超・真次元クロスネプテューヌ   作:虚無の魔術師

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未知の敵との戦い

「────やれ!破兵(ヴァルタード)!」

 

 

数十体にまで増えたヒト型のモンスター、ヴァルタードがロードの命令で突撃する。両腕に刃を備えたヒト型の異形は妖しく光る単眼でノワールを捉え、数匹同時に向かってくる。

 

しかし、女神化したノワールの相手になるものではなかった。彼女が容易く振るったブレードの一撃で、先行したヴァルタードが両断される。黒い粒子となって散った同族の存在に、二体のヴァルタードが跳び跳ねた。

 

無論、逃げたわけではない。左右へと飛んだヴァルタードはノワールを囲むように立つと、互いに反対の方向に走り出す。ノワールは静かにブレードを下ろし、力を抜いたように一息突いた─────その隙を捉えたヴァルタードが腕の刃を振り上げながら突貫する。

 

 

「─────嘗めないで!」

 

 

しかし、ノワールは一瞬で二体を切り払った。ブレードを片手で振るい、近づいてきたヴァルタードの身体や顔を切断してみせる。黒い粒子となって散った残骸から目を離すと、ノワールの居た場所に複数のビームが炸裂した。

 

 

両腕が砲のようになっているヴァルタード達が、砲撃を繰り返す。凄まじい弾幕の雨嵐が、ノワールの姿を覆い尽くす。しかし、それらの攻撃を前にしてもロードは不愉快そうに舌打ちを吐いた。

 

 

「…………チッ、効かないか」

 

爆煙の中から姿を現したノワールに、傷一つない。あれらの攻撃を受けても、女神化した彼女には大した攻撃にはならなかった。その事実を噛み締めたロードは、ふんと鼻を鳴らす。

 

 

「雑魚を数だけ増やしても意味がないようだ────なら、数を束ねればどうかな?」

 

『ディスアセンブル────フュージョン・オーバー!』

 

 

腕に装着したゲーム機のような機械を操作するロード。画面の一部をタップすると、無機質な機械音が鳴り響くと共にヴァルタード達に変化が起きた。

 

攻撃を繰り返していたが、突然悶え苦しみ始める。そうしているとヴァルタード達の身体が崩壊し、粒子のようなものに変換されていく。

 

突然のことに動きを止めるノワールだったが、変化はまだ終わらない。分解されたヴァルタードであった粒子は一つに成ろうと集まり始める。

 

そして、粒子が一つの形を構成した直後に、それは勢いよく降り立った。

 

 

────下半身や腕、頭部などは存在しない四本脚の異形。蜘蛛のような形状であり、胴体と思われる部位は黒い液体のようなものが脈動している、おぞましい姿をした怪物となっていた。

しかし、その大きさは二、三メートル程である。先程まで洞窟内のものを吸い込んでいた怪物の半分近くの大きさしかない。

 

 

「ヴァルタード・ドランプ! さぁ、その女を踏み潰せ!」

 

 

ヴァルタード・ドランプと呼ばれた一際大きな怪物が、一本脚をノワールへと振り下ろす。意図容易く回避するノワールだが、踏みつけと同時に広がった衝撃波を浴びてしまう。

 

 

「────くッ!?」

 

 

思いの外強い衝撃波に、ノワールは仰け反ってしまう。しかし彼女は光の翼を広げ、何とかその場に留まることが出来た。しかし、追撃と言わんばかりに、ヴァルタード・ドランプは踏みつけを繰り返し、衝撃の波動を連発させていく。

 

地団駄を踏みように暴れていくヴァルタード・ドランプ。壁際へと避けていくノワールを追い込みながら、そのままリズム良くステップを繰り返す。それによって発生する衝撃波が洞窟の岩壁を崩壊させる程の破壊を引き起こしていた。

 

ヴァルタード・ドランプが脚を止めた時には、ノワールの姿はなかった。彼女は崩落した岩に巻き込まれたのか、そう確信したロードは近くの怪物────否、『壊獣(ビースト)』と呼び掛ける。

 

 

「終わったな────来い、『ドルーザー』。あの女を分解して、エネルギーを取り込め」

 

 

唸り声を上げながら這いずる怪物『ドルーザー』 は、開いたままの口をより大きく開き、崩壊した岩の山を吸い込み始めた。────その瞬間だった。

 

 

岩石の塊が、内側から吹き飛んだ。突然のことにロードは思わず身構えてしまい、反応が遅れた。目の前の崩落の中から飛び出した人影の存在に。

 

 

 

「─────『ドルーザー』ッ!!」

 

 

振り返り際に叫んだのも間に合わない。常に愚鈍で、今にも積み重なった岩山を吸い込もうとした『壊獣(ビースト)』、その胴体が大きく斬り裂かれる。

 

『ドルーザー』は甲高い咆哮を響かせ、その場に倒れ込んだ。ロードは既にドルーザーに意識を向けず、上空を飛翔するノワールへと視線を向けた。

 

 

「…………貴方に必要なのは、そのモンスターみたいね。何をされるか分からないから、いち早く倒させて貰ったわ」

 

「クソが!────踏み潰せェ!!」

 

「無駄よ」

 

 

怒りに全身を震わせたロードが、ヴァルタード・ドランプへと指示を差し向ける。四脚のモンスターが地面を踏み鳴らそうとするその瞬間、凄まじい速度でノワールはヴァルタードの脚を切断した。

 

 

「な、に────ッ!?」

 

「刮目なさい─────これが、ラステイションの女神の本気よ!」

 

 

ノワールは自身が振るう大剣を勢いよく振り上げ────ヴァルタード・ドランプに一撃を浴びせる。胴体を切り裂かれた黒い四脚のモンスターは硬直し、黒い粒子を撒き散らして消滅した。

 

 

「────クソ!あの雑魚どもが!簡単にやられやがって!」

 

 

呆気なく消滅したヴァルタード達の末路に、ロードは罵倒を吐き捨てる。傲慢そのものとも呼べる男の態度に、流石のノワールも露骨に顔をしかめた。

 

 

「まぁ、いいわ。これで貴方も詰みよ。大人しく捕まるのなら、先に言ってくれる?」

 

「………これで勝ったつもりか?────舐めるなよ女ァ!!」

 

 

憤怒に顔を歪めたロードが腕に装着した装置を突き出す。二つ程突き出た先端部から、黒いビームが放たれる。避けるまでもない、とノワールはブレードで容易く弾き飛ばした。

 

そこで、ノワールは────何故か勝利を確信した笑みを浮かべるロードの顔を見た。明らかな違和感に思考が妨げられた彼女の耳に、小さな音が聞こえてくる。

 

────小石を踏み潰すような音が、真後ろから。

 

 

「!?後ろに────」

 

 

気付いた時には遅かった。

咄嗟に振り返ったノワールの身体に、巨大な腕による打撃が炸裂する。

 

ノワールを攻撃したそれは、暗闇から姿を現す。ドラゴンに近い造形をした異形。四つの裂けた瞳を有したモンスターは小さく唸りながら、ロードの方を見る。

 

当の本人はそのモンスターに興味すら向けない。ロードは壁に叩きつけられて倒れたノワールを見据えながら、張り裂けた笑みを浮かべたまま嘲笑をぶつける。

 

「─────バカが!最初からもう一体居たんだよ間抜け!『『壊獣(ビースト)』を一匹殺した程度で勝ち誇ってんじゃねぇぞ!!」

 

「それが、どうしたっての───ッ!!」

 

 

不意を突かれただけで、まだ負けていない。そう断言しようとノワールは立ち上がろうとする。だが、その瞬間。

 

 

────キィィン!

 

「…………え?」

 

 

光に包まれたノワールは、元の姿に戻っていた。明らかに彼女は戸惑いを見せる。まだ女神として戦えたはずなのに、突然女神化が解かれた。それに、もう一度変身しようとしても、彼女の姿が変わることはなかった。

 

 

「な、なんで…………なんで変身できないのよ………!」

 

 

必死に変身しようとするノワール。何とか立ち上がろうとした彼女だったが、壁に伸ばした手に黒いビームが直撃した。

 

 

「─────ああああっ!!?」

 

「ハハハハハハ!!形勢逆転って、ヤツだなぁ!!ラステイションの女神!!」

 

 

ノワールは苦痛に顔を歪め、ビームが直撃した手を抑える。変身していなくても女神であるからか、重傷ではないが、火傷に近い傷を受けていた。苦しむことしか出来ないノワールを見下ろし、ロードは勝利を確信して笑い声を響かせていた。

 

しかし、ロードはピクリと動きを止める。『ドルーザー』という怪物の呻き声を聞いた彼は、短い嘆息を吐き出し、ドルーザーを蹴り飛ばす。容赦すらせず、死に体の『壊獣(ビースト)』を踏みつけたロードはノワールを尻目に呟く。

 

 

「ふん………折角大量のエネルギーを蓄えた『ドルーザー』を瀕死にしてくれるとは。本当にやってくれるな」

 

不満を口にするロードの顔には、笑みが浮かんでいた。無邪気かつ狂気を滲ませた、純粋な悪意を宿しながら。

 

 

「だが、餞別だ。貴様には特別に面白ものを見せてやる」

 

『ドルーザー!エルガド!─────ディスアセンブル!』

 

装着した機械を操作したロードが、二体のモンスターに向けて機械を突きつける。その瞬間、二体の『壊獣(ビースト)』の身体が崩れ始めた。

 

悶え苦しむ二体のモンスターの身体を構成する粒子が別の方に収束していき、別の形を形成していく。

 

 

『フュージョン・オーバー! エルドルーザー!』

 

 

二体のモンスターを融合させたような巨体の異形、『エルドルーザー』が深く息を吹き出す。竜のような頭部を持ち、四本の剛腕を有したドラゴンとは言い難い怪物。

 

少なくとも、女神化しなくては倒せないような敵だった。ノワールはその間も何度か変身を試みるが、その場から動けない彼女の姿が変わることはない。

 

 

「さて、小娘。そろそろお遊びは終わりだ。貴様に相応しいフィナーレをくれてやる」

 

 

ズン! とエルドルーザーが近付いてくる。焦りと恐怖に顔を滲ませるノワールの心に不安を与えようと、ロードは嘲りを込めた笑みと共に告げた。

 

 

「両手と両足を砕いて…………全身が分解されていく感覚を最後の最後まで味合わせてやる」

 

「────っ!」

 

「まずは右腕だ────盛大に、潰せ!!」

 

 

ロードが命令すると、エルドルーザーが剛腕の一つを振りかざす。目の前に迫る攻撃を前に、恐怖のまま動けずにいたノワールは思わず目を閉じた。

 

 

 

しかし、その瞬間。

『エルドルーザー』の頭部に、光弾が炸裂した。顔を攻撃されたことで攻撃を中断した『エルドルーザー』の腕が振り回され、ノワールを巻き込まんと迫る。だが、一瞬にして割り込んできた影が、その一撃を受け止めた。

 

 

「─────はぁああッ!!」

 

 

攻撃を受け止めた人物────クロスは姿勢を崩し、剛腕の軌道を反らした。勢いよく脚を滑らせた『エルドルーザー』を見据え、彼はノワールを守るように剣と銃を構える。

 

様子を見ようと振り返ったクロスは、変身が解けている様子のノワールに目を剥く。驚きのあまり、疑問を投げ掛けた。

 

 

「ノワールさん!?どうして変身を!」

 

「わ、分からないわ!突然変身が解けて────」

 

 

敵を前に変身しなかったのも、できないからだろう。そう納得したクロスはすぐさま意識を目の前に集中させる。『エルドルーザー』というモンスターは四本の剛腕を振り上げると、此方へと叩きつけてきた。

 

 

「ダメ!貴方は逃げなさい!コイツは私が何とかするから!」

 

「でも、変身できないんじゃないんですか!?それじゃあノワールさんはどうするんですか!」

 

「貴方が気にすることじゃないでしょ!私は女神なんだから、貴方に心配される必要はないの!いいから早く逃げなさい!!」

 

「────嫌だ!」

 

 

強い声で、クロスは断言する。自分に襲いかかる複数の腕の攻撃を回避し、受け止めたり、反撃を繰り返す。そうしながら、彼は必死に叫び続けていた。

 

 

「それって、ノワールさんを見捨てろって言うことですか!?そんなの、絶対に嫌です!俺だけが逃げたりはしません。俺が知る物語の人達は─────そんなことを絶対しなかった!!」

 

 

ふと、エルドルーザーが振り下ろされた腕の一振が掠った。鋭利な爪の先が頭の皮を引き裂いたらしく、額に一筋の血が伝う。それでも、彼は諦めない。

 

仰け反ることなく、逆に前へと踏み込んでいく。その姿を見ながら、ノワールは否定するように叫ぶことしか出来なかった。

 

 

「物語って、いい加減にしなさい!そんな都合の良いことなんて無いんだから!貴方一人で何とか出来るような状況でも、相手でもないのよ!?」

 

「────都合が良くって良い!最悪な未来じゃなければ、悲しむようなものじゃなければ、理想論とも言われても構わない!」

 

 

強い一撃に、大きく仰け反るクロス。しかし、彼は止まらない。両手に握る長剣と銃を用いて必死に戦う。真後ろにいるノワールを護り通す、という強い意思を抱きながら。

 

 

「誰だろうと見捨てたり、諦めたりしない! 俺は、皆を幸せにするためにここにいるんだ!!それは、ノワールさんも同じだ!!」

 

「…………ッ」

 

「皆を、あまねく全てを救ってみせる!絶望から、悲劇から、破滅から!皆を、この世界の皆を!!」

 

 

────往け、勇者。輝かしき未来と希望の為に。

 

 

「────俺はクロス!世界を、全てを救う勇者に成る男だ!!」

 

 

瞬間、クロスは剣を身構えて、放たれた黒いビームを防御した。しかし、不意の攻撃だったこともあり、バランスを崩したクロスに、再び弾光が炸裂する。

 

 

「破滅から、皆を救うだぁ?」

 

 

攻撃を行ったロードの顔から笑みが消えていた。心底不快と言わんばかりに、クロスに侮蔑を向けたロードは途端に苛立たしそうに舌打ちを噛み殺す。

 

 

「こっちはテメーらの絶望して苦しむ様が見たいんだよ。そんな安い感動モノなんてハナから望んでねぇし、気分が悪くなんだよ!このボケが!!」

 

 

黒いビームを撃ち続けるロードに、クロスは何とか防御を繰り返す。しかし、意識が向きすぎた。腕を振り上げていた『エルドルーザー』に気付くのが遅れ、振り回してきた剛腕を回避しきれなかった。

 

 

「────がッ!?」

 

 

バキバキッ! 骨の何本かが砕けたようだった。吹き飛ばされ、転がったクロスは必死に立ち上がろうとする。ノワールを守ろうとする彼の意思は、決して揺るいではいない。

 

 

ロードにとって、それは不愉快極まりなかった。その心をへし折るという感情よりも先に、目の前から消してしまおうという衝動が勝つ。

 

破滅を否定する者への純粋な敵意か、或いは彼への根源的な不理解からか。そんなものはどうでもよかった。

 

 

「エルドルーザー!そのガキを殺すな!徹底的に痛めつけろ!ぶち殺す寸前まで、半殺せッ!!」

 

『ガァァァァァアアアアアアアッッ!!!!』

 

 

ロードの命令に、エルドルーザーは咆哮を轟かせ、勢いよく動き出した。立ち上がろうとした青年への追撃と言わんばかりに、今まで以上の力を込めた一撃を叩き込もうとする。

 

 

 

「─────クロス!!」

 

 

咄嗟にノワールが叫ぶ。彼はその言葉に思わずといったように顔を向けると─────心配するな、と言わんばかりに笑ってみせた。

 

 

直後、エルドルーザーの渾身の一撃が直撃する。聞いたこともない破砕音と激痛を前に、クロスの意識が大きく揺らぐ。ぶれていく視界の中で、彼の意識は一瞬にして暗転した。

 

 

───雫が、水面へと落ちる音と共に。

 

 

 

◇◆◇

 

 

目覚めた時、クロスは不思議な場所にいた。崩壊した城の広間。破壊の痕跡が旧いものでありながら、城の内装や柱などに埃すらない。矛盾に満ちた空間の中で、彼は口を開こうとする。

 

 

────ここは?

 

しかし、言葉が出なかった。声を発することが出来ないのだ、と理解した彼は唐突に振り返った。背後に、何者かの気配を感じたのだ。

 

崩壊した城に打ち込まれたような複数の柱。その柱の上に、人影があった。

 

 

「────力とは、剣である」

 

 

カァン!! と、金属音が反響する。

人影の正体は、騎士と思われる全身鎧の男だった。国の騎士としても、上の立場にいたと思われる装飾と雰囲気の騎士は、両手剣を床に叩きつけたまま、厳かな声で言葉を紡いでいた。

 

 

「剣とは、ただの武器に在らず。理不尽や不条理を切り裂く矛であり、あらゆる困難を踏破する意思である。我は剣を極め、剣の高みへと至った。────理不尽に耐えることしか出来ぬ弱者の為に、力に固執し他者に不条理を与える強者を打ち倒す為に」

 

 

再び、騎士は反響音を鳴らした。叩きつけた両手剣から火花が舞う中、騎士はクロスをただ見つめていた。その視線は鋭く強靭なものでありながらも、僅かな慈悲と憐れみを有していた。

 

 

「汝に告げる。貴様はあらゆる絶望に屈することなく、自らの意思で立つか。仲間を護り、敵を打ち倒す力を、求めるか。……………ならば止めはせぬ、好きに使うがいい」

 

騎士が両手剣を片手で持ち上げ、身構える。

斬りかかる姿勢であると理解したクロスに目掛け、騎士が斬撃を飛ばしてきた。咄嗟に避けようとするが、身体が言うことを聞かない。

 

斬撃が彼の身体に炸裂────せず、浸透していった。戸惑いを隠せなかったクロスだが、騎士の男の声だけが響き渡る。

 

 

「だが、力は剣であり、剣は力である。剣は単なる武器ではなくとも、扱い方に違いはない。力を扱いこなすのは、貴様自身の意思だ。己が刃の重みを、しかと心に刻め」

 

 

そして、彼の意識は再び暗闇へと落ちていった。

 

 

◇◆◇

 

 

「………もう死んだか?存外、弱いもんだな」

 

エルドルーザーの攻撃が直撃し、意識を失ったクロスを尻目にロードは小馬鹿にしていた。彼のことを見ていたノワールは、悔しそうに唇を噛むことしか出来ない。

 

 

「────私の、せいで………」

 

 

そう呟いたノワールはもう一度彼を見た瞬間、「…………え?」と口走る。思わず言葉を失い、呆然とする少女へと意識を移したロードが、嘲りと共に呼び掛けた。

 

 

「さぁ、テメーのせいで一人死んだぞ?ラステイションの女神ぃ? どうした、顔を見せろよ?絶望に満ちたその顔をぉ、俺に早く見せ──────あ?」

 

 

そこで彼も、ノワールが何を見ていたのかに気付いた。つまらなさそうに首を傾けたロードは、直後に思考が硬直する。

 

 

倒れていたはずのクロスが、立ち上がっていた。全身の骨は砕かれて、即死と言っても過言ではなかったはず。なのに、どうして立ち上がれるのか。

 

 

「まだ、生きてやがったか。ホントにしぶとい野郎だな。今度こそ、確実にブチ殺してやるよ」

 

「─────ス」

 

「あぁ?聞こえねぇな、今何か言った─────」

 

「『アクセス』」

 

 

その言葉と共に、彼の全身から凄まじいエネルギーが噴き出した。エネルギーの奔流が引き起こす嵐に、ノワールもロードすらも気圧されていた。そんな最中、彼の身体が突如輝き始める。

 

輝きと共に、彼の身体に無数の黒い光のラインが伝わっていく。黒い光が亀裂のようにひび割れ、光が割れるような音が響いてく間に、クロスの身体を白いプロセッサースーツと銀の装甲が覆い始める。

 

光の中で彼の髪も長く伸び始め、黒く染まっていく。背中から浮かぶ光円に、複数の光の剣が装填されていき、輝きが更に増していく。

 

その光景を前に、ノワールは信じられないというように見つめていた。

 

「まさか、女神化?」

 

「─────殺せッ!!」

 

一方で、ロードは即座に命令を下した。危機感によるものか、生理的な拒絶なのか、彼は目の前のものを滅ぼさなければならないと確信をもって理解したのだ。

 

エルドルーザーが、四本の腕で一気にクロスへと襲いかかる。輝きの中で姿の変わっていくクロスは軽く腕を上げ、

 

 

─────生成したブレードを以て、エルドルーザーの腕の一つ切断した。

 

 

「ガ、グアアアアアアアアアアアッ!!!」

 

「────喧しい」

 

 

咆哮を響かせるエルドルーザーが、目の前に移動してきたクロスによって蹴り飛ばされる。勢いよく横転するモンスターの前に、姿を変えたクロスが降り立つ。

 

白いプロセッサースーツに、黒い鎧を纏うその姿。両手に大型のブレードを有した彼の姿は、大きく変化していた。ノワール達しか出来ない、女神化と同じように。

 

 

「無事か?ノワール」

 

「あ、貴方………その力は」

 

「生憎、俺も知りたいくらいだ。…………まぁ、今は好都合だ。お陰で、お前を守れる」

 

 

性格はおろか雰囲気すらも変わっている。ネプテューヌの女神化と類似しているその事実に、ノワールは彼の力も同一なのかと困惑するしかなかった。

 

しかし、彼女の向けていた穏やかな表情が一気に冷たさを帯びる。理由は簡単。エルドルーザーが復活すると共に、周囲に破兵(ヴァルタード)が増殖し始めていた。

 

 

「────ガキが、調子に乗ってんじゃねぇぞ」

 

「………」

 

「いくら姿を変えようと、テメエ一人を殺せねぇ俺じゃねぇんだよ!そんなお荷物を抱えたクセして、この俺に勝てるとでも!?」

 

「……………さっきから口だけは回るな、三下。あまり勢いよく吼えるな、耳障りなだけだ」

 

 

ブチッ!! と、ロードが沸点が限界を超えた。殺せ、という怒声と共に、破兵(ヴァルタード)達がクロスの方へと一斉に突撃していく。はぁ、と嘆息したクロスはノワールを抱き寄せた。

 

 

「きゃっ!? ちょ、ちょっと!」

 

「離れるなよ────少し片付ける」

 

 

抵抗しようとしたノワールに一言告げると、クロスは握った剣を軽く振るう。それだけで、目の前にいたヴァルタード数体が両断される。しかし、その影に隠れていたヴァルタードがクロスに攻撃しようとして───────死角から迫った剣によって、切り裂かれた。

 

 

クロスとノワールを囲むヴァルタード達は、一向に近付けない。彼の周囲を回転するように舞う剣によって意図も容易く切り裂かれるからだ。それだけで、周囲にいたヴァルタード達の殆どが消滅することになった。

 

 

「────この程度か」

 

 

そう吐き捨てたクロスは、操っていたであろう剣を自分の前へと重ねる。直後に、エルドルーザーの拳が交差した複数の剣によって防がれた。宙を舞う複数の剣は防御を解くと、エルドルーザーの顔へと突撃する。

 

飛来する剣の猛攻に、エルドルーザーが大きく仰け反る。後退したエルドルーザーの脚に、地面から生えてきた剣が突き刺さった。咆哮を轟かせるモンスターを冷徹に見つめるクロスに、ノワールが悲鳴のように声を上げた。

 

 

彼の背を狙うように飛びかかったヴァルタード。しかし、クロスは気付いていながらも手を出すことはなかった。ヴァルタードは好機と見たらしく、両腕の刃を振りかざした。だが、

 

 

「どぉっせぇいいいいいっ!!!」

 

 

突如現れたネプテューヌによって、クロスを狙っていたヴァルタードは蹴り飛ばされた。

 

 

「やっほーい!クロスが先行っちゃったから後追い掛けてたら、変なモンスターが沢山いて苦労したんだよねー。………あれ?クロスいなくない?」

 

「────あそこにいる彼が、クロスよ」

 

「えぇ!?マジィ!?……………あれ、ノワール?何で変身解けてるの?」

 

「私にも分からないけど────ネプテューヌ!!」

 

 

ノワールの呼び声に、ネプテューヌは迫ってきた黒いビームを刀剣で弾き飛ばした。射撃を行ったロードは、不機嫌そうに顔を歪める。

 

 

「………チッ!どいつもこいつも………ッ!!エルドルーザー!エネルギーなんざ関係ない、全員ブチ殺せ!!」

 

 

ロードの指示により、再起したエルドルーザーが今まで以上の敵意を見せる。最大限の本気で迫ってくると確信した全員。剣を軽く構えるクロス、そしてネプテューヌは刀剣を振るい、ノワールへと語りかけた。

 

 

「ノワール!変身ってのは、こういう時に使うんだよ!─────さぁ!刮目せよ!!」

 

光に包まれたネプテューヌの姿が、女神 パープルハートのものへと変わる。彼女は落ち着いた雰囲気を漂わせながら、ロードの方へと剣先を突き付ける。

 

 

「女神の力、見せてあげるわ!」

 

「────ほざけッ!!」

 

 

ロードが腕に装着した装置から、黒いビームを乱射する。しかしネプテューヌはそれらの攻撃を容易く切り払っていく。しかし、一瞬。彼女の背後で粒子が舞った。

 

 

「ったく、かっこつけてんじゃないわよ!」

 

 

ネプテューヌの背後を狙おうとしていたヴァルタード達が、ノワールの手によって切り伏せられていた。女神化できずとも彼女たちは普通よりかはだいぶ強い、少なくとも雑兵が束になろうと圧倒できるほどに。

 

ノワールを見たネプテューヌは薄く笑みを浮かべる。

 

 

「助かったわ。こっちは任せて────二人で何とかするから」

 

 

二人は、互いの目を見合うだけで充分だった。空中に浮かぶ紋様を足場として、一気に距離を縮めるネプテューヌ。クロスは左右のブレードを繋げ、一本の大型ブレードへと変形させると、水平に構えながら腰を深く落とす。

 

一太刀を浴びせるネプテューヌ、彼女は一撃を終えた直後に、エルドルーザーの上空へと飛び立つ。大型ブレードにエネルギーを収束させ、膨大な光の刃を顕現させたクロスは勢いよく、エルドルーザーの懐へと踏み込んでいく。

 

 

「クロスコンビネーション!!」

 

「レイザー・ブレイド!!」

 

 

十字を刻む斬撃と、光を帯びた大剣が、エルドルーザーを完全に仕留めた。二体の『壊獣(ビースト)』の力を有した怪物は硬直し、膨大な量の黒い粒子を放出させ、爆散した。

 

 

「─────ば、馬鹿な。俺の作った、『壊獣(ビースト)』が。…………こんな、こんなことがあってたまるか………ッ!!」

 

エルドルーザーを倒れたことで圧倒的に不利に立たされたロードの顔が憤怒に染まっていた。ビキビキ、と額の血管を浮かび上がらせる程の怒りを見せたロードは、クロス達を指差して、吐き捨てた。

 

 

「貴様ら覚えていろ!俺は、この屈辱を絶対に忘れねぇ!!いつか必ず、貴様らは俺の手で絶望の闇に沈めてやる!!」

 

『テレポート』

 

 

装置を操作した直後、彼の姿は光に包まれた後に消え去った。ようやく戦いが終わった。そう思ったネプテューヌがクロスとノワールに声をかけようとした、その瞬間。

 

 

「─────っ」

 

「ちょ、ちょっとクロス!?」

 

 

ふらついたクロスの姿が元に戻る。そのまま意識を失い倒れ込むクロスを、ノワールが何とか受け止める。一つの闘いは、大きな不安を残す形で幕を下ろした。

 

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