え?俺が幻影旅団の4番ですって!?   作:ハンマーしゃぶしゃぶ

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第九話 蜘蛛だって恋をする

あれから旅団は、ちょっと変わった。

どれぐらい変わったかというと、相変わらず盗みはするが、抵抗しない連中は殺さなくなった。多少の抵抗からの降参も許すようになった。ガチ抵抗しても、そいつが根っからの善良人間であると分かる材料が揃えば、手足をもぐくらいで許すようになった。……いかん、感覚が麻痺しているかもしれない。手足もぐって温厚ですか?

あとフェイタンの拷問も、すっごく軽くなった。たまに指折って爪剥がして、指切り落として、相手の反応楽しむ程度の可愛い拷問だけになった。ぐっちゃぐっちゃの再起不能にするとかは無くなった。どうした!?フェイタン!

どうやらフェイタンだけ、サラサからの返事でケチョンケチョンに怒られたんだとか。珍しく、ウボォー達にからかわれる側になっていた。

まぁ拷問で嬲られながら死んだサラサだけに、拷問が趣味っす!してるフェイタンに激おこなのは解る。フェイタン、人間のクズがこの野郎!恥を知れ恥を!

 

それでも、今更善人グループに戻るには手が汚れすぎだろ!って気持ちはあるようで、基本的なスタンスは変わっていない。

他人様が大切にしている宝は盗むし、邪魔な敵は殺す。

 

すぐにはそこまで変わらんという事だ。

 

そんなこんなで、幻影旅団は暫くの間、温厚な強盗事件1を何十件も起こしていた。

まことに平和で、のんびりとした日々を、俺はウボォー、ノブナガ、シャルナークにフランクリンという濃いメンツと過ごしていた。2

そこにPipipipi!とかかってくる電話。

 

「誰~?」

 

「あー?シャルじゃねぇのか。…オレでもねーな。ノブナガじゃねーか?」

 

「オレか?つかケータイどこしまったっけ…。…ライブスは違うか?」

 

「……」

 

「違うって?じゃあフランクリンだろ。おいさっさと出ろよ、ピーピーうるせーな」

 

「人のせいにすんな。オレでもねぇぞ」

 

誰だ誰だって皆でポケット探すの間抜けすぎで草。これが泣く子も黙る幻影旅団の姿か…?

ここにいる五人、皆、着信音初期設定だし同じシリーズのケータイという。だって俺達のケータイ買い揃えたのシャルだからな。

一番こういうのに詳しいシャルナークは、さっさと音設定かえろ。

というかいつまでそのオンボロ機種使ってるんだ。

誓約と制約とか言ってないで、さっさと新しい機種に馴染んで、ブラックボイスもアプデしろ。

 

「あ、オレだった」

 

フランクリンに、ごんっと頭を小突かれながらシャルナークがシレッと電話に出た。

いつだってお前が一番電話率高いんだから、ニヨニヨしてないでささっと取れよ電話。

 

「――――うんうん、…へーそうなの?……あ~それでか。はいはい、わかった。…………うん、オッケー。んじゃあね」

 

「…団長からか?」

 

「そう。集合だってさ」

 

ノブナガがにやりと笑った。

 

「デカい仕事か?」

 

「いや、違うんじゃない?…あー、でもそうかも?」

 

「ハァ?おい、どっちだよ」

 

「デカい仕事かもだけど、多分盗みの仕事じゃないよ」

 

今度はフランクリンが、腕を組みながらバカでかい声で「ハァ?」と言っていた。その横ではウボォーも腕組みしている。随分ゴツくて汚いちいかわのうさぎ達だ。

 

「なんで盗みの仕事じゃねぇって分かんだ?シャル」

 

「だって、集合場所が流星街だからね。盗むモン何もないから(笑)」

 

…。

流星街!

懐かしの故郷!

きったない、くっさい故郷!

うわ、嘘だろ。

里帰りするのぉ?

…。

いやだなぁ。

あそこ、水洗トイレ殆どないんだよなぁ…。

前に行ったのは、クロロに付いてって一旦帰った時か…。

 

(オメーは、オレの中にイル時ハ、糞漏ラシテモ平気ジャネーカ。水洗トイレなんてイラネーダロ)

 

ふふ…そうなのだよ。フケ、油、垢、糞尿などなど、全部テンパランスの粘液が食って分解して、要らない成分は肉鎧の外に排出してくれる。なんて高性能便利肉鎧。24時間休み無しで擬態化できる理由はここにあったんですね。

しかし、気分は最悪になる。

漏らした気分になるからな。

だから、可能な限り綺麗なトイレで用を足したいのだ。

はぁ~~~、嫌だなぁ、里帰りは。

まー、クロロがインフラに金突っ込んでて、多少、便利で小綺麗にはなってはいるし、病院だって結構デカいのが何件か誕生したのだ。

 

しかし…何やら大切な事を忘れている気がする。

なんだっけ。一体俺は何を忘れているんだっけ。

えーと…ヨークシン終わって…グリードアイランド終わって……、で、その後めっちゃ死にイベント盛り沢山なキメラアント編なわけだが…あれは、始まるまで結構間があった記憶があるからな。

まだグリードアイランド終わってからニ、三ヶ月ってとこだし…まだ始まらないよな?

…うん、大丈夫。まだキメラアント編じゃないはずだから…俺の本能が告げている、この〝何か大切なこと忘れてない?〟って警告は、ただの杞憂だろう。

……………………本当に、ただの杞憂か?

うむーーーー…やはり、キメラアント、か?

やばい、そんな気もしてくるな……。

キメラアントだったら…どうしよう?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

明確な不安打開策など思いつかぬまま、俺は皆に連れられてこの地までやってきていた。

ここは流星街の一歩手前。一応、建前上は国ではないが、実質的には国境と言える。

ここに数ヶ月ぶりに幻影旅団が、全員集合した。

ここ最近は、ウボォー、フランクリン、シャルナーク、ノブナガとむさ苦しい奴としか会っていなかったから、ちょっと懐かしい。

 

「ライブス、久しぶり」

 

うわ、マチが声かけてきた。こわっ。目、こわ。なぜこの女は、いつも俺を睨むのか。

あの鋭い目でガン見なのだよ。

イエローテンパランス越しでなければ、とても視線を合わせられない。

 

「…ちょっとマチ。目つき…」

 

え?あ…そ、そうだった。うん……。ラ、ライブス、久しぶり」

 

おお…パク、出来ている。やはり出来ているな、幻影旅団の姐さんポジション…頼れる。

パクノダが、マチの肩をつんつんしたら、マチの目つきが柔らかくなった。

そうだよ。

もっと、素行の悪い奴らを注意していってくれ。

幻影旅団を、品行方正な盗賊集団にかえていこうじゃないか。

あ~、パクノダ生き残って良かった。

 

「マチ、笑顔」

 

「っ。……ライブス、あんた最近何盗んでたの?」ニコッ

 

っ!

マチが……優しく、微笑んでいる…?

…。

 

うわ。

 

似合わ―――

 

(オット、ソレ以上ハヤメテオキナ、ライブス)

 

ンあ?

イエローテンパランスが、また俺の心に干渉してきた。

なぜ止めるんです、テンパランス!俺は素直な感想を―――

 

(素直ナノガ、イツデモ美徳トハ限ラネーンダゼ。特に、女ノ心って奴ノ前デハナ)

 

おいおいおい。

イエローテンパランス、キャラチェンか?なんで承太郎っぽくぶってるの、このスライム。

お前もっとゲスに、アヒャヒャヒャって笑うキャラだったじゃないか!

どうした、イエローテンパランス!俺の可愛いイエローテンパランスはどこにいった!

シャルナークみたいなキャラブレ野郎になるのは、お父さん許しませんよ。

 

(アノナァ!にぶチンの、本体様ノ為に一肌脱イデヤローッテイウ、子供ゴコロがワカラネェノカ。ハァ~~~~、コレジャア、マチもシズクも気の毒ダゼ。オレ様が、ライブスのガキを拝む日ハ遠イナ)

 

ふはっ!笑わせてくれる、イエローテンパランス。

お前…もしかして、マチが俺に好意を持っているとでも、思っているんじゃないかね?

違うんだよなぁ。

確かに思わせぶりなシーンは幾つかあった。不自然なまでに近過ぎる距離感…。過度なスキンシップ…。俺をずっと目で追う…。それぐらいは俺も気付いているさ。

だがこれらは、典型的な勘違い男を生み出す、女としては普通の接し方…!

或いは、狙って陰キャ童貞の俺をからかう、陽キャ女のトラップカード…!

ここで引っかかって「うわ、キモ…あの陰キャなんか勘違いしてんだけど。聞いてよパク」とかって展開になるは必定…。

それを見抜けないとは…イエローテンパランス、やはりまだまだ進化の足りない脳みそスライムようだな。

 

(……とてもアワれすぎて、何モ言エネー)

 

こいつ…俺にマウントをとり、且つ言う事を聞かせる為には、承太郎というキャラになりきるのが良い…とか計算してねぇだろーな。その高度な承太郎エミュやめろ。イエローテンパランス使いの俺には、ひたすら恐ろしいぞ。まったくもう…俺の精神というか魂みたいのの具現化だからなぁ…イエローテンパランスは。深く繋がっていると、色々とダダ漏れなのが困る。

さぁもう黙っていたまえ、我がスライムよ。

いつか、この本体様がお前にも恐ろしい女心というものをレクチャーして―――ぬ!!?

お、おお!?

擬態スライム鎧が…!勝手に動いていく…!外骨格が動けば中の奴も動くように…!まるでスタンドを動かせば本体も動く理論のように…!俺が勝手に歩いていく!

イエローテンパランス!貴様…!勝手に動いているな!?

ほ、本体である俺を裏切ろうっていうのか!

 

(本体ノ オマエガ、マジで止メタキャ 止メラレルハズダゼ……ナノニ止メラレネーのは、本心デハ、ライブスがソレを望ンデイルカラダ!)

 

う、うおおお!よ、よせ、イエローテンパランス!

俺を、俺をマチに近づけるなーーーーー!!!

 

(正直ニナルんダ…我ガ本体…!オマエとて、女の子とイチャイチャしたいハズ!)

 

ば、馬鹿な!コイツ…イエローテンパランスは、進化しているぞ!急速に進化している!

俺の意志を越えて、俺の為に動こうとしている!

知性も、パワーも、成長している!!

良いのかオマエ!?こんなのが進化の切っ掛けで!

だ、だが、一旦落ち着け…!素数でも数えて落ち着いて考えろイエローテンパランス!このまま仲間達の眼の前で、マチに近づいて触れ合ってみろ!必ずからかわれる!それとも映像にとられて、後から脅しをかけられるぞ!

 

(信頼シロ…!私ヲ信頼スルンダ…!私とオマエは、()()()()……そして、何がアッテモ、私はオマエを守ッテミセル…それが、絶対防御のイエローテンパランス…この私ナノダ!)

 

テ、テンパランス…!

 

(コレが…真実への道ダ!!)

 

 

 

――ドドドドドドドド

 

――ガシッ!!

 

――バァーーーーーーーン!!

 

(ソシテ、ココでワタシを()()()()!!!)

 

「っ!」

 

「え゛!?あっ、…!?ラ、ライブス!こ、これは…!?あ、あの」

 

ちょっとテンちゃん!!?いかないで!俺を置いてって引っ込むとか、それはナシでしょ?!う、う~~ううう…!あんまりだ…あァァァんまりだァァアァ!!

さすがのマチも、俺がこうした反撃をしてくるのは予想外だったようで泡を食っている。そりゃそうだろう。俺とて予想外過ぎて泡食ってるんだからな。

一体何がどうなってるんだ、この状況!ぐ…っ、う…!お、俺が…本体むき出しの素のままの俺が、マチの肩を抱き寄せた形になるな、これは!わけがわからん!

どうなる…!!と、とうとうこうなってしまったぞ!お、俺は、どうなってしまうんだ!!

リンチか!?写真をネットにあげられるのか!?素っ裸にされて、路上に放置か!?

う、うわあああああ!

 

「おお?!ライブス、が…素顔のまま、マチを!?とうとうライブスの奴、観念したのか!」

 

…。(ビクビク)

 

…お?

 

おお?

 

フィンクスの反応が…なんだか…予想と違、う?

 

「やったじゃない!マチ!」

 

パクノダが、幻影旅団活動前のような燦々太陽な笑顔で、マチと俺を見てくる。蔑んだ目で俺を見ていない、だと?

 

「おっしゃー!!待たせやがって!!どんだけ奥手だテメェら!!!」

 

ウボォーが大音声で叫び、皆が耳を押さえ…。

 

「まったく…焦れったいったら無かったもんな、おまえらは」

 

フランクリンが、まるでお父さんみたいな生暖かい目で見てきて…。

 

「ようやくね。むこうで布団しいてくるよ」

 

フェイタンが高速で消えて…。

 

「ほー、こりゃ今夜は赤飯か」

 

ノブナガが、聞きかじったジャポンの風習を披露して。

 

「みんな気が早いなー。ライブスにいきなりベッド・インは無理だって。マチにも。二人共そっち方面はヘタレだし」

 

シャルナークがさり気なく毒を吐き。

 

「ゴムなら何枚でも複製したげるよ」

 

コルトピ…?君ってそんなキャラだったかな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…」怨ッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヒェ…。

シ、シズク………、なのか…?あ、あの女は…?

なんだあのオーラ…!

怨念が可視化されたかのような、悍ましい何かを感じる…!

周りの皆でさえ、思わず身構えてしまってるぞ。

落ち着いて、シズクさん。一体何が、あなたをそんなに怒らせているんですか…?

団員同士のマジギレ御法度!

団員同士のマジギレ御法度です!

 

「…どうしたんだいシズク。随分なオーラでこっちを凝してくるね」

 

お、おお…あんなに動転していたように見えたマチが、今では一切動じることなく、シズクにこの怨念めいたオーラの理由を尋ねている…。す、すごい…さすが女ヤンキーだ、何とも無いぜ!

 

ライブスとテンちゃんは、あたしとデメちゃんの親友なの

 

「へぇ、それで?」

 

離れて

 

「嫌だね」

 

「――――………………………うん、わかった。じゃあ、解決しよう?

 

シズクがデメちゃんを振りかぶった!

すわ!殺し合い!団員同士のマジギレ!?南無三!

そう思われた、その瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「シズク…少し落ち着け」

 

「!?」

 

シズクが瞬間移動していた。

おお、これは…かつて俺とクロロがレア能力狩りで集めたうちの一つ。放出系の強制転移能力だ。原作のノブナガを諫めるシーンでもコレを使っていたに違いない。ノブナガの代わりにシズクがやられるとは。

後、アレだ。ヒソカを殺意バリバリのゾルディック家の渦中に放り込んだのもコレだ。

本当に凶悪なクソ能力だと思う。

こんなん使われた時点で回避も防御も出来ないじゃないか。

 

「…団員同士のマジギレは禁止だ。……シズク、お前の気持ちも分かっている。世界じゃ、一夫多妻なんて珍しいもんでもないし…特に、オレ達は流星街の人間。そこらへんは緩い。マチ…このままでは団員同士の抗争は避けられないのは、お前も分かる筈。……ライブスを()()()しろ」

 

山…分け…?人間を…俺を山分け?え?分割されるのか?俺。サラサ状態になるの?

 

「…あたしが、昔からの願いをようやく成就しようって時に、団長は水を差すの?」

 

「オレも祝ってやりたい。…オマエが昔からこれを願っていたのは知っているからな。だが、蜘蛛の頭として、団員同士の不和になるような事を認められない。このままでは団員同士のマジ恋禁止というルールを加えなくてはならなくなる」

 

プッ。

いかん、クロロったら団長モードの決め顔で〝マジ恋〟とか言い出すから吹いてしまった。

 

「…クスクス」

 

「ぶほっ」

 

「うく、くくくくく」

 

よく見ないでも、パクノダもウボォーもシャルも笑ってる。他の奴らも口を押さえたりしている。

それはそうだろう。

皆、クロロのあのガチトーン〝マジ恋〟は耐えられまい。

…もっと良く見たら、クロロもちょっと恥ずかしそうにしてるじゃないか。

かつての演劇旅団の、トップオブトップ、七色の声色のクーちゃんといえど、メソッド演技を維持できなくなってきたな?

あ!いや、持ち直した。持ち直したよ、さすがクロロ。

ちょっと恥ずかしそうにプルプルしてたのに、またキリッとした顔になってる。

流星街中の子供達の心を鷲掴みにした演技力は伊達ではない。

 

「あたし、二号でもいーよ。それなら我慢できる」

 

だが、クロロのその発言は功を奏したようだ。

シズクが、ホラー漫画に出てきそうなメガネ怨霊女じみた顔から一変、いつもの巨乳メガネ美少女へと戻っていた。

 

「チッ。……仕方ないね、わかったよ。団長が言うなら…それでいい」

 

マチは納得したらしい。

 

 

 

…。

 

 

 

なにを?

 

 

 

 

一体何を納得したんですか?

 

 

 

いや、ホントに何が何だか……。

流れが早い…あまりにも…!展開についていけない!

マチは、マジで俺に気があったっていうのか?そういうことか?

そして、シズクも…?そういうことか?

…?

……?

?????

いや、たちの悪いドッキリか何かではないのかね?

これは…幻術か?幻術なのか?幻覚を見せる念能力か?

だって、ありえないのだぞ…!俺程度が、こんな美少女に想いを寄せられるだなんて事はな…!

一体、こいつら、俺の何を見て好きになったんだ?本当にわけがわからんぞ!

いや…マチに限って言えば、昔からの付き合いはあったし、……確かに…確かに、イエローテンパランスの言うように、心の奥底では(ワンチャンねーかなー)という願望はあった。さすが、俺の魂を投影する念獣…あいつの言う通りだ。

だからマチが、本当の本当に、罠にはめるとかじゃなくて、好意を寄せてくれていたのは0.01%くらい予想済みだ。

だが…シズクは、本当に謎なのだ。

一体全体、いつ、何時、どうやって、どのように、俺に好意をよせた?

原作思い出してみても、シズクは男性遍歴が一切不明だし、男性の好みも分からんし……なんとなくクロロに気があるのかな?って雰囲気があるぐらいではなかったか?

それなのに、一体どうしてあんなおぞましいオーラを放つ程に、俺なんかをマチと競り合おうとする?

それこそ本当に、何か裏があるのでは?

こっちこそトラップか?

俺は、疑り深くシズクの瞳をジッと見てみた。真意を探ってやるぞ、メガネっ娘め。

 

「っ!…………///」プイッ

 

ぬぅぅぅ!?

頬を染めて目を逸らすだと?

なんたるあざとさ!!

黒ニットの長袖を萌え袖とし、萌え袖の手で首周りのニットを引き上げ顔面下半分を隠し、メガネをややずらしながら頬を染めてプィッだと?貴様、俺の事が好きなのかッッ!!!陰キャは簡単に勘違いするぞッッ!!!

 

(サッキカラ、ソー言ッテルダローガ。相変ワラズ 訳ノ分カラナイ ドツボにはまった思考デ自己完結シヤガッテ…。モット胸を張ルノダ…ワタシノ本体ヨ…自信ヲ持テ…!)

 

オマエは俺のカーチャンかっつーの!ちょっと黙ってて!もーすぐ人の思考読むんだから!魂同一の念獣だからってプライベートとかあるんだからな!3

 

…。

 

まぁ……。

 

ともかく、だ。

 

ともかく、何だか分からんがシズクもマチも俺の事が好きらしい。

フフ…こんないつ死ぬか分からない世界に生まれ直されて、はや二十云年……前世含め、恐らく全く女関係で良いことなど無かったと断言出来るこの俺にも…どうやら来ましたね、我が世の春が。

理由は分からんまま…何か分からんが、結果としていきなり美少女二人をゲットした…ゲットしたという結果だけが残った………ここまでがワンセンテンスと思ってよろしいか?

何か分からんがくらえ!とは、結果だけを残し続けたボスの名言でもある。同じ、異能力バトルものの、裏社会を生きる先達のお言葉に甘えようではないか。

何か分からんが美女を喰らえッ!実行ッ!!

まさか、団長命令で美少女二人が陰キャ童貞野郎のところに転がり込んでくるとは。

これは俺は明日にでも死ぬのでは?

大丈夫?

ヒソカが復活して襲ってきたりしない?

それともいきなりメルエムが降ってこない?

不安だ…。

 

いや、違う。

そうだ。不安がる必要など無い。

これは、俺の意志の力だ…!俺のスタンド……じゃなかった、念獣を信じて、勝利と真実への道を突き進んだからこそ得た褒美なんだ!

 

(突き進マセタのは、私ダガナ)

 

うるせーぞ!

 

 

 

 

 

まぁ何はともあれ、今日の議題は解決ですね。よかった。

じゃあ解散だ。帰ろう。

帰って…そしたら俺は…マチと、シズクと………くくくくくくくく。

いやあーーーーーーーーーーー、彼女……できちゃったからね。困ったなー。4

二人も。

同時に。

わははははは。

 

「ところで、本題に入っていいか?」

 

クロロがぽつりとそう言って、みんな「あっ」という顔になった。

俺も、皆も、すっかり忘れていたらしい。

 

「おい」

 

団長モードなのに、クロロは思わず、俺達に突っ込んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シズクは流星街の生まれだった。

その原点は、幻影旅団の創設メンバーと同様でゴミに塗れていた。

内地の生活圏は比較的清潔だったし、ルールも整備されていた。

だが、それでも流星街の者として生まれたなら、その日課はゴミ漁りとなる。

ゴミを漁り、乳母衆に届けに行けば小遣い稼ぎになる。食料と、汚いが一応は飲める水も。

 

しかし、そんな日々は危険が常についてまわる。

その頃、流星街の集落外では人狩りが横行していた。

狙われやすいのは子供で、特に女。

こういう時には、見目麗しい女が狙われやすいというのも、人の世の常だった。

 

見回りを増やし、長老による報復と同時に裏取引も進めていき、15歳以下の未成年達の被害は、ようやく少しずつ減少傾向に向かい始めていたが、それでもまだまだ油断はできない。

サラサという少女が、つい先日も犠牲になったばかりだ。

教会と長老会が、女だけでの出歩きと、子供だけの出歩きを禁じたのは当然だった。

そんな中で、天然でぽわぽわと浮ついた気質の、少女というにもまだ若すぎるシズクは、一人で外苑の森近くのゴミ山を漁りに行ってしまった。

シズクが共同集落からいなくなっても、気に留めるような者はいなかった。

シズクは、流星街の共同集落の中でさえも少々浮いた少女で、酷く疎外されているわけではなかったが、親しい者などいなかった。

シズクは細かい作業が苦手で、鈍い反応を示すような場面も多く、幼い少女は力仕事が出来ないから、こういう作業でも出来なければ仕事は無い。集落の中での〝味噌っ滓〟感は強まる一方だ。

なぜそんなに不器用なの、とシズクと同じ集落の子供は聞いた事があるが、幼いシズクは「だって、ちっちゃなモノ、ぼやぁって消えたり、ゆらゆらぁってしたりするの」と要領を得ない言葉を返すだけで、同世代の知人達に深い溜息を漏れさせるだけだった。

彼女の面倒を見るべき担当の乳母も、多数の子らを抱えている現状では、大人しいシズクの事は最後になりがちで、眼の異常にも気付かないでいた。

だから、彼女は一人で危険なゴミ漁りに出かける。

 

「…あー、ゴミの山…むこー側、見えない。……こんなごみの山、ぜーんぶ、カタヅケンジャーのおそーじきで吸えたらいいのにね」

 

地面を這う、ゲジゲジだかなんだか分からない虫と、そんなお喋りをしながら、黒髪の少女は覚束ない足取りでのんびりとゴミ山の狭間の道を進んでいく。

カタヅケンジャー…世界中の子供達に大人気のヒーロー物語。

こんな掃き溜めの国ですら、子供達はカタヅケンジャーが大好きだった。

ゴミの山から、カタヅケンジャーにまつわる何かが発掘される時など、それはもう集落の子供達は大騒ぎをし、孤独がちな少女シズクでさえ、カタヅケンジャー関連の何かを探し当てたら英雄扱いだ。

 

(この前見た、カタヅケンジャーのショー…すごかったなぁ。またやらないかな…)

 

近所のお兄さん、お姉さん達が開催してくれたカタヅケンジャーショー。その中の、お姉さんの一人が人狩りにやられてしまったらしく、その時はシズクも今の自分に出来る事を一生懸命やって手助けをしたものだった。

そんな憧れのお兄さん、お姉さん達の事を考えながら、ふらふら進んでいけば、そのうちに彼女の小さなお腹がキューッと鳴る。

 

「おなかすいた…」

 

共同集落の子供達には、食事が提供される。しかし、それはあくまで最低限のもので、満たされたければ余分に働くしかない。シズクは年相応の作業が出来ないのだから、その為のゴミ漁りであった。

飢えを満たしたい。できればちょっと甘いもので。

そんな彼女の呟きに応えるように、ゴミの山の影からのそりと姿を現す者がいる。

一人、二人、三人。

大人であり、そしてその身なりは汚い。だが、流星街人ではない。

シズクには、霞んでぶれる視界ながら一目でその者達が、外国の者であるのが分かる。

動きがぎこちない。ゴミ山に慣れていない。ゴミを嫌悪しながら歩くのが分かる。

それは、ゴミを嫌う外界人特有のものだった。

天然ボケと称されるシズクでも、ここまでくれば危険性は理解できた。

 

「お嬢ちゃん、怖くないよ。お腹減ってるなら…おじさん達が、美味しいモノあげるからさ」

 

ニタリと笑って、ゴミに足を取られながら近寄ってくる男。

シズクは直ぐ様振り返り、そして走った。

しかし、恐怖に引きつった彼女の脚もまたゴミに足を取られて、そして転ぶ。

 

「へへ…手間がかからなくて、こいつはいいや」

 

「見ろよ、汚ねぇが()()()()は悪くねぇ」

 

「磨けば光るってか?ははは」

 

流星街の者にとって死は身近だ。

幼い少女にも、死というものは常に側にある。だがそれでも、死と痛みが怖くないと達観できるぐらいの覚悟は、まだ今のシズクにはない。

 

(あぁ、わたし…死ぬのかな)

 

そんな事を、恐怖に心を染めていきながらも、のんびり考えつつ男達が自分の服に手をかけてひん剥いていくのを実感しながら、死を待つ。

流星街には救いは無い。

教会では、いつだって救いを説く老人達がいたが、どうやら自分には無い。ショーのお姉さん…サラサという子だって、結局は誰にも救われずに死んでしまったではないか。

そう思ったその時に、シズクは出会った。それは、彼女にとって間違いなく運命の出会いというヤツであった。

 

「あ゛?」

 

男の一人が、肩に軽い衝撃を受けて、間の抜けた声をあげながら、少女の服を剥ぐ手を止めて振り返る。

 

「なんだよ、順番は守れって」

 

「あぁ?別に何にも言ってねぇよ。…早くしろって。例のファミリーだって、もう潮時だっつって引き上げるらしーからな。オレらも今日で店じまいだ」

 

「ヒヒヒ…だから、オレ達もたっぷり楽しもうぜ。奴らだって、たぁっぷり楽しんだんだろ?しっかしスナッフって売れるんだな。オレもやろっかな………おい、チンタラすんなって」

 

「…あぁ、分かってるよ」

 

そう答えつつも、男は疑問に思う。

確かに肩に、何かが当たったのだ。それは確かだった。けれど、仲間の二人の態度はウソを言っていない。ただ、少女を嬲るのを心待ちにしているだけのように見えた。

 

(虫か何かか?チッ、これだからゴミ山はよ…)

 

先程、何かが触れたはずの肩に軽く目をやり、そして払うようにして手を置けば、

 

――ネチャ…

 

ねとつく粘液が彼の肩にへばりついていたのだった。やはり何かが付いていた。

 

「うわ、やっぱりか。…なんだこれ、汚ねぇな…」

 

肩の粘液を払ったら、手にも付いた。非常にねとつく。ちょっとやそっとでは落ちそうもない。

 

「…くそ、まぁいい。お楽しみが待ってるからな――」

 

そう思い直し、少女で楽しもうとした男だったが、それは無理だった。

 

「――っ!?がっ!?ぐ、あ゛…!!」

 

あまりの痛みに、少女を押さえ込んでいた手が離れる。男が苦悶に転げ回った。

 

「どうした!?」

 

「このガキに何かされたのか!!?こいつ…!!」

 

「ぐぁあっ、あ゛あ゛あ゛!!?ち、違うっ!こ、こいつだ!!早くっ!!これ、早くとってくれ!!!手がっ、俺の手がっ!!痛いぃぃ!」

 

男の手が、薄白桃色の、不気味な粘液で覆われていた。粘液は蠢き、広がっていくような気がした。

じゅうじゅうという嫌な音と共に、その半透明の粘液の下で、男の手が溶けていくのが見える。

男の仲間達は、恐怖の顔色で後退った。

 

「な、なんだそれ…」

 

「ヒィィィ!し、知らねぇよ!!はやくとってくれぇぇ!あ、あちィ!!俺の手が熱いぃ!!…っ!!ぎゃあっ!肩も、肩もとって!とって!!」

 

肩の粘液も、男の肉に食い込んでじゅうじゅうと溶かし始めて、そして広がっていく。

 

「た、助けてくれ!!!」

 

「っ!!さ、触んな!!う、うあああ!!!」

 

粘液は広がり、獰猛に男達に襲いかかった。

男は懐から銃を取り出すと、粘液めがけてやたらと撃ちまくる。

だが、その弾丸は粘液に受け止められると、肉と同じように焼け爛れながら溶けていく。

 

「ぎゃ!!?」

 

そして粘液の無い部位に当たった弾丸は、そのまま人体に致命傷を与えていく。

男はもんどり打って転げて、そしてみるみるうちに粘液に食われて崩壊していった。

 

「わああああ!!!?」

 

肉を食らう度、巨大に、凶暴になっていく粘液の塊…スライムを見て、無事だった最後の一人は銃も放り捨てて脇目も振らずに逃げ出した。

だが、逃げ出した男の脚は、投げ捨てられた銃を、ゆったりと拾った()()()()()によって止められる。

少年は、銃を構えて、そして男の脚を撃った。

 

「ひっ!?う、うおおお!!?」

 

「…」

 

算を乱して逃げ惑う大人。その脚を、慣れない銃で狙撃するなど少年には土台無理な芸当だった。だが、びっくりさせて転ばせる程度なら出来る。

少年は、転げた男を無言で見つめた。

 

「て、てめぇこのガキィ!!こんな事してる場合か!?お、おまえだって、そのスライムに食われちまうぞ!!」

 

男に言われ、少年は初めて無味乾燥な無表情を歪めてニヤリと笑った。

笑った瞬間、スライムは飛び跳ねて、そして獲物に飛びかかる。近かった少年へ、ではなく…男へと。

 

「ヒィィィ!!?な、何でだよおおお!!そっちが近いのにっ!ぎゃあああ!!!たずげで!!!ダズげデ!!!」

 

巨大な粘液が、大人を丸ごと飲み干すと、かつて人間だったものは少しずつ溶けて崩壊していった。

最後まで、男は崩壊しながら何かを叫んで、助けの手を求めて腕を伸ばして、そして苦しみ抜いて死んでいった。

 

――ズ、ズ、ズ…

 

男達を食い尽くした巨大で凶暴なスライムは、少しずつ這って、少年の足元まで戻ってくる。

 

「あ…!」

 

シズクは、あまりの光景に呆けていたが、少年が危ないと思い声をあげようとして…そしてスライムが少年へと飛びかかったその瞬間、また声を失ってポカンと口を開けた。

 

『アギッ、ギギギギ…ギ……』

 

スライムは、まるで飼い犬のように少年へと懐き、そして少年は、そのスライムを、まるで猫をあやすように指で撫で擦る。

 

(……あの(スライム)……あの(少年)のなんだ)

 

スライムを飼いならし、操る少年。

シズクは、甘えてくる粘液に這いずり回られながら、優しく微笑んでいる少年に見惚れていた。

 

(悪い大人を、やっつけて……あとかたもなく、消しちゃった。おそうじ、しちゃった)

 

――まるでカタヅケンジャーみたい。

 

ほうっと、頬を染めて、そして魅入る。

ボヤケた視界に映る少年の姿は、あのヒーローショーで舞台にいたお兄さんにもよく似ているように思えて、少女は更に心奪われていく。

そうしているうち、少年は何かに気づいたように、シズクの目をジッと見た。

 

「な、なん、ですか…?」

 

幼いながらも、異性を感じて少女はプイッと顔を背けた。

少年は、一人でしきりに何度も頷くと、スライムの力を借りてパッと跳んでゴミ山の頂点へと跳び乗ると、やがてガサゴソと山を漁る。

すぐに目当ての物を探り当てたようだった。少年は、跳び乗る時と同じように、身軽な猿のように山から飛び降りて、そしてシズクに物を渡した。

 

「これ…は?」

 

それは眼鏡だ。

ゴミ山に埋もれながらも、少しだけのヒビが入るだけで済んでいる、状態の良い眼鏡。集落の乳母衆の所にでも持っていけば、2日分の綺麗な水に化ける代物だ。

シズクが男達から逃げる様子。シズクが自分を眺める様子。それらを観察した少年は、シズクの視力に問題があるのを見抜いたらしい。

 

「くれる、の?」

 

こんな状態の良い、質の良い掘り出し物なのに。シズクは、嬉しさと申し訳無さで、小さな心を埋め尽くす。

 

「…」

 

少年は、ずっと無言だった。

そして無表情のまま、頷く事すらせずに、ただ黙ってシズクに眼鏡を突き出すのみだった。

シズクはおずおずとその眼鏡を手に取り…そしてかけてみる。すると、当たり前だが度があっていないので、視界がぐらりと揺れた。

だが、それでも霞むばかりだった視界は、しっかりとした風景をシズクの網膜に刻みだす。

 

「…わぁ」

 

その時から、シズクの世界は色彩を取り戻し、光を湛え始めた。

彼女の原風景は、黒髪の少年と共に始まったのだ。

今では、きっとライブス本人すら覚えていない、ずっと小さな頃の些細な思い出。彼女だけの大切な原点。彼女にとっての、魂の出発地点だ。

 

 

 

 

 

 

その時から、シズクにとってのカタヅケンジャーは黒髪の少年となった。

時が経ち、演劇少年達は外界へ旅立ち、名を変えて、外界を恐れさせていると知った。

流星街を守るため、外の世界のゴミをお掃除しているカタヅケンジャー。

外の世界では、どうやら演劇の少年少女達は、謎に満ちた凶悪な犯罪者達であるらしいが、流星街人にとっては違う。

彼らの抱える謎は、教会で多少の聞き込みをすればすぐに解決できる程度で、それは間違いなくシズクが流星街人だから辿れた近道だろう。

ずっとずっと探し求めた。

ずっとずっと追い求めた。

やがて少女は大人になって、思いに体は追いつき始めた。

シズクは、彼らの名を知る。

そして、彼らの中に、皆を守る粘液を扱う者がいる事も、自力で調べ上げた。それはシズクの執念であった。

 

「…オレ達を調べているらしいな」

 

流星街の教会で、かつて自分を救ってくれた〝黒髪の少年に似た男〟に声を掛けられるのは、ヨークシン襲撃から2年と半年前の事である。

 

1
大いなる矛盾を抱えし言葉

2
旅団に濃くないメンツなどいないが

3
扱いづらい思春期のガキと母ちゃんの関係性

4
鼻高々

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