朝、天気も良く空は澄み渡っている。
しかし、その空を歩いている小学生二人は、対照的に暗い雰囲気を纏っていた。
「はぁああああ・・・・・」
「なんか・・・・すごい変なことに巻き込まれたね」
「翔はまだいい方じゃん・・・・私なんて・・・」
「魔法少女?」
「それを言わないで!!」
翔の言葉に嫌な記憶が蘇ったのかその場に頭を抱えて座り込むイリヤ。
「イリヤ、道の邪魔になるからそこに座らないで」
「うぅ・・・・弟が冷たいよぅ・・・・」
さて、どうしてイリヤがこうして纏う空気を暗くし、座り込んだりするのか、それは昨夜の出来事に起因する。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「はぁ・・・・・」
「なんとか誤魔化せたね・・・」
ルビーの襲来などで発生した士郎へのダメージや壁の傷など、まぁ諸々と説明困難なことがいくつか発生したのだが、それをなんとか誤魔化して家族に説明を終わらせたイリヤと翔の二人は、空中落下という絶体絶命のピンチを見事に乗り越え生還したルビーの元マスターである凛が待つイリヤの部屋へと戻ってきた。
とにかく、色々と一気に起こりすぎて頭が追いついていない二人は、現状それを理解しているであろう凛へと説明を求める。
そこで、二人はもう一つの世界に触れる。
「まず、私は遠坂凛。魔術師よ。まぁ・・・魔法使いって思ってくれていいわ」
「まほーつかい?」
「つまりは魔法少女」
「全然違うわ!!」
「いった!!」
余計な一言を言った翔の脳天に見事なチョップが炸裂する。なかなか痛そうなものであり、翔は涙目で頭を抑える。
「まー、一般人に理解しろって言う方が無茶なのかもしれないけど、これでも一応ロンドンの『時計塔』じゃ今期の主席候補なんだから」
「えっと・・・その時計塔って?」
「ん〜・・・魔術を研究する大学みたいなものね。表向きは留学って扱いで去年からそこに通ってたってわけ」
留学生で主席候補。それだけで彼女の優秀さが窺い知れるだろう。そんな彼女がどうしてこの日本の冬木にいるのか、それこそがイリヤ達に関わる本題であった。
凛はどこから取り出したのかメガネをスチャッとかけると、一枚のカードを取り出しながら説明を始める。
「結論から言うと、私たちはカードを回収するためにこの町に来たのよ。時計塔からの要請を受けてね。そんで、そのカードがこれってわけ」
それは先の戦闘で彼女が使用しようとし、そして失敗に終わったカードだ。それを見ながら、イリヤと翔は首を傾げる。
「アーチャー・・・?」
「ステータス表記も何もない・・・・・これじゃ何もできないよ」
「それはおもちゃのカードじゃないの。極めて高度な魔術理論で編み上げられた特別な力を持つカードなのよ。悪用すればそれこそ町一つ滅ぼせるくらいの・・・ね」
魔術がどうこう言われてもそれをイリヤ達は理解出来ない。しかし、最後の一言に関しては彼らでさえこのカードの危険性を理解できるものであった。
「そんな危険物が、この冬木の町に眠ってるのよ」
「・・・・・そっか、つまり・・・・・・・・・町に仕掛けられた爆弾を秘密裏に解体していく、闇の爆弾処理班みたいな感じだね!!」
「やけに斬新な比喩ね・・・・まぁ、大体合ってるけど・・・・」
最近の小学生って・・・・・などと思いながらもまだ説明は終わっていないため、一旦飲み込み話を続ける。
「ま、そんな感じで、その爆弾を処理するのに生身のままじゃちょっとキツいってんで・・・特別に貸し出されたのがこのバカステッキってわけ」
そう言って凛は側でフヨフヨと浮いていたルビーを摘む。ちなみに先ほどまでのステッキではなく、今はステッキの先端についていた星に羽根がついている状態である。
『最高位の魔術礼装をバカステッキ呼ばわりとは失礼な人ですね〜。そんなだから反逆されるんですよ?私たちにだって(扱いやすい)
何か間に余計なものが入った気がしなくもないが、まぁ気のせいだろう。
「本当なら私も無関係の人を巻き込みたくはないの。でもこの通り、コイツは私の言うことなんか聞きゃしない。だから、解放されたかったらなんとかしてそのバカを説得するよーに」
「え、これを?」
「出会って間もないけど・・・それがすごく困難だってことは分かるよ・・・・」
放り投げられるルビー。それを見ながら不可能に近いであろう説得をしなければならないことに思わず顔を顰めてしまうイリヤと翔。とはいえ、それがほぼ不可能だと言うことは凛も理解している。
「でしょうね。だから、せめてその説得が済むまでの間は、私の代わりに戦ってもらうことになるから・・・覚悟しておくように!」
「はぁ・・・たたか・・・・って・・・・えぇ!?」
・・・・・・・・・・・・・・・・・
などと言ったやりとりがあったのだ。そりゃイリヤのテンションは下がっていく一方だろう。
「うぅ・・・・」
「まぁまぁ、イリヤ。僕もできることは手伝うからさ」
「とは言ってもさ、実際翔は何が出来るのさ」
「ん〜・・・応援?」
「別にいらない!!」
「ひどっ!!」
などと言いながらも翔が普通にイリヤを置いていく勢いで歩き出したので慌てて立ち上がって歩き出すイリヤ。しかし、完全に立ち直った訳ではない様子。
『まぁまぁイリヤさん、元気出してくださいよ〜』
「事の元凶が何言ってるの・・・・」
そんなイリヤの髪の中に潜んでいたルビーが話しかける。全ての元凶だと言うのになんとおちゃらけてることか。
兎にも角にも、色々と言いたいことはあるが生憎時間は待ってくれない。本日も普通に学校がある以上、彼らはそこに行かなければならない。
気分的には重い体を動かしながら、なんとか学校に到着したイリヤ(と翔)。彼女は普段と全く同じように下駄箱を開けるが、そこには普段とは違うものが置かれていた。
「あれ?」
「ん?どうしたイリヤ?」
普段とは違う姉の態度を訝しみ、後ろから覗き込む翔。そこで、イリヤの上履きの上に一枚の手紙が置かれているのに気づいた。
「こ、これは・・・」
「何?ラブレター?」
『これはまたベタな展開ですねぇ!誰ですか?誰なんですか?翔さん心当たりはないんですか??』
「ん〜・・・イリヤって人気あるからなぁ・・・・」
要は誰から来てもそんな不思議ではないだろうということだ。そんな勝手なことを語っている弟と
そこに書かれていたのは。
《今夜0時、高等部の校庭まで来るべし。来なかったら、迎えに行きます 遠坂凛》
「「『・・・・・・・』」」
残念、ラブレターじゃなくて脅迫文でした。
しかも迎えに行きますのとこは直前まで《殺す》と書かれているのを、さすがにマズイと思ったのか斜線で消しているが、全く意味を成していない。
思わず絶句する三人。しかし、しばらくして事を理解したのか、イリヤは手紙を再び折りたたむとポケットにしまい込む。
「さ、行こっか翔」
「うん」
『遅刻はいけませんからねぇ』
いや、正確には思考を放棄した、というべきだろう。