Fate/ Geats Cross   作:蛇廻

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第六話

そんなこんなで翌日、イリヤと翔の姿は人気の無い林の中にあった。二人の目的はただ一つ、イリヤの特訓である。万が一にも人には見られないよう、翔は周囲を見張りつつイリヤの特訓を見守る。

 

「う〜ん・・・林の中で特訓とか、魔法少女としては随分地味だよね」

 

「しょうがないじゃん、ここぐらいしか特訓に良い場所なかったんだから」

 

『そもそも、舞台裏なんて地味なものですよ〜』

 

兎にも角にも、時間は有限。今夜にはまた戦いに行くこともあり、イリヤは早速転身する。

 

「・・・なんか、今すっごくおざなりな転身だったと思うけど、魔法少女としていいの?」

 

「え、そうだった?」

 

『割り切りも大事ですからね〜。そもそも字面では伝わりづらいですし』

 

「字面?」

 

『いえいえ、なんでもありませんよ〜。さぁ、早速飛行の練習に移りましょう!』

 

なんともメタな発言が聞こえた気がするが、それは傍に置いておこう。昨夜の戦闘で今回の戦いは完全に空中戦になると予想されるため、それに備えてイリヤの飛行をより完璧に近づけつつ、ついでに多少の戦闘訓練を行うのが今回の目的だ。

 

「とりあえず素早く動けるようにすればいいの?」

 

『それもありますが、魔力の効率運用も大事ですね。飛行は大量の魔力を消費しますから』

 

ルビー曰く、本来魔力の量は人によって異なり、また一度に扱える量も個々人によって変わってくるらしい。幸い魔力に関してはルビーが無制限に供給出来るため魔力切れを心配することはないが、その魔力全てをイリヤが扱い切れるわけではないということだ。

 

『より少ない魔力で飛びつつ、自在に攻撃できるようになりましょう』

 

「ん、了解」

 

ひとまず昨夜のように宙を飛び始めるイリヤ。まだ拙さはあるものの見たところは問題なく飛べているように見える。と、その様子を眺めていた翔がふとあることを思い出し、イリヤに声をかける。

 

「ねぇ、イリヤ。昨日凛さんからカード借りてたよね?試しに使ってみたら?」

 

「あ、そういえば・・・」

 

その言葉に、イリヤは思い出したように凛から受け取ったアーチャーのカードを取り出す。確かにこのカード一枚を使えるかどうかで、戦闘の幅は格段に大きくなるだろうことは間違いない。凛もそれを見越してイリヤにカードを預けたのだろう。

 

「確か、英霊の宝具っていうのが出てくるんだよね?アーチャーってことは・・・やっぱり弓?」

 

「あ〜、どうなんだろ・・・とりあえず、えっと、『限定展開(インクルード)』!」

 

早速と言わんばかりにカードを使用するイリヤ。すると、ルビーの姿がステッキから黒い弓へと変化する。

 

「おぉ!!」

 

「え、すごい強そう!!これだったら勝てるんじゃない?」

 

和気藹々と黒い弓に興奮するイリヤと翔。ステッキ以上の確かな武器と思わせる見た目にある種の万能感を感じる。

 

「よ〜し、早速試し打ち・・・・」

 

「・・・・イリヤ、矢は?」

 

と、そこでようやく気づく。イリヤが持つものはあくまでも弓であり、肝心の矢がどこにもないことに。

 

「ルビー、矢は?」

 

『ありませんよ?』

 

さも当然のように言ってのけるルビー。矢のないアーチャーとは、これ如何に。

 

「弓だけって、意味無いじゃん!!」

 

『そういえばこんなんでしたねぇ〜。凛さんが試した時は手近にあった黒鍵を矢の代わりにして使ってましたが・・・』

 

ルビーが以前カードを使用したときのことを思い返しているうちに、時間切れを迎えて元のステッキに戻ってしまう。

 

「はぁ・・・・地道に特訓するしかないかぁ・・・」

 

「ま、まぁ、頑張って、イリヤ!ほら、多分美遊さんも特訓してるはずだし・・・」

 

昨夜の様子から、おそらくは飛行の特訓をしているであろう美遊の姿が脳裏に浮かぶ。果たして、一体どんな特訓をしているのか・・・・そんなことを考えながら、翔はイリヤの特訓を身守ることにした。

 

 

 

・・・・・・・・・・

 

 

 

「・・・・・・・・・無理です」

 

「美遊、あなたが飛べないのはその頭の固さのせいですわ」

 

「・・・・・・・・・不可能です」

 

「最初からそう決めつけていては何も成せません!」

 

「・・・・っ、ですが・・・っ!」

 

美遊は苦悶の表情を浮かべながらルヴィアに訴えかけるが、NOと言わせない勢いのルヴィア。しかし、それでも美遊はなかなか一歩を踏み出せないでいた。そこで、美遊に代わってサファイアが物申す。

 

『おやめくださいルヴィア様。パラシュート無しでのスカイダイビングなど単なる自殺行為です』

 

そう、彼女達がいるのは地上から離れた遥か上空。そこに浮かんでいる一機のヘリコプターの中だ。美遊は開け放たれている扉から遥か彼方の地上を見下ろし、ガクブルと震えているのだ。

 

「こうでもしないと飛べるようにならないでしょう!身体が浮く感覚を実体験でもって知るのですわ!」

 

美遊の気持ちなど関係ないと、スカイダイビング(パラシュート無し)をやらせる気満々なルヴィア。とはいえ、文字通り簡単に一歩を踏み出せるわけもない。

 

「美遊はなまじ頭が良いから物理常識に捕らわれているんですわ。魔法少女の力は空想の力・・・・常識を破らねば道は拓けません」

 

『付き合う必要はありません、美遊様。拾っていただいた恩があるとはいえ、このような命令は度が過ぎています』

 

「さぁ、一歩を踏み出しなさい!あなたなら必ず飛べます!できると信じれば不可能などないのですわ!!」

 

「・・・・・っ!!」

 

あまりの力説ぶりに圧される美遊。その思いに応えるべく、美遊は覚悟を決め・・・・・

 

「・・・・・いえ、やはりどう考えても無理で・・・・す・・・・・」

 

・・・・る間もなく、ルヴィアに蹴り落とされ無理やりスカイダイビングへと移行される美遊。声にならない悲鳴をあげながら地上へとまっすぐに落ちていく。

 

「獅子は千尋の谷に我が子を突き落とすと言いますわ・・・・見事這い上がって見せなさい、美遊!」

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

ひとまずカードの使用は置いておいて飛行と攻撃訓練を行なっていたイリヤ。宙を飛んでいるイリヤを見ていた翔は、彼女のさらに上空から何かが落ちてきていることに気づく。

 

「イリヤ!何か落ちてきてる!!」

 

「えっ?落ちてきて・・・・・るぅぅぅぅぅぅぅ!!!?」

 

間一髪で避けることに成功するも、落ちてきたそれはそのまま地面に激突して地面を大きく抉る。恐る恐るイリヤ達が近づく中、件の落ちてきた存在・・・・美遊はサファイアを杖代わりになんとか立ち上がっていた。

 

どうやら命懸けスカイダイビングからも無事に生還を果たせたらしい。

 

『全魔力を物理保護に変換しました。お怪我はありませんか、美遊様』

 

「な、なんとか・・・・・」

 

「えっと・・・み、美遊さん・・・・?」

 

「なんで空から・・・?」

 

思わず上と下とを交互に見ながら当然に疑問を投げかけるイリヤと翔。しかし、美遊の視界に入るのはあまりにも自然と飛んでいるイリヤの姿であった。自身には出来ないことを平然とやっているイリヤに、美遊は何とも言えない思いを抱く。

 

『美遊様、ここはやはり・・・・』

 

「・・・・・き、昨日の今日で言えたことじゃないけど・・・・」

 

「ん?」

 

恐る恐る、口を開く美遊。昨日あんなことを言った身ではあるが、今回の敵と戦うにはまず空を飛べないと話にならない。だからこそ、美遊は頼る必要があるのだ。

 

「空が飛べなきゃ戦えない・・・・・その、教えてほしい・・・飛び方・・・」

 

頰を赤らめ、少し恥ずかしそうにしながらも問いかける美遊。学校での完璧さとは裏腹な姿に、彼女にも出来ないことがあったんだと翔はどこか納得を見せる。

 

とはいえ、イリヤは特に考えて飛べるようになったわけではない。だからこそ、飛び方と言われてもそれを言葉にすることが出来なかった。

 

「飛び方、って言われても・・・・」

 

「あー・・・・・イリヤ、あれじゃない?イリヤの中の魔法少女のイメージって」

 

「あ〜」

 

『あれとは?』

 

「うん、言葉で説明するよりも、実際に見た方が早いかもね」

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

ということで場所は変わって衛宮家。そのリビングにて、イリヤと翔は魔法少女のイメージの大元となったアニメ「魔法少女マジカル☆ブレードムサシ」を美遊に見せていた。

 

「こ、これ・・・?」

 

「うん・・・多分、私の魔法少女のイメージの大元・・・だと思う・・」

 

「美遊さんって、もしかしてあまりアニメとか見てない?」

 

アニメを鑑賞している美遊の様子からそんな雰囲気を感じ取る翔。というのも、美遊はアニメを鑑賞しながらこんなことを呟いていた。

 

「航空力学はおろか重力も慣性も作用反作用すらも無視したでたらめな動き・・・・」

 

「いや、アニメにそこまで固い考えはむしろ邪魔っていうか・・・・」

 

どうにも常識が邪魔をしてしまっている様子。なまじ頭が良すぎるのも考えものだ。

 

『まさか実体験によらないフィクションからのイメージのみとは思いもよりませんでした』

 

『イリヤさんの想像力はなかなかのものですよ〜』

 

「それ、褒めてる?」

 

褒めてるような馬鹿にしているような、なんとも言えない言い回しに素直に喜ぶことができない。なんとも言えない表情を浮かべるイリヤである。

 

『空想というか妄想というか、夢見がちなお年頃の少女は現実(リアル)非現実(フィクション)の境界が曖昧になりがちですから』

 

「褒めてないね」

 

どうやら喜ばないが正解だったらしい。

 

『このアニメを全部見れば美遊様も飛べるようになるのでしょうか』

 

「ううん・・・多分、無理」

 

イリヤと違い、美遊はアニメを見てもそういうものだとして捉えることが出来ないでいる。それ故に、イリヤのように飛ぶことは出来ないと美遊自身は感じている。

 

「美遊さんって、今までこういうアニメを見る人とか周りにいなかったの?家族とか、友達とか」

 

翔自身、自分が飛ぶわけではないがイリヤのせいで魔法少女は飛ぶと勝手に思い込んでいた。身の回りにそのような人がいれば多少なりとも考えは変わりそうなものではあるが。

 

「ううん、いなかった。彼もこういうのは見るような人ではなかったし・・・・」

 

「あぁー・・・・・」

 

「そもそもこれを見ても具体的な飛ぶイメージが掴めない。必要なのは揚力ではなく浮力だってことまでは分かるけど・・・けどそれだけではただ浮くだけだから移動するにはさらに別の力を加えるか重力ベクトルを制御するしかないんだけど・・・でもそんなことあまりに非現実的すぎてとてもじゃないけどイメージなんて・・・・」

 

『ルビーデコピン!!』

 

「はフっ!?」

 

イリヤや翔が全くついていけなくなるほどの思考の渦に囚われる美遊に、ルビーが容赦無くデコピンをかますことで意識を現実に戻させる。

 

『姉さん?』

 

『全くも〜。美遊さんは基本性能は素晴らしいみたいですが、そんなコチコチの頭では魔法少女は務まりませんよ?イリヤさんを見てください!理屈や行程をすっ飛ばして結果だけをイメージする!そのくらい能天気で即物的な思考の方が魔法少女に向いてるんです!!』

 

「なんかさっきから酷い言われよう!!」

 

「でも全部事実だよね」

 

「翔は黙って!!」

 

『褒めてるんですよ〜。頭空っぽの方が夢とか詰め込めるらしいですし〜』

 

「あれ?イリヤいつからおバカキャラになったの?」

 

「しょ〜う〜!?」

 

リビングにて勃発する姉弟喧嘩。それを尻目にルビーは美遊へある言葉を送る。

 

『良いですか美遊さん?”人が空想できること全ては起こりうる魔法事象”、私たちの創造主たる魔法使いの言葉です』

 

「・・・物理事象ではなく?」

 

『同じことです。現代では実現出来ないような空想も、遠い未来では常識的な事象なのかもしれません。それを魔法と呼ぶか物理と呼ぶかの違いです』

 

「へ〜っと・・・ふまりほういうほと?」

 

「ふぁんふぁえるな、ふうほうひろ!」

 

互いに頰を引っ張りながら言っているため絶妙に何を言っているのか分からない。悲しいことに美遊のジト目が突き刺さる。

 

「・・・・えっと、あまり参考にはならなかったけど、少しは分かった気がする・・・」

 

美遊は立ち上がると、そのままリビングから出て行こうとする。

 

「あ、帰るの?」

 

「うん・・・また、今夜」

 

それだけ言い残し、美遊は家から出ていく。

 

「・・・行っちゃったね」

 

「また今夜・・・・か。”あなたは戦うな”とか言われた昨日よりだいぶ前進かな?」

 

『後はお二人できちんと連携が取れれば言うことなしなんですが〜』

 

「うぐっ・・・・」

 

「ま〜、それは・・・今夜ぶっつけ本番で行くしかないよ。というわけで、頑張ってねイリヤ」

 

「他人事〜・・・・」

 

すでに時間は夕方近く。さすがにこれ以上外に出るわけにはいかない。多少の不安は残るまま、再戦の時は刻一刻と近づいていた。

 

 

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