もしも女神像に呼ばれてアイルー達がウマ娘世界に現れたなら   作:葉隠 紅葉

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第12話

 最近開店された施設がある。それはアイルー茶屋という名称の喫茶店であった。そこは和菓子…中でもだんごを中心とした甘味を提供する茶屋である。

 

 店内は和装であり、まるで戦国時代を彷彿とさせるような内装であった。イグサの心地良い香りがする畳の上で脚を伸ばすのはやはり格別の心地良さがある。ふと視線を向けるとそこにはレプリカの囲炉裏があしらわれており、LEDの模擬火が店内を暖かく彩っていた。

 

 疑似LED照明なのは安全性を考慮した結果なのだろうか。アロマランプから漂う桜の香りがまた気持ち良い。和と洋、古と新が混ざったその空間はおしゃれでありながらも風情のある独特の空間を演出していた。

 

 魅力的だが至って普通の喫茶店である。だが実際に、他に違う点があるとすればそれはアイルー達がスタッフとして働いているという事だろう。どうやら手先が器用なアイルー達は和菓子作りにもその才能を大いに発揮しているらしい。

 

 近頃、中々に評判となっているようだ。かくいう彼女、タマモクロスもまた味の魅力に惹かれて最近通い始めたのだ。彼女は差し出された緑茶を呑みながら手をあげて注文を行う。

 

「すんませーん。こっちにうさ団子5本ー」

 

「はーい!ただいまー!」

 

 どうやら注文を受けたのはアルバイトの少女らしい。年齢のほどは自身と同じ位だろうか。緑色の着物を着て、独特のエプロンをかけた彼女。注文を受けた彼女は陽気にそのまま厨房へと向かった。

 

 厨房の中では二匹のアイルーが忙しそうに何事かの作業を行っていた。餅を手でこねたり、食器を洗ったりと実に忙しそうに、されど楽しそうに作業を行っている。

 

 ふと店の軒先へ視線を向ける。するとそこでは別の2匹のアイルーが器用にもちをついているではないか。小型の臼の中にたっぷりとつまった白いお餅。その餅を黒アイルーが杵を持ってぺったんぺったんとついている。なんとも楽し気で愛らしい光景である。

 

 

「随分と器用やなぁ」

 

 可愛らしい様子に店内にいる若い少女達は黄色い声をあげながら、スマホを片手に写真を撮っている。タマモクロス自身もアイルー達を愛らしいとは思っているのだが…果たして皆が騒ぐ程の物なのだろうか。もっぱらアイルーの可愛らしさよりも味が目当てで通っている彼女。

 

 そう思いながら茶をすすりつつも店内を見渡す。最近ティーンズ向けの雑誌で紹介されたからだろうか、店内には既に何人もの客でにぎわっていた。この施設もまた一般開放されており、料金さえ払えば一般人でも利用可能であるらしい。

 

 店員が団子を片手に店内を歩いている。顔には笑みを携えて、陽気に仕事を行う様にこちらもまた朗らかな笑みを浮かべてしまう。その女店員は鼻歌をうたいながら客が食べ終わった団子の皿を片付けていた。

 

「お空にきらめくお星さま~♪きらりと輝く流れ星~♪」

 

「なんや上機嫌やなぁ」

 

「あっ分かります?なんかいつの間にか覚えちゃって」

 

「ふーんなんか耳に残る心地やね」

 

「そうなんですよぉ、ミー君達に日本語風の歌詞も教えてもらったんですよ」

 

「ミー君?あぁあの子らの名前か」

 

「そうですよー。お団子はもうちょっとで出来ますから待っててくださいねー」

 

少女の口ずさむ歌

 

そしてそれに合わせて謡いだす二匹のアイルー。

 

 歌いながらもしっかりと作業を行っている。アイルーたちがこねてまるめたお餅に胡麻を添え、さっさと串をさしてあっという間に完成させていくのだ。まさに職人の技である。

 

 おぉ~うまい。思わず拍手をするタマモクロス。店内にいた幾人かの客達もまた賞賛するように拍手をして彼らを褒め称えた。一種のパフォーマンスであるらしい。女店員は胸を誇らしげに張りながら、朗らかな笑みを浮かべた。

 

「えへへ、そのうちに串でも投げながらお団子を刺したいなって思ってるんです」

 

「いや流石に串投げたら危ないやろ…まぁええわ。どれどれ」

 

「お味はどうですか?」

 

「むぐむぐぅ…うん、美味いわ」

 

「よかったぁ。お茶のお代わりもあるのでごゆっくりどうぞー」

 

 そういって離れていく店員を尻目にタマモクロスは黙々と団子に向かいあう。あぁもっちりとした歯ごたえが舌の上で心地よく踊りだす。時間を掛けて丁寧に、良く練られたあんこの甘味もまた上等であった。

 

 上質なあんこがもたらす甘味は品の良い味をもたらす。そして甘味を十分に堪能した後にぐいっと一気に飲み干す緑茶のなんと甘美な事か。

 

 うむ、うまい。トレーニングで疲労した身体に染みわたる心地の良さである。出来れば今度自身のトレーナーである小宮山も連れてくるべきかもしれない。もぐもぐと口を動かしながら団子の美味を堪能していると、背後から一人のウマ娘が近づいてくるのであった。

 

「む…タマモクロス…!?」

 

「うん、なんやナリタブライアンか」

 

「…知ってるのか」

 

「そりゃまぁ…せっかく来たんやし隣にでも座ったら?」

 

「い、いや私は…」

 

「なんやウチの隣は座られへんってか?」

 

「…失礼する」

 

 そういってタマモクロスの隣に腰掛けるナリタブライアン。生憎と店内は盛況ぶりである、一人客でテーブルを独占するのも店に悪いと思っていたタマモクロスは少々強引に彼女に席をすすめた。

 

 金色の瞳に、美しい黒髪をポニーテールに結んだ彼女。シャドーロールの怪物とまで呼ばれる彼女は、決してなれ合いを好まないクールな態度が特徴的なウマ娘である。タマモクロスの記憶の中でも、彼女は孤高で冷徹な印象が強かった。

 

 だがそんなナリタブライアンの様子がどうにもおかしかった。

 

 なんだか妙にそわそわしているのだ。尻尾を左右にふりまいて、そわそわと身じろぎをするその妙な様子。思わずタマモクロスは緑茶をすすりながら、首をかしげた。

 

「なぁ、なんや調子でも悪いんか?」

 

「な、なんでもにゃい」

 

「今なんて?」

 

「何でも無いと言っているだろ!」

 

 そういって再びそわそわとする彼女。彼女の頬は、なぜだか少し紅潮している。尻尾はゆるゆると左右に振られながら、時折ピンと逆立つのだ。どうにもおかしい。

 

 彼女をそっと伺い観察をする。するとどうやら彼女の視線の先がとある者に向かっている事をタマモクロスは発見した。

 

(視線がアイルーに向かっている?)

 

 アイルー達の尻尾が揺れ動く、そんな様子を見てブライアンもまた更に自身の尻尾を揺らしているのだ。時折熱いため息のような物をつきながら、チラチラと視線の先でアイルーを追いかけている彼女。

 

 まるで恋する少女のようなその顔。彼女は顔を紅く染め上げながら、ぶらぶらと尻尾を更にくゆらせる。もうすっかり中身が空になったコップを傾けながら、アイルー達を熱いまなざしで見つめ続けているのだ。そんな彼女がぽつりと独り言をつぶやいた。

 

(可愛い…っ!」

 

「うん、今なんか言ったか?」

 

「べ、別になにも?」

 

「アイルー達が気になるんか?写真でも撮りたいんやったら…」

 

「撮りたいくない」

 

「いやだからなんて?」

 

「私はウマ娘だぞ!マスコミにも大衆にも注目されている。ふんっ…猫獣人にうつつをぬかす暇なんてないな」

 

「そういう割には自分の尻尾ぶんぶんふっとるみたいやけど」

 

「わ、私は…その…うぅ…///」

 

 そういってウマホを片手に凝固するナリタブライアン。チラチラと視線を伺うその様子はまるでアイドルに声をかけられないファンのような趣だ。恋焦がれる乙女のような顔で、それでも声をかけられないで居た彼女。

 

 どうやらアイルー達の事が好きらしい。なんやブライアン、堅物そうな顔して可愛い物好きかい。そういって揶揄い(からかい)たくなるタマモクロスであったが、実際にそれをする程子供でもない。

 

 彼女は大きく手を上げて、女性店員を呼びつけた。よせと声を荒げて言うブライアンの言葉を無視しながら女性店員に事情を説明する。すると女性店員は、笑顔でお願いに答えるのであった。

 

「あぁ写真ですね、分かりました!ミー君こっち来てー!」

 

「いやいい!私は別に写真なんて…はうぅっ!?」

 

「はぁい抱っこして下さいねー」

 

「だ、だだ抱っこ!?」

 

「そっちのウマ娘のお姉さんも撮りますー?」

 

「いやええで。ウチのぶんも、ブライアンの写真撮っといたげて」

 

「はーい分かりました」

 

「あっ…やっぱうちも写真撮ろうかな。データも欲しいから後でちょうだいな」

 

「はいはーい!」

 

 そういって少し体格が小さめのアイルーをブライアンへと抱っこさせる女店員。アイルーらしい猫獣人の柔らかさを全身で感じてしまう。

 

 困ってしまったのはブライアンである。彼女は顔を真っ赤に染めて、凝固してしまう。ふとももにのしかかるアイルーの感触に、ドギマギしてしまう。思わず抱きしめたくなるほどの愛らしさに、彼女は口を真一文字に閉めて必死に心臓の鼓動を押し止めようとした。

 

 傍から見ているタマモクロスから見ても、いっそ恥ずかしくなるほどの焦燥っぷりであった。

 

「はわわ…っ!か、可愛…っ!」

 

 顔を真っ赤にしてしまうナリタブライアン。そのまま彼女は震える手で、そっとアイルーを抱きしめる。

 

 彼女の身体にのしかかる猫獣人。ふわふわとした体毛、お日様のような香り。全てが愛おしく可愛らしい。はわわと動揺しながらも、ナリタブライアンはアイルー達が持つその天使のようなルックスに魅入られていた。

 

 まるで大きなぬいぐるみを買って貰った少女のような、愛らしい姿。彼女は恋する乙女のように、表情をやんわりと変える。もじもじとしながらも、きゅっ…と愛おしげにアイルーの身体を抱いた。

 

 もしもこの姿を自身のトレーナーと姉に見られたら、きっと彼女は恥ずかしくて二度と顔向けができないだろう。

 

「はぁいお姉さん。写真撮りますよー3,2,1…」

 

 スマホを傾けて、写真を撮ってくれた女店員。彼女が取ったその写真には顔をこわばらせながらも真っ赤な顔でピースをしているナリタブライアンの姿が映っていた。

 

 後日、この写真をデータとしてぜひ売って欲しいと。ナリタブライアンのトレーナーが土下座して頼み込んできたのは余談である。

 

 




ブライアントレーナー「俺の愛バがこんなにも可愛い!」

ビワハヤヒデ「後でデータを分けて貰っても良いだろうか?」
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