え?俺が幻影旅団の4番ですって!?   作:ハンマーしゃぶしゃぶ

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第十話 流星街での蟻退治

流星街に帰ってきたと実感する。

クロロと二人で帰省する時は、お忍びというか、こっそり帰ってばかりだったのだが、今回はぞろぞろと目立つフルメンバーでの帰還であり、なんとお出迎え付きだ。

俺達も出世したものだ。地元じゃヒーローってか。

ふあははは、これはこれで良い気分だな。

ガスマスクつけて、コーホーコーホーいってる流星街人が3人組で俺達を先導してくれる。

 

…。

 

 

あれ?

なんか…このシーン、見覚えが…。

なんだ?俺は…何か大切なことを、やはり忘れている気が…。

 

「状況は?」

 

クロロが3人組に尋ねている。

 

「被害者と殉法者。合わせて、死人は300人を超えとる。爆弾も全く効かないし、対応に苦慮している。……〝死者〟の定義について、議会でも意見が割れておってな」

 

「…どういう意味だ?」

 

そんな会話を続ける3人組とクロロ。

その背を追って進む俺達。

 

あれ……?

 

この会話…。

この風景…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やっぱキメラアント編じゃねーか!!

 

はわわ。

いつの間にかキメラアント編が始まってた。

うわーー、めんどくさい。そんな気配、微塵もなかった――いや、あったな。

多数あったな。

むしろ、どこ見てもそんな気配だった気がするな。

思い返してみると、この前、盗みに入った施設のテレビで、ニュース流れてたしな。

〝人食い獣人現る!〟とかって見出しで。

てっきりゴシップ系ワイドショーの日常的ニュースだと思って、気にも留めなかった。だってこの世界、魔獣とか普通に森にいたりするし。人食い魔獣ぐらい、毎年何十匹かの勢いで駆除されているのだ。

くぅ…やはり、あの時感じた不安とはこれだったのか。俺の杞憂、大正解だな。

……………じゃあ、俺達…これから…ザザンと戦わされるのか?

うわ…。

…。

うーん…でも、まぁ………恐らく何とかなる。

だってフェイタンがやってくれるんでしょ?俺は見てるだけでいいじゃん。

しかも、原作と違って幻影旅団フルメンバーで来てるし。

未だに10番は欠番だけど(ちなみに、以前、シャルナークがゴレイヌさんに声を掛けたが断られた)、ウボォーもパクノダもいるし、クロロだって鎖野郎に何もされてないし…楽勝だな。

フッ…勝ったな。

俺は見てるだけでいい。間違いない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なんでですか!!

なんで俺の目の前にザザンがいるんですか!!!

訴訟するぞ!

訴えるぞ幻影旅団!

なんで入り口で別れた…なんで、こういう時いつも一緒に行かない……なんで、なんで…。

そして何故俺は、あの時、この道を選んでしまったのだ。

この…ザザンへとつながる道を。

 

「…何を黙っているの?ふふ…ひょっとして、私の美しさに見惚れてしまったかしら?」

 

「…」

 

…。

ガチ美人。

マチやシズクとはまた違う…何というか、高飛車なお姉様というタイプ。旅団のお姉様といったらパクノダだが、パクはおっとりしっとりの包容力タイプ。こういう、いかにも女王様気質な悪役令嬢なタイプは、新鮮!そして…今まで出会ったどんな女性より…圧倒的豊満!!

人間では醸し出す事の出来ない、まさに人間離れした凄まじいナイスバディ。

く……屈服はせんぞ。俺にはもう、マチとシズクがいるんだ。だが…おまえの磨き抜かれたその美しさッ!俺は敬意を表するッ!

敬意を評し、素直に頷いてやるッ。

 

「あら?へぇ…そう。無粋な侵入者の割に、結構正直で見る目があるわね。……どう?あなた、かなり強そうだし私のモノにならない?」

 

素直に頷いた俺を見て、ザザンも意外と喜んでいるらしい。

こ、これは……。

もしや、ナンパ?逆ナンという奴か?そんな都市伝説…実在したのか…!

俺は今、逆ナンされているのか?

こんな美人から?

 

…。

 

……蟻でも、蟻でもいい!こんな美人なら!蟻でもいいんだ!

俺の目から感動の涙が溢れる。

ご丁寧に、擬態化鎧の目からも涙が溢れた。イエローテンパランス芸細である。

 

「…へぇ、その涙………ひょっとして、死んでいった同胞の為に泣いているのかしら?」

 

いや、逆ナンの感動故にだが?

しかし、俺の見た目はブサイクな巨漢おばちゃんなわけだが、それでも逆ナンしてくるなんてザザンさんはもしや両刀遣い?ほぉ…いいですね。どっちもいける美女か…ヒソカより断然いい。あんな変態ピエロ両刀遣いより、女王様気質両刀遣いのが断然いい。

ザザンに可愛がられる、マチやシズク…とパクノダ。うーん…。ザザンに百合取られするマチやシズク…パクノダ。へへ…わるかぁねぇぜ…だが、やはりダメだ…。マチとシズクは俺のだし、パクノダはクロロのなんだ。特に、クロロからパクちゃんを盗るなんて絶対に許されないのだ。…想像しただけで………何だかザザンに対する怒りと殺る気がムンムンわいてくるじゃあねーかッ!おいッ!

 

「……私のモノになる気があるなら、私の尻尾を受け入れなさい…うふふふふ。あなたのように、仲間のために涙を流すような奴は、見込みがあるのよ」

 

ジリジリ近づいてくるザザン。

駆除すべき蟻だが…美人レベルは本物だ。

美人が、笑顔で俺に近づいてくるぞ…。

感動ものの光景だが…。

 

「逃げないのね。………うふ、お利口さんだわ。さぁ…審美的転生注射(クイーンショット)を授けてあげる」

 

ビュンッとザザンの尻尾が俺に突き刺さり、俺をメキメキぐちゃぐちゃとキメラアントに…………するわけもない。

ウボォーの渾身の一撃ですら、凌いでみせるイエローテンパランスは、傲慢にまみれた蟻の尻尾如きでは小揺るぎもしない。

 

「な!?」

 

驚いているザザンの顔も美人である。

俺がザザンの驚き美人顔を堪能している間にも、彼女の尻尾が、俺の肉鎧にずぷずぷ沈み込んでいく。

 

「なに!?これは…!!!わ、私の尻尾が!!」

 

『私ノ本質ニ気付ケズ、不用意ニ、コノ私ニ触レルトハナ。モウ、オマエハ…終ワリナノダゾ…私ニ触レタノダカラナ…………。既ニ、勝負ハ()()()()()…!』

 

「ひっ!?カ、カウンター型の、念!!?い、いやぁ!!なに、ヌルヌルが…!ぐぅぅ!こ、この私の美しく高貴な肌を這い回るなぁ!!こんなもの、引き剥がして…!!…っ!!?だ、ダメだ…!私のパワーでも剥がれない!くぅぅ、こ、こんなモノ―――っ!?あ、ぐ!?ふぁ!?あ、ちょ…!ぁ、ぅん!?あっ、そこは…、あぁぁん!」

 

ひゃだ。なにその色気たっぷりなダメージボイス。

いくら俺のイエローテンパランスが、スライムぬるぬる攻撃しているとはいえ、飲み込まれていく最中にその声はイカンでしょーが。

くくくく…しかし、ザザンを飲み込んでいくテンパランスの速度も、なかなか速くなってきたな。

尻尾を千切られては面倒なので、捕食よりも他の部位に素早く這い進むのを優先し、既にザザンの背、太もも、脇腹にまで纏わりついてやった。こうなっては、捕食箇所を千切って脱出も不可能。千切れば、自爆的に致命傷となるからだ。

この形にまでもってくれば、今のザザンでは、カワイソーだが多分打つ手はない。

どのみち、流星街と旅団にとっては、侵略してきたザザン師団の蟻共は、かつての人狩りマフィアと同じく、理解し合い許し合うような必要性はまるでない存在だ。どんな美人だろーが〝敵〟は排除するッ!!

 

「うあっ!!?ぐっ!!く、そおおおおお!!!こ、こいつ!!私はっ、私は、女王なのよ!!!!?こ、こんな、低俗な粘液程度で…!あっ!?が――――っっ!!!」

 

今、彼女の全身を飲み込み終わった。

呼吸がままならなくなるし、全身をよくわからん粘液に覆われて生理的嫌悪感もMAX。徐々に、火傷のような痛みと共に皮膚を食われて、肉を貪られ、穴という穴から内部に侵入されて、内側からも食われていくし…という状況で集中力が乱されて、そうなると念の精度もオーラの安定もガタガタになる。即ち、被食速度も倍増していく。

しかも、物理的にもバンジーガムで出来たオーラ風呂に入っているようなもので、敵性物体は半拘束状態でろくに動けない。この粘液の中、自在に動きたければ…どれだけのパワーが必要か検証した事などないが、最低でもウボォーギン以上の膂力が必要だ。

奥の手の、尻尾千切り(変身)も使えないだろう。

早くもこの勝負はチェックメイトとなったと見ていい。

後は、美女が少しずつドロドロに溶けていって形状崩壊する様を眺めるだけだ。

ふーーーーむ…これでは、どんな性癖の男性でも興奮は出来ないだろーな。まったく勿体ない事だぜ…。

いや、いるな…世の中にはこういうので興奮する真性の奴らがいるんだ。世の中は広い…。

 

「~~~~~~~~!!!!っっっ!!!!!!」

 

ガボガボと何か言っているが、口を開く度に体内に流入するスライムの量も速度も増えるだけだ。

まぁ口を開かずとも、目、鼻、耳、性器、毛穴からも浸透していくわけで、さぞ苦しいと思う。

こうなっては、なるべく早く消化して殺してやるのが慈悲というものだろう。

 

「なんだ、ライブス。まだ殺ってねぇのかよ!手伝ってやろうか?」

 

ウボォーが早速の登場だ。さすが早い。でも、どうせならもう5分程早く来てくれれば、本当に手伝って貰って楽できたのだが。もう詰みの状態で来られてもな。

 

「ふん、どう見ても手伝いなんて必要ないだろ。…それにしても、馬鹿なメス蟻だったね。ライブスに色目使って、頷いたのを本気にしてのこのこ無防備に寄ってくるなんてさ。笑っちゃったよ」

 

あれ、マチも、い、いつのまに。

いつから見てたんですか。

いかん、できたてホヤホヤの彼女に、言い寄られてデヘデヘしていた様を目撃されていたのか…?

あ、危なかった…頷いたのを、ブラフと解釈してくれて…本当に良かった。

浮気、ダメ、絶対。

既に、超極上の女性・マチ&シズクがいるんだから、これ以上俺に女性は必要ない。つーか、これが限界。

 

「あれって…もう見た目ぐちゃぐちゃであれだけど、自称女王だろ?指一本動かしてねぇライブスに完封されてんじゃねーか。弱っ」

 

「テンちゃんが凶悪過ぎなだけよ。触れたら終わりね。ライブスと戦うの、理不尽クソゲ」

 

「オレのダブルマシンガンなんかは、テンパランスとは一番相性悪いかもしれねぇな」

 

「しかも最近、やたらと捕食速度も速ェし咬合力も強くなってて、食いつかれると切り離すしかねーよな」

 

「前に、試しにその方法で逃げて大目玉食らった奴いたねー、確かに」

 

「いや、マチがいたし…試しにちょっとならいいだろーが」

 

「それで念糸縫合やらされる、あたしの苦労はどうなるんだよ。…そういえば、あの時の治療代、三千万ジェニー払ってないね、フィンクス」

 

「………。テメェ、シャル…余計な事言いやがって!

 

「あいたたた!暴力反対!」

 

ぞろぞろとギャラリーが集っていた。

どいつもこいつも無傷か。

トーゼンだろう。本来の運命では、5、6人程度で突入して、別行動で各個撃破していたし、しかもそのうち何名かは戦闘要員じゃなくて情報班だったし。

今は、フルメンバーで来訪したのだから、さぞ呆気ないバトルだったのだろうと想像に容易い。

 

「~~~~っ!!…!!…っ!あ゛………ギ…………ィ……………―――――」

 

最期に一際大きく藻掻いて、ザザンの肉体は己の藻掻きの衝撃に耐えられず、俺の粘液の中で崩壊して消滅した。

細胞も、オーラも食い尽くした。

この殺し方は大変グロテスクではあるのだが、凄まじい利点があるとクロロは常々言う。

なんでも、オーラをも食い尽くして消化してしまうから、死後の念が生まれ得ないのだとか。

あくまでクロロの個人的推察に過ぎないが、あのクロロにそう言われると安心だし、実際に過去には何件かそういう曰く付きの〝死後強まる念〟が宿るヤバ味強々のお宝を、俺のテンパランスで覆って、オーラだけ消化分解してオーラ的にカスカスの、本当にただの骨董品にした事が何回かある。

殺した相手に祟られるなんて真っ平ゴメンだからな。

これで今日も安心して殺せる。殺しは後味良くが一番だ。

 

「…見事だ、ライブス。さて……では、後始末を開始しよう」

 

流星街に流れ込んだ蟻はこれにて全滅した。のんびりと、皆と一緒に観戦していたクロロが終了宣言をする。

あとは、巣の奥からトボトボ歩いてくる、洗脳が解けたキメラアント達だ。

元同胞だった者達であり、現蟻。歪な奴ら。

現蟻の皆は、掠れた声で口々に「殺してくれ」と懇願してくるが、やはりフィンクスがそれを一喝する。「流星街の人間ならば、それらしい気概を見せろ」と。

ものの十分程で、全ての流星街人は〝解放〟されたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

思ったよりあっさりとキメラアント編は終わってしまった。

多分、終わったのだと思う。

なぜなら、クロロとシャルナークの下に鳥さんが飛んできて、「ネテロ会長死んだから、選挙します(意訳)」というメッセージを渡してきたからだ。

…ゴンは、どうなったんだろうか。やはり、本来の運命の波に飲み込まれたのだろうか。確認しようと思えば出来ない事はないだろうが…敢えてする事も無い。ゴンにはゴンの人生があるし、俺達、旅団の力が万が一にも欲しいと思えば、きっとあちらから連絡してくるだろう。

そんなわけで、クロロとシャルナークは、ハンター協会本部の偵察と情報収集がてら、護衛役にフィンクス&フェイタン&パクノダと、5匹の子テンを引き連れて、ハンター協会本部へと旅立っていった。

時折、シャルナークから来るメールによると、ゴンとキルアとばったり会ったらしい。で、元気らしい。

…あれ?ゴンって…ゴンさんになって、その頃大変なんじゃなかったっけ?

 

「カイトってハンターとも会ったんだけど、ライブスに〝文句言いたい〟って言ってたよ。〝人をナンパ師のように言いふらしやがって!〟だって。確かに伝言したからね。あとは、鎖野郎…クラピカも、ゴン達と一緒にいて大変だったんだ。一触即発の空気ってやつ。でもゴン達が仲裁してくれて、つまんない事に何も起きなかった。それに―――」

 

こんな長文メールが来た。

俺の頭はクエスチョンマークの嵐である。

カイト…?死んだはずじゃ…?

いや、ひょっとして転生幼女カイトからの伝言だろうか。

しかしそれにしては…少し違和感がある気もするが。

それに、さらに謎なのは、クラピカが選挙編にいるという事。

あいつは、キメラアントから選挙の時期…仲間の目を集める為に、孤独に奔走していたはずでは?

まるで意味が分からんぞ。

全然、違うじゃないか。クラピカさん、マフィアの仕事はどうしたの?さぼってんの?それともクビになったか…?この調子では、レオリオも蟻編にいたとか…有り得るかもしれないな。

なんでこんな変わってしまったんだ……蟻編なんて、別に俺は何も介入していないのに。

…。

まっ、俺程度が無い知恵捻り出して考えても、答えなんざ解らんし解決できる方法も力もない。よく分からんが……上手くいっているなら、正しい運命に戻さないと!という強迫観念も別に湧いてこない。なんとかなってるなら、それで突っ走ればいい。なんとかなれー!

 

 

 

 

 

なので…クロロ率いる、選挙突撃組は色々イベントをこなしてそうだが、特に本筋と関わる事のない幻影旅団の留守番組は、絶賛暇なのだ。

 

そういう暇な時間は、幻影旅団は各々が好き勝手に過ごすのが常識で、俺はホームに引きこもってゲーム三昧がルーティンとなる。

だが、今回の休みからはいつもと違う。マチとシズクが半同棲状態で一緒にいるのだ。

怒涛の告白からの、クロロ命令からの両手に花からの、蟻退治。そこまで休む暇無しで来たものだから、ダブル美女からの告白後、初めて共に過ごすまったりとした日々…という事になる。

これが…勝ち組という奴か。

フフフ。

ふはっ。

ははは。

タイプの違う美女二人に、普段の生活世話されて、ゲーム三昧…!

まさか、この残酷無惨なハンターワールドで、こんな夢の享楽生活が手に入るとは。

勝ち組…ぐうの音も出ない程に。圧倒的な勝ち組…!両手に花…!勝ち組と言わずになんと言う…!まさに、理想…!

 

 

 

そう思っていた。

だが現実は、そんな甘くはなかったのだ。いや、甘すぎて、逆に俺の胃が壊れそうというか、何だか、クロロにもパクノダにも説明されたのだが…彼女らはかなり前から募らせていた想いがあるのだとか。

そして、今ようやく彼女達は長年の想いを実らせた…という事らしい。

こんな俺なんぞを、一体どうしてそんな長年想い続けられたのか、誠に不思議であるが、他の男に手を出せばよりどりみどりだったろうに、彼女達の男を見る目が凄く心配になってしまうが、とにかく俺としては身に余る光栄なわけだ。

つまりは…彼女達に募りまくったクソデカ感情と共に、年若い健全な女性の欲求があったわけでして…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は干からびていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇシズク、明日はあたしの番だって言ってたよね?なんで当番表、勝手に書き換えてんの?」

 

「昨晩、延長してお楽しみしてたのはマチだよね?〝一夜十回〟……あたし達で決めたそのルール、早速破った人に言われたくないかな」

 

「…へぇ?一昨日…あんたが外出先でライブスに〝七回〟も、こっそりと迫ったの…知ってるんだよ。あたしはそれをお目溢ししてやってたんだけど。そういう事なら、あたしにも考えがある」

 

「…人のデート、尾けてたの?執念深い女って怖いね」

 

「どっちがだい。…糸を付けておいたんだ…糸の振動で大体は解る……激しい情事とか、ね。もしかしたら、陰でルール違反する奴がいるかもって…万が一の保険だったんだけど。………勿論、信じてたけど…どうも信頼を裏切る奴がいたようだ。正解だったみたいだね」

 

「…」ビキッ

 

「…」ビキキッ

 

〝彼女ができれば、バラ色の生活がまっている〟…そんなのは、こじらせ陰キャの幻想。〝公認状態で二人の彼女ができるだなんて、何と幸せなハーレム〟…そんなのは……根暗オタクの幻想。現実問題として、二人のパートナーに対し、様々な面で〝責任〟を負わねばならなくなる!そう…夜の営みの面でも!こんな事、彼女いない歴=年齢だった俺には、重荷ッ!!!

しかも、この凶悪な…突き刺す冷たいオーラの鍔迫り合いに、毎日毎日巻き込まれるだなんて…!

これが…対価…!旅団の大人気美女二人を、どうしようもない俺が得るだなんて、身に過ぎた幸福を得た…罰!

安いもんだ…俺の安寧のゲームタイムと、精力ぐらい……。いや、安いか?今後もずっとこれが続くのなら、決して安くは…………いや、やっぱ安いのか?マチとシズクだぞ…?やはり……この対価は、安い……そうさ、安いのだ。

だが、とにかく…いつまでもこのままではいけない。この二人、コインでの解決策が段々と通じなくなってきている。

マジギレしていないと言いつつ、俺の部屋を半壊させる喧嘩は既に一度や二度ではない!俺は冷や汗をダラダラ流しながら、一体何度、ジョイステを間一髪で守った事か。

なんとかして解決しなくてはならない。

 

そう追い込まれた俺は、イエローテンパランスによって収集したオーラを、俺自身に急速還元し、肉体を爆発的に強化…。これぞ、テンペラータイム!1

くくくく…勘違いしている奴が多いが、イエローテンパランスは単なる鎧じゃない。術師のオーラを爆発的に高める栄養剤(エサ)なのよ…。

ウソです。使い方は紛うことなきメイン盾。メイン防御。寧ろこれ()に命かけてます。

こんなの一時的なドーピング技でしかないし、どちらかと言えばただのジョーク技だ。俺という念使いの性質上、本体である俺の肉体強化なんて大した戦闘力向上にならないし、しかも、これをやると、その後数日は筋肉痛になったりして、シャルのオートモードみたいな副作用があって、実用性はかなり低い。使い所も分からない。

しかし、マチとシズクの喧嘩がピークに達した今、俺はこれを使わざるを得ない!

そして…圧倒的フィジカルとスライムテクニックで、夜の獣となったマチとシズクを返り討ち…!ダブル轟沈を狙う…これしかない!ジョークスキルが活きる時は今だ!

喧嘩の後のメイクラブは、最高に盛りあがるし仲直りできるし夫婦円満の秘訣って、流星街の乳母のばー様も言っていた。

 

 

効果はバツグンだった。

 

 

ありがとう、流星街のばばあ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~~おまけ・兵隊長蟻と戦うウボォー~~

 

(わざわざ分散して、集団の利点を消すなんて馬鹿な連中だよね。見た所、ボキのとこに来たのは、ばきばきの強化系……ボキのペルで捕らえて、操作アンテナ刺して終わりだね)

 

柱の影に隠れ、操作した巨体キメラアントで敵を出迎える蟻。

その蟻は、子供が大好きな特撮作品に出てくる〝地球を守ってくれる巨人の宇宙人〟に似た顔をもった小型の蟻で、容姿に反して本人は非力で、対象を洗脳し操作する念能力者である。

 

「チッ。なんだよ…ハズレか。オレが女王をぶっ殺そうと思ってたのによ」

 

「ギチ……!」

 

巨体の甲殻系蟻が、鎌のような腕を振り上げて真正面から突っ込んだ。

 

「おお?へへ、いいねぇ…シンプルで。真正面から小細工無しか」

 

以前の経験から、しっかりと凝で見たウボォーは、大柄の蟻のオーラが全身に漲り、特に腕に集束しているのをしっかりと見た。隠によって隠されたオーラも無い。

 

「見るからに、テメェの肉体に自信がありますって感じだな。いっちょ勝負しようぜ、虫けら!いくぜェ!!!!」

 

――ドンッ!!

 

という炸裂音と共にウボォーは駆けた。

その瞬発力は、まさに噴火のようだ。

 

(な!!?爆発した!!?)

 

隠れて観察していた兵隊長蟻が、思わずそう誤認してしまう程の地を蹴る力。

大地が抉れ弾けて、ウボォーは真正面から蟻に殴りかかっていた。

 

(ち、違う…!あの毛むくじゃらは、ただ走っていただけか!?な、なんという身体能力だ!けど、ボ、ボキのペルの硬さは、どんな強化系にだって貫けないぞ!)

 

彼には自信があった。

念能力と、そして人間の器用さ、頭の回転の速さなどは警戒に値すると理解していたが、それでも〝敵が強化系〟とあたりをつけてからは、ペルを操作する彼にとって眼前の敵は物の数ではなかった。

もっとも相性が良い敵は、単純明快な強化系である…、とそう理解していたからだ。

どんな強者であろうと、人と蟻には隔絶した種族差がある。

そして、ペルは蟻の中でも一際優れた硬さとパワーを有する。

俊敏さでは劣り、そして何よりオツムが致命的に悪い為に、自力ではその力を活かせていなかった蟻であったが、

 

(こうして、ボキが操作する事でペルはザザン師団でも最強の近接能力を持つ!ペルを使いこなせば、パイクを押しのけてボキがザザン様の御寵愛を得る事も…ぐふふっ、可能なのだー!)

 

そう確信していた。

だが、その確信は次の瞬間に、完全にへし折られる事になる。

 

「ハッ!!!」

 

「ギギィィィッ!!!!????」

 

(――――――はっ?…え?……………ペル?)

 

ウボォーギンのパンチ一発で、最硬度を誇るペルは、節足を数本残して消滅していた。

ミンチ肉としてなら、もう少しばかり残っている。

 

「おいおい。なんだよ…顔色変えねぇで真正面から来るから、てっきり自信あんのかと思ってたんだが…。50%も要らなかったか」

 

ライブスのせいで手加減が下手になっちまった、と一人ゴチりながら、ウボォーギンは溜息をつきつつ徐ろに足元に転がる蟻の脚を拾う。

ペルを操作していた兵隊長蟻はというと、

 

(う、ウソ、だろ…?ペルは、ペルはッ!か、硬さだけならそこらの師団長を超えるレベルだったのに!甲殻の隙間を狙えば、ようやくちょっとダメージが通るかも…程度の超硬度!それを…!!な、なん、なんなんだあの毛むくじゃら!!本当に人間かァ?!人間側についたキメラアントか何かじゃないのか!!?あのパワー、ザザン様以上…!下手をすれば、ま、まさか、護衛団に近いのでは!?い、いや、それは言い過ぎか!?でも、ペルを上回る凄まじいパワーなのは確か!イヒ、イヒヒ!あいつを あいつをボキの操り人形にできれば、間違いなくボキはザザン様を超えられる!そうすればザザン様は、ボキの繁殖メスだ、下剋上だーー!いひひ!)

「――よぉし、今だ…!いひひひ」

 

過ぎた野心に身を焦がして、洗脳アンテナを携えて柱の陰から身を躍らせようとして…

 

「おらよ」

 

「ひひひ――――――ひ?」

 

ウボォーギンの剛腕から繰り出された、脚の残骸の投擲が、彼の小柄な肉体を柱ごと粉砕していた。

宙を舞う、頭部の残骸から目玉がまろび落ちていき、兵隊長蟻の彼が見ていた世界はぐるぐると回転して、そして永遠の暗幕の中に消えた。

 

「…おっと、こうしちゃいらねぇな。女王もオレがぶっ殺すぜ~!奥まで一番乗りだ!」

 

そしてウボォーギンは、何事もなかったかのように、元気いっぱいに走り出す。

彼の爆走を止められる蟻は、流星街には一匹もいない。

ウボォーギンは、走る速度を落とす事なく、遮る壁さえも殴り壊して一直線に走り続けた。

 

1
エンペラータイムとテンパランスのもじり。テンペラー星人は関係無い




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