もしも女神像に呼ばれてアイルー達がウマ娘世界に現れたなら   作:葉隠 紅葉

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第1話

未確認生物というものを知っているだろうか。

 

イエティ

ツチノコ

スカイフィッシュ

 

 この世には実に多くの謎に満ちた生物がいるらしい。だが少なくとも、パンダやゴリラですら元は現地民しか知らぬUMAであったというのだ。謎に満ちた不思議生物が突如現れたとしてもそれはおかしな事ではないのだろう。

 

 幼少期には皆、多かれ少なかれこれらの生物の謎にひかれ興味や関心を抱くものだ。それはウマ娘である彼女、シンボリルドルフにとっても例外ではなかった。彼女とて幼少の頃はテレビや本を通して空想の世界や未知の生物という物に想いを馳せた事もある。

 

 だがそんなものはテレビや雑誌の中でのみ語られるものだ。一般人にとっては縁遠いものであるだろうし、間違っても現実でホイホイ見かけていいものでもないだろう。

 

 だからこそ彼女は目の前の光景を受け入れる事が出来なかった。時は平日、穏やかな初夏の陽気に満ちたのどかな午後であった。

 

 彼女の手には最近発売されたばかりだという新作和菓子、プラスチックカップに幾つか包まれたお団子があった。どうやら公園のベンチで甘味を味わおうとしていたらしい。彼女はレジ袋を片手に呆然と、自身の目の前を歩いていくその生物を見つめた。

 

 

それは一匹の猫であった。

 

 

 ロシアンブルーという品種だろうか。それは実に美しい色の毛並みをした可愛らしい猫であった。街中で見かけたらつい視線で追いかけてしまいたくなる、そんな微笑ましい猫であった。その猫が普通に四足歩行であれば、だが。つまり何が言いたいかというと…

 

猫が歩いているのだ。

 

 それも二本の脚で器用に立って歩いているのである。しっかりと大地を踏みしめて、背筋をピンと伸ばして周囲をきょろきょろと見回しているのである。

 

 大きさもまたでかい。目測で90cm近くはあるのではなかろうか。通常の猫の数倍はあるだろうその背丈。シンボリルドルフは自身のまぶたをこすってみる。だが目の前の光景は消えてくれるはず等なかった。むしろ件の猫はこちらを見て興味深げに近寄ってくるではないか。

 

 そっと心中で凝固する。あぁ明らかに普通の猫より巨大すぎる。まるで幼稚園児のような背丈につぶらな瞳、ぴんとたった猫耳が彼女の視界でゆらりと揺れる。

 

 その猫は彼女の前まで歩いてやってきた。ベンチに座っている彼女のふとももに両手をつきすんすんとこちらの匂いを嗅いでくる猫。どうやらこの不思議生物は甘味に興味があるらしい、彼女は恐る恐る問いかけた。

 

 

「た…食べるかい?」

 

 自分は何を言ってるのだろうか。シンボリルドルフ自身、なぜそんな言葉が口から出たのかよく分からない。言葉が通じるとも思えぬその彼(彼女?)はすんすんと鼻を動かしながらじっとこちらを見上げてくる。

 

 そのままその猫は器用に彼女のふとももにペタンとお座りをし始めたではないか。背中をこちらの胸元に預けて、両足をだらんと垂れ伸ばす。

 

 その猫の体温を自身の身体で感じる。猫のふんわりとした毛並みに隠された暖かな感覚は、まるで子供のように確かな熱を持っていた。

 

 彼女はそっと、レジ袋からお団子を取り出す。そのままプラスチックのフォークを団子に突き刺すとそのままその猫の鼻先へと持って行った。大丈夫だ、この団子には猫に有害な成分は入っていなかった筈。最もこの猫を本当に「猫」というカテゴリに分類しても良いのかは不明だが。

 

 通常の猫よりも何倍も大きなその猫は、その澄んだ瞳でこちらをじっと見上げてくる。そのままその猫は、差し出された団子をぺろぺろと舐め始めた。

 

 恐る恐るといった様子で舌を伸ばす。そして、そのままその小さな口でパクリと1つの団子を咥えるとその表情を輝かせた。

 

 目をまん丸に見開くと、そのまま取りつかれたように舌を動かす。その間もその猫の巨大な尻尾がシンボリルドルフの顔やら首元やらをせわしなく動く物だからくすぐったくて仕方ない。

 

 まるで未知の文明に初めて遭遇したと言わんばかりのその表情。そんな巨大猫の様子を視ながら、彼女はよく分からぬ感動で打ち震えていた。

 

「おぉ…」

 

か、

可愛い!

 

 これが俗にいう萌えという感情なのかもしれない。座っているといってもまるで幼児のようにぺたんとお尻を地面(この場合は彼女のふとももにあたるが)にくっつけているのだ。しかも尻尾がゆらゆらと感情を表現するかのように彼女の身体をくすぐっていく。それがまた堪らぬ感触なのだ。

 

 肌触りの良いその毛並みはさぞ撫で心地が良いのだろう。抱きしめたくなる感情をそっと押し留めて身体を固定させる。

 

 一方のアイルー、彼もまた感動をしていた。それまで奥深い森丘地帯に住んでいた若き彼にとって人間とは初めて接する生き物であり、ましてや甘味など産まれてこの方食べたこともなかったのだ。

 

 人間という生き物は自分勝手なやつらが多いと、実際に会った事のある村の仲間達は言っていたが、隣に座るこの人間というやつは存外に親切な生き物なのかもしれない。

 

 よく分からぬ女神の声に誘われて見知らぬ光の扉からやってきたかいがあるというものだ。彼は美味しそうに甘味を食べ尽くしていく。彼女はそんな様子を間近でそっと見続けた。

 

 

アイルー

 

 それは獣人種。食雑目アイルー科に属する歴とした知的生命体である。原始的ながらも知性と手先の器用さに秀でた穏やかな種族である。

 

 遠い女神像の呼び声に応じた先に待っていたのは彼等にとって未知の世界。これは不思議な猫獣人族がやってきたことで少しだけ本来の世界とは異なるお話をたどるウマ娘達の物語である。

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