Fate/ Geats Cross   作:蛇廻

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第十二話

彼はとても穏やかな表情で道を歩いていた。

 

周りの人からしたら、外見から察せる年齢の割には妙に大人びているように感じるだろう。

 

しかし、実際はそれとは真逆で、彼の内心は決して穏やかなものではなかった。

 

『彼女一人で戦わせるの?』

 

つい数刻前まで一緒にいた少年の声が蘇る。残り一枚のカード、それが”バーサーカー”のカードであることは当然把握している。だからこそ、その強さも、英霊の持つ宝具の強大さも分かっている。・・・・彼女一人だけでは、到底敵わないだろうことも。

 

「・・・はぁ」

 

彼にはあんな風に突っぱねながら、自分の中には未練がましく彼女が付き纏う。どうしても、自分には彼女を見捨てる選択肢などないのだと気付かされる。そもそも、気にならないわけがない。

 

「まぁ、少し覗くくらいなら、バレないか・・・」

 

向かう先を確定させる。7枚目のカードが、敵が、そして彼女がいる場所へと。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

時を同じくして、鏡面界の中。そこで美遊は、一人で”バーサーカー”の英霊を相手取っていた。

 

「くっ!?」

 

「ーーーーーーー!!」

 

『美遊様、退避を!!』

 

「美遊、こっちに!!」

 

正確に言えば、一人ではない。この場には美遊の他にも凛やルヴィア、そしてサファイアがいる。今まで隣で戦っていた少女やその弟はいないが、それでも十分に戦うことが出来ている。

 

実際、すでに一度、美遊の放った攻撃がバーサーカーを打ち破った。宝具”刺し穿つ死棘の槍(ゲイボルグ)”で確かに心臓を穿った、はずであった。

 

しかし、なぜかバーサーカーの体は無傷。傷ついた体は脅威の再生力で回復し、おまけに強度は時間が経つごとに増していく。生半可な攻撃はもはや通用しなくなっていた。だからこそ、三人は撤退を選ぶ他なかった。

 

幸いにもこの鏡面界はビル。一度中に入ってしまえば、巨体な敵はそう簡単には追っては来れない。後ろから鳴り響く轟音を耳にしながら、三人は必死に走る。ここまでの戦いで美遊はかなりのダメージを負ってしまい自力で動くことができない。そんな彼女をルヴィアは抱き抱えて走る。やがてビルの中央付近までたどり着いた彼女達はそこでようやく足を止める。

 

「この辺りでいいわ、サファイア!!」

 

『はい』

 

されどものんびりしている暇はない。すぐさま鏡面界から脱出するための魔法陣を展開するサファイア。時を同じくして、彼女達の耳に屋上からの轟音が聞こえ始める。

 

「この音・・・まさか、床を突き破って?」

 

「なんてメチャクチャな奴・・・サファイア、急いで!!」

 

『境界回廊一部反転!』

 

音はどんどん近づいてくるが、既に光に包まれ始めている彼女達の撤退の方が早い。鏡面界から脱出さえ出来れば体勢の立て直しも容易だ。

 

離界(ジャン)・・・』

 

ふと、美遊が立ち上がる。先ほど負った痛みもまだ完全に引いていないのだろう、体を抑えながら、脱出直前である魔法陣から出る(・・・・・・・)

 

「なっ・・・」

 

声をかける間もなく、凛とルヴィアは光に包まれその姿を消す。鏡面界から脱出したのだ。

 

『美遊様、何を!?』

 

最後の英霊は今までとは格が違う。それを感じたからこその撤退であったのに、ここにきてどうしてそれを拒んだのか。美遊はその答えを、行動を持って答える。

 

「これでいい・・・・見せるわけにはいかないから」

 

取り出したのは”セイバー”のカード。以前翔が打ち倒した、あの英霊の力が宿ったカードだ。

 

「彼がやった事と同じ・・・。彼が言っていた狐面がどうしてその方法を教えたのかは分からないけど・・・・これが、カードの本当の使い方」

 

静かに、美遊はカードを地面に置く。それと同時に展開される魔法陣。美遊はあの時と翔と同じように呟き出す。

 

「告げる、汝の身は我が元に、我が命運は汝の剣に!」

 

美遊が詠唱を開始してほどなくして、天井を突き破ってバーサーカーが姿を現した。まるで怒りに満ちたような表情で美遊を睨みつける。

 

しかし、美遊はそちらを一切見ず、詠唱を止めない。

 

「聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ!」

 

バーサーカーは駆け出す。目の前の少女を叩き潰すために。

 

「誓いをここに!我は常世総ての善と成る者!我は常世総ての悪を敷く者!」

 

『美遊様、敵が!!』

 

「汝、三大の言霊を纏う七天!抑止の輪より来れ、天秤の守り手!!」

 

巨大な拳が振り抜かれると同時に、美遊は最後の詠唱の唱える。

 

夢幻召喚(インストール)!!」

 

 

 

 

 

途端、振り抜かれた拳が受け止められる。それを成したのは一本の剣。その剣を握った甲冑を身に纏った少女は力を込め、その拳を弾く。

 

「撤退はしない・・・全ての力を持って、今日、ここで、戦いを終わらせる!!!」

 

剣を前へ構えた美遊は、勢いのままに一気に駆け出し、バーサーカーの懐に飛び込んで剣を突き刺す。

 

血を噴き出し、膝をつくバーサーカー。どうやら今の攻撃は有効であったらしい。

 

『美遊様!!』

 

「あっ・・・・サファイア?驚いた、その状態になってもしゃべれるんだね」

 

声を発するサファイアの姿は普段のステッキの姿ではなく、セイバーの象徴たる剣の姿になっている。

 

『一体何が起こっているのですか!?美遊様のその格好、その姿・・・・まるで・・・・』

 

通行証(カード)を介した英霊の座への関接参照(アクセス)・・・クラスに応じた英霊の”力の一端”を写し取り、自身の存在へと”上書き”する擬似召喚・・・つまり、英霊になる(・・・・・)。それがカードの本当の力」

 

カード本来の使い方を行った今の美遊は、セイバーの英霊そのものと言っても過言ではない。しかし、その一撃を食らったにも関わらず敵の英霊は再び蘇生を完了させていた。

 

「話はおしまい。敵が起きる」

 

『二度目の蘇生・・・!美遊様、敵はやはり不死身です!!無限に生き返る相手に勝ち目など!!』

 

「無限じゃない。自動蘇生(オートレイズ)なんて破格の能力・・・必ず回数に限りがある。何度蘇ろうと、その全てを打倒する!!」

 

いずれは必ず訪れるであろう蘇生の限界を確信し、美遊は駆け出す。先ほどは通った剣の一撃。しかし、振り翳したそれは硬くなった体表によって軽々と受け止められ、その隙に巨大な拳を背中に喰らってしまう。

 

「ぐっ!!」

 

『美遊様!!・・・・こちらの攻撃の耐性をつけている!?こんな怪物・・・倒しようがありません!!美遊様、お願いです撤退してください!!このままではいつか必ず・・・・』

 

「・・・・撤退は、しない!!」

 

頭から血を流しながらも、美遊は決して諦めない。既に限界に近い体を無理やりに立たせ、剣に魔力を収束させる。

 

『美遊様、どうしてそこまで・・・・どうして!今日が駄目でもまた次に体勢を整えて!!』

 

「次じゃダメ!!」

 

たとえどれほど窮地に追い込まれようと、どれほど相棒(サファイア)に言われようと、決して引き下がろうとしない美遊。

 

「今ここで終わらせないと・・・・私一人で終わらせないと・・・・次は、きっとイリヤ達が呼ばれる!!」

 

彼女は自分のことを友達と言ってくれた姉弟のことを思う。彼以外の初めての友達。イリヤはもう戦いを望んではいない。しかし、ここで自身が戦いを終わらせられなければ、イリヤが再び呼ばれるかもしれない。美遊にとって、それはどれだけ自分が傷つこうとも阻止したいものであった。

 

 

だからこそ・・・・・

 

 

 

約束された勝利の剣(エクスカリバー)!!」

 

 

 

一気に放出された膨大な魔力がバーサーカーを飲み込んでいく。やがてそれはビルの壁すらも破壊し、鏡面界の壁が露出する。そこに、バーサーカーの姿はない。

 

「はぁ・・・・はぁ・・・・はぁ・・・・はぁ・・・・っ、んぅ!!!」

 

あまりの魔力の放出量に美遊の魔力は一気に底を尽き、夢幻召喚(インストール)が強制解除される。それによりカードが弾き出され、その反動でサファイアを手放してしまう。

 

「くっ・・・・魔力切れによる、強制送還・・・・!私の魔力量じゃ、宝具一回が限界・・・か・・・・・サファイア、戻って!すぐに魔力供給を!!」

 

『は・・はい!!・・・っ!?』

 

ステッキへと戻ったサファイアは美遊の指示を受け戻ろうとする。が、そこを階下よりよじ登ってきたバーサーカーにより押さえつけられてしまった。その体は無傷、すでに蘇生を終えていた。

 

「なっ!?」

 

夢幻召喚(インストール)は解除され、魔力も底を尽きサファイアは手元にいない。万策尽きた美遊の元へ、バーサーカーは刻一刻と近づいてくる。

 

「っ・・・くっ・・・・」

 

後ずさるも、英霊の巨体の一歩は遥かに大きい。距離はあっという間に縮められてしまう。

 

「ーーーーーーーー!!!!!!」

 

「!!」

 

振り下ろされる拳。思わず顔を背け目をつぶってしまう。

 

 

 

 

 

『Boost time』

 

 

 

 

次の瞬間に美遊の体を襲ったのは、予想とが違う感覚。謎の浮遊感。誰かに抱えられているようなその感覚に、美遊は恐る恐る目を開ける。そうして彼女の視界に映ったのは、真っ白な狐の面だった。

 

「あ・・・」

 

「・・・・」

 

上半身は赤い鎧。両腕にはバイクのマフラーを思わせる武装が備え付けられている。

 

その狐は腕に抱えた美遊をゆっくりと下し、地面に座らせる。美遊の無事を確認した彼は、そのまま背後にいるバーサーカーへと振り返る。

 

「あ・・・ま、待って・・・!」

 

『Boost time』

 

美遊は手を伸ばすも、それが届くよりも先に彼は腰につけられた赤いバックルのハンドルを回し一気に駆け出してしまうのだった。

 

 

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