Fate/ Geats Cross   作:蛇廻

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第九話

朝、差し込む日差しに目を開ける翔。そして全身に妙なだるみを覚える。

 

(この感じ・・・・熱かな・・・昨日は久しぶりに戦ったし、その反動かな〜・・・)

 

「翔〜?起きた〜?」

 

「あ、イリヤ・・・うん、今起きたところ」

 

多少の筋肉痛で体が悲鳴をあげ、少々動くのが辛いが身動き取れないほどではない。このぐらいだったら多少我慢すれば問題ないと思っていた翔だったが、部屋に入ってきたイリヤが彼の異変に気づく。

 

「翔・・・なんか、顔赤くない?」

 

「へ?あぁ・・・多分熱。まぁ動けないほどじゃないから、大丈・・・」

 

「熱!?だったら安静にしてなきゃ駄目じゃん!!待ってて、すぐにセラ呼んでくるから!!セラ〜〜!!」

 

「あ、ちょ、イリヤ・・・?」

 

呼び止める間も無く部屋から飛び出していくイリヤ。思わず伸ばしかけた手を力なく下ろす。

 

「行っちゃった・・・・」

 

とりあえず着替えようかと体を起こした翔だったが、程なくして戻ってきたイリヤとセラの手によって強制的にベッドに送還されてしまった。この人、なぜか昔から力が強い。

 

「38.2度ですか・・・風邪ではないようですが、確かに熱はあるようですね」

 

「このぐらい大丈夫だって・・・」

 

「駄目です、大事をとって今日は安静にしてください。学校には私から連絡をしておきますから。イリヤさんは大丈夫ですか?」

 

「うん、私は大丈夫」

 

親が二人ともいない分、セラは子供達・・・・特に小学生のイリヤと翔の二人には過保護な節がある。下手に反論したところで無意味なのは翔も分かりきっていた。やがてイリヤは学校へ、セラは家事仕事をしに部屋から出ていったので、翔は仕方なく布団の中に戻った。

 

「ふ〜・・・・・そういや、あいつはなんであそこにいたんだろう・・・」

 

ひとまず昨日のことは聞かれなかったが、おそらくイリヤが帰ってきたらまた色々と聞かれることだろう。なんて答えるか考えとこうと思っていたら、いつの間にか再び襲ってきた眠気に負けて眠ってしまっていた。

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

「・・・・う・・・・・ょう・・・・」

 

「ん・・・・んぁ・・・?」

 

「翔!!」

 

突然の声に、ゆっくりと目を開ける。見るとベッドの脇にはイリヤが立っていた。どうやら先ほどの声はイリヤのものだったらしい。

 

「イリヤ・・・・?学校は・・・?」

 

「もう終わったよ。せっかくプリン買ってきたのに、翔寝てるんだもん」

 

「プリン?」

 

イリヤは持っていた袋の中からバーンと効果音がつきそうな勢いでプリンを二個取り出した。まぁ、どこにでもあるような普通のプリンだ。

 

「プリンって・・・イリヤ、買えたの?」

 

「うん、なんとか二個買えた!・・・まぁ、おかげで今月のお小遣い無くなったけど・・・・・」

 

反転、一気にズーンと落ち込むイリヤ。申し訳なくなってしまう。

 

「まぁ私のお小遣いはいいよ!翔、熱はどう?」

 

「う〜ん・・・・朝よりもずっと楽になったよ。ずっと寝てたし」

 

「そっか、はいプリン」

 

「ありがと」

 

プリンを受け取り、口に運ぶ。よくよく考えれば昨夜から何も口にしていなかったことに気づき、一度口に運んだ後はバクバクと手がプリンと口を行ったり来たりする。

 

「そういえばさ、今日は美遊さんも休みだったんだ〜。翔と同じで風邪引いちゃったのかな?」

 

「別に僕も風邪まではいってないけどね、どうしたんだろう?」

 

『では、直接聞いてみましょう!!』

 

「うわ、ルビー!?」

 

「あ、いたの?」

 

『なかなか辛辣ですね、翔さん・・・』

 

「ていうかルビー、直接って・・?」

 

すると、ルビーは何やらカシャカシャと妙な変形をする。まるでアンテナのようなものが伸び、普段星が施されている部分は何やらスピーカーのようなものになった。

 

「な、なにその形態!?」

 

『24の秘密機能(シークレットデバイス)のひとつ、テレフォンモードです!』

 

「なんでもありだな、このステッキ・・・」

 

『もしも〜し、サファイアちゃ〜ん?起きてますか〜?』

 

ピピピピと、電波を受信しているかのような音を鳴らしながら何処かへと呼びかけるルビー。程なくして、ルビーからこの場にはいない人物達の声が聞こえてきた。

 

『どうしたの、姉さん?』

 

『今の声・・・何?サファイア』

 

「おぉっ、繋がった?」

 

『その声・・・イリヤスフィール?』

 

声の感じは至って普通、特に翔と同じように熱を出したとか、風邪を引いた感じはしない。だとしたら、彼女が休んだのはなんでなのだろう。

 

『何か用?』

 

「あ、うん、用ってほどじゃないけど、今日学校休んでたから、どうしたのかな〜って・・」

 

『あぁ、今日はルヴィアさんに休養を取れって言われて、ずっと家にいた』

 

「あ、そうだったんだ。じゃあ翔と同じで熱ってわけじゃないんだ」

 

『熱・・・彼は大丈夫なの?』

 

「あー、美遊さん?熱はもう下がったから、大丈夫」

 

『そう・・・』

 

「「『・・・・・・・・』」」

 

以降、会話が続かない。分かりきっていたことではあるが、なんともいえない空気が部屋を支配する。

 

『あ〜もう、焦ったいですねぇ!!なに不器用な会話してるんですか!!』

 

「そ、そう言われても・・・!」

 

この空気感に我慢できなくなったルビーが騒ぎ出す。さらには一体どこにしまっているのか疑問に思うほどのカメラが飛び出てきた。

 

『顔を見ないと話しづらいようならテレビ電話にも出来ますよ!!』

 

「「またなんか出た!?」」

 

『プロジェクターです!サファイアちゃんが今見てるものがリアルタイムで映せます!』

 

「本当無意味に多機能ね」

 

『ちょうど白い壁がありますし、ここに映しますか』

 

『え・・・テレビ電話!?あっちょっと何を・・・』

 

『行きますよ〜』

 

『待っ・・・・・』

 

何やら慌てふためいている様子の美遊だったが、パッと映し出された画面にイリヤと翔は思わず固まる。そこに映し出されたのは今まで見たことがない部屋着の美遊・・・・などではなく、メイド服に身を包んだ彼女だった。

 

「え・・・」

 

「えぇぇーーー!?なんで!?なんでメイド服!?」

 

『あらあらまぁまぁ!なんと良いご趣味をお持ちのようで!』

 

『あっ・・・・ちっ・・・違うの・・・!!これは、その・・・・わたしの趣味とかじゃなくて・・・・・ルヴィアさんに、無理やり着せられてっ・・・・!!』

 

そうれはもう恥ずかしそうに、顔を耳まで真っ赤に染めてなんとか反論を試みる美遊だが、その姿がなんとも愛らしい。と、同時にイリヤの様子がおかしくなる。

 

「・・・・たい・・・」

 

「イリヤ?どうしたの?」

 

「今すぐ美遊さんに会いたい、なんていうか生で見たい、来て今すぐ来てそのまんまの格好で来て!!」

 

『ちょ・・・・』

 

「家はすぐ向かいでしょーーー!!駆け足ーーーっ!!」

 

『はっ、はぃいいい!!?』

 

「イリヤうるさいんだけど・・・」

 

 

 

 

 

 

数分後。

 

「お、お邪魔します・・・」

 

あまりの気迫に断ることなど到底出来ず、大人しく衛宮家へとやって来た美遊だったが、部屋に入った瞬間に妙にテンションが上がってしまっているイリヤに捕縛・・・・抱きつかれてしまう。

 

「いらっしゃ〜〜い!!」

 

「あうっ・・・」

 

「すっご〜い!!本当にメイド服だ〜!!」

 

「あ、ああああの・・・・」

 

「なんか良い生地使ってるし、縫製のしっかりしてるし・・・本物?本物の小学生メイド?ちょっと”ご主人様”って言ってみて!!」

 

「え、普通は”お嬢様”じゃ・・・・」

 

「良いから!!!」

 

「ごっ、ご主人様ーっ!!?」

 

「イリヤ落ち着け」

 

ペシッとなかなか良い音を出しながらイリヤの頭を引っ叩く翔。流石に美遊が可哀想に思えて来たのだろう、暴走気味のイリヤを強制的に美遊から引き剥がす。

 

「あうっ」

 

「美遊さんが困ってるじゃん。ごめんね、美遊さん」

 

「あ、う、うん・・・だ、大丈夫・・・」

 

とは言うものの、少々お疲れ気味だ。学校での美遊の様子からも、あまりあのような状況に陥ることはなかったのだろう。

 

「それよりも・・・家の方に変な目でジロジロ見られたのが・・・」

 

「あー・・・ごめん、その辺のことも考えなしでした・・・」

 

確かに子供の友達が家に遊びに来たと思ったらまさかのメイド服。色々と驚くのはむしろ普通の反応だろう。

 

『恥じることはありません。メイド服は美遊様の正式な仕事着なのですから』

 

「正式・・・ってことは、やっぱり本当にメイドさんなんだ?」

 

「う、うん・・・一応レディースメイド扱いで、ルヴィアさんの身の回りのお世話を・・・他に行くところがなかったわたしをルヴィアさんが拾ってくれて、生活の保護はしてあげるから、それと引き換えにメイドやカード回収の手伝いをしなさいって」

 

唐突に語られた美遊のカード回収をする経緯。その内容に少し疑問に思うところはあれど、内容が内容だけに触れない方がいいと判断したイリヤと翔は、早急に話題の転換を図る。

 

「そ、そうなんだ!あ、そういえば翔に聞きたいことがあったんだけど・・・」

 

「え、な、なに?」

 

話を逸らすことに気が向いていた翔は、すぐにその話に乗っかる。が、次の瞬間にはそれを激しく後悔した。

 

「ほら、昨日のこと!カード持ってたけどなんで!?それにあの姿、なんだっけ、タイクーン?って?」

 

「あ・・・」

 

しまったと思ったが時すでに遅し。矢継ぎ早にされる質問にどう答えるか考えつつ、翔は美遊に助けを求める。

 

「わたしも気になっていた。なんであんなことが出来たのか・・・」

 

(くっ・・・逃げられない・・・)

 

考えようと思っていたところで気づいたら寝てしまっていたことから、何も考えは纏まっていない。

 

「え、え〜と・・・その・・・り、凛さんとかルヴィアさんがいる時の方がよくない?ほら、説明が二度手間になるのな〜って・・・」

 

「あの二人には話していない。多分内密にした方がいいと思って」

 

早速逃げ道を失ってしまう。ジーッと、二人の視線が突き刺さる。やがてその威圧に耐えきれなくなった翔はゆっくりと口を開いた。

 

「えっと・・・き、狐に化かされた・・・的な?」

 

「「・・・・・・」」

 

視線がより鋭くなった。どうやらこの回答は許されないらしい。

 

「いや、そんな目で見られてもそれぐらいしか言えないんだよ。白い狐にカード渡されて、こうすれば戦えるっと言われたから、やってみた」

 

「いや軽!!え!?普通もっと疑わない!?てかその狐って何!?」

 

「何って・・・コ〜ン?」

 

「雑!!どんな回答なの!?え、弟ってこんなキャラだったっけ!?」

 

混乱するイリヤを他所に、美遊はその狐についてをもう少し詳しく聞こうとする。

 

「その狐・・・何か魔術を使っていた?」

 

「魔術?・・・・・いや、分からなかったよ」

 

「そう・・・・」

 

何か思うところがあるのか、顔を伏せる美遊。漂う空気はなんとなく重くなっているのが分かる。

 

『ま、その狐面が誰なのかは分かりませんが、ひとまずは放置ですね』

 

「え、それでいいの?」

 

『いいも何も、どこにいるかも分からない人を探すなんて骨が折れますよ〜。それに、狐面ってことは素顔はまた別ってことです。素顔の分からない人を探すなんて、そんな暇あると思います?』

 

よくよく考える三人。朝起きたら学校に行く。そこで一日を大半を過ごし、その後帰宅。日によっては遊びに行く日もあるが、大体一時間から二時間ほどで家に戻る。そして家族と夕飯を食べ、夜中にはカード回収の任務に。・・・・・・・うん、ない。

 

『そういうわけで、ひとまずその狐面や翔さんのカードに関しては極秘ということにしましょう。幸いあの二人は昨夜気絶していて気づいていないですし』

 

「い、いいのかな、それで・・・・」

 

『いいんです!!』

 

やけに力強い。しかし、魔術に関することはからっきしであるイリヤにはルビーの決定に下手に逆らうわけにもいかない。美遊も翔もそこに反論する様子もないため、結局イリヤがどうこう言うことはできなかった。

 

「・・・私、そろそろ戻るね。行くよ、サファイア」

 

サファイアを引き連れ立ち上がる美遊。元々翔のお見舞いということでもなく、ただイリヤに強制的に呼ばれただけなので、ここにいる必要もないのだ。

 

「それじゃあイリヤスフィール、翔、また・・・」

 

「あ、ちょっと待って」

 

部屋から出ようとする美遊を引き止めるイリヤ。まだ何かあるのかと、少し強張った表情のまま振り返る。

 

「あ、え〜と・・・・・私のこと、フルネームじゃなくて”イリヤ”でいいよ?ほら、”イリヤスフィール”だと長くて呼びにくいし、友達はみんな”イリヤ”って呼んでるから」

 

「・・・友達・・・・?」

 

「え、友達って思ってたの私だけ!?私の片思いだったの!?」

 

「僕たちにとって、美遊さんはもう友達だよ?」

 

見るからにショックを受けるイリヤと、そも当然のように言ってのける翔。まだ知り合ってからは短く、お互いのことも全てを分かっているわけでもない。しかし、共に戦い合った彼らの中には確かに絆が生まれている。

 

「・・・・そ、それだったら・・・・」

 

美遊は少し顔を赤くしながら、呟くように口を開く。

 

「私も、呼び捨てでいい・・・・」

 

恥ずかしいのだろう、先ほどメイド服姿を見られたときと同じように顔を真っ赤にしながらもそう答えてくれた美遊に、イリヤと翔は一瞬顔を見合わせ、すぐに笑顔を浮かべる。

 

「うん!よろしくね、美遊!!」

 

「よろしく、美遊」

 

「・・・うん」

 

今まではどこか離れた場所にいたように感じた美遊だったが、この瞬間確かに、三人の距離は縮まったのだ。

 

 

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