宣言通り、イリヤは放課後になると凛に魔法少女を辞めることを伝えた。こうなるであろうことは予想済みであった凛はこれをあっさり受理し、イリヤは戦いから離れることは出来た。
一つの計算外があるとすれば、ルビーがイリヤとのマスター登録を解除しなかったことだろう。元々大人しくいうことを聞くようなステッキではなかったが、この後に及んでまだそんなことをするルビーに凛は苛立ちを隠さずに思いっきり引っ張った。
とはいえ、残りのカード枚数は一枚。それの回収が終われば、ルビーは凛と一緒にロンドンに帰ることになっている。そうなればもうイリヤとは関わることはないだろう。それまではルビーをイリヤに預けることとなった。
「そういえば、翔は?」
「翔は・・・なんか、どこか行く所があるとかで・・・」
「そう・・・あの子にもちゃんと言わなきゃだけど・・・・また後日にするわね」
魔法少女を辞めた以上、イリヤと凛は他人同士。イリヤに付いてきていた翔もまた同様だ。だからこそ凛としては翔にも巻き込んだことへの謝罪と戦いに来てくれたことへの感謝を伝えたいと思った所だが、この場に居ないのであれば仕方がない。どちらにせよ最後のカードを回収した後にはイリヤのところからルビーも回収しなければならない。その時に翔にも会うだろうと考え、後日に回すことにした。
「ま、そういうわけだけど・・・美遊もそれでいい?」
「はい」
「えっ!?」
いつからそこに居たのか、気づけば美遊がイリヤの後ろにいた。その表情はとても落ち着き払っていて、イリヤが魔法少女を辞めることに何の不満も無い様子だ。
「問題ありません。最後のカードはわたし一人で回収します。・・・・あなたはもう、戦わなくていい。あとは全部、わたしが終わらせるから」
あの時と同じ言葉。違うのはイリヤがもう戦う立場にはいないということ。立ち去ってゆく凛と美遊の背中は、イリヤはただただ見送るのみであった。
「え〜と・・・・この辺りにいるんじゃないかなぁ・・・・・あれぇ?」
イリヤとは別行動を取っていた翔はコンビニの袋を片手にぶら下げながら、森の中を歩いていた。わざわざイリヤとは別行動を取ってまでこんな場所を歩いているのは、彼としても目的があったのだが・・・・どうにもその目的がなかなか果たせそうにない様子だった。
「お〜い、いないの〜?」
何を探しているのか、周りをキョロキョロとしながら呼びかけている。そのまま草むらの中や木の上など色々な場所に見ながら歩き回っていた翔だったが、気づけばその姿は小さな公園の中にあった。
「ここ?それともこっち?あ、ここか!!」
「人を探すなら確信を持ってゴミ箱を見るな」
なおも何かを探し回る翔。遊具の影、ベンチの下、そして公園内に設置されているゴミ箱の蓋を開けたところで後ろから声をかけられた。
「何の用だ、翔」
「何って、ご飯持ってきたんだよ。どうせ食べてないんでしょ?コンビニで買ったおにぎりだけどさ、はい」
とても人を探していたとは思えないような場所ばかり探していたような気もしていたが、翔はそのことは一切振り返らずに話しかけていた人物に袋の中から買ってきたものを受け渡した。
「・・・なぁ、俺おにぎりって聞こえた気がしたんだけど・・・」
「うん?」
「これ、稲荷寿司だよな?そんでおにぎりはお前が食うのかよ」
「いは〜、おはえをさはしてたらおなはすいしゃって」
「食いながら喋るな」
長年の友人、なのだろうか。二人の纏う空気はかなり軽い。
「・・・・それで?」
「ん?」
「結局何がしたいんだ、お前は?」
「何だよ〜、ホームレス同然の生活を送ってる友達の様子を見に来るのがそんなに不思議か〜?」
「・・・・まぁ、ありがたいとは思ってるよ」
「あ、稲荷寿司とおにぎり代は後日請求するから」
「なぁ、俺がなんでホームレス同然の生活を送ってるか知ってる?」
A.金&頼る場所がないから。
「うちに来ればいいのに。前みたいにさ」
「事情が事情だからな、ちょっと説明がめんどい」
「職質とかされないの?今俺と同い年でしょ?」
「されないようにこの時間帯以外は森の中」
などという会話を楽しそうに繰り広げているが、その内容はおよそ小学五年生が繰り広げるような内容ではない。彼らがどのような繋がりを持っているのかも、側から見ている分には分からない。
「あ、それだったらさ、僕がルヴィアさんに話そうか?あの人、凛さんには厳しいけど、根は優しいから。頼れる場所がないって説明すれば多少は・・・・」
「いや・・・・それは駄目だ」
それまで纏っていた空気が一気に変わり、翔と話していた彼は至って真剣な表情で冗談の一つも許さない、そんな雰囲気を醸し出している。
「・・・それは、彼女がいるから?」
「お前、分かってて言ってるだろ」
「当然。一応言っておくけど、カイ。僕は君に感謝している。君があの時僕のカードを届けてくれなかったら、僕はイリヤ達を助けることができず、今もまだ戦えないままだったろうから」
「だが、それはお前のためではない」
「知ってる、自分のため・・・でしょ?表立って行動出来ない自分に変わって、彼女を守ってもらいたいから。違う?」
カイ、と呼ばれた少年は静かに翔の話を聞く。途中で話を遮らせることはなく、沈黙を保ったままだ。
「沈黙は肯定と受け取るけど?」
「・・・・お前、随分と変わったな」
「褒め言葉として受け取っておくよ。このぐらいの推察は簡単だ。そもそも僕らがここにいるのは、君の願いがあったから、それを叶えてあげたいと思ったからだ。だから僕も彼女も、ここにいた」
「戦えない状態だったけどな」
「仕方ないじゃん、この世界では僕らはただの小学五年生だ。魔術師でも英霊でもない、ただの子供だった。それこそカイがカードを渡してくれない限りね」
「・・・・・・・」
「でもさ、カイは違う。元から戦う力を持ってるでしょ。・・・・なんで一緒に戦おうとしないの?」
「前にも言ったろ、俺にはその資格はない」
「そんなのいる?」
「気持ちの問題だ」
「難儀なものだね。多分、今夜の戦いが最後のカード回収だ。イリヤが抜けて主力となるのは美遊一人。カイは相手となる英霊も、その宝具も分かってるんでしょ?それでも彼女一人で戦わせるの?」
「そうならないためにお前にカードを渡した。遠坂凛とルヴィアゼリッタ・エーデルフェルトもいる。それに、どうせイリヤスフィールも戦うさ。あいつはまた立ち上がる」
「・・・・・なんか分かってる風なのがムカつく」
「それで?お前は何が言いたいんだ?」
「分かってるでしょ?・・・一緒に来てよ。それが今の僕の願い」
「断る。お前は今の今まで一体何を聞いていたんだ。・・・・今までは鏡面界の範囲も広く、隠れれる場所があった。だから影からサポートぐらいはしていたが、最後の一枚となった今鏡面界の範囲はかなり狭まった。もはや隠れれる場所などないほどにな」
「だから何もしないって?」
「そうだ」
「・・・思ったより薄情だったんだね、カイって」
そういうと、翔は立ち上がって公園の出入り口に向かって歩き出す。
「おい、忘れ物だぞ」
「い〜よ、それはあげる」
振り返ることもなく帰路へとつく翔。その後ろ姿を見送ったカイは、彼が置いて行ったコンビニの袋の中を覗き込む。
「あげるって・・・・・ほぼほぼゴミじゃん」
押し付けられた。そんなことを思いながら、カイもまた公園から姿を消すことにした。
・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ただいま〜」
「お帰りなさい、今日は遅かったですね。翔さん」
「まぁね、イリヤは帰ってる?」
「えぇ、先ほど」
セラの出迎えを受けつつ、部屋へ向かうことにする翔。昨夜の一件で超過保護なセラに深夜の外出の件がバレたため、どうやってこっそりと家を抜け出すか考え中である。
「玄関・・・・バレやすいよなぁ。むしろ今まではよくバレなかったって話だよ」
窓を開けてベランダに出る。やはり一番バレずに外に出られるのはここだろう。
「となると・・・後でこっそり靴を部屋に持ち込んで・・・・」
などと考えに耽っているところで、急に勢いよく部屋の扉が開かれた。本当、勢いよく、外れる勢いで。
「やっほー!!翔、久しぶり〜〜!!」
「うわわわ!?・・・え、か、母さん!?」
そんな事態を引き起こした人物、イリヤや翔の母親であるアイリスフィールは、自らが
「あら、背が伸びた?心なしかちょっと大人っぽい顔つきにもなったわね」
「ちょちょちょ、母さん待って!一旦!一旦ストップ!!」
なんとかアイリスフィールから離れて息切れを起こした呼吸を整える。この人のテンション、慣れない。
「え〜?久しぶりに会ったんだから、もっと甘えていいのよ?」
「いや大丈夫、大丈夫だから。急にどうしたの?今日帰ってくるなんて、聞いてないよ?」
「ん〜、なんかイリヤちゃんにあった気がしてね〜。母親の勘ってやつ?」
「そ、そんな曖昧な理由で・・・」
「それでイリヤちゃんは?部屋にいなかったのよね〜」
「この時間だし、お風呂じゃない?もうちょっと待てば・・・・」
「あら、じゃあ一緒に入ってこようかしら!」
「え、ちょ、母さん!?」
思いついたら即行動。アイリスフィールが翔の部屋から出ていったその数秒後、一階がやけに騒がしくなった。宣言通り風呂に突入でもしているのだろう。セラの戒める声も聞こえてくる。
「・・・・あれ?これもしかして、家を抜け出すチャンスなんじゃ・・・・」
イリヤは風呂、アイリスフィールはそこに突入しようとし、セラはそれを戒めている。士郎は部屋で課題に取り組み、リズはおそらくリビングだろう。誰にも見られず家を抜け出るには絶好のチャンスだ。
「・・・よし」
母を見習ってみよう、翔は足音を立てずに階段をおり、いまだに風呂場が騒がしいことを確認してからこっそりと玄関から家を出ることにした。向かう場所はただ一つ、最後の戦いの場だ。