「まぁ・・・カードは無事(?)に回収出来た訳だから問題無いっちゃないけど・・・・イリヤのこと、どうするの?」

 

なんなのか、とは聞かないのか。そこに彼女の優しさを感じながら、翔は何も答えない。

 

「・・・まぁいいわ、イリヤのことは、私からは何もしないから。まぁ、あの感じじゃどうなるのかなんて、想像つくけどね」

 

「その時はどうするのですの、遠坂凛」

 

「どうも何も、彼女が望むままによ。・・・・崩壊が始まったわ。急いで脱出しましょう」

 

崩壊しゆく鏡面界から、四人はイリヤの後を追うように脱出したのだった。

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

 

翌日、衛宮家の2階にて。

 

翔はイリヤの部屋の前に立っていた。昨夜のことでイリヤと話をしようと思っているようだが、いくら声をかけても返事が返ってくることがない。

 

「翔、何してる?」

 

「リズ・・・いや、ちょっとイリヤと話をしたくて・・・」

 

「イリヤならもう学校に行ったよ。珍しく一人で」

 

「え、もう?」

 

「うん、喧嘩でもした?」

 

「あ〜・・・うん、そんな感じ。それじゃあ僕も学校行くね」

 

「いってらっしゃい。仲直りするんだよ」

 

「うん」

 

リズとそんな会話を交わした翔は彼女に見送られながら学校へと向かった。教室にはすでに到着していたイリヤ、そして彼女の後ろには美遊が座っていたのだが・・・・・彼女たちの周りの空気があまりにも重かった。普段は天真爛漫が取り柄のイリヤが暗いだけで空気は重くなるが、そこに無表情の美遊が加わっていることでそこに拍車がかかっていた。

 

「ちょちょちょ、ちょっと翔!どうしたのよイリヤと美遊は!喧嘩でもしたの?」

 

「あぁ真衣、おはよう」

 

「うんおはよう・・・・じゃなくて!あんただったら何か知ってるでしょ?」

 

「知ってる・・けど、喧嘩ってわけではない、はず・・・だよ?」

 

「なんか歯切れ悪いわね・・・一体何があったの?」

 

「ま、まぁそんな大したことじゃないよ。そのうちいつも通りに戻るって」

 

「大したことないって・・あれで?」

 

「そうそう、だから気にしなくていいよ」

 

「・・・まぁ、あんたがそういうなら・・・」

 

正直納得はしていないと言った表情を浮かべる真衣だったが、しかしイリヤや美遊と一番近い場所にいるのが翔だ。その彼が大丈夫というのなら、それを信じるしかない。

 

「ひとまず翔を信じるけど、何かあったらすぐに言ってね」

 

「うん、ありがと。・・・・・さて、と」

 

真衣との会話を終えた翔は相変わらず空気が重いままの教室の一角へと視線を向ける。正直あの場所に介入するのは気が引けるが、そうも言ってられない。

 

「イリヤ、おはよう」

 

「あ、し、翔・・・・お、おはよう・・・・」

 

「一応言っておくけど、見ての通り僕は大丈夫だから、昨日のことは気にしないで大丈夫だよ。美遊がすぐに治療してくれたから」

 

「翔・・・ごめん・・・」

 

「ううん。美遊も、昨日はありがと」

 

「別に・・・・大したことはしてない」

 

「「「・・・・・・」」」

 

会話、終了。翔がもう少し会話を盛り上げてこの暗い空気を払拭してくれることを願っていたクラスメイトはその可能性が潰えたことにショックを受けている。しかもタイミングが悪いことに、朝のHRの時間になったらしく大河が教室に来てしまった。

 

「みんな〜、朝のHR始めるわよ〜・・・ってなんじゃこの空気は!?朝なんだからもっと元気にせんか〜!!」

 

「タイガーうるさいよ〜」

 

教室のあちらこちらから笑いが巻き起こる。幸か不幸か、彼女の明るさが教室の中に充満していた暗い空気を少しだけ払拭された。もちろん、教室の一角を除いて、だが。

 

 

 

 

休み時間、校庭に向かおうとしていた翔をイリヤが後ろから呼び止めた。

 

「翔・・ちょっといい?」

 

「イリヤ・・・・うん、いいよ」

 

いつかの時と同じように、廊下の窓から顔を出しながら、イリヤは話し始める。

 

「その・・・・昨日は本当にごめんね・・・」

 

「朝も言ったけど、本当に気にしなくて大丈夫だからね。それに、あのぐらいは慣れっこだから」

 

まぁ、気絶しちゃったけどね。なんて苦笑を浮かべながらイリヤの話の続きを聞く。

 

「それでね、私・・・・・もう、魔法少女、辞めたいなって・・・思うんだけど・・・」

 

「だろうね」

 

「だろうねって・・・分かってたの?」

 

「まぁ、一応はイリヤの弟だからね。・・・・・・やっぱり怖くなった?」

 

リアルとフィクションは違う。アニメで幻想的に描かれていた魔法少女も、現実ではあんな血生臭い泥仕事であった。元々ただの小学生であったイリヤがここまで戦うことが出来ただけでも、上出来だろう。

 

「怖い・・・うん、怖いよ、怖いけど・・・・・私が怖いのは・・・・」

 

「?」

 

「放課後、凛さんに辞表出してくる。私はもう、戦えないから・・・」

 

顔を俯かせ、手を少し震わせながら心の内を明かすイリヤを横目に見ながら、翔はどこか遠くを見る。

 

「うん・・・イリヤはここまでよく頑張ったよ。充分すぎるぐらい戦った。イリヤは、自分の思った通りにやればいいんだよ。それが、きっとイリヤの願いだから」

 

「翔・・・・」

 

「放課後には行かなきゃいけない所があるから、一緒には行けないけどさ。イリヤが思ったこと、ちゃんと凛さんにぶつけなよ」

 

「ぶつけなって・・・」

 

「後腐れ無いようにねってこと」

 

イリヤの肩をポンポンと叩いてから、翔はその場を離れる。

 

「・・・後腐れの無いように、か・・・・・」

 

離れていく弟の背中から再び外へと視線を移し、イリヤは心苦しそうに顔を歪めた。その後ろ姿を、美遊が見ていることに気づかずに。

 

 

 

 

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