Fate/ Geats Cross   作:蛇廻

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第八話

想定外の二人目の敵、セイバーの英霊。そして深手を受けた凛とルヴィア。魔術師である彼女達であれば治癒魔術で回復出来るであろうが、動く気配がない。

 

「凛さん!」

 

「イリヤ!!」

 

「待ってイリヤスフィール!!」

 

思わず飛び出してしまうイリヤだったが、それを美遊が止める。が、その際に足を掴んだためにイリヤは顔面から地面に激突した。

 

「はバァっ!?」

 

「「あっ・・・」」

 

ものの見事に地面と激突する姿に思わず固まってしまう二人。が、思ったよりすぐに再起するイリヤを見て少し安堵する。

 

「何するの!?」

 

「ご、ごめん・・・思わず・・・で、でも、闇雲に近づいちゃダメ!」

 

「で、でも、凛さんとルヴィアさんが!!」

 

『ご安心くださいイリヤさん!まだ二人とも生体反応は確認できるので、生きています!!』

 

「だったら尚更!!」

 

「落ち着いてイリヤ!二人とも戦った直後で、万全の状態じゃないんだ!!無鉄砲で突っ込んだところで二人の二の舞だよ!!」

 

「翔・・・・」

 

いつになく力強く訴えかけてくる弟の姿に、イリヤは思わず動きを止めてしまう。

 

「そう・・・だからこそ、冷静に、慎重、行動するべき・・・」

 

美遊が語るには選択肢は二つ。一つはこのまま戦闘に突入して敵の撃退、もう一つは負傷した二人をなんとか回収して鏡面界から脱出すること。しかし、セイバーを倒すにはかなりの問題がある。一撃必殺の技を繰り出せるランサーのカードは先の戦いで使用してしまったためしばらく使用することはできない。ライダーのカードは単体では意味がなかったらしく、アーチャーのカードも同様。そしてキャスターはどのようなカードか分からないため、ぶっつけ本番で使用するには危険すぎる。結局のところ、戦闘は出来ないも同然であった。

 

「私が敵を引きつける」

 

鏡面界から脱出するにはルビーか、あるいはサファイアが必要だ。逆に言えば、どちらか片方がいなくてももう片方が残っていれば脱出は可能であった。だからこそ、美遊が敵を引きつけている間にイリヤが負傷した二人を確保、鏡面界から脱出し、それを確認したら美遊は残った翔と共に後を追って脱出する、という計画になった。

 

「二人とも・・・・気をつけて」

 

「うん、翔は危ないからここにいてね」

 

「行くよ、イリヤスフィール!」

 

翔をその場に置いて、イリヤと美遊は同時に飛び出す。イリヤは敵に見つからないように物陰に隠れながら大回りで凛とルヴィアの元へ向かい、美遊は上空から様子を確認する。

 

『ルヴィア様達と敵の距離が近すぎます』

 

「大弾は撃てない・・・・敵が動かないのは、まさか二人を囮に・・・?なんにせよ・・・まずは敵を誘き出す!速射(シュート)!」

 

凛とルヴィアを巻き込まない程度の魔力弾を放つ。しかしそれはセイバーの出した黒い霧に阻まれてしまう。

 

『敵損害無し、攻撃が届いていません!』

 

「霧に阻まれた・・・?あれは一体・・・・」

 

しかし、攻撃は阻まれこそしたものの、敵の注意を引きつけることには成功している。このまま敵の注意を逸らさないことが重要なのは美遊も理解している。だからこそ、続け様に魔力弾を放ち続ける。

 

「・・・・・・・」

 

セイバーは不意に、剣を頭上に構える。本来近距離専用の武器であるそれは、魔力弾を防いでいた霧を纏い上空の美遊のところまで剣戟を飛ばしてきた。

 

「なっ!?」

 

慌てて障壁を張るも、剣戟は意図も容易くそれを突破、美遊の肩を斬り裂いた。

 

「ぐっ!?」

 

「美遊さん!?」

 

「!!」

 

思わず叫んでしまうイリヤ。それによってセイバーに気付かれてしまい、美遊と同じように剣戟を飛ばしてくる。

 

「きゃあ!!?」

 

「イリヤ!!」

 

飛ばされた剣戟はイリヤの二の腕を斬りつける。

 

「あぅっ・・・!う、腕が・・・・血が・・・!」

 

『大丈夫、軽症です!!すぐに回復出来ます!!』

 

すぐさま治療促進(リジェネレーション)をかけて治療するルビー。そのおかげで腕の傷がすぐさま塞がるものの、イリヤは座り込んだままだ。そんなイリヤに、セイバーは迫り来る。

 

「逃げてイリヤスフィール!!」

 

美遊が叫ぶ。それでもなお、イリヤは動かない、動けない。今まで以上の敵の力、能力、そして傷つけられた恐怖、それらが合わさり少女から戦意は失われつつあった。

 

「あ・・・・・あ・・・・・」

 

『イリヤさん!!』

 

ルビーの声にも反応できない。その間にはセイバーが刻一刻と迫り来る。

 

 

 

 

と、その時。

 

 

 

一つの人影が、イリヤとセイバーの間に割り込んでくる。

 

「はぁ・・・・はぁ・・・」

 

「あ・・・し、翔・・・・?」

 

割り込んだ人物、翔はチラリとイリヤを見ると顔を引き締めて正面のセイバーを見据える。

 

そして、その手の中にあったものに視線を落とす。

 

それは、一枚のカード。

 

『アサシンのクラスカード!?何故翔さんがそれを!?』

 

驚くルビーを他所に、翔はカードを正面に掲げると、目を閉じて呟き出す。

 

 

「素に銀と鉄。礎に石と契約の大公。降り立つ風には壁を。四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ」

 

 

それは、詠唱。敵が迫る中でも落ちついた口調で紡がれる。

 

 

閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)。繰り返すつどに五度。ただ満たされる刻を破却する」

 

 

弟が何をする気なのか、イリヤには理解できない。ただただ彼を見る。

 

 

「告げる。汝の身は我が元に。我が命運は汝の剣に。聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ」

 

 

セイバーが間合いを詰め剣を振り翳した。

 

 

「誓いを此処に。我は常世総ての善と成る者。我は常世総ての悪を敷く者。汝三大の言霊を纏う七天。抑止の輪より来れ、天秤の守り手よ」

 

 

剣が振り下ろされる。

 

対して長い詠唱を終えた翔は閉じていた目を開き、決意と共に叫ぶ。

 

 

夢幻召喚(インストール)!!」

 

 

 

瞬間、風が巻き起こる。

 

そして鳴り響く金属のぶつかり合う音。

 

やがて風が消えると、その光景が露わになる。

 

剣を振り下ろしているセイバー。それを受け止めているのはまるで弓のように撓っている剣。そしてそれを持っているのは緑の鎧を纏った狸の仮面をつけた存在であった。

 

「はぁ!!」

 

その仮面をつけた人物は勢いのままにセイバーの剣を弾き、次の瞬間には胴体に蹴りを加えていた。それにより敵との間に距離を作る。それを確認した狸仮面は後ろに座り込んでいるイリヤに駆け寄る。

 

「イリヤ、大丈夫?」

 

「え・・・し、翔・・・なの・・?」

 

「あぁ、そうだよ」

 

「その格好は・・・一体・・・」

 

「あぁー・・・・ごめん、これに関しては僕もよく分かっていない。分かるのは、”タイクーン”という名前と、戦い方だけ」

 

翔改めタイクーンは自身の手の平を眺めながらそんなことを呟く。しかし、すぐに力を込めて握り拳を作ると、仮面に隠れた目で真っ直ぐにイリヤを見る。

 

「とにかく、イリヤは休んでて。ここから先は、僕が戦うから」

 

再び敵を見据えて立ち上がるタイクーン。弓状の剣”ニンジャデュアラー”を二つに分割し、二刀流にして構える。そして、一気に駆け出す。

 

「はぁ!」

 

正面から来るタイクーンに、セイバーは思いっきり剣を振り下ろし、そしてそれは宙を斬り裂いた。肝心のタイクーンは、すでに後ろ側に回り込んでいる。

 

「!」

 

「ふっ!」

 

気配にすぐさま振り返るセイバーだったが、その顔面にはすでに切っ先が迫っていた。寸前で避けるのも避けきれず、頰から血を流す。しかしそのまま畳み掛けることもなく、タイクーンはすぐさま退く。

 

一度攻撃を加えれば下手に深追いせずにすぐさま退き、圧倒的な速さを持って翻弄しつつ隙を伺い接近する。そんな戦法で戦うタイクーンを見守りながら、イリヤは自分の目を疑った。

 

あれは本当に自分の知っている弟なのか。

 

あの姿はなんなのか。

 

なぜカードを持っていたのか。

 

さまざまな疑問が頭に次々と浮かんでくる。しかし、その疑問を彼に投げかける暇はない。この間にも彼はセイバーとの戦闘を繰り広げている。

 

「翔・・・・」

 

「そんな・・・どうして、彼が・・・あれを・・・・」

 

『美遊様?』

 

対して、美遊もまた大きく動揺を隠せないでいた。その姿はどこかイリヤとは別のものを見ているように感じるが、サファイア以外はそれに気付かない。

 

その間にも、タイクーンは少しずつ、しかし確実にセイバーへダメージを蓄積させていく。一つ一つは大したダメージにもならないだろうが、先ほどの美遊の魔力弾と違い攻撃は通っている。

 

やがてセイバーもその速度に慣れてきたのか、はたまた勘であるのか、タイクーンの攻撃に対応を見せ始める。向かってきたタイクーンにタイミングを合わせて剣を振り、攻撃を弾きつつそのまま斬りつける。

 

「っ!」

 

このままではマズイと判断したのだろう、タイクーンは一度距離を作る。しかし、それがセイバーに対しての猶予を与えてしまった。

 

「なっ!?」

 

 

巻き起こる魔力の嵐。黒く染まった魔力が剣に収束し、そして、一気に解き放たれる。

 

 

 

 

イリヤ達はそこでようやく知ることになる。自分達が相対していた敵の正体を。その宝具の真名と共に。

 

 

 

約束された勝利の剣(エクスカリバー)

 

 

 

黒い黒い、極光の暴力。それは対面していたタイクーンを飲み込み、鏡面界すらも両断した。

 

 

 

 

 

 

「翔ーーーーーーーー!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

セイバーの宝具によって解き放たれた黒い極光に飲み込まれたタイクーンに、イリヤは思わず悲鳴をあげる。美遊も叫びこそしないものの、鏡面界を両断するほどの強力すぎる一撃に、恐ろしさを感じないわけがない。

 

やがて光が消え失せる。イリヤも、美遊も、ルビーも、サファイアも、皆声には出さないもののあの一撃に飲み込まれたタイクーンが無事であるとは思えなかった。

 

そして、消え失せた光の中から現れたのは・・・・・一本の丸太だった。

 

「・・・・へ?」

 

誰があげたのか、この場にそぐわない素っ頓狂な声が響く。そして次の瞬間には、ポンッという音と共にセイバーの頭上にタイクーンが姿を現した。

 

「はぁっ!!」

 

上から叩きつけるようにX字に斬撃を浴びせるタイクーン。セイバーを地面へと倒れふさせる。宝具を展開し、大量の魔力を消費したその直後、畳み掛けるなら今だった。

 

「ふっ!はっ!」

 

剣を杖代わりに立ち上がるセイバーに容赦なく縦横無尽に斬撃を浴びせていく。なかなかに卑怯な戦法にも思えるが、セイバーの宝具が判明した今このチャンスを逃すわけにはいかなかった。

 

「ここで、決める!!」

 

『Round1』

 

ニンジャデュアラーのシリンダーを回転させ、緑に光った斬撃を飛ばす。それはまるで、先ほどのイリヤと美遊のお返しと言わんばかりだ。

 

『Tactical Slash』

 

「まだまだ!!」

 

『Revolve on』

 

腰のドライバーを操作し、左右をひっくり返す。するとタイクーンの体も合わせるように上下ひっくり返り、上半身は黒く、下半身に緑の鎧が付けられた。

 

「はぁ!」

 

『Ninja Strike』

 

バックルのレバーを操作、タイクーンの右足に風が纏われる。駆け出し、それをセイバーの胴体へと勢いよく叩き込んだ。それはセイバーを貫き、中心であるカードが露出する。

 

「・・!・・!?」

 

セイバーは悲鳴を上げているのだろうか、声は全く出ていないため分からないが、しかし中心であるカードが奪われた結果、その体はすでに消滅を始めている。

 

やがてセイバーの完全消滅を確認したタイクーンは夢幻召喚(インストール)を解除し、同時にセイバーのカードを回収する。

 

「ふぅ・・・セイバー、か・・にしてもあのアーサー王相手って・・・・よく勝てたよ・・・僕」

 

少し・・・・いや、かなり疲れた顔をしながらカードを回収し、呆然としているイリヤと美遊の元へと歩き出すが、少し歩いたところで疲労が回ったのか倒れ込んでしまう。

 

「っ、翔!」

 

慌てて駆け出し、翔を揺するイリヤだったが、次に聞こえてきた音に思わず脱力する。

 

「zzz・・・・・」

 

「え?ね、寝息・・?」

 

「・・・寝てる」

 

思わず顔を覗き込む。肩はゆっくりと上下に動いていて、口元からはわずかによだれを垂らしている。どこからどう見ても疲れ切って寝てる人の顔だった。

 

「な・・なんだ〜・・・・」

 

ふへぇ〜と完全に脱力するイリヤ。どうやら弟が無事であることが分かり、同時に敵も本当にいなくなった今緊張が解けたのだろう。

 

「それにしても・・・翔のあれ、一体なんだったんだろう・・・・ねぇ美遊さん。・・・美遊さん?」

 

「え?あ、うん・・・そうだね・・・そ、それよりも、早くルヴィアさんたちを治療しないと・・」

 

「あ、忘れてた!!」

 

慌てて凛とルヴィアの元へ駆け出すイリヤと美遊。幸いにもすぐに回復することが出来て命にも別状はない。あの敵に関しては聞かれたが、イリヤと美遊はルビー、サファイアと話した結果、翔のことは伏せることにした。敵を倒し、2枚のカードを回収することが出来た・・・・・今はそれで良しとすることにしたのだ。

 

やがて今度こそ始まる鏡面界の崩壊を免れるべく、全く起きる気配のない翔を無理やり連れて鏡面界を脱出した。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

鏡面界からあった橋の麓から少し離れた森の中。そこでキャスターとライダーのカードを眺める少年の姿があった。

 

「セイバーのカードは回収し、タイクーンは復活した・・・・あいつがいれば残り2枚も回収できるだろう」

 

カードを仕舞い込み、座りながら夜空を眺める少年だったが、ふと口を押さえて咳き込み始めた。

 

「っ、ゴホッ、ゲホッ!!」

 

自身が吐き出した血で真っ赤になった手の平を眺めながら、苦笑いを浮かべてしまう。

 

「ふっ・・・・ちょっと、今回は使いすぎたか・・・ふぅ・・・・」

 

木に凭れかかりながら、見上げた先で広がる星空。その中で一つの流れ星が目に入る。

 

「星・・・・そういや、あいつも見ていたってあの人が言ってたっけ・・・・今はどうなんだか・・・」

 

少し前にある人から聞いた話を思い浮かべながら、ひとまずはゆっくりと休もうと少年は目をゆっくりと閉じた。

 

 

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