「どうも、あの時はお世話になりました。ノワールさん」
「別に構わないわ………けど、本当に驚いたわね。まさかたった三日でこんなに話せるようになるなんて」
町全体を見渡すような高台の上で、クロスは一人の少女と会話をしていた。名をノワール、ラステイションの女神である彼女は、流暢に話せるようになったクロスの変化に感心しているようだ。
「イストワールさん曰く、俺は情報の吸収力が人一倍優れてるみたいです。だから、他の人よりも早く言語や知識を身に付けやすいと」
「そうなのね。他にも色々と聞きたいところがあるんだけど……………ごめんなさい、やっぱり一つだけ教えてくれるかしら」
「…………はい」
二人は半ば触れずにいた話題がようやく持ち出される。申し訳なさそうなクロスから視線を離したノワールは、深呼吸すると共に勢いよく叫んだ。
「────どうして
「…………本当にごめんなさい」
ノワールの視線の先、椅子の上でだらけきったように眠るネプテューヌ。彼女の詰問に対しクロスは素直に頭を下げることしか出来なかった。
そもそも、ネプテューヌ達がわざわざお隣の友好国に来ているのは、そこで自堕落になっているネプテューヌが原因だった。
◇◆◇
数時間前、プラネテューヌの教会にて。
「────見てくださいこれを!」
イストワールに案内されたクロス達が訪れたのは、未知の空間だった。言われたクロス、ネプテューヌ、ネプギアであったが、そもそも何を見ていいのか分からず、結果的に三人全員がイストワールをジッと見つめていた。
「シェアクリスタルを見てください!」
三人から同時に見つめられて恥ずかしかったのだろうか、顔を真っ赤にして怒ったイストワールが勢いよく浮遊する。そのお陰で彼女の後ろに浮かんでいた何らかの物体に気付くことが出来た。
何らかの文字のような形状をした特殊な結晶体。名前は前々から知っていたが、実物を見るのは初めてであったクロスははへーと近寄って見ている。イストワールは不安そうに「触ったら駄目ですよ!」と口にしていた。言われたなら仕方ない、とクロスはこっそり触れようと思っていたが普通に諦める。
「シェアクリスタルがどうかしたんですか?」
「最近、クリスタルに集まる我が国のシェアエナジーが下降傾向にあるんです!」
キチンと眼鏡を掛けて、わざわざグラフ化したデータを提示する辺り、イストワールの真面目さがよく出ている。ほー、と素直に納得するクロスとは対照的に、ネプテューヌ本人はまだ呑気な感じである。
「まだたくさんあるんでしょ? 心配することなくない?」
「なくないです!シェアの源が何かご存知でしょ!!」
「国民の皆さんが女神を信じる心、ですよね?」
かつて女神達が奪い合っていたとされるエネルギー、シェア。それの発生源は他ならぬ国民。女神を信じる思いこそが、女神の力であるシェアを作り出すという。凄いシステムだなー、と感心するクロスの前で、イストワールが結論を提示する。
「そう!この下降傾向は国民の皆さんの心が、ネプテューヌさんから少しずつ離れていってるということなのです!」
「えー、嫌われるようなことしてないんだけどなー」
「────『何も』してないからだと思うなぁ。なにもしないと信頼は増えないし、逆に減るだけだろ?」
正論と言わんばかりにネプテューヌが露骨に戸惑う。ネプギアは苦笑いを浮かべるしかなく、イストワールはもっと言ってください と言わんばかりに凄まじい勢いで頷いていた。
「─────クロスの言う通りでしょ、ネプ子」
最中、突然クロスの意見に賛同する声が聞こえてきた。既にこの場にいたものではなく、全く新しい別の誰かのものだ。
特殊な空間に扉のように穴が開く。そこから二人ほど少女がこの空間へと立ち入ってきた。当然、イストワールに許可を取って。
「アイエフ、コンパ。二人も来てたんだな」
「偶々よ。ついさっきイストワール様の話が聞こえたからね」
クールで真面目な雰囲気を漂わせる少女 アイエフ。プラネテューヌの教会で生活している合間に出会い、既に挨拶を交わし終えていた後だった。普通に常識人であり、クロスも仲良く接している。理由の一つが、彼女のセンスと自分の趣向が中々合うからだ。
「う、うわぁーん!全員私を虐めてくるー!コンパは違うよねー!?」
そう言うや否や、ネプテューヌはもう一人の少女へと駆け寄っていく。虐めてるどころか正論だよ、と何名かが思った。コンパ、と呼ばれたふわふわとした雰囲気の少女は笑顔を崩すことなく、一枚の紙を前に出した。
「ねぷねぷ、これ見るです」
「え?何々………女神、いらない────」
「────ハッ!!」
「……………」
どうやら女神を必要としないと言い出す者達がいるらしい。イストワールは青ざめたように全身を跳ねさせ、クロスは露骨に顔をしかめた。えーと言葉に詰まるネプテューヌの前で、コンパがハッキリと言う。
「こういう人たちにねぷねぷのことを分かってもらうためには────お仕事もっと頑張らないとです」
「俺も賛成。ネプテューヌの力になるから、少しでも頑張ろう?」
四面楚歌の状況にネプテューヌは余計なことを言わずに黙り込むしかなかった。ここで四面楚歌、私大ピンチ等と言い出したらイストワールの説教が炸裂していたから幸いだろう。
「クロスさんは大丈夫ですよ。この問題はネプテューヌさんにありますから、本人が努力しないといけないんです!」
「はい、分かってます。でも俺、ネプテューヌや皆さんにお世話になってますから…………そろそろお手伝いもしなきゃって、考えてるんです」
手伝うと言い出したクロスに無理をしなくて良いと諭すイストワールだったが、彼の意思は強かった。ネプテューヌ達に世話をかけた恩を返したいと思い始めてた今、クロスはそこで遠慮をするようなタイプではない。
そして、トドメと言わんばかりに。クロスは困ったように微笑みながら恥ずかしそうに答えた。
「俺、ネプテューヌがいらないと思われてるのは悲しいですから。俺が手伝うことでネプテューヌの力に、ネプテューヌが悪く言われないようにしたいですよ」
その一方、沈黙を貫くネプテューヌの心境は穏やかではなかった。
(あああああーーーっ!もう逃げ場がないぃぃぃ!何よりクロスがこんなに考えてくれるなんて、サボったり出来なくなっちゃうじゃん!でも少し嬉しい!ごめん、嘘!普通に嬉しい!女神らしくって言われても、そもそもどうしたら良いんだか……………)
その時、ネプテューヌに電流走る。
「あ!そうだ! 私!女神の心得を教わってくる!」
「女神の心得?んー、誰に?」
「ノワール!ラステイションのノワール!!」
◇◆◇
以上が事の経緯である。
「ごめんなさい、ノワールさん…………ねぇお姉ちゃん」
「うーん………いいじゃーん」
「はぁ、ホントにグータラなんだから」
ネプギアが起こそうと揺するが、ネプテューヌは抱き枕を抱き締めてサボる体勢を崩そうとしない。呆れ果てるノワールの前で、ネプギアが困ったようにおどおどしていた。
流石に見兼ねたクロスが助け船を出すことにした。
「安心してネプギア────俺に良い考えがある」
「…………へぇ?」
「?どんなことする気かしら?」
「んー、さぁー」
「…………」
自信満々のクロスの提案に興味深そうなノワール。少し離れた場所でネプテューヌを何とかすることが出来るのかと半信半疑のアイエフとほんわかしたコンパ。前回の件もあり、不安を隠せないネプギア。
彼女達の前で、ネプテューヌに近付いたクロスは彼女の耳元に近付くと。
「───────」
「ねぷあらぁぁああああああああッッ!!!!!?」
凄まじい悲鳴(七割絶叫)を響かせたネプテューヌが椅子から飛び跳ね、そのまま地面を転がっていく。見たこともないネプテューヌの反応を前に、女子一同は流石に驚くことしか出来なかった。
ガバッ! と起き上がったネプテューヌは赤面させたままクロスへと飛びかかるように憤慨する。
「んもぉぉぉおおお!今のは酷い!女の子に対してなんてこと言うの!?セクハラだよクロスぅ!!」
「いや、でも事実だよ。俺知ってるから、詳しい本読んだし。ぐうたらしてるとそうなりやすいって話なんだから、ちゃんと真面目に頑張ろうよ」
ぷんすかと怒っているネプテューヌを宥めるクロス。しかし話を聞いていたノワールは冷徹なオーラを纏い、淡々と答えた。
「─────悪いけど、お断りよ。敵に塩を送る気なんてないから」
「え~、敵は違うでしょ?友好条約を結んだんだから、もう仲間─────」
「シェアを奪い合うことには変わりないんだから、敵よ」
流石に言い過ぎではないか、とクロスが困ったように思う。しかし、言われた当人は頬を膨らませ、文句のようにあることを言い出した。
「もう~!そんな可愛くないこと言うから、友達いないとか言われちゃうんだよ!」
「なっ!と、友達ならいるわよ!!」
「へ~誰?何処の何さん?」
あーだこーだ言い合う女神二人の少女。女神と言われても普通の女の子に変わりないんだな、と感心していたクロスの横で、ネプギア達は苦笑いすることしか出来なかった。
◇◆◇
数時間後。
ラステイションの街から少し離れた所に全員で向かっていた。その理由は、ノワールが説明した通り。
「今回のモンスター退治は二ヶ所、ナスーネ高原と近くのトゥルーデ洞窟で、難易度はそんなに高くは…………」
「あの………お姉ちゃん」
モンスター退治のクエストの際に女神の心得をネプテューヌ達に教える、ということなのだが。真後ろを歩いているノワールと良く似た少女────ノワールの妹であるユニが戸惑ったように口を開く。
「何?ユニ」
「───クロスさん以外、誰も聞いてない」
「え」
落ち着いていたノワールだが、ユニの言葉を聞いた瞬間すぐさま振り返った。視線の先では、歩き疲れて休憩するコンパとそれを気にするアイエフ。そして、ノワールの話に耳も向けず楽しそうにはしゃいでいるネプテューヌであった。
クロスはユニの近くで、複雑そうに苦笑いする。真面目に取り組んでくれるクロス、ネプギア、ユニや疲れているコンパやアイエフはともかく、集中する気がないネプテューヌに、ノワールはついに顔を真っ赤にして怒った。
「───いい!?」
「ペース落ちてる!」
その結果、女神二人は最後尾へと移動していた。明らかに歩くペースが落ちてるネプテューヌの背中を木の枝で突っつくノワール。ネプテューヌは咄嗟にクロスに助けを求めるが、ノワール相手では無理だとクロスは首を左右に振るしかなかった。
「も~!ノワールったら真面目なんだから、いつもそんなんだと疲れちゃわない?」
「悪い?それに、疲れくらいどうってことないわよ。私はもっともっといい国を作りたいの」
「…………」
ここだけはネプテューヌの意見に感心するクロス。確かに見た感じノワールはいつも女神として動くことを第一にしており、女神としての責任を良く理解している。だが、背負い込み過ぎだとも思う。たった一人で重荷を抱え込む姿には、クロスも明らかな不安を浮かべるしかなかった。
しかし、そうして歩いていた一同に歓喜に満ちた声が聞こえてきた。森から出てきた途端、此方に気付いた人々が声をあげていたのだ。当然といえば当然か。なんせ一緒にいるのはこの国の女神であるノワールなのだから。
「いけない!アクセス!」
「えー!?今変身しちゃうの!?ウソォ!?」
慌てて前に出たノワールが、突如光に包まれる。それが変身だと知ったネプテューヌは少し焦ったように叫んだが、何をそんなに気にすることがあるのか、とクロスは思う。
服だけが光と共に消え、彼女の身体に黒く変化したプロセッサースーツが纏われていく。黒髪をほどき振り払うと、それは瞬く間に白い長髪へと変化を終える。
記憶の中に朧気に映る姿、女神ブラックハートと同じ姿だった。
「女神の心得その二、国民には威厳を感じさせることよ。みなさん、モンスターについて聞かせてくれるかしら?」
飛翔して村人達の元へと降りるノワール。飛んでいく彼女を見ながら、ネプテューヌは呆れたように呟く。
「───目の前で変身しても威厳とかなくね………?」
それに関して、クロスは何も言わないことにした。
◆◇◆
「ここがナスーネ高原ですね」
「ええ、スライヌが大量発生して困っているのですわ」
村人達に案内された草原地帯。そこを見ると、不思議なモンスターが辺り一帯を彷徨いている。スライムのような軟体に可愛い犬の顔を張り付けたようなデザインのモンスター。名を、スライヌ。本で見た通り、奇抜な見た目のモンスターだとクロスは感心したように見つめていた。
「分かりました。お隣の国のネプテューヌさんとネプギアさんが対処してくれるようです」
唐突に、スライヌ退治をネプテューヌ達に振ったノワール。その事実にクロスや、ネプテューヌも驚きを隠せなかった。
「ねぷ!?いきなり振る!?」
「わ、私たちがやるんですか!?」
「心得その三、活躍はアピールするべし」
ここは自分でやった方が国民からのシェアも高まるはずだ。なのに、わざわざネプテューヌ達に譲るということは、彼女なりの優しさなのだろう。口では厳しいが、本質はネプテューヌ同様優しいのだとクロスは密かに頷いていた。しかし、すぐに思い出したようにノワールに問い掛ける。
「あの、ノワールさん。俺も一緒に手伝っていいですか?」
「別に構わないけど………貴方、戦えるの?」
「まぁ初めてですけど、武器はあるから大丈夫です」
不安そうなノワールに、クロスは腰に備えた剣と銃を見せて軽く笑う。心配する必要はないと考えたノワールは、ネプテューヌへと呼び掛けた。
「ネプテューヌ、彼は戦いに関して素人なんだから任せるわよ。女神らしく、ちゃんと教えなさいよ?」
「ふっふん!任せてよ!スライヌなんてヒノキの棒でも倒せるもんね!」
そう言い出した瞬間、ネプテューヌは勢いよく体操選手のような動きで跳び跳ねる。スライヌ達の前に降り立ったネプテューヌは、何処からか刀剣を鳥だし、鞘から抜き放つ。
「いくよ!ネプギア!クロス!」
「うん!お姉ちゃん!」
「────ああ!」
呼び掛けられたネプギアとクロスも、前へと走り出す。ネプギアは姉と同じように、何もない場所から剣の柄と思われるものを出現させると、光の刃を展開させた。そのまま帯刀しているクロスはベルトに装着した鞘から、長剣を抜いて身構えた。
「クロスはまず見てて!戦い方の見本は私達がやるから!」
ネプテューヌはそう言いながら、目の前にいるスライヌへと飛び込んだ。跳躍と共に振るった刃を放ち、スライヌに斬撃を放つ。一撃を受けたスライヌは、一瞬にして光の粒子となった。
ネプギアも負けじと動く。飛び出してきたスライヌを、両手で握ったレーザーブレードで切り払い、一撃で仕留める。
「さっすがネプギア!和が妹よ!────どう?クロス、大体分かった?」
「ああ、ありがとう二人とも。俺も、一回やってみる」
瞬間、クロスはその場から飛び出した。深く腰を落とした姿勢を崩さず、近くにいたスライヌへと踏み込み、振り上げた一刀で斬り伏せる。
そのまま身体を捻ったクロスは、自分の死角にいたスライヌ達へと斬り込んでいく。一瞬にして、周りにいたスライヌが数体消滅した。
「おお!良い調子!───でも気を付けて!次が来るよ!」
仲間を倒されたことでネプテューヌ達を脅威と判断したのか、スライヌ達は数を増やし始めていた。集まってきた数体が迫る中、クロスは右手で腰に備えていた銃を掴み、突き出した。
─────バシュンッ! バシュンッ! バシュンッ!
銃口から放れたエネルギー弾が、スライヌ達を撃ち抜く。クロスが扱うこの銃は普通とは違い、本人のエネルギーを弾丸として放つらしい。何より、面白い機能が他にも搭載されているのだ。
「数が多い────なら!」
剣を鞘の中に戻したクロスはふと銃身に手を伸ばした。パーツの一つをスライドさせると、ガチン!という軽い音と共に銃身の下から取っ手が飛び出してきた。
それを左手で掴みながら引くと、銃が二つに分離した。拳銃より大きく、サブマシンガンより小さいサイズになった二つの銃を左右で構えたクロスは全方位に目掛けて撃ち始めた。
「…………凄い」
ネプテューヌ達の戦いをカメラで捉えれていたユニは、思わず感心してしまう。戦い慣れている二人はともかく、あんなに早く戦えるようになったクロスには、純粋に凄いという感情が芽生えていた。
しかし、ノワールは違った。
妹同様クロスの様子に注視したノワールは、ある疑問を思い浮かべていた。
(…………可笑しい。あんなに早く戦えるようになるものなの?)
少し前から、ネプテューヌの話を聞いていたノワールは、彼が一度も戦ったことがないことは知っている。彼が情報の吸収力が強いということは分かってはいたが、そんな単純な話ではないとも思っていた。
(剣はネプテューヌ達の動きを見れば覚えられるのは分かるけど、銃をあそこまで使いこなせる理由は何? ネプテューヌの話が本当なら、彼が戦うのは今日が初めてなはずなのに)
彼が嘘をついている、という可能性は有り得ない。ネプテューヌはともかく、ノワールは人一倍そういうのを気にするタイプだ。故に、クロスが嘘をついていないことは理解できる。
なら、思い当たるとすれば一つ。
記憶喪失になる前の彼の戦いの記憶が、身体に染み付いているのか。だとすれば納得できる。あれだけ早く適応できるのも、実践慣れしているとすれば分かりやすい。
────だが、納得できない。何か別の、重要な理由があると考えてしまい、答えが定まらない。その答えというものが、ノワールには見つからないものだった。
「───数が多すぎるわね」
「私達も手伝うです!あいちゃん!」
スライヌの数が増してきたことを危惧したアイエフとコンパが戦場へと加わった。両手にカタールを装着し、一瞬の内にスライヌ達を切り払っていくアイエフ。その横でコンパは中々に大きな注射器をスライヌへと突き刺し、一匹ずつ倒していく。
勝利を確信したネプテューヌ達であったが、その瞬間向こうから空を埋め尽くす程のスライヌが飛び上がってきた。全員の顔が一気に引きつり、スライヌ達が同時に襲いかかってくる。
「────なんなんだ!コイツら!普通じゃない!!」
大量発生の意味がようやく理解できた。斬って撃っても、目の前に群がるスライヌ達が減ることはない。何とかやり過ごしていたクロスであったが、真後ろから小さな悲鳴が聞こえる。
「皆!?大丈夫─────っ!?」
途端、絶句してしまうクロス。無理もない。目の前に広がる光景が、あまりにも予想外のものだったのだ。
「ひゃあ!?変なとこ触るな!」
「気持ち悪いです~」
「そんなとこ入ってきちゃダメぇ!?」
「あははははははっ!! く、くすぐったい!? あはははははは!!」
「─────あわー」
スライヌに群がられた少女達が、凄いことになっている。こういう時、顔を隠すべきという知識を身に付けていたクロスは『あちゃー』という感じのニュアンスの言葉を口にしながら、顔を隠していた。当然、目すら隠しているので、何も見ようとしてない。
だが、すぐにそれも止める。何もしないという訳にもいかず、群がろうとするスライヌ達を即座に切り払っていく。そうしていると、山のように集まっていたスライヌ達が内側から吹き飛ばされた。
「だああああああああああああああああ!!!」
「ッ!?アイエフ!?」
「お前らの魂!冥界に送り返してやるよぉ!!!」
落ちてきたスライヌを切り捨て、凄まじい顔のアイエフが高らかと叫ぶ。あまりの変化に怖ッとクロスも引いていた。だが、すぐさま立ち直ると、アイエフと共にスライヌの掃討に尽力した。
そうして、彼等の手によって大量発生したスライヌは殆ど倒されたのだった。
◇◆◇
「───ハァ、ハァ」
「…………いや、流石に………多すぎッ」
全力で戦ったアイエフとクロスは疲労困憊であった。だが、まだ休むわけにはいかない。何匹かスライヌがまだいる。それらを倒そうと歩いていたクロスの耳に、ノワールの声が聞こえてきた。
「どうして女神化しないの!変身すればスライヌくらい───」
「でもまあ、ほら………何とかなったし」
どうやら、ノワールはネプテューヌが女神化しないことに怒っていたらしい。楽観的に答えるネプテューヌに、ノワールは強い口調で否定しようとした、その時だった。
「みんな!こっちに来てくれ!」
残ったスライヌを見ていたクロスが、全員に向かって呼び掛けた。その声が緊張に張り詰めたものだと理解したノワールは口を閉ざし、ネプテューヌ達と共に彼の元へと向かう。
辿り着いたそこで、彼女たちはクロスの前で弱り果てたであろうスライヌを見つけた。しかし、重要なのはそこではない。クロスが指し示したスライヌを背中を見た途端、ネプギアやユニが小さな悲鳴を漏らす。
そのスライヌの背中には、大きな傷が刻まれていた。何かで切り裂かれたらしいその傷跡は、普通とは違う変化が起きている。傷の近くの部分が崩れ始めており、粒子のようなものが散っているのだ。
「……………なに、この傷。見たことないわ」
「もしかして、スライヌが大量発生した原因ってこれじゃないか? 元々スライヌたちがいた場所から何かに追い出された、とか」
それならば、少しは納得がいく。元々住み着いていた場所が、外敵によって奪われ、スライヌ達は比較的安全な草原へと逃げ出してきたのだろう。ならば、大量発生の元凶を知る必要があるかもしれない。
「───このスライヌたちが何処から来たか、ご存知ですか?」
「は、はい…………最初に現れたのは、トゥルーデ洞窟近くの森からです」
まさか依頼の場所のすぐ近くだった。ノワールは何か嫌な予感を感じたのか、何も言わずに森の方へと向かっていく。
「ちょっと!待って、ノワール!」
「────ッ!」
「クロスも!?」
「───ノワールさんの後を追いかける!先に行くから!」
飛んでいったノワールの後を追いかけるクロス。いつもとは違う必死な顔で、彼は洞窟のあるとされる方へと全力で走っていくのだった。
◇◆◇
トゥルーデ洞窟に辿り着いたノワールは、洞窟内部に広がる光景に一気に表情を険しくさせる。
洞窟の壁や地面は削り取られたように不気味な穴が浮かび、モンスター達の身体が崩されたのか粒子のようなものを漂わせていた。さっきのスライヌの傷と似た黒い粒子、これが洞窟内で起きている異変の原因なのだろうか。
洞窟の奥まで進んできたノワールは、咄嗟に息を潜めた。何かがいる。巨大なものと、人間サイズの影が二つ。その一つ、巨大な影を見たノワールは思わず息を飲み込んだ。
それは、明らかな異形であった。屈強な肉体と以上に発達した破砕機のような2本の腕。目もなく鼻もなく、口だけを有したその巨体は、大きな口を最大まで開き、周囲のものを吸い込み始めた。
岩やモンスター、手当たり次第に喰らっていく巨大な怪物。バギン、ゴギンと、砕いていく怪物の隣で、一人の男が満足そうに笑っていた。
「良いぞ。やっぱり『
その男は自身の腕に固定させたゲーム機のような端末を操作していた。アレ何が出来るのかと考えていたノワールだったが、男の発した声に反応する。
「─────何隠れてんだ?出てこいよ」
「…………」
男の言葉には答えず、ノワールは近くの壁から姿を見せた。ずっと辺り一帯のものを吸い込み続けている怪獣から目を離した男、どうでも良さそうに鼻を鳴らす。
「ふん、こんな所に来るとは。余程の命知らずかバカみたいだな」
「…………ここは私の国の領土よ。貴方の方こそ、何をしているのかしら?」
「知らんな。ここがお前の土地だとしても──────お前はここで死ぬんだ。気にすることでもないだろう」
吐き捨て、男は手元の装置をタップした。すると男の持つ装置から黒い粒子が放出されていき、それらは人の姿をしたナニカを作り出した。
「────
適当に命するだけだった。ヴァルタードと呼ばれたヒト型のモノはノワールへと狙いを定め、襲いかかっていく。その光景を目にすることなく、男はつまらなさそうに背を向けてていたが─────すぐ近くまで吹き飛ばされたヴァルタードを目にし、ゆっくりと振り返った。
「見たこともないモンスターね。こいつらのことも話して貰うわよ」
「─────ハッ、ハハハハハハハハ!!」
女神化した姿でヴァルタード全てを一瞬で撃破したノワールが剣を向け、そう告げる。しかし男は小刻みに震えると、一気に大声で笑い出した。
ノワールが怪訝そうな顔をしていると、男は笑いながら答える。
「これ程のエネルギーを有したものがいるとは驚いた。何より驚いたのは、俺の元へとわざわざ来てくれたことだ。一々分解してエネルギーを集める必要もない。手間を省かせてくれて助かった────本当になぁ!」
言いながら、ヴァルタードを生み出し続ける男。どうやら本気でノワールを倒すつもりらしい。それも物量で圧倒するつもりか。数十体のヴァルタードの大群を率いた男が、堂々と口を開く。
「殺す前に、俺のことくらいは教えてやろう。
────破滅の使徒が一人、『蹂躙』のロード。この世界を滅ぼす、王の名だ!!!」
オリジナルの敵キャラ登場です。