もしも女神像に呼ばれてアイルー達がウマ娘世界に現れたなら 作:葉隠 紅葉
それは突然の出来事であった。駿川たづなはその声を耳にして、自身の耳をぴくりと反応させる。それは自身の敬愛する上司の悲鳴であった。
トレセン学園の廊下に轟く、女性の悲鳴。慌てて廊下を駆け出すたづなの心中は穏やかではなかった。
彼女は急いで秋川理事長が使用していた仮眠室へと向かう。扉のドアノブをひねり、急いで中に入るとそこには…
「たづなぁ!助けてくれ!たづな゛ぁ!?」
扉を開けると、そこには必死の形相で助けを求める秋川やよい、ここトレセン学園の理事長がいた。急いでドアを締めて入室を行いながら、彼女に駆け寄るたづな。
「大丈夫ですか!…あ、あら?」
何やら只ならぬ悲鳴である。もしや泥棒や不審者でも入ったのだろうか。ベッドの上で包まっている彼女へ視線を向けると…なんとそこには猫だらけの空間があった。
ねこ
猫
ネコ
見渡す限りの、何匹もの猫たち。しかも、それがまた何とも巨大な体躯をしていた。町中で見かける猫よりも遙かに巨大なその猫たちは、見る物を圧倒する。
それも一匹ではない。5匹…6匹…いやもっと多い。見渡す限りでも大小様々、色とりどりの猫達がそこにはいた。彼女はそっと呼吸を整えながら、自身の上司に対して声をかけた。
「あ、あの…不審者は?」
「ニャウニャ~♪」
「あら、可愛いらしい猫さんですね」
「ベッドに!ベッドになんかいる!?いいから助けてくれたづな!?」
ベッドの上には布団に包まった理事長がいる。どうやら軽いパニック状態にあるようだ。布団に全身包まって頭から地面に転がり落ちた彼女をそっと抱きかかえて起こしあげたたづな。彼女はそのまま周囲の様子を窺った。
たづなは自身の頬に手を当てながら、おっとりとした声で独り言をつぶやいた。
「迷いネコ…でしょうか」
「驚愕ッ!猫の分類ではないだろ!」
「猫ならいつも連れ歩いているではないですか」
「だからあれは別の生物だ!UMA的なあれだ!」
「あぁウマ娘だけに、お上手です理事長」
「困惑ッ!いつにも増して話が通じてないぞ、たづな!?」
よしよしと一匹の巨大化け猫の頭をなでるたづな。そんな彼女に対して秋川理事長は頭を抱え込んでしまう。どうやら彼女の話を聞いてみると、昼寝の最中に突如身体に重みを感じたとの事。
腹の上にのしかかる、明らかな重み。そのまま飛び起きるように目を覚ましてみると、眼前には化け猫集団が居たという訳である。
「目の前で複数の化け猫が私の顔を覗き込んでいた…あれは心臓に悪い光景だったぞ」
「化け猫だなんて酷いです…至って普通の猫ちゃんじゃないですか」
「どこがだ!今も嬉々として内装を弄って…い、弄ってる!?」
声を荒げて指さす理事長。彼女の視線の先には、件の猫たちが思い思いの行動を取っていた。電飾のスイッチを押したり、目覚まし時計のボタンをポチポチと押していたり。
初めて目にする異界の存在。彼らはその知的好奇心のままに、興味ぶかげに部屋の物をいじくり回していた。そんな行動を取られて堪らないのは彼女達の方である。秋川理事長は引きつった表情を浮かべてそっと後ずさりしていた。
「きょ、驚愕ッ!…彼等には知性があるのか?」
「そのようですね…」
興味深げに、探索を行う彼ら。テレビのリモコンをポチポチと操作する。やがて音量の操作を行う茶猫に対して隣に居た黒猫が指さしたり鳴いたりして意思を伝えている。その猫の指示によりテレビ番組の変更を行うと、彼らは嬉々として画面の変化に見入っていた。
チャンネルの変更、音量の調整。学習しながら恐る恐ると行った様子でザッピングを開始する二人組の猫を見ていると、どうにも彼らには知性という物が存在するらしい事がよく分かった。
めまいがしそうだ。思わずクラリとする頭を押さえながら、彼女はため息をついた。
「ち、知的生命体…宇宙的な生物?いや遺伝子研究による特殊生物…?」
「理事長…しっかりしてください!」
「警察…いやこの場合は役所に電話なのだろうか?」
「それなのですが…実はお知らせしたいことが」
「お知らせとは…?」
「先ほど、女神像からのお告げがありました」
「お告げだとっ!?」
驚愕する秋川理事長、だがそれも無理はないだろう。ウマ娘達においてお告げとはなによりも重大な意味を内包するのだ。
海
王冠
太陽
それぞれが象徴となり、全てのウマ娘達の安寧と幸福を願う存在、それこそが三女神である。ウマ娘達はときおり、天から降り注ぐかの女神達の遺志の元、大きな決断を求められるのだ。
継承の儀と呼ばれ、選ばれたものは秀でた能力やお告げを得る事があるという嘘か真か分からぬ噂まであるのだ。ともあれ、何が言いたいかと言えば、ウマ娘にとって女神の存在はとても重大であるという事である。
「その三女神が言っていたのです。傷ついた者たちがそちらの次元に行く。彼等と共存をしてほしい…と」
「きょ、共存…っ」
「はい、恐らくは…この猫さん達がその『傷ついた者たち』なのではないでしょうか」
真剣な表情で伝えてくるたづな、そんな彼女の言葉に秋川理事長もまた押し黙ってしまう。共存。本当にそんな事が出来るのだろうか。
いや、そもそも一体なぜそんなお告げをしたのだろうかと。困惑する秋川やよいに対して、なおも彼女は告げた。
「衣食住のお世話をしてあげてほしい、とお告げでは仰っていました」
「え、えらく具体的だな」
「あと就職の斡旋をしてあげて欲しいとも」
「就職!?」
「完全週休三日制、住宅補助も完備してあげて、と」
「手厚すぎるぞ!それほんとにお告げで合ってるのか!?」
「にゃぅにゃぅ~」
騒ぐ理事長、そんな彼女の周囲ではアイルー達が思い思いの行動を取ってくつろいでいた。
なんともカオスなその空間、その隣の空間ではまた新たなアイルー達がこの世界に続々と降り立っていて…