え?俺が幻影旅団の4番ですって!? 作:ハンマーしゃぶしゃぶ
俺がうたた寝から目覚めると、シズクが俺の膝で眠っていた。
何を言っているかわからねーと思うが、俺自身何が起きたのかわからない…。
頭がどうにかなりそうだった…。
操作系だとか、転移系だとか、そんなチャチなもんじゃあ、断じてねぇ…。
もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ…。
大変だ。このままでは、陽キャ集団にあらぬ疑いをかけられてしまう。
判決は、当然、有罪ッ。圧倒的、有罪ッ。
陰キャに人権なしッ。
「…とりあえず書けたけど、これって…あれ?ライブス?一人でなにしてるの?」
な…。
なんて、こと…。
なんてことだ。
よりにもよって、女性のマチが…こ、このタイミングで…。
…。
閃いた…。
いける…。
これなら、切り抜けられるっ。
俺のイエローテンパランスなら…!
ズブリ、ズブリ、と膝で眠るシズクそのものを、イエローテンパランスに飲み込む。
静かに、だが確実に!
飲み込め、イエローテンパランスっ!静かに、確実に…!
とぷん…―――
よし…成功っ!これは成功っ!文句のつけようもない…!マチほどの使い手すら気付けない静音、静寂…完全なる隠密作戦…。
静かに、シズク全部飲み込めた…!
外から見たら、多少着膨れしてるかもしれないが、それでも誤魔化せる!
あとは、静かに、けれど素早く…!
ゆっくり…進むんだ!カキン人のする、太極拳の、動きのように!
急いではいけない…!急いだら、(シズクがボロンッと漏れて、社会的に)死ぬ!
「ライブス…なんか、いつもよりデカい?」
な、なんなんだァ~~~?こいつの勘の良さ!い、いやになるぜ!本当にイヤになる!なんだってこいつは、いつだってこういう勘の良さを発揮するんだあ!?
「…ん……ライブス……ライブスの、匂い、する……スゥ、スゥ…」
うぐぅ!?し、しかも、肉の鎧の内側で、本体の俺に密着した状態で、シズクが…身じろぎする!!
あ、当たり前の事だった!なんで俺は、こんな当たり前の事を計算にいれなかった!
ヤバい!
シズクは巨乳で巨尻なんだ!
マチよりも、だいぶムチッとした豊満ボディなんだ!
だからこそヤバい!
デカ胸とデカケツが、シズクが身じろぎする度に、俺の肌に擦れる!むちゅっと潰れて、押し付けられる!これがヤバい!
『デ、デカい擬態の、練習ダゼ…』
「…ふーん」
よしっ!
よしよしよしよよし!よくやったぞ、イエローテンパランス!!
き、機転がきいたな…!よくやったぞ!マチは信じた…!とりあえずは納得してくれた!
あとで甘いの3個やるからな!!
俺は、そのまま慎重に、ズリ…ズリ…とゆっくり確実に歩を進めた。
やがて、俺は、自分に割り当てられた小部屋へと辿り着いたのだ。
短いが、長い道のりだったぜ…。廊下で誰にも出くわさないで助かった。
生きた心地がしなかった。
そして、テンパランスの内側はずっといい匂いだった。
色々な意味で、本当にやばかった。
ペッ。
俺とイエローテンパランスは、シズクを吐き出した。
ごろん、とベッドに転がるシズク。
…。
……。
危機は乗り越えたと思っていた。
だが…俺は、俺達は…っ!乗り越えていないんじゃあないか?まだ、依然として危機のままなんじゃあないか!?
同じ方法で、さらに遠いシズクの部屋まで運べっていうのか?ダ、ダメだ…これ以上は俺の理性が保たない!距離が遠い分、廊下で誰かとすれ違う可能性も増えてしまう!
う、うわあああああ~~~~、お、俺を助けろ、イエローテンパランス!
なあ~んてね。
よく見てください。いつまでもシズクを転がしておくほど、俺のイエローテンパランスはノンキしてませんよ。
対処法はもう分かっている。
切り離した子テンちゃんに、うすーく伸びてシズクを飲み込んでもらって、寝たままのシズクを一人で歩いているように見せかけて運送したのだ。
これなら道中で誰かと出くわしても、「あぁ不思議系のシズクだしな。完全に寝ているように見えて、寝ぼけ眼で歩いてんだろ」ぐらいには思ってもらえる。
イイコイイコしてやるぞ、イエローテンパランス!
(アギャッ、ゲハハハッ、キャッキャッキャッキャッ♪)
喉?をゴロゴロしてやると、スライムは狂い悶えるのだ、喜びでな。
…だが、なんてブサイクな顔で喜ぶんだ。まったくブサ可愛いスライムだ。
◇
一晩明けて、良い朝だ。
さて、みんな思い思いに手紙を書いたわけだが、特にサラサに聞きたい事もいまさら思いつかなったので、元気?と一言だけ書いておいた。単語一つくらいなら、俺とて間違えず書けるとも。
そうしたら、きちんとサラサから返事がきた。
さすがはジンとその仲間達が作った、チート念具。
死後の念とか、邪念とか、思いの強さがそのまま念として力と形になる世界だし、霊がいても不思議じゃない。そもそも、霊というものが、死後なおも残留する念を、別の言葉で言い表したものなのだろう。
念とオーラは、そもそも全ての生物が持つもの。念使いとは、それを鍛え、増大させただけの者達。だとしたら、どんなに才能の無い、念能力者として最低の部類の一般人達も、きっと残留思念を残して死ぬ…と思う方が自然なのかもしれない。
きっとこの道具は、自然界に溶け込んでいる残留思念を特定して、遺志を文字に起こすだけのパワーを与えてくれる…のかもしれない。
それはさておき、サラサからの返事の内容はこうだ。
『あいかわらず 字がヘタだね ライブス!あたしは めっちゃゲンキだよ!シんだときは すっごいくるしかったし あたしを くるしくした人たち すごくだいきらいだったけど 今はもうへーきなの!だれのことも きらいじゃないし おこってない!ほんとだよ。だから みんな もうわるいことやめて むかしみたいに カタヅケンジャーげきだん やってね!それがいちばん うれしいんだ!ばいばい ライブス!またおてがみ ちょうだい!でも まだまだこっちには きちゃだめよ◝(⑅•ᴗ•⑅)◜..°♡ ついしん はやくマチに ちゅー しなさい』
こんな感じの内容である。
やめてくれ。この返事は俺にきく。やめてくれ…。な、なんという純朴少女。
サラサは、生きてる時は公用語がちょっと読めるくらいだったのに、ひーこら言いながら書きましたって頑張りが文章全体から滲んできている。
く……十歳くらいで死んでいるから…そこで成長止まっているから、ちくしょう。流星街人の十歳だから、こんな拙い文章で、ちくしょう。それでも俺より文字キレイで、ちくしょう。シンプルにぐや゛じい゛!
思い出はいつもキレイに美化されるものだけど、サラサ…思い出通り、いや、思い出以上にめっちゃいい子だった。改めて再認識させられた。まさに旅団の太陽となるべき子だったのだ。
…だが、最後の追伸は何だい?俺に性犯罪者になれと?そんな事したら即あの世送りになるが?こっちにこないでね、なんて言っときながら、即そっち送りだが?一瞬で矛盾する高度な謎掛け文みたいなのはやめてくれ。
しかし…生きたままバラバラにされておいて、それをやった人狩りマフィア共の事を、許して水に流せるって…コイツ、聖女か?サラサのバラバラ死体は、聖人の遺体認定すべきかもしれない。
サラサへの感情など風化しかけているなんて、生意気言ってスミマセンでした…。
俺程度の思い入れしかない、こんな薄情な奴に、こんなレベルのお返事が来るって…他の皆、情緒ぐちゃぐちゃになってるんじゃないか?
クロロあたり、心死んでそう。なんで俺は悪役やってんだろ…って自己嫌悪に陥ってないか?
確かに、クロロの悪党としての心をバッキバキに折ってもらいたかったのだが…自決モードに追い込まれる程はヤバいのだ。そのへんのフォロー…こんな良い子のサラサなら、してくれている気もするが。
大丈夫か?
生きてるか?
腹掻っ捌いてない?
イエローテンパランスのおっぱい揉むか?
そう思いつつ広間に行ったら、クロロだけが起きていた。
「………ライブス、か。…なんだろうな。目覚めが良いのか、悪いのか…よく、わからないんだ」
おお、隈が凄い。
だが、瞳はどこかスッキリしているようにも見える。
そうか…そうだよな。イエローテンパランスの偽おっぱいなんて、クロロには必要ないんだ。だってパクの天然巨乳がいつだって側にあるんだから。
「…サラサがなんと言っていたか………たぶん、お前の想像通りだよ。……ライブスも、きっとそうだろ?」
別にそんな事は聞いていないが。まぁそうだろうとは思う。
きっと、サラサは皆に、あんな感じのメッセージを送っただろう。あの心温まりすぎる、素朴で無邪気な…童心に引き戻されてしまいそうになる、あのメッセージ。
幻影旅団を、人殺しの盗賊集団から、昔のような演劇集団に戻したい。
それが、サラサの霊魂が望んでいる事なのだ。
これが、〝俺達が望む返事を、俺達の思念を読み取って投射する〟ような代物でも無い限りは、本当にサラサが望んでいるのだと思わされる、そういう説得力がある返事だった。
イエローテンパランスとは、また違ったベクトルのチート念能力である。
「…私の能力で、読み取ってみたけど……少なくとも、私自身の記憶でも感情でもないモノが込められていた。……すごいのね、これ」
パクノダだ。
いつの間にか広間にやって来て、クロロの隣にゆっくり腰を下ろすとそう言った。
そこから、フェイタン、ウボォー、フィンクス、フランクリン、ノブナガにマチと、初期メンがポツポツとお目覚めらしい。
誰も彼も、妙に辛気臭いし、力の籠もってない目をしていて、茶を入れたり、コーヒー飲みだしたり、サンドイッチ食いだしたりと朝の時間を過ごしだす。
そして、誰ともなく、サラサとの思い出を実にしんみりと語りだして、サラサのお返事を見せ合いっこしたりと、見事に仲良しサークルの本領を発揮している。
…。
うぬぅ……なんだこの空気。しんみりし過ぎている…。
俺はこういう雰囲気が苦手なのだ。
しかも、俺だけろくすっぽ喋れないから、「ねぇねぇ皆、俺に来たサラサのお返事見ろよ見ろよ~」みたいに言い出せず、見せびらかせないので鬱憤溜まるし、この手のイベントは俺にとってろくなもんじゃない。
自分で、サラサからのお手紙イベントを仕組んでおいてなんだが…俺は抜けさせてもらうぜ!
苦手過ぎる空気になったので、俺は一人でそそくさと仮宿を抜け出して、ヨークシンの廃墟から朝日を拝む。
しかし、あの空気…コルトピとシズクが起きてきたらどう思うのだろう。
可哀想に。
ものすごい疎外感だろうな。
サラサ?誰それ?という感じなのは確定的に明らかなのだ。
さっぱりとした朝の空気を味わいたかった俺は、のそりとアジトの廃墟群の外へと出た。
コルトピが定期的に廃墟の建造物を増やすので、朝日を受けるこの景色も毎日、その景観を変えている。
冷静に考えると…いや、冷静に考えなくとも、コルトピのオーラ量は大分おかしい。
10階建てのビル程度ならば、50棟程度余裕でコピーできるという。しかも円のような効果まで付与するって?チートだ、チート。オーラ量バグってるぞ、コルトピ。1
そんなチートコルトピのお陰で、こうして毎朝違う景観を楽しめるのだから、コルトピには感謝しかない。
うむ…綺麗な朝日。しみったれた空気が纏わりついた心が洗われるようだ。
「…風が、気持ち、いい…な……」
擬態肉鎧に受ける風が、テンパランスの感覚伝搬によって俺の皮膚へと伝わってくる。
『ギャハッギャハッアギャアギャ!一人だと普通にデカい声出セルンジャネーカ!難儀ナ本体ダナァ、テメェハヨぉ!』
ああ、そうね。吃ってるけどね。
ほっといてちょうだい。声のボリュームは人前だとオートで小さくなるんだよ。極度の緊張しぃで恥ずかしがり屋さんなんだ、俺は。可愛いだろ?
大体は、テンパランスも脳内信号みたいので俺に喋りかけてくるのだが、たまーに、こうやって物理的に会話してくる。だが、こうやって会話してるとまるで二重人格みたいだ。擬態形態の巨漢おばちゃんの見た目も相まって、何も知らない他人からすれば、かなりヤバめな中年女性に映っている事だろう。
しかし…俺が命令すれば、勝手なお喋りとかも停止出来るとはいえ…許可しているとこうだものな。…お前も大分フリーダムになってきた。…なり過ぎじゃない?
君、本当に俺の制御下にある念獣?自立型スタンドになってない?
「ライブス」
「!!」
うわびっくりした。
マチがいきなり後ろから声をかけてきた。いつの間に。油断しきってたぞ。
いや俺だって、敵地にいる時とかは、円…は苦手なので索敵や探知が必要な場合、イエローテンパランスを極薄に引き伸ばして、踏んだものを感知する結界を張る。
最初のシルバ戦の時に使ったように、バトル中に使う、所謂〝法皇の結界〟のような、紐状の立体結界とはまた違うタイプなのだ。
広範囲の索敵には、こちらの極薄タイプがおすすめです。
しかし今は、アジトにいるしコルトピのコピー円フィールドの中なので、そんな結界も使っていないし、めちゃくちゃ油断していた。ビックリしても仕方ないのだ。
「……今の………ライブスの声、はっきり聞けて嬉しかったよ。…あんなはっきり聞いたの、ひょっとしてアタシが、は、初めて…だったり…?」
「…」
まぁそうかもしれない。俺はコクコクと頷く。
マチ以外に可能性があるとしたら、クロロかな。
クロロは、俺が覚えてない頃の俺まで知ってるからな…俺の子供時代の恥部やら黒歴史やらを把握している可能性すらある。恐ろしい…クロロには逆らえん。色んな意味で…。
マチが、なんだか嬉しそうに薄っすら笑いながら俺の横に来て、ポスっと座る。まともな会話なんて出来ない俺の横に来たって、ただただ気まずい時間が流れるだけだと思うが、肝の座ったおなごよ。さすがはウボォーのソウルシスター。
「サラサがさ…昔みたいな演劇観たいって」
「…」
そうでしょう。俺にも似たような内容の返事が来た。やはり大体おんなじ事を皆に返したっぽいな。
まぁ一度に10人から手紙が来たら、ずっと死んでたサラサでは大変だろう。もともと、読み書きは俺並みでしかなかったのだから。
…手紙来て、急遽、一生懸命勉強したのかな。その辺の知識とか技術もアシストするんだろうか、あの〝死者への往復葉書〟は。だとしたら、やはり大概チート念だ。
「きっと、大慌てで書いたと思うんだよね。しかも、もの凄く喜びながら。急に、うちらから手紙が10通届いたんだからさ」
マチも似た事を考えていた。
あの娘らしい、とマチは笑っている。
柔らかい微笑みだ。
「なんだか…ライブスが居てくれたお陰で、旅団は…昔の雰囲気をそこまで失わずに来れたって気がするんだ。きっと、いなかったら……想像もしたくないけど……、ライブスがいなかったら…アタシ達は、もっと酷い事になってた気がする。……しかも、それだけじゃなくて…ライブスは、アタシ達にサラサにも会わせてくれてさ…。アタシ達の、心まで守ってくれてる………アタシを、守ってくれる」
幻影旅団は変わる気がするよ…あたしの勘は当たるんだ、と…マチは最後にそう言った。
それは、いい方向にだろうか。悪い方向にだろうか。
確かに変わるだろうが…願わくば、それが俺を幸せに長生きさせてくれる変容だと嬉しい。
え?
どこまでも自分勝手なクズ?
そうだが?
(オイオイ、チョットイイ雰囲気ダッタンダカラ!モウチョット
テンパランスうるさいんだが?俺にとってロマンチックとは…ロマンとは、ボロボロ機能停止からのロボット再起動とか、ドリルとか、パイルバンカーとか、宇宙空間でも風になびくマントだったり、土手の決闘喧嘩とか、どっちが速いか…抜きな!とか、ちょっとエッチな保険医だったりするのだよ。
脳内に響き続けるテンパランスからの抗議が、何時までもうるさいので、テンパランスとの脳内会話チャンネルを一方的に閉じてやれば、俺の脳内に静寂が戻った。
戻ったのだが…。
しまったな。脳内が賑やかな方が、二人きりの気不味さが緩和できたかもしれない。…今更、「ごめんテンパランス、やっぱオマエが騒いでないと寂しいの」なんてチャンネルONするの恥ずかしいし…。
ぬぅぅ…耐久戦の始まりだ…!
これは…精神修行か何かなのか…?
俺は…一人で癒やされたくて、お外の空気を吸いに来たのに…!
―
――
――
ぐぬぅぅぅ!
くそ……2時間は経っているぞ…!マチと二人きりのまま、2時間以上沈黙で密着座り…!
…。
しかも…何だか…マチめ、妙に隙だらけである。うぬゥ……和装から垣間見える、う、うなじが…うなじが色っぽい。
…。
なんていうか…下品なんですが、フフ……最近は、女ヤンキーものでないと……ズギューンってなんなくなっちゃいましてね。強気な女性が、時折見せる女としての色香…そのギャップがね…フフッ。
いえ、ウソです…普通に豊満なおっとり美女モノでも、ズギューンってなります…。シズクとか…。
くそ…しかし、マチが我が
その結果ナニが起きるか…ナニが起きるのよ……クククク。
鎮まり給え…鎮まり給え…マイサン。
――こて…、ぽすっ…
…?
なんだ…?今の、俺の肩に伸し掛かってくる、適度に重く、心地よい温度で、フサフサしてて良い匂いのするボーリング球程度の物体は?2
「……………スゥ…スゥ………」zzz
なっ!?
なんだと…!?
マチの奴…寝ている!!
コテンッ、と俺に寄りかかって、寝ていやがる!
なんて無防備で呑気なヤローだ…し、信じられん…こいつ蜘蛛だろう?こんな油断バリバリしていては、いつ寝首を掻かれるか分からんというのに。
世界中に悪名を轟かす幻影旅団の自覚があるんですか?
シンジラレナーイ。
…。
……。
まったく!毛布代わりに俺のスライムでも被ってろ!温かさと安全性完備のスライム毛布…くらえ!
シズクをこっそり運搬した方法で、マチを運べば良かったのだと…俺がそれに気付いたのは、マチに肩を枕にされてから30分経った後だった。