え?俺が幻影旅団の4番ですって!?   作:ハンマーしゃぶしゃぶ

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第五話 グリードアイランド

いやぁヨークシンはお宝の山でしたね。

クラピカは多分生き残っているが、重傷でボロボロのはず。旅団に対し、すぐにどうこうする事はないだろう。

しかもウボォーも健在で、パクノダも健在の幻影旅団は、パフォーマンスMAX状態でオークションのお宝をほぼ全部ごっそり奪った。まさに旅団はフィーバー状態に突入。

だが、一つだけ幻影旅団が失ったものがある。

 

 

 

 

 

 

それは…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは俺のジョイステです。

 

ウボォーとマチは、俺のジョイステをROMカードごと見事に踏み抜き粉砕したのだ。

無敵のイエローテンパランスでどうにかしてくださいよー!と、そう思いつつ、必死の能力発動は間に合わなかった。スライムの鈍足を、これ程恨んだことはない。

その瞬間、俺の頭は真っ白になっていた。純白の世界…透き通る世界…スピードの向こう側…スタンドも月までブッ飛ぶこの衝撃。俺は真理の扉を見た。1

悟りを開きすぎて、思わず念獣鎧が融けてしまうくらいだ。ドボァって鎧が溶けた次の瞬間には、テンパランスがオートガードを発動してくれていたが。優秀だね、テンパランス。

 

「あ、あの…ご、ごめん。本当に、ごめん」

 

さすがのヤンキー女マチも、なんだかすごい殊勝な態度で、なんなら俺よりも悲しそうで泣きそうな顔で謝ってきて、普段めちゃ強気で勝ち気なマチが、そんな顔で俺に頭を下げていると思うと股間がヒソカになりそうだった。

その横で土下座していたウボォーの姿もとても真剣なものだったが、同時に超面白かった。

なので、無言のうちにフェイタンが携帯の写メで、土下座ウボォーをパシャリとしていたのを、一体誰が咎められようか。

 

「てめぇフェイタン!!」

 

「笑えるね。貴重なウボォーの土下座シーンね。これ、ヤクザのWebサイトに投稿したら小遣い稼ぎになる」

 

「やっていい冗談と、しちゃいけねー冗談があるぞ!?」

 

「例えば、ライブスの1000時間が籠もったクリーチャーハンター2Gのセーブデータを踏み潰すとかか?確かにやちゃダメね。ワタシも被害受けた……これから先、一緒(いしょ)に狩りする、どうするね?ライブス弱いと強クリーチャー狩れないよ」

 

「う、ぐぅ…!!そ、それは…」

 

口喧嘩はフェイタン優勢だ。

俺が覚えていたのはそこまでで、俺はその後ショックのあまり、一人自室にこもってふて寝を始めた。

面白光景を見られたから、それで俺の1000時間の狩りの記録が消しとんだのをチャラにしてあげれる程、俺は心の広い男ではない。

このまま1週間は、口もきかない不貞腐れモードになってやる!

元々俺の声なんて蚊の羽音より小さいから、喋っても喋らなくても意味がないというツッコミは聞きたくないし受け付けない。

こういうのは、「俺、怒ってます」というアピールが大事なのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いやぁ、俺がふて寝をしている間に、どうやら大変な事が起きたそうだが?

まず…ガキ二人が、街を出歩いていたノブナガを追跡して、仮宿まで連行された挙げ句、ウボォー(出力10%)に結構食い下がってきて気に入られて解放されたとか。

いや、これってゴンとキルアなのでは。何をしているんだ?

クラピカは重傷か、それとも死んだか?死んだのだとしたら、仇討ちの為の追跡だろうか。

…………そもそも、原作では、何故、幻影旅団(俺達)を追跡していたのだったか…。

懸賞金目的だったか?

既にあやふやである。俺の記憶も存外あてにならない。2

 

あとは…なんでも、とある別会場のオークションのお宝を盗むために出動していた、クロロ率いる実行組が、ゾルディック家に襲われたとか。

突如、空から降ってきた小さなドラゴン型オーラの群れに、クロロの周りにいた団員は引き離されて分断されたのだという。どう見ても、じいちゃんのドラゴンダイブだ。相当やばい技だったと思うが、皆よく無事だった…さすがである。

その後、クロロはシルバと感動の再会。しかもそこには、イルミとマハまでいるという三対一のドリームマッチに引き摺り込まれたとか何とか。うーん、実に絶望的ドリームマッチ。

 

「ゾルディックも、〝あのスライム使いがいないのは好都合〟と猛攻を仕掛けてきたよ。…だが、あいつらの計算違いは子テンの存在。ヒソカ以外の団員は、皆が子テンを仕込んでいたからな…子テンがいなかったら、誰かしらは殺られていただろう」

 

ほー、子テンちゃんが役に立ったようで何より。11匹の子テンちゃんを絞り出させられた甲斐があるってもんですなぁ。3

しかし…ゾルディックと三対一とかいうクソ状況で生き延びられるのお前だけだ。さすがは我らが最強で無敵の団長。

そんな無敵クロロが三対一でボコられている最中、他の面子はゼノさんの老練さと、無数の小型殺人ドローン兵器にしてやられ、まんまと時間稼ぎされてしまったとの事。

そのドローンはミルキだろう。ゾルディック家の男組が、キルア以外皆出動したという事になる。なんという豪華出演陣…遠隔とはいえ、ミルキさえまともに戦ってくるとは驚きだ。

 

しかし、全体的に喧嘩特訓マシマシになっている今の旅団は、ゾルディック家の襲撃でも負傷者は出しても死人は出さなかった。

伝説の暗殺者一家にそこまで襲われて死人ゼロ……こんな素晴らしいことってあるか?

これなら、俺を守れそうじゃないか。

そのまま全員生き残って、頑張って俺を守りぬくんだぞ♡

 

しかも…ラストにとびきりの朗報がある。

詳しくは分からないが、クロロはこういう時の為にヒソカを入団させていたらしく、シルバに致命傷を食らいそうになった瞬間に(わざと隙を見せて誘ったらしい)、ヒソカと居場所を〝転移〟させて、その隙に逃走したらしい。

うわぁ、そのタイミングで強制交代って………えげつねぇを通り越して……引く。

しかも、敢えてヒソカにだけは子テンちゃんを渡さないし、情報も開示しないとか…。俺以上にハブられる男、ヒソカ…おいたわしや。

クロロって、スキルハンターにどんな能力コレクションしてるか分からんから、大分エグい後出しジャンケン出来るのだ。レア能力狩りによく連れて行かれたが、子テンちゃんだけ連れて何処かに行ってた事もあるし、俺とて全部は把握していない。

クロロは、ヒソカにこっそりと〝入れ替え転移〟の為の〝マーカー〟を仕込んでいたのだという。一体いつの間に…。俺にも仕込んでいるんじゃないだろうな、そのマーキング。

最悪のタイミングでのネタバラシは、さすがにちょっとだけヒソカが気の毒になったが、でもまぁヒソカだから別にいいでしょう。

ヒソカが生きていると、4番の俺はいつまでも生きた心地がしないし、旅団的にも殺戮のパレード野郎だし、どうかそのままシルバに殺されてますように。

 

「奴は、常にライブスを狙っていたからな。裏切りのユダの名を背負ったピエロには、似合いの末路だろう?」

 

ビジュアル系バンドの歌詞みたいなリリックな事言い出す団長モードのクーちゃんもそう言っている。そうだそうだお似合いの末路だ。

そんな圧倒的クソゲー状況に突然転移したヒソカが、万が一にもシルバ達に勝っちゃったら最悪の展開だなー、と思っていたが、ゾルディック家の通信を傍受したシャルナークが「対象を一人暗殺完了」というメッセージを傍受したらしいから、これはもう高確率でヒソカ死んだのでは?もう喜んでも許される?

やったーー!!しかもゾルディック家の皆さんも無事に帰っていったらしいし、ゾルディック家との全面戦争はやっぱり回避できそうだ。…こいつは……俺の人生設計、勝ったな。

ちなみに、イルミは対クロロ戦に参加してたのに、なぜゾルディック家が旅団を一人殺した時点で帰ったのかというと、原作と同じようにナイスタイミングで依頼人の十老頭が死んだからだ。

全部ウボォーって奴が悪いんだ。

こいつが単騎特攻して、十老頭とその親衛隊と幹部を肉塊に変えたんです。まさに読んで字の如く、肉弾戦車すぎる。恐ろしい…。

 

「だはははは!いやー、もう陰獣もいねぇし、マジで歯ごたえ無かったぜ」

 

ウボォーはそう言って超嬉しそうに大笑いしていた。

クロロやウボォー達にとっては、(一応、俺にとってもだが)十老頭はサラサを始めとした〝流星街の人間狩り〟の仇の頂点というか、大本というか、根源でもあるから、なんだか皆嬉しそうだ。喜びが滲み出ちゃっている。

俺はというと、完璧にテンパランスが俺の感情を覆い隠しているから、もちろんクールに振る舞っているぜ…決まっているな、俺。

本当に、幻影旅団という奴らは身内への想いは強い。

くくくくく…その想い…俺を守るために利用させてもらうぞ。くくくくく…実に裏ボスっぽいクールで冷徹な振る舞いよ……くくくくく。4

 

「…ほれ、ライブス」

 

「…?」

 

そんな事を思ってたら、ウボォーが俺に何かをポイッと投げ渡した。ウボォーの横には神妙な面持ちのマチもいる。

なんだ、お土産ですか。ありがとう。

 

「…。…っ!?これ、は…!」

 

びっくりし過ぎて久しぶりに大きな声が出た。

こいつは…!

 

「俺とマチで、十老頭殺すついでに盗ってきた。ジョイステーションと、あと…なんつったっけ。えーと…」

 

「グリードアイランドだよ。これ…世界一レアなゲームなんだろ?あの…これで、ライブスのセーブデータぶっ壊しちゃったお詫びに……なる、かな?」

 

マチよ…これとそれとは全く別問題なのだ。俺の失われた1000時間は戻らない。

しかし…こ、これは…喜ばずにはいられない!

もうセーブデータは消えてしまったのだし、だったら気持ちを切り替えて、未来志向でいったほうがよいのでは?俺の頭脳がフル回転する。許す許す、超許してしまう。

グリードアイランド…!単純に、ゲーム好きならば興味を抱かずにはいられない、あの魅力的なワールド。

この世界に生まれた陰キャゲーマーとしては、是非ともプレイしたかった垂涎の一品。

旅団として生きているのだから、いつかは触れる機会もあるかもと思っていたが、クラピカ撃退ルートに行ってしまった今では、グリードアイランドに突入するチャンスも消え失せたと思っていた。

だってクロロも捕獲されてないし、心臓に何とかチェーンも刺されてないし、旅団がグリードアイランドに行く理由は希薄だからだ。

だが、まさか、捻れた運命が俺のゲーム機破壊を切っ掛けに、こうやって戻ってくるとは。

ここから、旅団は原作通りにグリードアイランド編だ!旅団が、こいつらがいれば、かなり攻略も順調にイケそうじゃないか!金粉少女と発香少女と睡眠少女を何としてもゲットしたい!いやこれは決してやましい想いからではなくてですね?純粋な学術的興味でありましてですね?

たった今、余りの歓喜(激しい喜び)を享受したり、ジョイステ完全破壊事件(深い絶望)があったりで、俺のテンションが狂って(植物のような心を失って)イエローテンパランスが不安定になってしまったのか、ブバッと擬態が解けてしまって、しかも俺の感情は尚もバグり続け、その勢いのままに眼の前の巨体に抱きついた。

うおおおウボォー!ありがとおおお!!!胸毛ジョリジョリィ!

 

と思っていたら、ウボォーは目にも留まらぬ速さで俺のハグを躱した。

しかも躱すだけでなく、側にいた奴を身代わりにし、そいつをサッと前面に押し出したのだ。そこにあったのは胸毛ではなく、いい匂いのする柔肌。

 

つまりはマチだ。

ウボォーは、よりにもよってマチを身代わりにした。

ふよんっ、と女体の柔らかさが俺の腕の中に収まっていた。

くくくく…この程度で俺が動揺するとでもうわすげぇいい匂い。

筋肉ゴリラ女のくせにやっこい。

睫毛ながい。

美人!

かわいい!

10点、10点、10点、10点、オール満点。

金粉少女も発香少女も睡眠少女もいらない…桃源郷はここにあった。

ウボォー、ありがとうございます。

 

じゃなくて。

ウボォー、なんてことを!

幻影旅団勢ぞろいの中で、しかもスライム越しではない、マチへの…女性への直接のハグ!

これはもう言い訳不可能だ。

公開セクハラだ。

やってしまったな。

 

「…!」

 

マチが絶句し、俺は絶命しそうだ。

こんなの、絶対リンチ確定ではないか。

キモい陰キャが、俺等の可愛い妹分のマチに抱きつくとか、ちんちん削ぎ落とすぞコラァ!ってなるのは想像に難くない。

マチはキレるだろうか。それともキモすぎて泣くだろうか。

俺に抱きつかれるとか、どんな気丈な女性でも泣くだろう。どんな罰ゲームだ。

おお、可哀想なマチ。

でも全部ウボォーって奴が悪いんだ。

それでも、そんな理論はヤンキー集団・幻影旅団には通じない。

面白がって…はたまたマジギレして、俺を吊るし上げるに決まっている。

 

「ライブスが…、あたしに……だ、抱きつい―――」

 

マチはそう言い残して、停止した。

わかる。よくわかるぞマチ。ショッキングすぎて停止する…俺もジョイステ破壊で味わった。

俺はなんとか、ギ、ギ、ギ、とまるで錆びついた扉か、ゲンの歯ぎしりのようなぎこちない動作で、マチからゆっくりと離れて様子をうかがう。

さー、やるならヤれ!どのような制裁も、イエローテンパランスで乗り切ってやる!

 

…。

 

しばらく待ってもマチのフリーズは解除されず、周りの奴らもニヤニヤしているだけで、特にそこから俺へのリンチや可愛がりは起きなかった。

く…なんだ…?こいつら、何を狙っている…。

抱きついた瞬間を写真におさめて、あとから脅しにかけるとかか?

いや、違う…よく観察するのだ、俺。…同じ女性のシズクは、やはり同情の思いが強いのか、なんだかスゴイ目でこっちを睨んでいるではないか。なんというオーラ………!あれ、ガチギレしてませんか?だ、団員同士のマギジレ禁止ですよ…シズクさん?シズクの大好きなクロロが決めたルールぞ?(震え声)

分かっている、分かっているんだ、シズク。だから落ち着いてくれ…。さすがの俺も、女性へ同意なしに抱きついてしまった罪悪感はある。マチからの制裁ならば、甘んじて受け入れる。…だが、いくら待ってもマチは固まったままだし、他の連中も動かない。

 

(シズクも動かない………許された……?)

 

ヨシッ!許された!

どうも許されたらしいので、俺は再度テンパランスで己を覆い、動じていない風を装ってゆったりと場を離れていく。

こういうのは、状況が変な感じに転がっていく前にトンズラかますのが一番なのだ。

それに、グリードアイランドが俺を呼んでいるんだ。

早くグリードアイランドを、この身で体験したくてしたくてウズウズしている。

さぁ、エンジョイプレイング。ゲームの時間だこのやろう。嫌なことから目を背けるぞー!

俺は、いそいそと新しいジョイステとグリードアイランドをセットしていく。

 

「待て、ライブス」

 

なんですかクロロ。

私はもうさっさとゲームしたいんですよ。

業務時間外まで仕事させないでください。

…そ、それとも、やはりマチの件を流そうとしている事に対する制裁ですか…?(ビクビク)

 

「ゲーム参加組は、全員()()を受けてもらう」

 

ボッ、と本を出現させたクロロ。

え?!イエローテンパランスを、スキルハンターで盗るってこと?!そこまでの制裁されるんの俺!ヒィィィ。スライム没収されて、殴る蹴るするつもりだ。冷血漢、鬼、ヒトデナシ、クーちゃんお慈悲を。

そう思っていたら、クロロの腕から、翼の生えたブッサイクな念獣みたいのが生えていた。あっ、天使の自動書記(ラブリーゴーストライター)かぁ。それだったかぁ。

いつの間に盗んでたんですか?けれど、レア能力狩りが半ば趣味みたいになっている最近のクロロが、あんな便利な能力見逃すのは有り得ないか。

クロロは皆に必中の予言だと説明し、安全な運命にある者だけをゲームに送り出す心算らしい。

よし…本当にマチの件については不問らしいな。

 

「ワタシ自分の生年月日知らないね」

 

「オレなんて血液型も知らねーよ」

 

「げ」

 

衝撃の告白に、クロロも団長モードのくせに間抜けな悲鳴を上げていた。

幼馴染なのに、確かに今更衝撃の真実を知るのは、そういう顔と声になるな。

だが…残念だったなクーちゃん。

俺も、元気いっぱいにブンブンと首を横に振る。おばちゃん面で、チャーミングにな。

 

「………ライブスも知らないのか?」

 

ゲームに熱烈参加希望の、俺とフェイタンが占い不可能な時点で、この条件は撤回される事になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

うおおお…俺は今ゲームの世界にいる。

イカれた仲間達と共に、とうとうゲームの世界に入り込むという至高の体験をしているのだ。

ウボォーとマチが盗んできたジョイステは、既に片方の差し込み口にメモカがささっていたため、「マルチタプつかうよ」と言いつつフェイタンが颯爽と登場し、共にゲームをすることになった。

クロロに許可を(半ば無理矢理)得て、ゲームプレイを許されたのは俺、フェイタン、フィンクス、ウボォー、シャルナーク、そしてマチだ。

マルチタップを使っても、セーブが出来るのは4人までだが、プレイする分には問題ない。

シズクがやたらと付いてきたがっていたが、現実世界の旅団戦力も考慮して、団長がストップを掛けていた。可哀想なシズク…ひとえにテメェが便利すぎる能力を持っているせいだが…。俺みたいに小分けできる念獣なら良かったのに。

 

俺はこのゲームが、現実世界上に再現されただけのゲームっぽい島への転移装置でしかないことを知っている。

しかし、それはそれ。これはこれ。

ゲームでお約束な様々な事が、現実で超リアリティに体験できる以上、これはもう立派にゲーム世界への異世界転生と等しい!

ジン・フリークス、なんてスゴい奴…。

超一級のハンターで冒険者であると同時に、超ゲーマーでもあった。

本気で尊敬してしまいそうだ。惚れてまうやろ。

現実世界の島を基にしているとはいえ、凄まじい作り込みがそこかしこに感じられた。

本当のゲーム好きでなければ、ゲームを理解していなければ出来ない芸当だと思う。

 

「大体ゲームのルールわかたよ」

 

ログインしたら、いきなり舞空術のようなモノで俺達の眼の前にやってきて、カードで攻撃してきた奴を速攻で囚えて、フェイタンが体にインタビューした。哀れな犠牲者に感謝しよう。

お陰で、旅団の奴らも皆、この世界のルールをだいたい理解したようだ。

さすが頭の回転は皆速い。

 

「俺も、だいたいは噂は知ってたけど…やっぱりそうなんだね。クリア報酬は、好きな指定カード3枚、か」

 

「…なかなかスゴい効果のカードもあるけど…わざわざゲームに付き合わなきゃいけないのが面倒ね」

 

「それが誓約と制約なんじゃねーのか」

 

シャルナークとマチとウボォーが、真面目に話し合っている。

あの図体の怪力ゴリラだが、ウボォーはその経緯から実質副団長っぽい事もしてる奴で、たまにああやって光る知性を見せつけてくるから恐れ入る。

普通に、シャルナークとかパクノダとか、後たまにだがクロロとも対等に蜘蛛と流星街の今後についてとかの会話をしている時がある。このゴリラすげー。

 

「シズクとかコルトピも、連れてこれれば良かったんだけどなー」

 

シャルナークがそんな事をぶつくさ言っていたが、しょーがないでしょ。クロロがダメって言ったんだから。そんなことより超リアル&エキサイティングゲームをやろーぜ!

シャルの狙いは、このゲームが現実のどこかで行われているという立証と、このゲームのお宝を盗む事だろうが、俺とフェイタンは純粋にウキウキしている。フェイタンもウキウキなのは見れば分かる。何年の付き合いだと思っているのだ。

 

「こういうゲームは、PKが手取り早いよ。カード化限度枚数あるから、ささと殺すが吉ね」

 

「そ、それをいきなり、やるのは…ゲーム、への…冒涜、なのでは…?」

 

「珍しくライブスが饒舌ヨ。何言ってるかは、相変わらずさぱりだけどね」

 

「…多分、ライブスはゲームを楽しみたいんだろ?このゲームは、あたしがライブスにプレゼントしたんだ。ライブスが楽しみたいっていうなら、それが優先だよフェイタン」

 

「おい、マチ…さりげなく俺の名前を省いてんじゃねぇ。俺とマチからのプレゼントだったろ!?」

 

「…ふーん…つまり、ライブスはあんまPKしたくないか?…確かに、ライブスの普段のプレイング見ていると、そういうまたり系が好きね、コイツは」

 

マチさん、ナイス翻訳です。ありがとうございます。

俺は、渡りに船と必死に頷いた。

 

「しかたないね。でも、もう一人殺しちゃたけど…これセーフか?」

 

ウボォーの訴えはスルーされ、彼らの会話は続いていく。俺はまたもコクコクと頷いた。

 

「ライブスも頷いているしセーフで。…でも、行き詰まったらPK有りって事でOK?」

 

シャルナークが言うからまたまたコクコク頷く俺。まるでボブルヘッドです。

さっ、もう早くゲームしよう。

いつまで話し合っているんだい。

 

「……ま、いっか。お宝は焦らないで。団長も何も言ってなかったし。最初はゲームを楽しもう、みんな。主導権持ってるライブスの希望だしね。…それじゃあ、念使いばかりのゲームだし、単独行動は避けよう。鎖野郎みたいな奴に出くわさないとも限らないし」

 

確かに、グリードアイランドは危険がいっぱいだ。

しかも元々、幻影旅団は驕り高ぶる癖とか、格下ばっか相手にして弛んじゃうとか、そういうのもあっていまいち上澄み感薄れがちだったが、今の旅団は、俺のテコ入れがチクチク効いているようで、大分強い。俺の足掻きは無駄ではなかった。

フェイタンなんぞ、キメラアント編では「だいぶ鈍てるね」とか言い訳して、ザザン?だかサザン?だかにボコられていた印象は強い。情けないぞ旅団の戦闘員!

しかし、今のフェイタンは、ウボォーと一緒になって、俺のイエローテンパランス相手にしょっちゅうムキになって挑んできた、パワードフェイタンだ。鈍てるね、なんて言い訳絶対させんぞ。

パワードウボォーも、パワードフェイタンも、パワードフィンクスもいるんだから、旅団で行動する限り、俺は100%の安全の元、グリードアイランドを満喫できるという寸法である。完璧な計画…まさに安全神話よ。

 

「それじゃあ二人一組で行動しようよ。全員でぞろぞろと動いても目立つし」

 

「お、そうだな」

 

おいやめろバカ。早くも俺の安全神話は崩壊ですね。

そんなバカな事を突然言い出したバカはどこのどいつだ!マチだ!このゴリラ女!◯すぞ!あれか、やはり俺に抱きつかれた事恨んでいるのか?スミマセンでした!!

だが、ウボォーも同意しているんじゃあない!

さっき意外と頭良いって言ったが撤回しようかな?思考回路がゴリラだな?

でもこの思考の方がウボォーっぽいという安心感もある。複雑な気持ちだ。

 

「じゃあ、オレはウボォーと行こうかな」

 

「OK。じゃあ、あたしは、ライブスと行く」

 

「じゃあ、ワタシ、フィンクスとでいいね。どうせこいつ余り者」

 

「あぁ?うるせーよ。余り者はどっちだよ」

 

どんどん別行動が既成事実化していく!

別行動やめよう。皆で行動しよう。そうしよう。皆一緒が絶対安全だって。

まだあきらめんぞ。

 

「万が一は常に起き得るから…定期連絡をしつつ、一週間後にもう一度この場所で全員集合って事でいい?」

 

おおファック。

シャルナーク、なにまとめようとしてるんだ。さっき主導権は俺って言ってたくせに。

 

「ライブス」

 

シャルが、俺の名を呼びながらこっち見た。

これは…珍しく心が通じたんじゃあないか?さすがは幼馴染だ。シャルは出来る男だと、前々から思っていたんだ。目が合った瞬間ビビッと来た。通じ合ったってわかったぜ、シャルナーク!

やれやれ助かった。マチとペアで行動なんてたまったもんじゃないからな。

ヤンキー女と二人きりがどれ程大変で気が休まらないかっていうのは、以前経験済みだし、何より抱きついた件で反キレ状態だし。二人きりの空気に俺は耐えられない。

 

「子テンちゃんを、またメンバー分頼める?前にもらったのは、ゾルディックとの戦いで使い切っちゃってさ♪念能力者だらけの中で、別行動をするからね…万が一の保険は必要でしょ」

 

ファッキン、シャルナーク。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

逃げる美女は、みんな恋愛フラグだ!

逃げない美女は、よく訓練された恋愛フラグだ!

アイアイは、恋愛ベタでもメチャウマだからよォ。ウソじゃねぇよ。

俺一人で、恋愛フラグ157本はぶっ立てたぜ。

ホント恋愛都市アイアイは最高だぜ、フゥーハハハー!

 

こんな、常に擬態してブヨブヨした大柄なおばちゃんな俺でも、可愛い子にモテるのだ。

素晴らしいな。

隙を晒す事なく、可愛い子達とイチャイチャできる…この安心感、最高か?

 

「きゃっ!いったぁ~~い、ちょっと気をつけなさいよ!いきなり私にぶつかってくるなんて!あんた痴漢~~!?」キャピ

 

こんなコッテコテの二次元美少女が、縦横高さに奥行きまで兼ね備えた三次元で俺に迫ってくるとは。

ジン・フリークス恐るべし。

まさに至高のハンターに相応しきこだわりっぷりだ。

 

「あぁ゛?アンタどこ見て歩いてんのさ!こんな広い通り道で、なんであたし達にぶつかんだよ!」

 

一方その頃、俺が美少女との出会いを楽しむ傍らで、マチさんはぶつかってきたイケメンの胸ぐらを掴んでいた。

惜しいぞマチ。ぶつかったら反論する…これは正しい。だが、胸ぐら掴むまで行くのは、明らかにダメ…!やりすぎ…!折れるフラグ…!

ふふふ、お手本というやつを見せてやろう。ゲームの中でなら、俺は恋愛強者…!

 

「ぶ、ぶつかってきたのは、そ、そっち…だろ……気をつけ、ろ」ゴニョゴニョ

 

「む!何よその言い方!失礼しちゃうんだから!あんた、そんなんじゃ女の子にモテないんだからね!?ふん!よく見たら芋臭い格好ね!あんた、どんな田舎から出てきたのよ!」

 

見ろ。俺の極小ボイスでもキチンと通じる。

会話が繋がっていく。

まさに高性能恋愛シミュ。

このまま次の選択肢まで、相手のセリフの一言一句を聞き逃さない…!

俺は、順調にイベントを進行していっていた。そのはずだった。

だがしかし、何故かイベントの進行中…ずっと隣にいるマチさんから、凄まじい怒気と殺気が迸っており、イベントが進み、この娘とラッキースケベ的なチュッ❤が起きようとした瞬間、マチが女の子を糸で雁字搦めにした。

なんだコイツ…!あまりにもヤンキー過ぎるでしょう!怖い!圧倒的恐怖!キレたナイフ!狂犬!

当然、イベントは失敗する。

恐らくは何らかの指定カードのゲットチャンスだったというのに。

 

「マチ…なんで…」

 

「う…ご、ごめん。そうだよね……これは、ゲームなんだ」

 

マチが言うのには、反射的にやってしまったのだという。どんな反射だ。お前は日常的に、近くにいる一般市民を念糸でぐるぐる巻にする反射反応があるのか。

こんな調子では、俺達のコンビが指定カード集め最下位になってしまうぞ。

隠れゲーマーのフェイタン…!電子・情報なんでもござれのシャルナーク…!敵は強大であり、一瞬の油断が命取り…!

負けたら全部マチのせいだ。責任をとれ責任を!俺にチューしなさい。

そういう意識を込めてマチをジッと睨むと…、

 

「…!な、なに?あ、あたしの顔に…なにか、ついてる?」

 

照れたのか顔を背ける。

おい、照れんじゃあない!何か勘違いをしていなさる!

今の視線のレーザービームは、批難のレーザービームなんだ。

今のマチの反応…恐らくこうだ。「あたしったら、ナンパ男とか媚びた女見たら、ついつい焼き入れたくなっちゃう!まったくオッチョコチョイだな、アタシって!」…こんな所だろう。

オッチョコチョイのあたし可愛い~。とか思って照れてみせやがったに決まっている。反吐が出そうだ!女が言う〝可愛い〟は異次元の評価センスだな、まったく!5

 

「別に…」

 

しかしとて、俺はとてもそんな事を口に出す勇気はない。

女を批難すれば、その十倍、男は批難されるんだ。俺は詳しいんだ。

賢明な俺は、小声で知らんぷりをするしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これが…魔女の媚薬…」

 

マチは、グリードアイランドをプレイし、知識を集めていく中で、何としてもゲットしなくてはならないカードを見出していた。

基本的に、ゲームというジャンルにそこまでのめり込む事のないマチだが、今回は違った。

その情報を得た時から、表向きは冷静を装いつつ血眼になって探した。ゲームに詳しいライブスの意向を無視する場面さえ作りつつも、それをがむしゃらに追った。魔法カード・宝籤(ロトリー)による、無謀なガチャさえ繰り返した。

それが〝レインボーダイヤ〟と〝魔女の媚薬〟であり、マチが手に入れたのは後者…〝魔女の媚薬〟。

効果は、その名の通り。説明文に曰く、〝この薬に口づけして意中の相手に飲ませれば、その人はあなたの虜になる。粒の効き目は1週間。1ビン500粒入り。〟

緊張からか、ごくり、とマチが息を呑んだ。そのカードが、今、彼女の手元にある。

 

(…これを、ライブスに飲ませれば――)

 

マチが思案を巡らせる。

ライブスは常に、イエローテンパランスによる物理的にも呪念的にもほぼ完璧な防御鎧をまとっている。

 

(ライブスは…食事の時でさえ、一度テンちゃんに飲み込ませて、その食物に毒が仕込まれていないか、呪いが仕込まれていないかをチェックする。テンちゃんに毒見をさせた後で、スライムの防壁を通過させたモノを口に運ぶ。その念の入れようは、蜘蛛に囲まれて安心できるはずのホームでも変わらない)

 

常に油断なく、蜘蛛の皆の為に気を張り続けてくれている。

団長の、幻影旅団そのものの鉄壁の盾。それがライブスだ。

 

(だからこそ…あたし程度が、ライブスの心に入り込む隙なんてないんだ。でも…あたし達は盗賊。欲しいモノは…どんな手を使ってでも奪い取る。そうだよね、パク)

 

親友(パクノダ)から教わった恋愛ハウツーを思い出し、旅団の心得を思い出し、最後に…やはり親友から貰った〝ゴム〟を確認。

ドッキリバンジーゴムという、昔流行ったお菓子の名前をもじった0.01mm極薄タイプを、ギュッと握りしめる。

くたばったであろう、旅団の助っ人枠であった()()()()()()10番のピエロ野郎の能力名にも少し似ていて、嫌な気分になりかけるが…勝負を仕掛ける今夜を目の前にしては、そんな思いは乙女の覚悟に一瞬で塗りつぶされた。

 

(変則的にいこうとすれば、かえってライブスに疑われる。テンちゃんに媚薬が分解されちまう。ならば……)

 

物事はもっと単純に、スムーズに。

素直に頼み込めばいい。

これならば疑われない。

仲間が差し出した物ならば、イエローテンパランスによる毒物分解チェックという段階を、まるまるパス出来る可能性が高い。つまりは、ライブスがスライムの鎧を解除してくれるはずだ。

その程度の信頼関係は築けている自信は、奥手のマチにもあった。

 

(ライブスの、本当の顔……久しぶりに見れるかも)

 

彼の顔を思えば、マチの胸が高鳴る。

グリードアイランドをプレゼントした時の、素のライブスによるハグは、余りのことにマチの記憶が半ば飛んでしまっている。だから落ち着いて彼の素顔を見れるのは、相当久しぶりとなる。

ライブスの素顔は、どことなくクロロと似ている。

黒髪に黒目で、眉目秀麗なクロロを、多少素朴に作り替えた感じだ。

そんな容姿で、クロロの幼少時からずっと側にいたライブスは、昔はクロロの実弟と疑われたものだった。

今でもその可能性を信じている団員は多い。

別に、クロロもライブスも、血の検査だとかDNA検査だとかをしたことがないから、誰も真実は分からないが、これだけ似ていて、おまけにクロロ曰く「物心付いた時には、もうライブスはいてくれた」と言うくらいに、ライブスは昔からクロロの側にいた。

 

幻影旅団というものは、誰もがクロロの才能とカリスマに惹かれていて、当然、マチも最初はそうだった。

最初のうちは、クロロにいっつも張り付いている、無口な金魚の糞程度にしか見ていなかった。

だが、誰よりも…文字通りに身を盾にしてクロロと旅団そのものを守り続けるライブスに、気づけば視線は奪われっぱなしだった。

クロロに憧れて、焦がれて、それでもクロロは手に入らないから、代替行為として似たライブスに目をつけた?そうかもしれない。最初の一歩はそうだったかもしれない。だが今は違うと胸を張って言える。

誰よりも早くから、誰よりもクロロの側にいたライブスは、ずっとずっと彼を支えてきた。

誰よりも静かに、誰よりも慎重に、誰よりも気を張って、クロロと旅団を守り続けているのが、マチには分かった。

そんな、警戒心が服を着て歩いているようなライブスを、自分のモノにする。自分の糸で、身動きができぬ程に、一生側に縫い付けたい。それを想像するだけで、得も言われぬ歓びがマチの心と肉体の奥底を貫き、ジワリと広がっていく。

自分こそは、糸で獲物を絡め取る蜘蛛そのものだ。マチはそう確信する。

 

あぁもう少しだ。もう少し、後少し。彼が、これを口にした時、少女の願いは成就するのだ。

たとえそれが、外法に頼った真の愛とか恋でなくとも、盗賊であるマチには否はない。

 

(既成事実…良い言葉だよね)

 

握りしめていたゴムを、グシャッと破壊する。

 

(さっさと孕んじまえば、もっと話は早いし)

 

折角の親友から貰ったものだったが、ライブスに対して、胎内に彼の子を仕込む事を忌避する概念は、端からマチにはなかった。

特に、最近はシズクの視線も気になってきていた。

マチの個人的な洞察によると、シズクがかなりの頻度で、ライブスの事を目で追っているのは、明白に()()()()()なのだろう。

飲みの場で、一度だけ聞いたシズクの思い出話。

ライブス自身は、まるで己の事を話さない男だから確認しようもないが、恐らく真実であろう彼女とライブスとの思い出。

それは、マチに危機感を抱かせるのに充分だった。

仲間と分け合い、歓び合うのも良いが、他を牽制し、目的のお宝を自分だけの物にする。独占する。

これもまた盗賊の醍醐味だろうと思えた。

 

「…よし――」

 

意を決し、バインダーに収まっている〝魔女の媚薬〟をそっと撫でた、その時。

 

 

 

――キィィィン

 

 

 

風を引き裂くようにして、誰かが空から飛んできた。

 

「っ!?」

 

想い人との初夜に思いを馳せ過ぎて、マチでさえ僅かな間、反応が遅れた。

 

徴収(レヴィ)使用(オン)!!」

 

「なに!?」

 

マチの手から、するりとカード(お宝)がすり抜けた。

リスキーダイスとレヴィによるコンボで、指定ポケットを確実に奪う手管を使われていた。

まだゲームを始めて日の浅く、かつ〝魔女の媚薬〟の情報を得た時から、それのゲットに邁進したマチ組の指定ポケットにあったカードは、残念ながらそれ(魔女の媚薬)のみ。つまりは、百パーセントの確率でマチのお宝は消え失せるという理屈。

大きめの街か何かですれ違っていれば、知らぬ間にプレイヤーの情報はある程度バインダーに登録されてしまうし、試しに他プレイヤーとコンタクトをとり交渉を試みた事もあるが、それらは結果として初心者丸出しのゲームプレイングを周囲に見せつけてしまった。

だが、念能力としては一流の殺人者達であるから、短期間でレアカードをゲットできるというちぐはぐ。

それがこういう輩を引き寄せた。

 

「ぎゃははは!テメーらみてぇな初心者に、Bランクはもったいねぇって!じゃーな!ルーキーさん達!!」

 

盗人であった。

だが、自分達幻影旅団とは違う、明らかな三下の、ハイエナが如きネコババ野郎。

もっともそれは、マチの蜘蛛としてのプライドによる。

他人からすれば、命をとらずにカードだけ盗んだ、この三下のほうが盗人としては大分マシであろうから。

 

「…っ!!!」

 

美女の顔が凶相に染まって、盗人は瞬時に命の危機を悟る。

 

(こ、こいつら、やべぇ!!!!)

「リ、再来(リターン)使用(オン)!ソウフラビへ!!」

 

来た時と同じように、天へと飛んでいく盗人。

その様を、イエローテンパランスは中年女性の顔を醜く歪めて、ゲタゲタと大笑いしながら眺めていた。

 

『アギャギャギャッ!オイオイ、盗賊ガお宝盗マレチマッタのかヨ!!ギャーーハハハハハッ!!!情けネェーー!』

 

「…黙りなよ、イエローテンパランス。……あたしの糸は、まだあいつを捉えている。死んだほうがマシって、思わせてやるさ」

 

飛び去り際に、目にも留まらぬ速さで盗人の服に括り付けた念糸は、強度を落とせば人類の生存権(メビウス湖)を一周する程度には伸び続ける。

残念ながら、巧みな手腕で幻影旅団からまんまと盗み仰せた三下の盗賊は、その見返りに生命を落とす。そういう運命らしかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一週間後、ホームにて…。一旦、ゲーム世界から現実世界へと帰還した一同の姿があった。

集めた情報を、団長とパクノダを交えて整理する為だろう。

 

「…!ちくしょう…!団長の占いに書いてあった〝何よりもあなたを誘う果実は、あなたの唇に触れる事はない〟って…きっとこれだったんだよ、パクノダ…。占いは…回避できるモノの筈だったのに!」

 

だが、パクノダは今は話し合いには参加出来ていない。

なぜなら彼女は、心底悔しがるマチを慰めていたからだ。

マチは、個人的に痛恨のミスをしていた。

現実ならそんなミスはしなかったろうが、ここがグリードアイランドという特殊なゲーム世界であるから、ゲーム慣れしていないマチにも凡ミスは付き纏うし、案外、マチという女にはうっかりな性分も見え隠れする。それに運も悪かった。

 

「しょうがないってマチ。そいつが仲間に渡しちゃってて、しかも気付かずに受取人、殺しちゃったんでしょ?しょうがないのよ、それはさ。……まだゲーム始めたばっかりなんだし…ちょっとずつルール覚えればいいの。またゲットすればいいじゃない」

 

パクノダの優しい手は、まるで旅団の母親役の象徴だ。

実際は、クロロより年下であるのだが、それでも昔からクロロを弟のように可愛がっていたし、他の蜘蛛よりも大分精神的に成熟し、かつ安定していたから昔から皆の母役or姉役なのだ。

現在でも、団長をやっているクロロの事すら、一歩引いているパクノダがいつでも包み込んで、そして受け止めている。そういう精神的支柱の一人であった。

幻影旅団全体としても、クロロ本人にとっても、パクノダ、ウボォーギン、ライブスという三人は、特別な存在であるのは間違いない。

そして、その旅団の三本柱の中でも、こんな恋愛関係での弱音や相談を吐き出せるのは、マチにとってパクノダしかいない。

パクノダの手が、戦慄くほどに悔しがるマチの背を優しく擦る。

 

(やれやれ…マチが、お宝(ライブス)を手に入れるのは、いつの日になるのかしらね)

 

蜘蛛達の姉は、今日も手のかかる妹弟達へ柔らかく微笑みかけていた。

 

1
ただの茫然自失

2
いまさら

3
恨み節

4
くくくく、と笑ってれば悪カッコいいと思っている

5
偏見のカタマリ

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