彼自身、戦闘に加わるつもりは一切なかった。自身の持つ魔術の応用で空間の一部だけを歪めれば、中に入らずとも鏡面界を覗き見ることができる。ビルにたどり着いた彼はそのつもりでいた。
しかし、そんな彼の目に飛び込んできたのは半分ほど崩壊した鏡面界のビルの姿、そしてそこでセイバーのカードを
やがて彼女は宝具を発動した。剣より放たれる極光がバーサーカーを飲み込み、ビルの崩壊が進む。しかし、たとえセイバーの宝具を使用したとしてもあの英霊を完全には倒しきれない。案の定、すぐに蘇生したバーサーカーはすぐに美遊へと迫っていった。
そしてバーサーカーの拳が振りかざされた瞬間、体は無意識のうちに動き出していた。
「ライダー、
『Boost』
次の瞬間、彼の姿は黒いスーツに包まれ白い狐面が装着される。そこに、赤い鎧が上半身を覆った。
『Ready Fight』
白い狐面・・・・”仮面ライダーギーツ”は腰に装着したドライバーに装填したブーストバックルのハンドルを回し、一気に加速しバーサーカーの拳の真下から美遊の体を掻っ攫った。
「あ・・・」
「・・・・」
ふと、美遊と目が合う。しかし、ギーツはすぐに顔を逸らし声を出すことなく抱え込んだ彼女を地面へと下ろす。そして背後のバーサーカーを見据えると、再びハンドルを回した。
「あ・・・ま、待って・・・!」
『Boost time』
まるで聞こえなかったかのようにギーツは振り返ることをせず、右腕のマフラー部位から放たれる炎により加速した状態でバーサーカーの胸板を殴りつける。
「ちっ・・・・流石に硬いな。いくらブーストを使っているとはいえ、これはキツそうだ」
明らかに不満げな様子でバーサーカーを見上げる。先の美遊との戦闘でバーサーカーの表皮はかなりの硬度になっている。他に武器があればともかく、彼が現在使っているブーストにはそれがない。正確にいえば無くにはないが、ビルのような狭い空間では少し使いにくい。
「ーーーーーーーー!!」
「おっと」
攻撃を加えたことで完全に敵と認識したのだろう、バーサーカーは一声叫ぶと叩き潰そうと拳を振り抜く。しかし、ギーツは特に慌てる様子もなく軽々と避け、落ち着いて状況を把握する。
「どちらにせよ、俺一人でこの英霊を殺し切るのは不可能・・・・・となると、美遊に狙いが行かないよう気を引きつつ、合流を待つか」
現在使っているバックルとはまた異なる白いバックル”マグナムバックル”を取り出し、それを空いている左側のスロットに装填する。
『Set』
そしてバックルについたリボルバーを回転させ、そのままトリガーを引く。
『Dual on』
『Get Ready for Boost&Magnum』
『Ready fight』
先ほどまでは黒かった下半身に生成された白い鎧が装着される。振り抜かれるバーサーカーの拳を避けながら、彼は真後ろに突如としてできた空間の歪みの中へと入っていく。
『Revolve on』
その音が聞こえてきたのは、頭上。最初の戦いの場であった屋上からであった。すでに半分ほど崩落しているそこから上半身に白、下半身に赤の鎧を纏った狐が見下ろしていた。そしていつの間にか持っていた小型の銃の銃身を展開し、下にいるバーサーカーに狙いを定めている。
「ほら、こっちだ」
引き金が引かれると同時に放たれる細い光弾がバーサーカーに襲いかかる。彼はその手を休めることなく、引き金を引き続ける。一発一発はバーサーカーに対して対して効果を発揮していないだろう、バーサーカーに直撃した光弾もその体表で弾かれている。しかし、その攻撃量は受けている身からしたらうざったくて仕方ないだろう。それは、たとえ英霊であろうと変わらない。
「ーーーーーー!!」
ついにバーサーカーはギーツめがけて飛び上がる。しかし、その体はギーツの元へ辿り着く前に、飛び込んできた影によって斬りつけられた。
「・・来たか」
胸から血を噴き出すバーサーカーの姿を見ながら、ギーツは階下を確認する。そこには再び戦線に復帰したもう一人の魔法少女、イリヤが美遊の前に降り立っていた。
「凛さん、効いたよ!!」
続けて姿を現した二人の魔術師による連携攻撃により、一時的にバーサーカーを取り押さえることに成功する。
「通った!
「あっはっは!!大赤字だわよコンチクショ〜!!」
美遊によって鏡面界から脱出させられた凛とルヴィアの二人は、駆けつけたイリヤと共に再び戻ってきたのだ。今度はバーサーカーにも通用するであろう策もしっかりと用意して。
「イリヤ・・・どうして・・・・」
「ごめんなさい」
戦いを、人を傷つけることを嫌がったイリヤは自ら戦線を離脱した。その選択が間違っていたとは思わない。だからこそ再びここに戻ってきたことに疑問を覚えた美遊に対し、開口一番イリヤは謝罪を口にした。
「私、バカだった。何の覚悟もないまま、ただ言われるままに戦っていた。戦ってても、どこか他人事だったんだ。こんなウソみたいな戦いは現実じゃないって・・・・なのに・・・その『ウソみたいな力』が自分にもあるってわかって・・・・急に、全部が怖くなって・・・!」
それが指すのは、アサシンと戦った時のことだろう。今まで普通の人間だと思っていた自分に宿る膨大な魔力。普通とは異なるそれに、イリヤは恐怖した。戦闘に対してではなく、普通ではない自分自身を知ることに。
「イリヤ・・・」
「でも、本当にバカだったのは、逃げ出したこと!!
突然、2本のステッキは共振する。仄かな光を発し、一枚のカードを挟み込む。
「
光は強くなる。仄かな光から、鏡面界全体を照らすほどに。
「これは・・・」
「出来るよ、二人なら・・・・・終わらせよう、そして、前に進もう!!」
それは、まるで太陽であった。闇の中にある鏡面界全体を照らすような、黄金の輝き。それはまるで、
「
それを見たギーツはバーサーカーに向けていた銃を下ろす。もはや自分は必要ないと、戦いの場に背を向け空間を歪ませる。
「ーーー美遊を頼んだぞ、イリヤスフィール」
彼が鏡面界から姿を消すと同時に、極光が鏡面界を包み込んだ。
・・・・・・・・・・・・・
バーサーカーのカードがあったビルからそう遠くない場所。一人の少女が見守る中、そこではまた異なる戦いが行われていた。少女は特に動きに制限をかけられているわけではないが、どこか怪我をしたのか、はたまた目の前で繰り広げられる非現実に気圧されているのか、へたり込んだまま動く気配はない。
「っ・・・はぁ!!」
「ふん!」
二つの影が幾度となく交差する。緑の影ーーーータイクーンは空間を跳び回り、それを相手取る2本の角を生やした紫の影はどっしりと構えたまま迎え撃っている。
「ったく、虫みたいにピョンピョン跳び回りやがって・・・・良い加減ウザってぇんだよ!!」
「うわっ!?」
向かってきたタイクーンに対し、その手に持った巨大なチェンソーのような剣で叩き潰す。
「くっ・・・・相変わらず、一撃が重いね・・・!」
「テメーに比べればな」
命のやりとりをしているのにもかからわず、二人の会話はどこか軽い調子だ。それでも逃すまいと、叩き潰している手にさらに力を込める。
「だけど、残念だね」
「っ!」
ポンっと白い煙を発しタイクーンは消える。頭上の木の枝の上に姿を現した。
「その程度の拘束じゃ、忍者を抑えることなんて出来ないよ」
「ちっ・・・相変わらずめんどくさい能力だ・・・・ん?」
ふと、視線を後方へと移す。その先に見えるのは一つのビル。
「・・・・どうやら、バーサーカーのカードの回収は終わったみたいだな。なら、もう用はない」
先ほどまでの一触即発の空気はどこへやら、一瞬のうちに戦闘態勢は解かれる。
「結局、君の目的は何だったの?真衣を使ってまで僕を足止めした理由は?」
「テメェが知る必要はねぇ・・んなことより、そこにいるガキはお前に任せたぞ」
「あ、ちょっと!!」
「じゃーな」
呼び止める間も無く、その姿は森の奥へと姿を消す。
「・・・全く、牛のくせに消えるの早すぎでしょ・・・・」
何ともまぁ悪口に聞こえなくもない・・・・・というよりも完全なる悪口を呟くタイクーンだが、彼を追う暇はもう無い。そもそも追う意味も必要も、タイクーンは持ち合わせていない。
「まぁ、それよりも今は・・・・」
再度、少女の方へ向き直るタイクーン。まさか、今日この事態になるなど、全く思いもしていなかった。