え?俺が幻影旅団の4番ですって!? 作:ハンマーしゃぶしゃぶ
ドッジボールの後、確か本来ならばゲンスルー組から、脅しの連絡が来た筈だが…。
あれはゲンスルーとカード取引をしていたツェズゲラがいたからこそ、というのを俺は失念していた。
つまり、いくら待ってもゲンスルーから連絡は来ない…!
なんたる盲点だ。
もし本来の流れ通りにゲンスルーに喧嘩売られたら、そのままゲンスルー戦まで雪崩込んで、ゴンキルにもっと恩を売ろうと思ってたのに。
原作展開を待っても無意味と悟った俺は、何とかしようと努力するでもなく、そのままズルズルと流れに身を任せる事とした。
だってしょうがないんですよ。元々、幼馴染達にすら満足に喋りかけられないこの俺が、ゴン君やキルア君に色々喋って流れを誘導など不可能なのだ。
さてどうなるか…と思っていたら、キルアの方から、「…ねぇ、これからも一緒に行動しない?」とお声掛けがあった。
多分、キルアとしては俺達の動向が気になるのだろう。そういえば、ヒソカも監視下に置こうとしていたな、キルアは。
別に拒否る理由もないし、寧ろゴンキルが良いのなら、俺達も彼らの旅に同道させてもらうとする。
ゴン組と共に、魔法カードを揃えて他のプレイヤーからも積極的にカード奪ったりをしつつ、ゴンキルへのビスケの修行にも付き合いつつ…な日々を送る事になった幻影旅団。
なんというか…非常に…まったりしている。
ゴンキルとウボォーギンはもはやどっぷりと仲良しだし、最近では他の蜘蛛も籠絡されつつあった。
主にゴンだ。
ゴン…ここまで年上キラーだったとは。
たまーにくじら島にて、年上のおねーさま方とデートをしていた経験か。
思い返してみれば、ゴンは男女問わず年上連中とばかり接点があるし、年上とのコミュニケーション経験が圧倒的に優れている。
…その事は、劇中でも言われていた気がする。確か、同年代・同性の友人はキルアが初なんだったか。それだけに、やはりゴンとキルアは大親友なのだろう。
なんだか彼らを見ていると、昔の自分とクロロもこんなんだった気がしないでもないなァ…と、井上陽水の曲でも掛けたくなるような、そんなセンチメンタルな心がムクムクと湧き上がってきそうになるじゃあないか。
…ゴンキル、いい。
今日も見守ってやるか…。
『ゲヒッ、ゲヒッ、ケタケタケタケタケタ』
「…ね、ねぇキルア。オレ達、見られてるよね」
「…目ぇ合わせなきゃ…大丈夫だろ。多分。…見た目程ヤバい奴じゃなさそうだし」
少年のユウジョウ、オレガ守護ル…。
…。
……。
ハッ!?
いかんいかん。
一体俺は言っているんだ。
余りにも純粋で尊い友情にあてられて、ついつい自分勝手な保身力が低下してしまっていた。ダメだダメだ。こんなことでは、この厳しい世界で幸せで安楽な老後を過ごしつつ美人嫁に看取られて死ぬという俺の大目標が達成できなくなってしまう。
この世は弱肉強食。いざともなれば、ゴンキルとて俺の保身力の為のリソースとしてくれる。
「ねぇライブス、オレの全力のグー、試してみていい?」
…。
たくさんおやり!
おかわりもいいぞ!
「押忍!ありがとうございます!」
コクコク頷くと、眩い純真さで俺に全力のお礼をするゴン君。
くぅ…眩しいです。
「ちぇー、いいなァ、ゴン。オレの手、早く治んねーかな」
ともに行動するようになってから、最初のうちはビスケもキルアもちょっと警戒してて、修行でもあんまり手の内を見せないよう気をつけていたような気がする。
しかし、最近は警戒心も徐々に緩くなっているのか、修行の効率が悪いと判断したのか、それとも両方か、とにかく俺達の前でも堂々と修行をやりだしたのだった。
キルアは、お手々があれなので残念ながら修行お休みだが。
――2日経過――
「ゴン、そっちいったぞ!」
「OK!まかせて!」
「いいぞ!よーし、やるじゃねーか!」
「へへ、ありがとうウボォーさん」
――4日経過――
「違うよ。こうじゃなくて…こう。あんた強化系だろ?あんま考えずに、感覚でやってみな。オーラの流れは人がどうこう言うもんじゃない。自分で掴まないと」
「押忍!ありがとうございます、マチ!」
――8日経過――
「へへ、やるねェ。やっぱり見た目通りの年齢じゃねぇな、ビスケ」
「あなたも。素直に称賛するわ」
「っしゃ、もう一度やるぞ!」
「ご自由に」
――12日経過――
「ゴレイヌ、思たより腕相撲弱いね。ゴリラの面汚しよ」
「いつつつ…いや、アンタらが強すぎんだって。…つーか、ゴリラの面汚しって…」
「あちにゴリラの勇者いる。オマエが目指すはあそこ」
「…あれと同じ土俵で考えるのは、ちょっと勘弁してくれ」
――16日経過――
「ちょっと!そのビールはあたしのだわさ!アンタは自分の分、全部飲んだでしょ!」
「いーじゃねーか!ケチケチすんなよ。また盗ってくるって!つかキャラ変わってるぞ、なんだ〝だわさ〟って!」
「盗るな!金払え!アタシは心まで盗賊に売り渡しちゃいないのよさ!!」
「まーまー落ち着きなよ。こんな事もあろうかと、オレとゴレイヌが追加の買い出し行ってたからさ」
「さんきゅーシャル!愛してるぜ!」
「あんたら…気が利く男はモテるわよ~!」
「はい、ライブス。こっち食べな。そっちは骨が多いから」
「…」
平和。
平和だ、平和過ぎる。
ゲンスルーとかツェズゲラとかが、何か俺達にしてくるかなー?と思ってたら、別に何も起きない。
これでは、普通にゲームして、普通に修行して、普通に楽しくサバイバルしてただけだ。
それにしても…ゴン、キルア、ゴレイヌ、それにビスケまで…馴染み過ぎでは?
「キルア、手もいい感じだな。よし…んじゃー、オレと
「…いーよ。ちょうどビスケもゴンにかかりきりだったし」
フィンクスでさえ、このようなやり取りをキルアとする程度には打ち解けていた。
…これもう実質、ゴンキルは名誉幻影旅団なのでは?
旅団の方からは勿論、ゴンとキルアの方からも、だいぶ親しげ矢印が出ていないか?
ゴンキルよりは距離を置いて節度は守ってる感じだが、ゴレイヌさんもビスケもかなり距離近くなっているしな。
…節度…?いや、節度守ってるのゴレイヌさんだけか?
そんな平和な日々だったが、いつものように日課の情報収集から帰ってきたシャルナークからの報告で、平和の終わりは近い事が分かった。
「ツェズゲラ組が、リタイア?」
シャルの報告内容に、マチが少しだけ驚いた様子を見せる。
「うん。ゲンスルー組と、知恵比べ有り暴力有りの、あの手この手のやり取りがあったらしいけど…最終的にはゲンスルー組に軍配が上がったみたいだね。シソの木で待ち伏せしてるゲンスルー組も観察してきたから、間違いなくツェズゲラ達はグリードアイランドから離脱している」
「好都合じゃねーか。これで潰すチームがゲンスルーだけで済む」
とはフィンクスの言。
「ツェズゲラとは少しずつコンタクトとって、有効利用する足場組んでたんだけどなー。残念」
最近、ちょこちょこいなくなると思ったら、そんな事してたのか…さすがシャルナーク…抜かりない。
「さて…じゃあいよいようちらも、ゲンスルー退治に本腰入れようか」
ニヤリと笑ったシャルナークが、作戦会議の開始を告げた。
◇
結果を言ってしまうと、結局ゲンスルー達と幻影旅団は直接干戈を交える事は無かった。
ゴンが、ハメ組の仇討ちをしたいと言い出して、なら旅団が手を貸しすぎるのもお門違いになるし、既にゴンもかなり強くなっているからイケるべ…とフィンクスが言い出したのもあって、我々蜘蛛はゴン達のバックアップに全力を尽くすことになった。
「オレ達が一緒だと、きっとゲンスルー組は接触を避け続けて、必勝のカードが集まるまでひたすら逃げ回ると思う。だから、喧嘩別れしよう」
そう提案してきたシャルの策に従って、旅団は昔培った演技経験を発揮し、ゴン達と盛大な喧嘩1をしてから別行動を開始。すると、数日が過ぎた頃に、ゴン達は突然ゲンスルー達に襲われたとの事。
シャルが見越した通り、ゲンスルー達は旅団を警戒していた。
まぁ気持ちはわかる。ウボォーとか見るからにヤバいからな…さすがの武闘派念使いも、関わりたくなかったらしい。
というわけで、本来の運命の通り、ゴン・キルア・ビスケだけで挑み、当然のように勝利を収めた。
ビスケ曰く、「あんたらと過ごしたのが、ゴン達に良い刺激となった」という事らしく、ゴンのレベリングが原作より上手く行っていたようだった。
蜘蛛がやった事といえば、バトルフィールドのお膳立てと、万が一の為にゴンとキルアの戦いを遠くから観戦した事ぐらいだ。楽チンでした。
ゴンの負傷は、俺の記憶の中のゲンスルー勝利直後よりは、両腕も無事で軽いように見えたが、これはゴンのレベルアップによるものか、それともこっそり憑けていた子テンちゃんによるものか。
まさかラスボス戦が、ゴンによるイベントバトルで終了とは、あっけない幕切れとなったが…これもあれか、修正力ってやつか!そういう事だな!決して、決して、率先して戦うのは面倒臭いし、ゴンがやるならやるで良くね?とか思ってはいない。よかったよかった。
ゴンのその頑張りは、ウボォーは勿論、フィンクス、フェイタン、シャルナークも納得していたようで、俺が敢闘賞とばかりにゲンスルー達のカードを差し出すと、
「オレ達はライブスに付き合って、ゲーム楽しんでただけだしな。そのライブスが、カードやるって言ってんだから、別に構わんぜ」
という調子で、これまたあっさり認められた。
クリア報酬に付随するパレードも、俺のような根暗野郎にはただの公開処刑だし、俺はただ極上のゲームをプレイできて、全クリに立ち会えた…それで満足だ。
どうぞゴン君。全クリパレードは、君にこそ相応しい。………パレードが絶対イヤとかではないぞ、本当だ。まぁ、でも、ほら…ゴン君こそ主人公だからね。譲って当然だろう?
で…俺達、幻影旅団は間近で優勝パレードを観察して、一緒になってワイワイやっている。
着実にお別れの時は近づいてきているぞ。空気がちょっと、しんみりしてきた。
「ウボォーさん、今までありがとうございました!!」
「おっちゃん、ありがとな」
「オレはおっさんって年じゃねーぞ!!!あと、お前ら旅団に入れ!」
めっちゃ仲良しじゃん…。
他にも、フィンクスもフェイタンもシャルナークもマチも、何かもう皆仲良くなってる。陽キャのコミュ力すっごぉ。たっかぁ。陽キャと陽キャで、こうも相性がいいのか…。
俺だけか?俺だけがやはり仲良くなっていないのか?どうせ俺は陰キャでコミュ障とでもいうのか?その通りだが?
「ライブスも!」
「…?」
ゴン君が、眩しい笑顔で俺に手を差し出した。
これは、あれ…?初対面の時の天丼ネタ?
また奇襲腕相撲で、俺の腕を破壊しようというのか。
天丼ネタで陰キャいじりして、俺の腕爆散させて笑いを取ろうとでもいうのかね?ゴン君…陽キャ同士とはいえ、ヤンキー集団である旅団に感化されてはいけないよ、ボーイ。君は君のまま、やさぐれず、陰キャにも先入観もたず、大きくなって欲しい。
「ドッジボールの時も、ゲンスルーとの戦いの時も…オレ達の事、守ってくれてたって…ビスケから聞いたんだ。だから、ありがとう!」
「…」
おほー、バレてた…見抜いていたか、さすがビスケ。恥ずかしい。
面と向かって、キラキラ笑顔で俺にそんなお礼言わないで。
自分が酷く醜いって自覚が強まっちゃうの。やめて。おじさんをそんな純粋無垢な瞳で見つめないで。
ん?
おや?
何やらゴン君の様子が…?
「…………………………本当は、オレ達……あの、ウボォーさん達と戦った鎖―――」
「っ!?おいゴン!!」
慌ててキルアがゴンを制止していた。
おやおや。
おやおやおやおやおやおや。
いま鎖って言いましたか?
いけませんよ、ゴン君。
まずいですよ!それ言ったら、敵対ルートに入っちゃうじゃないですか。言うなよ…言うなよ…。
今まで一緒にいて絆されちゃったのかもしれないけど、ゴン、我慢して!黙ってて!お前が余計なこと言わなければ、幻影旅団は主人公敵対ルートにいかなくて済むんだから!お願いゴン、ここを耐えきれば、また友達として会えるかもしれないんだから!次回、幻影旅団死す!デュエルスタンバイ!
「……鎖野郎と繋がってる、でしょ?」
っ!?マチ?
な、なにィ!?マチが気づいていたのか?さすが勘が鋭い女…!
というか、シャルナークも頷いている…。え?本当に?後乗りして知ったかしているのではなく、本当にシャルも気づいていたのか?
フィンクスとフェイタンは無表情で何考えてるよくわからないが…。涼しい顔をしているという事は、そういう事なのか?
あぁ仲間はウボォーだけか。
ウボォーだけが「え?」って顔してる。いつだって皆に安心感を与えてくれるゴリラ…それがウボォーギンなのだ。
「なにぃ!?ゴンが、鎖野郎と繋がってるだぁ!!?」
「あれ?知らなかったの?ウボォー。だって、明らかにタイミング的にもそうじゃん」
「タ、タイミングって言っても、そうか?そんなタイミングだったか!?」
「ヨークシンで、マチ達をつけてオレ達の仮宿に来た時。オレ達と接触した時のオーラの警戒…。〝大天使の息吹〟を欲しがっている事実。それらから推測しただけで、確証は無かったよ。でも、まぁそうだろうな~って」
「オメェらも知ってたのかよ!?」
「あ~?なんとなくな。でもシャルと同じで、そうかもしれねぇなってだけだ」
「別に興味なかたね。ゲームしてる間は関係ないよ。それに…ワタシ達を攻撃してくるなら、その時は殺すだけね」
「ま、あたしは半分勘だったけど。…鎖野郎は、ウボォーが完璧に返り討ちにしたし、ライブスも一緒にゲームしたがってたから、別にいいでしょって思ってた」
ウボォーが口をあんぐりしている。
ゴンもキルアもあんぐりしている。
全部ばれてる…。
なんだよ、これならパクノダが居ても平気だったじゃないか。
パクノダとかここにいなくてホッとしてたのに。
いたらもっと楽にゲームが………いや、あれはゲーム攻略でチート過ぎる。パクノダはグリードアイランドに呼んじゃダメだ。楽しみが半減してしまう。
しかし、不倶戴天の敵である俺達・幻影旅団に、重傷負わされて、挙げ句に友達のゴンキルが蜘蛛とちょっと仲良くなって、しかもクラピカと繋がっているのを知りつつゴンキルに協力してきた蜘蛛に自分の重傷治されちゃうって…クラピカの心グチャグチャになるんじゃないか?
まぁここは一つ、俺のイエローテンパランスがある限り蜘蛛狩りは無理って悟ってもらってですね……絶対旅団殺すマンから、絶対お目々取り返すマンにクラスチェンジしてください。お願いします。
どちらにせよ、今後の鎖野郎に関してはゴンくんの説得も期待できそうな展開だ。
ゴンだって、クラピカの復讐には元々積極的ではなかったはずだし、まぁ何とかなるだろう。
クラピカが諦めずに、イエテン対策ガン積みでまた襲ってきたら、その時こそ始末してやる…クロロがな。
「…まぁそういうわけだ。じゃあな、ゴン。大天使の息吹はくれてやる。オレ達は、このゲームを楽しんでただけだからな。現実に帰ったら、鎖野郎に伝えておけ。〝何度来てもぶっ飛ばしてやる〟ってな」
「なんでフィンクスが言うか?やたのウボォーね」
「るせーな。次はオレがやるんだからいいんだよ」
そう言われたゴンは、なんだかとても寂しそうな、悲しそうな、複雑な顔をしていた。
ワイワイと騒がしい時間もそろそろ終わる。
さてもうすぐお別れか、という時…俺は大変な事を思い出していた。
(…ゴンとキルアが〝大天使の息吹〟…ビスケが〝ブループラネット〟……。これって…カイトのとこに飛べないじゃん?これでは…キメラアント編がねじれるのでは?)
そういう事だ。
ゴンとキルアがいなくても、結局ネテロが何とかするのだろうが、それにしてもイレギュラーな事態が増えてしまう可能性は極めて大だろう。
ゴンキルには、カイトと合流していただいて、んでもってカイトが無惨に殺されてゴンの情緒がシッチャカメッチャカになってもらってゴンさん覚醒して、そしてミニチュアローズどんっ! で毒解決。これぞ俺が一番安全な解決方法よな。
そしたらネテロとメルエムって2大怪物がイベントで処理されるわけで、俺は旅団の者共と一緒に流星街に流れてくる、流浪キメラアントだけ処せばよいのだ。
しかも、全部蜘蛛任せでもなんとかなるレベル。
ふむ…その事に気付けた俺は天才の可能性があるな。
俺はゴンに向かって手招きをすれば、ゴン君は当たり前のように気付いてくれた。
おお…この程度では気付いてくれない鈍感野郎ばかりの幻影旅団とは、まるで違う。やはりゴン…君は良い子だ。しっかり周りを見ている。単純に視野とか知覚力の問題ではない…分け隔てなく気遣おうとするその心意気。それが良い。
「なに?ライブス」
とてとて歩いてくる姿もなんだか可愛いじゃねぇか…。いや、違うぞ。俺は別にヒソカのようなショタケツ狙い野郎ではない。極めて一般的に、ムチムチ美女好きなスケベ男だ。健全だ。
その精神性がね…ゴンの無垢で真っ直ぐな青い心がね…こう、くすぐられる何かがあるよね…ってだけで。「ゴン、いいよね…」って言ったら、きっと旅団の結構な数が「ああ、良い」って返してくれると思うぞ。
それぐらい、ゴンの真っ直ぐで熱い心は、カタヅケンジャー好きな俺達にぶっ刺さる代物なのだ。
本題を済まそう。
「ジン、を…探して、い、い、いる…んだろう?」
…。
ゴンくんは、俺が頑張って声を掛けても「…?」と頭の上にクエスチョンマークを浮かべて首を傾げている。可愛い。
くそ…やはりダメか…。
たまーに通じることもあるので、イケるかと思ったが。
自分の陰キャ力を侮っていたらしい。
どうする…。
どうやってゴンに、伝える…。テンパランスに任せるのは、口が汚いし、アイツ余計な事も言うし…。
…。
よし…ここは、頑張って勉強中の、
メモに…ありったけの知識で…!文字を書く!
ぬわあああん、難しい。2ホントやだ、この世界の文字。全部おんなじ記号に見える…見える。
…〝森〟ってどう書くんだっけ…。
くぅ…ゴンくん、一生懸命メモに書き込んでいる俺を、そんな目で見るなよ……惨めになっちゃうじゃないか。
――カキカキカキカキカキ
できた。渾身の文字の羅列。今までここまで文字を書いたことはない。あらゆる手続き系は、全部シャルナークかマチにやってもらっていたからな。
さぁ見ろ、ゴン。このメモを!
「………?えっと……なに?これは………模様…?あ、違う、文字か。あ、あはは…ごめんなさい、文字に見えなくて…………読めって事?…じゃあ読むね。……うーんと……………………え!?ライブス、まさかジンがどこにいるか知っているの!?」
――カキカキカキカキカキ
「……………え~と…この文字は……カ、かな?…で、この文字は…………………えぇ!?ライブスはカイトと知り合いだったんだ!どこで知り合ったの!?」
頑張って俺のクッソ汚い文字を解読しようとしつつ、解読する度、お目々をキラキラさせて俺を見てくる。
ゴン、推せる。
しかしおかしいな…俺はメモに、カイトと知り合いだなんて書いていないはずだが…。ゴンは一体何を読んでいるんだ?3
俺はそこまで悪筆なのか…くぅ…やはり、勉学も俺には向いていない。何なら向いているんだろう…。まぁいい…大まかには伝わっているようだし。
――カキカキカキカキカキカキカキカキカキカキ
「アイジエン大陸中央部…カキンの森林地帯……!そこでガールハントしてるの!?…キルア、ガールハントってなに?」
「女ナンパすること」
…ガールハント?俺は、ちゃんと幻獣ハントって書いた。書いてない?ふーーん…。
「……森の中で…ナンパ…?カイト……。4と、とにかく、やったー!!ジンの手がかりに繋がるかもだし、何よりカイトに会える!本当にありがとう!ライブス!!」
「よかったじゃねーか、ゴン!指定カードで思いついたコンボ使えなかったから、どん詰まりだと思ってたけど…カイトってゴンの恩人で、ゴンの親父さんの弟子だろ!?意外と女好きなんだなー!(笑)5」
筆談が成功?した…。
これは素晴らしい成果だが……とんでもなく疲れたぞ。この短い会話で30分以上時間かかってるし。しかも、筆談を成功させて伝えたかった本来の相手はパクノダであり、そしてウボォーを鎖野郎から生き長らえさせる方法だったわけだが…。他に使いたい場面なんて…ヒソカも死んだ今、もうそんなにないな。しかも、思ったより意図が伝わらない! 10年勉強してコレか……いや、確かに一日の勉強時間5分とかで放り出してたけど…大半の余暇はゲームに費やしていたけど……でも…だって…読めればゲームは出来ちゃうし…………………もう二度と俺は書かんぞ!
嫌なことは忘れよう…ゴンキルがキャッキャウフフしてるのを眺めるのだ。…なんて絵になる光景だ。まるで一個の芸術のようじゃあないか?ミケランジェロのピエタのようによ~~~~~…。
ふぅ~~~…素晴らしい…癒やされる…これが原作主人公と親友の輝き。目が潰れそうだが、目に焼き付けておこう。
「この情報で、カイトをハント出来なければ…ジンに会うなんて、夢のまた夢だもんね」
「だな。今のオレ達なら、きっと見つけられるさ」
「ねぇ、ビスケも一緒に行こうよ!」
あぁ眩しい笑顔でビスケを勧誘している。
ビスケが、これ以上一緒にいたら親心が全身の毛穴から飛び散ってヤバいって言ってたのも分かる。分かり味がすごい。
ビスケは涙をちょっとだけ流しながら、何とかゴンの魔性の誘いを断っていた。
これで何とか、ゴン達はカイトの元に行ける…かもしれない。まぁ無理だったら無理なりに、ハンター協会とネテロがきっと何とかするだろう。
ゴン君達には、これから過酷な展開が待っている可能性が高いが…。う…少しだけ、良心の呵責が……いや、ここはやはり心を鬼にして、ゴンをキメラアント編にぶっこむ必要があるのだ…。すまぬ、ゴン君。
さて、本当に最後の別れの時だ。
クリア報酬の指定カード3枚の取り分は、ゴン組が2枚。幻影旅団が1枚。
この分配は、なんだかんだで俺達旅団もゴンに絆されて、友達が死にそうなのを救おうとするゴンの姿が…サラサの件を思い出させちゃったのか、旅団の皆が譲ってやった事に起因する。
本当にダダ甘になったな!?あれだけ活躍したんだからもっとせびれた筈なのだが。
一度、身内みたいなポジションになっちゃうとなぁ…本当に甘いのだ、こいつら。
やはり俺が冷静な知性派ポジションで、皆の足りないおつむを補わんとな。
(オメェも、ゴンキル推セルとか、ホザイテタジャネエカ。ゲロ甘)
ハァ?
いきなり人の脳内に語りかけてきて好き勝手適当な事言わないで欲しいんだが?なんだこの腐れスライムは。
本体である俺の内心に勝手に干渉するんじゃあない!
許可しない!俺の心を勝手に読んで暴露するのは許可しないぃぃぃ!!
(ウケケケ)
全く…親の顔が見てみたいぜ。とんだ反抗期スライムだ。
それはさておいて……で、俺達が選んだ指定ポケットカードはというと…。
くくくく…これがあれば、旅団の悪の道イケイケ暴走ルートを抑制出来る可能性大!
俺が幸せな老後を掴むためには、このまま旅団最強ルートを爆走するか、それとも大人しい幕切れでひっそり引退ルート…!前者は茨の道、後者は頑固なクロロくんが障害…!頑固なクロロくんを説得して殺戮盗賊稼業を引退せねばイカンのだが、それはクロロ万歳の蜘蛛では無理…。口下手な俺ではもっと無理…。
というか生きてる幼馴染達では無理! クロちゃんたら頭良いのに変なとこバカで鈍感だから、死んでからしか大切なものに気付けないタイプ…!
ならば…死者に説得してもらえばいいって結論である。
クロロを説得できる奴とお話しさせて、俺が助かるルートをさらに増やすカード…それはズバリ――――
◇
ライブス達がゲームから帰ってきた。
帰ってきたと言っても、グリードアイランドが行われている島からの帰還というだけだ。
その事は、彼らが一時帰還した時にシャルナークから聞いていた。
クロロは、愛読書をパタン、と閉じて、信頼する脚達の顔を、一人一人見回した。
「…よく戻ったな。どうだった?ゲームの世界は」
「あぁ、面白かったぜ。結構修行にもなった。よく出来たゲームだったな、ありゃ」
ウボォーが笑顔で言う。
「あと、前にここで捕まえたガキいたね」
「あいつら、かなり筋がいいぜ。団長、あいつらの入団を推薦するぜ!!」
「そう簡単にいかないって。鎖野郎とお友達なんだから」
「…?」
フェイタン、ウボォー、マチだけで話が進んでいき、いきなりの入団推薦だ。
さすがのクロロも、話が少々飛んでいては推測も出来ず、団長らしい表情を少々崩して首を傾げる。
「オレがまとめて話すね」
こういう場面では、このようにシャルナークがいつも解決してくれるというのは、旅団の誰もが経験する事だ。
クロロは、シャルナークの言葉にゆっくりと耳を傾けた。
―
――
―――
「なるほど。あの時の子供二人か。……なかなか縁があるな。しかし、やはり旅団には入らないだろう、その調子では。無理矢理入団させても意味はないしな」
「まぁ…そうなんだけどよ」
ウボォーは、ノブナガと目を合わせると、視線だけで「やっぱダメだった」と愚痴をこぼしたようだった。
腕相撲の折、ノブナガもゴン達の事はいたく気に入っていたから、ノブナガも残念そうにチョンマゲ頭をぽりぽり所在なさげに掻く。
「ま、鎖野郎の友達だしね、ゴンは」
シャルナークも、個人的にはゴン達は嫌いではないが、別段、入団を後押ししようという気もない。全ては団長が決定する。それが蜘蛛だ。
だから、もう一つの事柄についても、団長の指示を仰がねばならない。
「で、どうする団長。鎖野郎の事は」
「…ゴンを辿っていけば、鎖野郎に辿り着く…というわけだが」
少しだけ目を伏せて、クロロは思索に耽り、だが答えは直ぐに出たらしい。
「鎖野郎の弱点は、ウボォーからの話で既にだいたい分かっている事だ。…ゴンという緩衝材もできた今、鎖野郎…クラピカは、もうオレ達の脅威ではない。ライブスの、子テンがいれば、強制絶にも対処できるしな」
クロロの判断が、それらしい理をいくつか並べ立てつつも、妙に甘いものになっているというのは、とっくにシャルナークとて理解していた。だが、蜘蛛の脚として頭の判断は絶対だった。
「分かった。放っておいていいって事だね」
「ああ。それにゴンとキルアは、フリークスとゾルディック…。ならば、こちらからは事を荒立てないほうが得策だ。クラピカの事も、こちらからは仕掛けない」
「オーケー」
それでは次だ。
シャルナークは早速、次の話題へと移る。
いよいよ本題と言えた。
グリードアイランドから持ち帰った〝お宝〟の開陳である。
ごそごそとポケットを漁り、そして一枚のカードを取り出した。
「ゲイン!」と唱えれば、ゴンから手渡されていたカードが、ボン!と変化。シャルナークの手には、山盛りの葉書がわんさと積まれていて、おっとと、とシャルナークがよろけてしまう程だった。
「No031…〝死者への往復葉書〟」
クロロがつぶやく。
やがてウボォーが、ライブスが…と切り出した。
「ライブスがな……これが、一番、団長が喜ぶだろうってよ」
ゲッゲッゲッ、とケタケタ笑っている、擬態状態のライブスをちらりと見て、クロロは薄く微笑えむ。
「オレだけじゃない。お前達もそうじゃないか?」
幻影旅団は、血も涙も無い殺人集団だ。
気に食わない者を虐殺するような事はしないが、必要とあれば平然と虐殺も拷問もする。
今更、死んだ同胞にも、殺した敵にも感慨深いモノなど湧かないが、幻影旅団が…未だに殺人集団になっていない時の、まだ透き通っていた時の、その頃に失ってしまった
どのような達人であっても、どのような殺人鬼であって、どんな怪物であっても、心の何処かには最も柔らかくて、最も繊細で脆いナニかが揺蕩っているものだ。
旅団創設時のメンバーにとって、この葉書は、そういう部分に深く響いてしまう〝何か〟を訴えかけてくる…そういうアイテムだった。
「
ノブナガがぽつりと言いながら、はだけた着流しから胸元を落ち着き無く掻く。
個人差はあれど、創設時メンバーの誰もが、そのように落ち着きが無さそうなのは、シズクやコルトピなどの、加入メンバーには不思議に見えた。
「死者の思いの言語化、か」
クロロは、シャルナークから一枚だけ葉書を受け取り、葉書とライブスの顔とを、穴が開くほど交互に眺めた。
(…あの時、オレが念というものを知っていたら…この宇宙に、死者と再会できるような、そんなシステムが存在すると…作れるのだと知っていたら…オレ達は、もう少し違う生き方を選択出来たのだろうか。……ライブス、お前は…オレに、そう伝えたいのか?)
他の者達も、それぞれ一枚ずつ。
そして思い思いに、それぞれが自室へと引き上げていく。
皆が、やはり神妙な顔で一瞬、ライブスの顔を見て、それから葉書を見るのは妙に面白い共通現象だった。
残ったのは、シズクとコルトピ、そしてライブスの3名。
「…ライブスは、皆があんなんなっちゃった理由、知ってるんだよね?」
シズクがきょとんとして顔で、ゲッゲッゲッと笑い続けているライブスに尋ねた。
ライブスの不気味な笑いが、ピタリと止まる。
『アギャッ、ギャッギャッギャッ、ヒヒヒッ!アイツラ、おセンチにナッテルのヨォ!泣く子も黙ル幻影旅団が情ケネェよナァ!』
「あたしは、テンちゃんじゃなくてライブスに聞いてるんですけど」
『ギャハハハ!オレ様はお呼ビジャねぇノカ!?ツレネェなァ!デモ残念ダナ~~~…オレの本体様ハ、今はお眠ノ時間デヨォ』
「起こして」
『ヤダ』
「む~~~」
「しょうがないよ、シズク。ボクらも、誰かに手紙書く?」
コルトピが気を使ってか、シズクへ言ったが、シズクはむくれ面のままライブスの前から動かない。
「死んだ人なんてほとんど忘れてるし」
「…誰か覚えてる死人いないの?」
「う~~~~ん………………」
たっぷり考え込んでから、5分後…シズクはようやくポンッと手を叩いた。
「この前死んだ、10番の人」
「…名前、覚えてる?」
「…」
そこから10分、シズクは考え込んで、そして一言「忘れちゃった」と漏らした。
可哀想なボノレノフ…と、コルトピだけは彼の鎮魂を願ってやる。
「じゃあ、ボクはボノレノフに書いてくるから。…シズクは、まぁ…適当に」
半ば見捨てて、コルトピもまた自室へと引き上げる。
シズクは、ようやくライブスと二人きりになれた、と珍しく笑顔をみせて、大きなお尻をツツツ…と滑らせて、座りながらに彼の隣まで移動する。
そして、つんつん、と彼の擬態顔を突っつくと、スライムらしくブニッと指先が沈んだ。
「……ライブス、本当に寝てる?」
『寝テルって言っテルダローガ。信ジネーノカ、コノ、タゴサクがッ!ソノママ、テメェの
「…ずっとテンちゃんが喋るってことは、寝てるんだ。ねぇテンちゃん、ちょっと鎧解除してくれない?」
『人の話ヲ聞ケナイノカ、コノ、ド低脳ガッ!解除ダァァ?イヤァァダに決マッテルだロォがヨォ~~~~』
「まぁいっか。ずっとマチが張り付いてて、こんな機会滅多にないし」
『オォット、女ト女ノ戦いカァ?アギャギャギャッ!チンタラシテルト、オメェの不利ダゼ、シズクぅぅ!』
「…うるさいな~。テンちゃんは、ちょっとデメちゃんとお話でもしててよ」
『ギョギョッ!』
シズクの側に出現した、ギョロ目の掃除機モンスターが、なんだか親しげにライブスの肉鎧に頬ずり?をし始めると、イエローテンパランスも、擬態のおばちゃんフェイスをにんまり歪めて笑う。
『デメ!元気シテルカヨォ~~、ギャギャギャッ!』
『ギョギョッ、ギョギョギョ~!』
(…かえって、うるさくなっちゃった?)
その日、仮宿の大広間には、いつまでもアギャアギャ、ギョギョギョ、とうるさい声が響いていた。