蟻と吸血鬼   作:サルオ

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吸血姫の話

 

 冒険者ギルドの受付嬢は、商売道具であるアルカイックスマイルを浮かべながら、目の前の、チンタラと高難易度クエストの一覧書を眺める男に、内心でため息を吐いていた。

 

(この人、いっつも長いんだもんなぁ〜…私が新人の頃から、その辺、全然変わらないんだもん…)

 

 目の前の男の冒険者にあるまじき姿格好を、改めて上から下まで眺める。もちろん、受付嬢として冒険者に無礼を働くつもりはない。あくまで目の前の人間に気付かれないよう、さりげなく、であった。

 

 全体的に少しクセのある漆黒の髪は、目元を隠すかどうかというほどまでに伸びているが、全体で見れば首元まではかからないようなショートといった具合。その前髪に半ば隠れた黄色い瞳は、ゆっくりと、手にした高難易度のクエストリストを眺めている。

 

 顔は、率直にいって受付嬢のタイプであった。どこか線の細い整った顔立ち。目はすらっとした抜き身の刀のように鋭く、鼻は少し高い程度。口元も、きっと大喰らいでないだろう。少し小さめの、真一文字に結んだ口元も印象的だった。どちらかといえば、その顔からは幼い、と言わざるを得ないだろう。

 

 だがその姿からは、触れればナイフのように切れてしまうと思わせる、剣呑な雰囲気を漂わせている。この危ういバランスが、受付嬢にとっては刺激的で堪らなかった。はっきり言って、受付嬢のどストライクであった。

 

 その上で、冒険者にあるまじき軽装!革ジャンにTシャツ、ジーパンにロングブーツなど、この国の都市群に行ったとしてもまず見かけないだろう。屋外で行動する事を前提としつつ、しかし『魔物からの襲撃をまるで想定していない』男の格好は、冒険者ギルドにおいてはハッキリ言って『奇抜』といってよかった。

 

 だが、それがこの男にはよく似合う。なぜか様になる。男の職業を考えれば、あり得ない軽装。自身の命を軽んじているのではないかと思われる暴挙に近い姿。しかし、それでも目の前の男は、高難易度のクエストばかりを受けたがる変人。

 

 まさしく巷で噂される通り、『死にたがり』と呼ばれる姿、そのモノであった。

 

「いつも、だな」

 

「え…!?」

 

 思わず受付嬢の声が上ずる。マズい。盗み見していたのがバレたか…?

 

「ここには退屈な仕事しか載ってない…もうちょっと…なんだ?刺激のありそうなクエストは無いのか?」

 

 その言葉に半ば安堵すると共に、自分という人間を全く意識していないという事実に腹が立つ。

 

「ふんっ!どーせウチは、しがない田舎の冒険者ギルドですよーだっ!」

 

「…おいおい、そんな事、一言も言ってないだろ?」

 

「言ってますぅー!いつもいっつも!『いつも刺激がない』だのなんだのケチを付けられてますぅーっ!もうクエスト、紹介してあげませんよ!?」

 

「……相変わらずだな、コレットさん。もうあんたと関わって何年だ?」

 

「女性に年齢聞かないでください!失礼ですよ!」

 

「いや、違うよ…、悪かった、悪かったって」

 

 目の前の男、『鉄馬アキト』は困ったように頬を掻いた。その仕草に、コレットと呼ばれた受付嬢は顔に勝利の笑みを浮かべる。

 

「ふふふ!年の功とはよく言ったもんですね。まさか『死にたがり』のアキトさんからそんな言葉が聞けるだなんて!」

 

「かれこれ10年も付き合いがあればな」

 

「こらテメェ!ぶっ殺すぞ!?」

 

 受付嬢に求められるのは、はっきり言って若さだ。女性の若さを売りに出して冒険者達を誑かす魔性。そこまで行かなくても、冒険者が気を許す程度に可愛げが無ければ、冒険者ギルドの受付は務まらない。それをわかっているからこそ、最早古参の部類に入りかけている独身の受付嬢、コレットは怒声を上げた。

 

 彼女の受付嬢としての手腕は、この怒声が目の前の男にしか聞こえないように調節した事だろう。これは16歳で働き始めてから培ってきた経験が物を言った。

 

「んで!?どうするんですか?今ウチに来てるクエストはこれだけですよ?」

 

「……そうだな。トッドのやつは居ないのか?」

 

「彼ならこの一週間で『だいぶ金が貯まったからしばらく遊ぶわぁ』って事で顔を見せてませんよ?」

 

「あ、そう…」

 

 そう呟いて、目の前の『死にたがり』の冒険者は天を仰いだ。

 

 

 

つづく

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