え?俺が幻影旅団の4番ですって!? 作:ハンマーしゃぶしゃぶ
ゴンとキルアは、今、グリードアイランドの世界にいる。ジンの手がかりが、このゲームにあるというのもあるが、それ以上に、片腕を失う程の重傷で寝込んでいるクラピカを治すため、グリードアイランドの世界に来た。
こうしている今も、正規の医者達に混じって、医者見習いのレオリオが、必死にクラピカを看護しているはずだった。
グリードアイランドで起きた、様々な出来事。
忘れることの出来無さそうな、強烈な出会いの数々。
ボマーの暗躍…、ハメ組の人々…、ビノールト、ゴレイヌ、そしてビスケ。
ビスケから齎された、厳しい修行の数々。
それでもゴンとキルアは、全力でゲームを楽しんだ。クラピカの事は心配だが、今は兎に角強くなるのが〝大天使の息吹〟をゲットするのに一番の近道だ。そして、その為には、このグリードアイランドというゲームを全力でプレイするのが一番良い。
だが今現在、ゴン組は行き詰まっている。
問題は、〝一坪の海岸線〟だ。
「最低、あと4人の手練が要る。理想は、そいつらが11人組のパーティーだと最高ってことだ」
「なんで?」
「3組で、たった3枚の〝一坪の海岸線〟を争うことなく分けれるから」
そういう問題提起があってから、彼らは喧々囂々の話し合いを長々と続けた。
その果てに、ゴンとキルアは、驚愕の名前をバインダーのネームリストに見つけ出す。
「…っ!これ…キルア!」
「ああ…!こいつ…ゴンと腕相撲した、あの筋肉ゴリラ野郎だ!!」
見つけたのは、ウボォーギンという名前。
他にも、旅団に捕まった時に聞いた名がちらほら見えた。
そこから、ゴレイヌやビスケも交えて、さらに話し合いを繰り返すのだった。
「あんた達の話の通りなら、そのパクノダってのがいたらヤバいわね。でも…リストにはウボォーって奴だけで、パクノダは無いんでしょ?だったら騙し通せるわさ」
「だったら、声をかける価値はあるんじゃないか?幻影旅団の噂は俺も知っているが…お前達の話を聞く限り、言葉の通じないイカレ共ってわけでもなさそうだしな」
「クラピカの事は、俺達が口を滑らせなければ大丈夫だって、ゴン。むしろこれは好都合だぜ?こいつらが実力者なのは間違いない」
「う~~~…」
記憶を探って、偽証不可能な調査をしてくる脅威の念能力者・パクノダがいないという現状ならば、旅団を味方につける事は不可能ではない…。キルア達はそう考えている。
それはゴンにも分かる。
確かに旅団は、実力者として申し分ない。
あのクラピカでさえ、返り討ちにあって今では半死半生の目にあっているのだから。
しかし、だからこそゴンは、すぐには割り切れないでいた。
〝友達のクラピカを、見るも無惨な姿に追い込み、苦しめている〟という事実が少年の心に重く伸し掛かる。
だがその一方で、旅団の力を借りるのが、クラピカを救う最短の道であるのも分かった。
クラピカを瀕死に追い込んだのは幻影旅団で、クラピカを救うためには幻影旅団の力が必要…という一見して矛盾する事実が並ぶと、それはゴンにとって大きなジレンマでありストレスだった。
そのストレスを飲み込むように、ゴンは、ぐっ、と喉を大きく鳴らして唾を飲み込む。
(オレは……クラピカを助けたい!)
ゴンは、ぱしん、と頬を叩いてからキルアの目を真っ直ぐに見る。
「うん。…ウボォーギンに会いに行こう」
「…よし」
キルアも、ゴンの目を真っ直ぐに見返して頷いた。
◇
現実世界への定例報告を終えて、今日も今日とてグリードアイランド。
あぁ楽しい、楽しい…楽しい。俺は今、全身でゲームをやっているのだ。五感でゲームを味わっているのだ。ゲーマーとして、本懐という他はない。
いつもならすぐに殺しに走る旅団メンバーだが、今回は、俺がゲームを楽しみたいという意向になるべく沿ってくれていて、皆であーだこーだと正規攻略ルートで色んなカードを集めている。
シャルナークなんて、もはや歩く攻略wikiと化しているし、隠れゲーマーのフェイタンもかなり頼れる。
普段はゲームに疎い、ウボォー、フィンクス、マチも、今ではグリードアイランドに結構馴染んでいて、ゲームそのものを楽しんでくれているように見える。
現在は、森の中の川で、昼飯の魚をとりつつ皆でダラダラと雑談。こういう時間もいいものだ。まさにMMOの醍醐味だろう。
「さて…順調にカード集めしてきたけど、そろそろ平穏な手段での収集は限界かな。あとは他のプレイヤーのゲイン待ちとかばっかりだし」
「問題は、未だに誰も入手してないし、情報も手に入らない〝一坪の海岸線〟よ」
「ああ。No.000は、たぶん全部の指定カードを集めた時に起きるイベントカードだし」
焼いた魚を、一度テンパランスの粘液に醤油つける感覚でジャブってからガブガブするみんな。俺の子テンちゃんが、まるで調味料だ…。
なんでも、こうする事で雑菌も劇薬も怨念も殺菌できるし、温かさも味も落ちないからオススメなんだとシャルナークは言う。いや、確かにそうだが?いつも俺だってそうやって絶対安全飲食をしているのだし。だけど…てめぇこのシャルナーク野郎、俺の発を すだち だか かぼす だかレモン汁代わりにしやがって!もうちょい、なんというか…見てくれというか…。でも、それで旅団メンバーが無事なら、結果として俺の保護団体が強いままなわけで、俺としては持ちつ持たれつかな!?まぁよいでしょう。存分にじゃぶじゃぶしなされ。
シャルナークとフェイタンが、そんなふうに食事を楽しみつつ話し合っていると、マチが何かにピクリと反応し、突然空を見上げた。
「…来る」
マチがこの反応をする時は、何者かがカードでこちらに飛んできた時だ。
以前、マチが大切にしていた指定カードを、飛んできたプレイヤーにまんまと盗まれた時から、マチは風をつんざくこの音に非常に敏感になっていた。
今では誰よりも早く飛来するプレイヤーに気づく。
マチの一言で誰もが臨戦態勢になったが、やってきた者達を見て、ウボォーが臨戦態勢を維持しつつも大喜びで破顔した。
「おお!?オメェらは!!」
空気がビリビリと震える。
相変わらずのバカデカボイスだ。
近くの木に止まっていた鳥が気絶してぽろぽろ落下し、魚達がプカプカ浮かぶ。
「~~~~~!ウボォー、気をつけてよ!それで陰獣を一人殺してるでしょ!ウボォーの声は立派に殺人兵器なんだから!」
間近で聞かされたシャルナークが、耳を押さえながら抗議していた。
「ああ、思い出した。こいつらあの時のガキね」
「…あたしとノブナガを尾けてた子供達か。まさかグリードアイランドやってたとはね」
「つーか、あれなんじゃね?このゲームやりたいから、懸賞金欲しくて俺達狙ってたんじゃねーか?」
ウボォーはガハハと笑いながら、ゴンとキルアにあっけらかんと声をかけた。
「見りゃ分かるぜ。だいぶ腕を上げたなぁゴン!たった3ヶ月で、ここまで強くなるとはな。今なら、もうちょいいい勝負できるんじゃねぇか?いっちょ腕相撲やるか、ゴン」
話には聞いていたが、ウボォーはだいぶゴン達を気に入っているようだ。
今にも勧誘しかねない勢いでゴンに接している。まぁカタヅケンジャーのクリンレッドに似ているしな、ゴンくんは。旅団に気に入られるのも分かる。
ゴリラのその勢いには、さすがのゴンとキルアもたじたじしている。
しかし、冷静に考えると、俺は原作主人公コンビと初めてのコンタクトでは?…この世界に生まれ直して云十年…ようやくゴンくんに会えるのか。感慨深いものがある。
うおーーー、生ゴンだ。生キルアだ。
ついでに生ビスケに生ゴレイヌさんだ。
ゴレイヌさんは本当にゴレイヌさんって見た目である…感動だぁ。ウボォーとどちらがゴリラレベルが上か…これは難しい問題だぞ。
ゴレイヌさんと、ホワイトゴレイヌとブラックゴレイヌと、真なるビスケと、ウボォーと、そして覚醒ゴンさんでゴリラ戦隊作るのって、今出来た俺の夢なんだ…。
…しかし、ウボォーがクラピカを返り討ちにしたとして……だとしたら、ゴン達の狙いは、クラピカの復讐だろうか。
であるならば、なんでわざわざ潜在的に敵であるはずの幻影旅団にわざわざ接触しに―――
「へー、なるほど。どうりで〝一坪の海岸線〟の情報が手に入らないわけだ」
む……、知らない間に話が結構進んでる。
シャルナークが、腕相撲してる奴らそっちのけで、ゴレイヌさんと情報交換したり話し合いを進行していた。
さすがシャルナーク。旅団の飲み会とかでも、司会と幹事させたら、右に出る者はいないからな…。
もう全部任せておいていいだろう。
「―――というわけで、ライブス。どうする?ゴン達と組むかい?」
なんで俺に聞く。
旅団の頭脳はシャルナークで、そしてクロロの右腕で相棒な実質副団長ポジはウボォーでしょ。君達で決めて。難しい事を俺に聞かないでください。決定権は常に俺に無いようにしておかないと、後で責任問題とかになったら嫌です。
何か問題起きたら、秘書が勝手にやりましたって言い訳使えないでしょ。いい加減にして。
そういう心からの思いを込めて、俺はウボォーとシャルナークを真摯に見つめた。
「…よし、わかったぜライブス!んじゃあ組もうぜ、シャル」
「そうだね。ライブスが言うなら仕方ないか。ゲームを楽しむって方針だし」
ふッざッけんなッ マジでッ なんッでだよ!なんで俺がッ 決めた事になッてんだっつーのッ!
そうやって!そうやって責任転嫁するつもりでしょう!政治家とか社長とか役員みたいにっ!
……………しかしまぁ、ゴン達と組む…か。
悪くないのでは。
おそらく、ゴンが組んでも良いよ~という雰囲気を出しているのは、きっとクラピカが生きているからだろう。
クラピカが死んでいたら、きっとゴンは復讐鬼…という程ではないだろうが、きっと俺達幻影旅団を恨むだろうから。
でもクラピカは無事ではない。
ウボォーに返り討ちにあって、ぐちゃぐちゃに吹っ飛んだとこまでは、ウボォーが確認済……クラピカは生きてはいるが、多分、重傷だ。
では、ゴンは、瀕死の友達を放っておいて、ジンに会う目的でグリードアイランドをプレイするか。否だろう。
十中八九、ゴンの目的は〝大天使の息吹〟だ。
クラピカにウボォーが殺されるのを切っ掛けとして、旅団は崩壊していくわけだが、ここは思案のしどころだろう。
ここでゴンを邪魔するか、あるいは殺してでもクラピカの復活を阻止するか。
それとも、いっそのことめちゃくちゃ積極的に協力して、すごく仲良くなっちゃうか。
まぁ答えは出ているのだ。
幻影旅団が本来よりもレベルアップしているとはいえ、ビスケとゴレイヌがいる状態のゴン組と全力の殺し合いをするのは、少々リスキーだ。とくにビスケ。
それぐらい俺にも解る。
それにクラピカも、自分の復活に旅団が協力してくれたなんて知ったら、もう復讐鬼にはなれないんじゃないか?
クラピカは意外とブレやすい…というか、一族全ての無念を背負った復讐よりも、ゴン達との今現在の友情をとるような奴。根本的に優しい人間だ。めっちゃ短気で煽り癖あるが。
一度ブレてしまえば、もう俺達に全力の殺意の念をぶつける事はできないのでは?と予測する。
…一度、クラピカにごめんなさいしに行ったほうが、生存確率が……いや、やめておこう。…いや、だが、ゴンと仲良くなった後でゴン同伴で謝りに行けば…ワンちゃん許される可能性も…。いや、やめておこう。危険過ぎる。……だが、待てよ。謝罪の手土産で、GIクリア報酬〝身重の石〟あたりを持参して「これがあれば単性生殖で繁殖できますね!クルタ族復活!復活ッ!」すれば…。いや、やめておこう。危険が危ない。
余計なことはしない。コレが一番である。
うむ。
よし!生存ルートを開拓できそうだぞ!
これからは、幻影旅団はゴン君とお友達です!
過去に人殺しいっぱいしてるゲス集団の俺達でもダイジョーブ!なんせ暗殺者のキルア君とも親友になれるし、食人鬼のピョートルさん?にも敬意を払える危うい奴だから!フローレスな怪物だから!
復讐鬼の鎖野郎と、俺達との仲を取り持ってもらおうではないか。
「…」ニチャア…
俺はにっこり笑顔で、ゴンに握手を求めた。
よろしく♡俺を守って♡
「…うん、ライブス?だっけ…?わかった。次はライブスね!よーし、ウボォーさんには全敗しちゃったけど、今度は負けないぞ」
はえ?
「レディー…ゴッ!」
―――メッギャアアアアッ!!
「…!!!?」
腕がーーーー!!
俺の腕がーーーーーー!!!
「え、ええ!?うわあああライブス、ごめんなさい!!腕折れ…てるとゆーか、ちぎれてる~~!!!?」
「嘘だろ!?幻影旅団だろアンタ!?こんなあっさり負けんなよ!」
ゴンとキルアがめっちゃ驚いている。
ゴンは平謝りだ。
素直な少年だ。おじさん、キュンキュンしちゃいそうだよ。
まぁネジ曲がった腕は、イエローテンパランスの腕なんだ。
皮膚破けて肉がちぎれてるように見えるけど、それって肉と融合したスライムなんだ。
けど、握手の腕をいきなり引っ掴んで腕相撲するとはどういう了見だい?君はウボォーかい?脳内ゴリラめが。
「大丈夫だよ。ライブスはそれぐらいすぐ治せるから」
マチが、それとなく俺の能力を誤認させるような言い方で、ゴンとキルアに教えてやる。こういう時、マチは真っ先に気遣いしてやるぐらいに優しい。
だが、マチは「自力で治るよ」なんて言いつつ、俺の千切れた擬態腕を持って念糸縫合の構えをしている。めっちゃ近寄ってくるじゃん。う……ふわりといい匂いがするし…マチさん、お胸が……くっ。
…ま、まぁ…確かに一時的に組むだけの仲なのだから、俺の念獣を教えるのは得策ではない………と言っても、どうせこの後のレイザー戦で、俺の能力もバレるだろうが。
『ぎひっ、ひひひっ、ヒヒ!痛ェ、痛ェヨォォ!俺の腕をイキナリちぎるナンテ、ヒデぇヨォォ!ヒデぇちびダァァァァヨォォ!ギャハ!ギャハハッ、ギャーーハハハハハ!!』
「うぉ!?あんた、無口なおばさんかと思ってたら、そんな感じに喋るのかよ!?キャラ掴みづらっ」
キルア君の指摘は正しい。
今のは俺じゃなくてテンパランスが喋ってるだけなんだ。
デメちゃんの「ギョギョッ」みたいな鳴き声に近いものだから気にしないでくれ。
でもこうやって勘違いを加速させとくのは良いかもしれない。
正体を隠しておけば、敵になろうが味方になろうが、いつか役に立つ場面が来るかもしれないし。
どうやらゴンもキルアもゴレイヌさんも、俺がイカれた性格している、治癒に特化した念能力者の巨漢おばちゃんだと信じ切っている……といいな。
ビスケだけが、ジーっと鋭い視線を俺に向ける時があるっぽいが、さすがは年長者。さすがはハンター協会のおかーちゃん…ではなく、おねーさん。しかしその視線に気づく俺もなかなかだな?俺も立派に実力者になったのでは?
…もう油断バリバリで、舐めプしまくっても生き残れる…?
ビスケの視線に気づくって…相当なレベルの証拠だろう。
きたな…。
とうとう…。
俺は…上澄みだ!上澄みに至った!
俺は…生き残れるぞ!!
そう思っていた時が俺にもありました。
「……!!!!!!」
俺は怖すぎて声も出せずに、レイザーの球を捕球していた。
捕球というより、ぶち当たっていた。捕れるかあんなボール!
命中した瞬間、
――ドッパァァァァァァンッッ!!!
という感じの、大津波がコンクリにぶち当たったみたいな派手な音を出していた。なにこれ怖い。
スライム肉鎧が波のようにプルプルうねって、直撃した部位なぞ大きく凹んでミニクレーターが波紋を描きまくって、俺の本体まで後2cmってとこくらいまで食い込まれた。なにこれ怖い。
かつて、このレベルまで肉鎧を貫かれたのは、数年前のウボォーのビッグバンインパクトが直撃した時と、フィンクスの50回転リッパーサイクロトロンが直撃した時以来だ。
強化系の近接必殺技と同等の威力を、投げたボールに込めるって…どれだけ化け物なのレイザー。さすがジンの仲間だ。
やっぱりこの世界怖すぎる。上には上がわんさかいて…もうやだこの世界。
「これは驚いたな。そこまで手加減したわけじゃなかったが…棒立ちのままオレの投球を捕るなんて」
こんなの初めてだよ、とか言っているが、どうせリップサービス。
赤ちゃんが立ち上がったら、「わーすごい、もう立つなんて!この子すごいかも!」って言っちゃう大人の余裕故の褒め言葉…!わかってるんだそれぐらい。
「す、すげぇ…!ライブスはおそらく肉を柔らかくして、衝撃を分散したんだ…!自分の肉をあそこまで操作するなんて…オレん家の奴らも肉体操作はするけど…あんなレベルは無理だ!あれがライブスの念能力か!」
(オレが当たってたら…死んでいたかもしれない…!そういう一撃だった!それを棒立ちって……これが、オレ達と幻影旅団の力の差かよ…!くそ、少しは縮まったかと思っていたのに!相手は…遥か格上!)
キルアが、ゴンに向かってそんな事言ってる。説明係としてキルアは大変優秀だ。
俺自身の肉じゃないので、半分ですが当たってます。
「ち…!オレもドッジボール参加したかったぜ!ちくしょう!」
フィンクスが悔しがっている。
俺、フェイタン、フィンクス、ウボォー、シャルナーク、マチの6人のうち、もうすでにフェイタンとフィンクスとシャルナーク、そしてビスケが個別のゲームに挑戦してしまって、ドッジボールへの参加資格を失っている。
8人に足りない分は、俺がスライムを切り分けて自動操作でも良かったのだが、元々の流れ通りゴレイヌさんに任せる事にした。ゴレイヌさんのブラックゴレイヌ・ホワイトゴレイヌの方が、操作がうまそうだし。
俺のイエローテンパランスは、子テンちゃんとして切り分けられるのはご存知だろうが、自立して子テンちゃんだけで動くというのは、やろうと思えば出来るが…正直ちょっと苦手なのだ。
子テンちゃんは、あくまで誰かに寄生させて、そいつを仮宿主にして、原則俺の意思を大前提としつつ仮宿主の意志を汲み取り、攻撃アシストしたり、守備したり、緊急時のオーラ電池になったりする。そういう使い方がメインだ。
ちなみに、数合わせで拉致った雑魚プレイヤーだが、シャルナークが操作して(無理矢理)潜在能力を発揮させて、
ここまでの戦績は4勝3敗北(結局、シャルナーク操作の雑魚プレイヤーは全敗した。決して無駄死にではないぞ。無名プレイヤーの諸君)。そのため、このドッジボールが正真正銘最後のゲームだ。
「へへ、悪ぃなフィンクス。そこで指くわえて見てろ」
ウボォーがいきいきしながらフィンクスを煽っていた。
「ヘイ!ライブス、パス!オレにやらせろ」
はいはい。ウボォーへパス。
「レイザーっつったか?いい球だ…今度は、オレのッ、番だッッ!!!」
まるで暴風をまとうかのような、真っ直ぐのストレート球。
「渾身の全力投球ね。なかなか威力は出てるよ」
「ケッ、あれぐらいオレも投げれるぜ」
「うん。実際、ウボォーのパワーならもっと投げれるよ。投げるってのはテクニックが必要なんだ。ウボォーの投球フォームは、レイザーに比べると大分素人丸出し…やっぱこの土俵だとちょっと不利だね」
外野が好き勝手言ってらぁ。
しかし実際…、
「っ!あの野郎…!!」
「大した威力だ。だが、バカ正直に真正面から受け止める必要もない」
レイザーは、全身をバネのように巧みに使い、レシーブ受けして威力を流すと、天高く舞わせたボールをゆうゆうと待ち受けた。
「――貰うよ」
「っ!なに!?」
そこにすかさずマチが念糸を投げる。
糸でぐるぐる巻になったボールが、そのままスルリとマチの胸へ飛び込んだ。
「ルール上、あんたはこれでアウト…だよね?」
『レイザー選手、アウト!』
「…バック」
レイザーの念獣であるナンバー0は、少しも本体に迎合することなく公平な審判をくだすあたり、やっぱりレイザーって凄いと言わざるを得ない。
かなり高度な知性を与えている。
「マチ、次はオレにやらせて」
おっと、ここでゴンだ。いよいよ出るか、ゴンとキルアの合せ技。
「あんたが?…ウボォーに任せた方がいいんじゃない?」
「今の、ウボォーさんの大砲みたいな一撃見て、思いついたんだ!お願い。コレでダメなら、次からオレに回さなくていいから」
ちらりとマチが俺とウボォーを見てくる。
いいんじゃないですか?俺も原作技見たいし。
「いいじゃねーか。やらせてやれよ、マチ。ゴンだって、オレと特訓してんだ。前よりもまた強くなってる」
ウボォーの言う通り、当初はウボォーとゴンは、二人で組んでバレーボールに参加する予定だったので、二人してみっちり特訓していた。もともとバリバリ強化系の二人は、かなり相性も良かったみたいで、ゴンは急速にレベルアップするとともにウボォーと仲良くなっていた。
「…ウボォーとライブスが良いって言うなら、まぁ。…ほら」
「ありがとう!マチ、ライブス、ウボォーさん!」
ウボォーだけさん付けか。贔屓だ!俺だってお前の年上だぞ。敬称を略すな!と言いたいのをグッと我慢。決して、どきどきして言い出せないわけじゃない。俺が重度の陰キャでコミュ障だから言えないわけじゃない。大人の余裕で我慢してあげたのだ。
そこからは、やはり思った通りのものが見れて最高だ。ゴンとキルアの合せ技発動である。
良いものを見れたが、レイザーはまたもレシーブ受けで威力を殺し、そして今度はマチが糸を飛ばすより速く、レイザーの念獣が跳んだ。かなり速い。
そのまま捕球し、ボールはレイザーへと渡る。
存分に自陣営でオーラを高められるというドッジボール・ルールをうまく利用するのは、当たり前だがゴンだけではない。レイザーもまた練によって、恐ろしい程にオーラを高めていくのが分かる。
「レイザーもいよいよエンジン掛けてきたネ」
「ありゃスゲェ。当たりどころが悪ければ、ウボォーもダメージ食らうかもしんねぇな」
フェイタン、フィンクスの呑気な感想だが、ウボォーもダメージという部分がヤバさを物語る。あんな硬い人間この世に二人といないぞ?多分。
レイザーが、小走りに助走し、軽くボールを宙へと放り…お得意のバレーアタックを放った!
うそぉ。
なにその威力。
―――ギュオオオオオオオオッッ!!!!
って言ってる。怖。お遊びのドッジボールで、あれだけの威力出せるのか…。底なしの化け物じゃないですか。これだからジンの仲間は…。
真っ直ぐに俺へと突き進むボール。だが、どうやら狙われたのは俺じゃない。
狙われたのは…。
「マチ!」
「マチ、そっちだ!!!」
ゴンとウボォーが叫ぶ。
ボールは乱気流を生み出すかのような超回転がかかっていて、一気にカーブした。
当たりどころが悪ければ幻影旅団でも死にかねないレベルの、エグいカーブ球。それを放てるレイザーは、やはり半端ではない強者だ。
「…ぐぅっ!!?」
マチの腕のガードが、あまりの回転の威力に跳ね上げられてしまい、オーラの障壁をも突破し、マチの胴体に突き刺さらんとしていた。
まぁ突破した先には、俺のイエローテンパランスが割り込んでいるわけなのだが。
――ドパァァァンッッ
という派手な音が、ボールとマチの胸部の間で響く。
「…ライブス、あ、ありがと」
ずるぅぅぅっと伸びていた俺の擬態腕が、マチのおっぱいに触れていた。役得役得。ホッホッホッ。テンちゃんは、苦痛系は完全にシャットアウトしてくれるが、こういう俺が好む感触はそのまま伝えてくれるのだ。マジ高性能だしマジ本体懐いの良い子。マチのおっぱいは、柔らかく、思ったよりも大きかった…成長したな、マチ、色々と…いい仕事しているぞ、テンちゃん。
もちろん、ちゃんと守っている。擬態腕はぺちゃんこになりつつ、きちんと衝撃を分散させてレイザーの球を捕球していた。マチのガードで、大分威力が減退していたのもあって、いつもより薄く伸ばされたスライム腕でも防ぎきれた。
…子テンちゃんも、もちろんマチには取り憑いていたんですがね…まぁ、それはアレだよ。……子テンちゃんより、本体の俺が守ったほうが守備力高いし。……決して、どさくさ紛れにマチのおっぱい触ったろ、なんて思ってないから…。
「大丈、夫、か?」
「ああ。右腕だけだ。…問題ないよ」
折れ曲がった腕を、ボキボキっと無理矢理直線にしつつマチが平然と言ってのける。
さすがゴリラ女。ウボォーの妹分。
でもダメです。そんな腕じゃ、俺を守りきれるか不安過ぎる。
俺のテンパランス(本体)をお裾分けし、マチの腕に纏わりつかせた。
「……し、心配性だね」
マチが頬を掻きながら照れてる。かわいい。
そう…俺は心配性だ。心配性でなければ、そもそもこんな能力発動しないだろうし、365日24時間イエローテンパランスを纏っていたりしないのだ。
仲間の戦力ダウンは、即ち俺の安全性ダウン!すぐに補わなければ!俺のために!
「…っ!やるねェ…」
(まいったな…アレをあの程度の傷で受け止めるなんて。あのちっこい方の女の防御だけなら仕留められたはずなんだが…もう一人の、あの巨体の女……とんでもないな)
レイザーさんも、俺達の健闘を称えてくれているようだ。
だが、まだまだ序の口のはず…もっと威力が上がってくる事を念頭に置いて防御しなくては。
外から見てくるビスケの視線も、「まだまだ青いわねー」なんて思ってるに違いないのだ。周りが格上達人だらけで、そんな奴らにジロジロ見られながら念ドッジボールさせられるのって、大分ストレスだ。もうやめたい、こんなドッジボール。そもそもドッジボールって…すごく陽キャゲームなんだ……陰の者にとってはね…ドッジボールってのは無様に逃げ惑い、おこぼれ球を拾って投げたって相手に捕られ、時間切れを狙うしかない無様ゲームなんだ…真正面から投げ合いの応酬が出来る陽キャだけが輝く、そんなゲームなんだ…。
つまりはウボォーの為のゲームなんだ。
ほら今だって、
「へへっ、マチの仇討ちだぜ。…オラァァァッ!!!」
ウボォーだけが、元気いっぱいにレイザーと投げあってる。すっげぇ光景。あっ、レイザーの念獣13号ちゃんが消し飛んだ。
「…本当に、凄いレベルの使い手達ですね。見惚れてしまいます」
(…なんというレベル。…まず目立つのが、ウボォーギン。…あの肉体…惚れ惚れするわさ。技術が荒削り過ぎるけど、肉体だけならアタシの本気の姿を超えている…!総合戦闘力なら、アタシが上…だけど、単純な力勝負ならば、あたしをも上回っているであろう。…次に、あのピンク髪の女・マチ…超高速での流は美しいの一言。堅も、まるで一流の強化系並みに強い。さすがのレイザーの念弾も威力は減退…とはいえ、まだまだ致命的な威力を保っていた、そこであの大女…!けど、本当に女なのかしらね、あいつ。
「…お褒めに与り光栄だね。…でも、君も本当はめちゃくちゃ強そうだけど」
(こいつ…肉体が操作されてるのかな?うーん…なんか、肉体操作の時みたいなオーラの癖が、ちょっとだけあるんだよなぁ。それに…確か、ビスケット・クルーガーって、聞き覚えあるんだよねー。……第247期か248期…あの辺のプロハンターの名に、確か同姓同名がいた気がする。…だとしたら、実年齢はざっと50から60。その年齢に至るまでの練磨を、この幼い肉体に圧縮しているんだとしたら…。ゴンとキルアだって、大概の天才だと思うけど…同年代の見た目で、もはや気配は達人って感じの、この子の雰囲気にも納得できるんだけど)
「いえいえ、私なんてまだまだです」
「ってか、ビスケってプロハンターの名簿で見た事あるんだけどね。ダブルハンターだっけ?あ、オレも一応プロハンターなんだ」
「おほほほ、いえいえ、同姓同名の人違いかと」
なんか、猫かぶりのビスケとシャルナークが、仲良さそうに会話しながら俺達を観戦している。
シャルめ…美少女と、のんびりくつろいじゃって…。でも、その人…ゴリラですよ?いいんですか?
あっ、またレイザーのパスからの超高速背後シュートを、ウボォーが捕球成功している。すごいぞウボォー。もう全部あいつでいいんじゃないかな。
そんなふうにウボォーが無双している横で、なにやらゴンくんがマチに、しんみりと謝っていた。
「…ごめんなさい、マチ。オレのせいで…」
「あんたのせいじゃない。さっきの一撃…申し分ない威力だったよ」
次は必ずアウトをとりな、だって。マチは本当に根が優しい。
そもそも、旅団の連中の大半は皆、根っこは優しいのだが、それが表層に向かって行くに連れて糞&糞&糞オブ冷酷な追加トッピングがどばどば掛かる仕様になっている。
そこに、 旅団初期メン>>越えられない壁>旅団加入組>>>>流星街>その他 という図式が加わるから、より一層、他人達に塩対応なだけで。
「でも、キルア…その手、ちょっと見せな」
「なんでだよ。別になんとも―――おい、やめろって!」
ポケットに突っ込んでいた手を、ぐいっと引っ張られたキルアが、一瞬顔をしかめる。痛むのだろう…実際痛そう。テンパランス無しの俺ではとても耐えられないレベルだ。きっとショック死する。
ゴンの最初はグー砲弾の、砲身役をこなしたキルアの手は痛々しい。
「おお、腫れてんなぁ。でも、その程度なら唾付けとば余裕でいけんだろ?ゴン、キルア」
ウボォーが何も気にせず、余裕たっぷりに言えば、ゴンもキルアも笑っていた。
ここには止める奴は誰もいない。
彼らの師匠であるビスケと、あとマチもちょっと心配そうな目で、お子様ーズを見ている。…保母さんとか向いているんじゃないですかね、マチは。
「もちろん」
「うん!」
そしてゴンキルは寧ろウボォーよりの思考で、心配するマチを他所に、ウボォーからの発奮で大いに気力を漲らせる。
ウボォーに対し、視線でも、そしてオーラでも〝自分達にやらせてくれ〟と訴えかけて、ウボォーはそれを受け止める。
…君ら、相性良すぎじゃないか?
「ま、気が済むまでやってみな!お前らが潰れたら、オレ達がそのまま勝ってやるからよ。…ゴン、キルア、てめぇらがやってみろ!」
敵から捕ったボールを、「ほらよ!」ととゴンへ投げ寄越すウボォー。
実際、ウボォーの言った通りになるだろう。
殺し合いになったら、レイザーが一体どんな隠し玉を使ってくるか分かったものではないが、これが殺し合いではなくルールに則ったドッジボールだから、俺達だけでも充分勝機がある。
俺もウボォーも無傷だし、マチもまだまだ片腕残ってるしで、試合続行は余裕。
…。
ゴ、ゴレイヌさん…。
ゴレイヌさんは……守り忘れて…ごめんなさい。
彼は…ゴリラ転移能力を駆使して、一回レイザーの顔面にボールをぶち当てたんだが…その結果、能力の強さを認められて、結果早々に潰された。
ゴレイヌさんがやられるの見て、「あっ、ゴンとキルアに子テンちゃん憑けてないじゃーん」と思い出せたので…許してほしい、ゴレイヌさん。
防御の俺、攻撃のウボォー、サポートのマチ。リタイアのゴレイヌ。
うーん、完璧な布陣。
よし、ゴン、キルア、何かあってもウボォーが責任をとってくれるって!思う存分いけ!
一応、子テンちゃん以外にも、お前らの足元に伸ばした隠テンパランスも潜ませてるから。これで、いざという時は防御壁になれるな。ヨシ、GO!
最後は原作っぽい感じの流れで、念獣消し本気レイザーの一撃をゴン&キルア&ウボォーギンのトリプル合体受けからの、ゴン渾身のグーで気絶からの、跳ね返されたボールをウボォーがビッグバンインパクトしたらレイザーが捕球できずに、我々の勝利だった。
…俺、いる意味あった?
本当に全部ウボォーがやってくれた………。捕球だって、ウボォーだけでいけてたっぽいし。子テンちゃんすらいらなかったのでは?
俺、マチのおっぱい触っただけで終わったのだが。
…。
……。
突っ立ってただけで勝てるとか…ドッジボールって………楽勝だぜーーー!1(投球回数0回)