その噂が流れてきたのは、実際に街が壊滅してから半年近く経ってからであった。
曰く、街の住人たちから活気が消えた。
曰く、全ての住人が青白い顔をしている。
太陽の下、日々を生きている人間たちに活力がない。それは例えば飢餓や疫病を疑うような類だが、住人たちにそういった気配は無いという。あくまで、顔色が悪い。ただそれだけだ、という噂だった。
本来、吸血鬼とは太陽の光に弱いものだ。それの従属となるる屍鬼もそうだ。太陽の光の元、活動のできる吸血鬼はいない。
但し、真祖に連なる例外を除けば、であるが。
その街に冒険者が調査に赴いたのは、実際に街が壊滅してから一年近く後だったという。
冒険者はその勤めを立派に果たした。その街の現状を正しく認識し、その情報を近くの冒険者ギルドまでしっかりと持ち帰った。
しかし、戻ってきた冒険者は一人だけ。それも、屍鬼にその身を堕とされた状態であった。
わざと、だ。屍鬼に身を堕とされながら懸命にギルドにまで報告しに戻ってきた冒険者は、わざと、その自我を残されたのだ。
それはある意味で人類に対する宣戦布告。化け物からの挑発そのものであった。
それを受けた人類側は、当然の如くキレた。腕に覚えのある冒険者が何人も、吸血鬼対策をしっかりと取った上で、その街に押し寄せた。
その結果、何が変わったか?
答えは単純にして残酷。何も変わらなかった。街の様子は一切の変化なく、吸血鬼討伐に向かった冒険者だけが戻らない。この情報は、ぶらりと偶然にその街に立ち寄った旅人から得たものであった。
人々は、特に冒険者ギルドの面々は戦慄した。その後、ギルドからの要請によって騎士団が派遣される事態に陥るものの、結果として騎士団すらもが帰ってくることはなかった。
鉄馬アキトがその噂を聞きつけたのは、それから更に半年後の事であった。
◇
鉄馬アキトは、その街を訪れた。夏が終わり、稲刈りが始まるだろう季節の事だった。
澄み渡った空気によって空を高く感じる。そんな、気分の良い晴れた一日だった。
その街は、人通りが多かったのを今でもアキトは覚えている。そしてソレに反して、人々に活気が、いや、生気が満ちていなかったことも、しっかりと思い出せる。
アキトは無造作に、その辺を歩く若い男の胸ぐらを掴んだ。普通の人間であれば、声を上げるような状況。
しかし、若い男は反応せず。
「なるほどな」
アキトは、その若い男の様子を見て一言呟いたあと、その男の頭を押さえ込んで首を捻り折った。
ゴキンッ、という嫌な音が、人通りの多い、しかし物静かな街に響き渡った。
瞬間。
町の人々の無気力な視線が、アキトに集まった。
生気のない目を見開き、全ての住人が、いや、屍鬼と化した化け物どもが、無表情にアキトを見つめる。
その様子に、アキトの顔に笑みが広がった。
「いいね」
そう一言呟くと、アキトは自身の「擬態」を解いた。
蟻の王と化したアキトが、ガチガチと顎を鳴らして笑っていた。
つづく