蟻と吸血鬼   作:サルオ

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吸血姫の話2

 

 アキトは冒険者ギルドの待合所に探し人がいない事を確認すると、改めて天を仰いだ。

 

 自分にとっての貴重な収入源。それも、『趣味』と『実益』を兼ね備えたクエストは、やはりあの情報屋が居てこそだとしみじみ思う。

 

 そう思いながらも、アキトの目はギルドの中を彷徨い求める。件の人物がいる事を願って。もっとも、『居ない』という事実はいくら目を凝らしても変わりはしないが。

 

 アキトは再び天を仰ぐと、冒険者のすっかり居なくなったギルドの屋内にあるホールの椅子の一つにドカッと座った。

 今は昼前だ。冒険者達は受けた依頼をこなすために、ギルドなんかに屯ってはいない。しっかりと日銭を稼ぐため、各々の依頼を達成するために出払っていた。

 

(まぁ、俺には関係ないけどな)

 

 アキトはため息一つ、そばにいたウェイターのハーフエルフに声をかける。

 

「エール一つ。レモン入りで。あとは……」

 

「ローストビーフの小盛りですね!?いつもありがとうございます!」

 

 エルフというのは美人と相場が決まっているものだが、この目の前のハーフエルフは少し田舎くさい顔をしていた。しかし、それが本人の魅力を損ねるかと言えばそーでもない。

 ぽちゃっとした体型に、眩しい笑顔。何よりどんなに仕事で失敗して沈んだ冒険者でも、彼女と話していればいつの間にか元気になる。そんな魅力こそが、彼女がこのギルドの『看板娘』と呼ばれる所以だった。

 

「でも、いいんですか?アキトさん」

 

「……?何が?」

 

「また、絡まれちゃいますよぅ…?」

 

 彼女が心配するのもさもありなん。アキトに向いてくるのは、昼間っからエールを仰ごうとしている、軽装とはお世辞にも言えない舐めた格好をした冒険者に対する、敵意とやっかみであった。

 

「ネネちゃん!そんなヤツ放っておけよ!」

 

「なんかスカしたヤツだけどさ、見るからに駆け出しじゃん!?」

 

「あ、あははは……」

 

 ネネ、と呼ばれたハーフエルフは困ったように笑った。

 今声をかけてきた若い少年の集まりのような冒険者のグループは、このギルドにやってきてから1ヶ月も経たないド新人。

 ネネの目の前にいる、『死にたがり』と呼ばれる凄腕のソロ冒険者など、見たことも聞いた事もないだろう。

 だって、彼がこのギルドに顔を出すのは一年に数える程度、なのだから。

 

「そんな奴よりさぁ!俺たちのエールまだぁ!?もう結構待ってるんよぉ!?」

 

「あ、はーい!ただいまッ!……アキトさん、ごめんね」

 

「気にするなよ。仕事だろ」

 

 申し訳なさに頭を下げるハーフエルフに対して、アキトは軽く手を振ることで応えた。

 それが、新人どもの癪に触ったのだろう、一人の若者が席を蹴り飛ばして立ち上がった。

 

「てめぇ!!何様のつもりだ!?」

 

「……んあ?」

 

「テメェだよボケッ!テメェに言ってんだよド新人がッ!」

 

 自分の事を棚に上げつつ、相手の装備から自分よりも格下だと認識した新人冒険者がアキトの胸ぐらを掴んだ。

 

(ああ!また……ッ!)

 

 ネネは手にしたお盆で顔を隠すと、この後に起こるであろう出来事を想像して目に涙を浮かべた。

 冒険者ギルドの職員にしては珍しく、彼女には暴力に対する耐性がなかった。

 

 胸ぐらを掴まれた当の本人は、事態を飲み込めず、ポカンとしていたが。

 

「ああ。俺か」

 

「テメェ以外に誰が居んだよ!?ネネちゃんに向かってヨォ!なんだその態度は!」

 

「……悪い。いつも通りのつもりだったんだが」

 

「舐め腐ってんじゃあねぇぞ!?ボケェ!」

 

 その新人の怒声とともに、バギッと鈍い音がホールに響く。

 そのすぐ後に、ズザッと床に何かが倒れる音も。

 

「はっ!これに懲りたらよォ?ちったあ身の丈考えろってんだ!」

 

「ヒューーッ!ザック、やるじゃあねえか!」

 

「だろう!?」

 

 倒れたのはアキト。そして、仲間の蛮行を囃し立てるのは、新人冒険者の仲間たち。

 その光景を目の当たりにしたネネは、あわわと口に手を当てる。

 

(い、いつもながら見てらんないっ!)

 

 ネネの様子とは裏腹に、床に倒れ込んだアキトはヨロヨロと立ち上がり、そして、殴られた衝撃が膝に来ているのか、再び床に手をついた。

 

「うっわ!雑魚!おいザック!こりゃあ、ちょっと気合い入れてやった方がいいんじゃね!?」

 

「だな!装備といい立ち居振る舞いといい、テメェ冒険者舐めてんじゃねぇぞ!?」

 

 ザックと呼ばれた新人が、うずくまったアキトの腹に蹴りを入れる。

 それを受けたアキトは苦しみもがき、床を転げ回った。その口からは若干だが吐瀉物が漏れ出している。

 

「はははは!おいおい!テメェ、今のでゲロ吐くのかよ!?そんなんじゃあゴブリンも殺せねぇぜ!!?」

 

「……す、すまん」

 

 嘲笑う新人に対し、アキトは卑屈と言っていいほどに低姿勢で応えた。

 それは今の姿勢的にも、立場的にも、であるが。

 

「見逃してくれ……俺は、あんたらの足元にも及ばない雑魚だ……気に障ったんなら謝るよ、だから……」

 

「俺らにじゃなくてネネちゃんに謝れってんだヨォ!このうずらボケがッ!!」

 

 再びアキトの腹に蹴りが見舞われる。

 アキトはそれを防ぐ素振りも見せず、ただ成すがままに蹴られた。

 

「ぐおっ!?」

 

「へへ、おっさん!その歳で冒険者は辛ぇだろ!?このまま嬲り殺しにされてぇか!?持ってるもん出せよ……そうしたら、俺たちが有効活用してやるぜ?」

 

「そ……それでいいんなら……」

 

 床に倒れたアキトが腰につけたポーチに手を伸ばす。

 それを見た新人冒険者達の顔に下卑た笑みが広がり──、

 

「こらぁ!!貴様ら!何をやっておるか!」

 

「やべぇ!教官だ!逃げろッ!!」

 

 新人冒険者担当の元凄腕の冒険者に怒鳴られて、ギルドの外へと一目散に逃げ出した。

 

 

 

つづく

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