「……ふぅ」
傭兵支援システムオールマインドの管轄する格納庫に機体を納めると大量のメールがオールマインドから送られてくる。だがそれを無視して機体ハッチを解放する。
《認証は通ったようだな。「レイヴン」それがルビコンにおけるお前の身分となる。早速だが仕事を取ってきた。確認しろ621》
機体と情報を共有しているタブレットを操作しながらヘルメットを脱ぎ取ると短く切り揃えられた白髪が揺れる。仕事の中にグリッド135の掃討任務を見つける。着地地点で大方の地形も把握しているためこれを選ぶ。
《分かった。出撃は3時間後だ、それまで待機していろ》
ウォルターの言葉に静かに頷くと機体外に出る。やはり体感の重力はあまり元いた星と大差ないようだ。施設もコンパクトで格納庫を中心に通路が繋がっている。
おそらく、前任者が使っていた部屋もあったが何もなくまるで死ぬのが分かっていたような印象を受ける。
オールマインドのシステムを通して食事も提供されるようで栄養しかないレーションと水を無言で摂取する。
おおまかの設備を見て回ったが一時間ほどで終わり機体へと戻ってくる。
機体パーツは無かったが武器は最低限取り揃えられており前任者が使っていたと言うのが分かる。
のこり二時間をどう過ごすかと考えるまもなくレイヴンはコックピットに座り、眠り始めるのだった。
ーー
「ベットで寝ればいいものを…」
大気圏突入からの激しい戦闘に疲れているだろうに彼女は機体のコックピットで腕を組みながら眠り始めたのをコックピットカメラ越しに確認する。
とうやら彼女は感情の起伏の低下に加えて、欲求もだいぶ抑えられているようだ。
要観察と記録に打ち込み、ウォルターも少しだけ休憩をとることにした。
ー
その後、グリッド135掃射作戦、移動型砲台破壊作戦を問題なくこなした621はデータ上でも既にめざましい成長を見せていた。
特に機動力を生かした近接戦闘能力は目を見張るものがありアサルトブースト中の強引な軌道変更など耐G耐性の高さを感じさせる。
「…いけるか?」
そんなささやかな期待がウォルターの中で少しだけ燻った。
ーー
「いいな」
レイヴンは度重なるシミュレーターで各機体特性と自身の相性を協議させ導き出し、注文し届いた自身のACを見て満足そうに呟く。
ふと振り返ればこのルビコンに来てから初めて喜びと言う感情を感じたのかもしれない。
シュナイダー系を中心とした軽装パーツ構成、敵機との距離をどれだけ詰めれるかを主眼においた設計にした。
頭部 EL-TH-10 FIRMEZA
コア NACHTREIHER/40E
腕 EL-TA-10 FIRMEZA
脚 KASUAR/42Z
ブースタ BUERZEL/21D
FCS FC-006 ABBOT
ジェネレーター VP-20C
基本武装
右腕 SG-027 ZIMMERMAN
左腕 HI-32:BU-TT/A
右肩 Vvc-703PM
《新しいパーツは来たようだな621。早速だが仕事だ》
任務はベイラム系列企業、大豊のテスターACの輸送時を狙った破壊作戦。
《今まではMTの相手ばかりだったが今度の相手は試供サンプルとはいえACには変わりない。気を引き締めていけ621》
「了解、ハンドラー」
眼下に広がる水没した施設郡、その中に輸送機と共に待機している目標ACを確認した。敵はまだこちらに気づいていない、機体を飛び立たせてアサルトブーストで一気に加速、接近する。
ーー
「れ、レーダーに反応?」
テスターACの運搬のために待機していた訓練兵はレーダーに映る物体に驚き、反応が遅れた。飛来してきたミサイルは背後の輸送ヘリに直撃し紫の爆発が発生する。それを避けるために機体を飛び上がらせると悲鳴を挙げる暇もなくヘリが破壊されていく。
「て、敵襲!」
続いて急接近する機影、黒を基調とし所々に赤いペイントが施されている軽量二脚、アサルトブーストでこちらに真っ直ぐ突き進んでくるのに対してパルスブレードを展開しこちらも接近、切り刻むためにブレードを振るうが敵はそれを難なく避けこちらの背後をとる。
「やはり独立傭兵!」
背後から大きな衝撃を感じる。ショットガン着弾による衝撃だが間髪いれずに訓練兵に襲いかかったのはドロップキックによる攻撃、連続した攻撃により機体は制御を失い地面に叩きつけられる。
「ACSの負荷限界!」
地面に激突すると同時にプラズマミサイルが着弾し装甲はボロボロ、つい数秒前までは新品だったなんて考えられない有り様だった。
「あぁ…俺も」
自身に与えられたACを踏みつけながら左腕のパルスブレードを展開する傭兵の軽量二脚を見ながら訓練兵は呟く。
「コールサインが欲しかったなぁ…」
コックピットがパルスブレードに焼かれる瞬間、せめてもの夢を訓練兵は語るのだった。
ー
《敵ACの撃破を確認した。621仕事は終わりだ、帰投しろ》
「了解、ハンドラー」
コアパーツに大穴が開いたACを見つめながらレイヴンは静かに自身の左手を見つめ、握りしめる。表情筋が働いていない顔は変わらないがほんのわずかに目だけ細めると機体を駆り、その場を後にした。
ーー
「……」
相手は年端もいかない訓練兵、やはり気分がよいものでない。最後方と言っても戦場、殺し殺されは仕方ないことだが多少の居心地の悪さを覚えるのは仕方ないだろう。
621は無反応、バイタルデータを見ても普段と変わらない。兵士として傭兵としては正解だが外部からの情報を流しすぎてもそれはそれで問題がある。
機体のパーツ構成や武器選択に向けての行動を見て能動的に動くようになったと思っていたがまだまだのようだ。
しかたない、次の手としてベイラムを通してミシガンに連絡を取るか。
ーー
必要最低限の食事を終え、部屋のベットで眠るレイヴンはまた走馬灯のような夢を見ていた。
ほとんどが殴られている記憶しかない。初めて人を殺したときのことは今でも鮮明に覚えてる。衝動的にではない、計画的に淡々とソイツを殺した…ヤツを…ヤツをヤツを!。
《621、仕事だ》
「……」
《よく眠れたか?》
「いえ」
《また走馬灯を見ていたのか?》
静かに頷く。
《強化によって抑制された感情を無意識的に取り戻そうとしているのだろう。過去を追体験し感情の形成を一からやり直しているのだ》
「……」
《作戦に支障をきたすのなら薬を渡すが》
「いえ、必要ありません。ハンドラー」
《そうか、ベイラム本社の作戦に参加する。ブリーフィングを確認しろ》
《ウォルターから話は聞いているな?では作戦内容を確認する一字一句忘れるな!》
多重ダム破壊作戦そして初の他の者との共同作戦。G4ヴォルタ、G5イグアスは知らないが他人が居ると言うのは少し嫌だと感じた。
ムダに熱いブリーフィングを聞き終えた後、珍しく出撃直前にシャワーを浴びた。感情のうねりと表現すべきだろうか…そんな不愉快さを振り払うために。
ーー
「G13か、名前が増えたな621。レッドガンの流儀を堪能してこい」
「了解、ハンドラー」
ベイラムから指定された地点に向かうとそこには既に待機していた2機のAC、そのコックピットが解放されており、そこからパイロット二人がこちらを睨み付けてくる。
「独立傭兵かよ。野良犬の世話をしろってのか、レッドガンも舐められたもんだ」
「関係ねぇ、俺たちで終わらせればいい」
明らかに武骨そうな感じの二人の話をまるで聞いていないように無反応のレイヴンに二人は面白くなさそうな顔をして機体に乗り込む。
《これよりベイラムグループ専属AC部隊レッドガンによる作戦行動を開始する。突入しろ!役立たずども!》
ミシガンの言葉に動き出す二人だがそれ以上に先にレイヴンがアサルトブーストで一気に加速する。
「なっ!」
解放戦線が反応する前に正面ゲートを突破しパルスブレードで変電施設を破壊すると間髪いれずに次の目標へと向かう。
「あの野良犬、こっちに押し付けやがって!」
「落ち着けよイグアス。手早くやろう」
「糞が!」
正面ゲートを突破した頃には第2目標に展開していた最後の砲台をレイヴンが潰した頃だった。
「ふん、お前のような犬は知らないだろうが。俺たちレッドガンは《壁越え》にアサインされている。この仕事は慣らしだ、終わったら土着どもの要塞を落としにかかるのよ」
《そうか…》
少しでも気晴らしのために煽ってやったが帰ってきたのは心底興味がなさそうな声。なぜか音声にノイズがかなり入り声の特徴が分かり辛いが…。
そんなレイヴンの返事に加えて、ミシガンにも怒鳴られイグアスはさらに頭に血を昇らせる。
さらにこちらが近づけばレイヴンは第3目標へと機体を発進させ残った場所には残骸しか残っていない。
「なんだよアイツはくそが!」
「やるじゃねぇか。ズブの素人って訳でもねぇな」
結局、奴に追い付いたのは三つ目の変電施設が破壊された後だった。
《聞こえるか、強欲な略奪者ども!》
オープン回線で一方的に話しかけてきたのはダムに展開するルビコン解放戦線のACから。
《我々、ルビコニアンが屈することはない。鉄の棺桶で送り返してやる!灰かぶりて我らあり!》
敵のACは残ったMTと共に突撃してくる。流石にレイヴンも戦う様子を見せ、ダムから降りてくる解放戦線を下で待ち受ける。
「ACが混じってやがるぜ」
「MTと大差ねぇ。時代遅れのゴミだ!」
流れ的に3機で相手をしようとイグアスとヴォルタが動き出し、解放戦線のACたちが地面に降り立った瞬間。レイヴンは上空へと飛び立ち最終目標へと一気に飛翔する。
「「「なっ!?」」」
既にこのタイミングでレイヴンを追える者は居らず、配置されていた少数の護衛は瞬殺されダムの管理施設は破壊されるのだった。
またヴォルタとイグアスは降りてきた解放戦線の相手をしなければならなくなる。
「略奪者どもめぇ!」
次々とやられていく同胞、まずは数を減らすためにデカブツであるヴォルタに銃口を向けるインデックス・ダナンだったが頭に血が登っていたせいで背後からの接近警報に対する反応が遅れた。
「な……」
レイヴンのプラズマブレードによって真っ二つになったダナンのACはそのまま爆発するのだった。
ーー
「てめぇ!」
「落ち着けよイグアス」
「るせぇ!好き買ってやりやがって!面見せろや!」
ヴォルタの制止を振り切ってレイヴンの機体に怒鳴り付けるイグアスの言葉に答えるようにハッチが開く。
「あぁ?!」
姿を表したのは作り物のような整った顔立ちの白髪の女性。肌も陶器のように白く、文句なしの美人だった。
まさかそんな人物が出てくるとは思わなかったイグアスは出鼻を挫かれるがそれでも怒りは収まらない。
「てめ、この、野良犬がぁ!おん、牝だからって何でも許される訳じゃねぇぞ!」
「……」
イグアスの狼狽っぷりに思わず笑うヴォルタ。
「良い体してんじゃねぇか。中々の上玉だ」
双方を観察しながら呟くヴォルタはレイヴンの迎えが来たことをレーダーで確認した。
「逃げんじゃねぇぞ!」
迎えに来たヘリに機体を積むためにコックピットに戻ろうとするレイヴンを怒鳴ると彼女はイグアスに向けての指を指し。
「…雑魚」
「!!!!!!」
レイヴンのとんでもない言葉にイグアスは声にならない怒りを持つのだった。