蟻の王と化したアキトが大地を蹴る。地面が盛大に爆ぜると同時、アキトの姿は掻き消えた。
その刹那、黒い風が街中を駆け抜ける。その風の通ったあとには、もはや屍人と化した人々の肉片だけが宙を舞った。
「はははっ」
顎をガチガチと鳴らし、アキトは飛び散った肉片の一つを無造作につかむと口に運んだ。
「やっぱりマズいな」
その肉片を口からぺっと吐き出し、再び地面が爆ぜる。黒い風が屍人で溢れた街を蹂躙していく。目に付いた屍人を無造作に、無感情にアキトは始末していく。
腕を振るい、脚を蹴り抜き、時には強靭な顎で噛みついて、屍人の群れを駆逐していく。
「足りない・・・」
アキトはつまらなそうに呟いた。太陽は高く、乾いた風が街を吹き抜ける。アキトの『趣味』は始まったばかりだが、それにしても、あれだ。『刺激』が足りない。
突っ立ったままの案山子を相手にしているようだ。目の前の屍人どもには感情がなく、無機質に、無感動に敵であるアキトに向かってくるだけだ。
それを、いくら叩き潰そうとも、詰まるところは詰まらない。
現世にいた頃に遊んだゲーム、それも無双する部類のゲームといまの状況を比べるアキト。それを思い返して、アキトは思った。
「ああ。感情ってやつがあった方が楽しいのか」
ゲームの中の敵は、大なり小なり感情と呼べるものがあったような気がする。敵に向かうだけの感情を、どことなく感じさせる挙動を取っていたように思う。
もしくは、ゾンビゲーならどうだろうか。それも動きの鈍間なタイプはどうだろう。
「アレは触れたらヤバいタイプの敵だったからなぁ」
そこまで考えて、アキトは気付いた。
ようは、危機感だ。スリルが足りないのだ。
「クソゲーかよ」
アキトは詰まらなそうに顎を鳴らした。この街が、今まで数多の冒険者や騎士団さえも飲み込んできた魔の街であることは、理解しているつもりだ。
(こんなもん、なのか?)
わずかな疑問と、確かな落胆が胸に去来した時だった。
景色が、昼から突如として夜に変わった。
「!!?」
途端の事だった。周囲の屍人の動きが変わる。
俊敏に、まるで豹のよう獰猛に、アキトに向かってくる。
その目に、確かな殺意を宿して。
「はは、いいね」
ヒリヒリするような緊張感に。
アキトは再び、嗤った。
屍人どもが同時に爪を振るった瞬間に合わせて、アキトもその両腕を振るった。交差する爪と爪が互いの肉を引き裂かんと差し迫る。
引き裂かれたのは屍人ども。しかし、屍人どもの爪はアキトの外骨格に、薄くではあるが切り傷を残した。
明らかに、戦闘力が上がっている。昼と夜とでは、この化け物たちのスペックは異なるようだ。つまり、強くなっている。
仮にも蟻の王としてのスペックを纏ったこの肉体に、ただの雑魚が小さくダメージを入れられるくらいには。
「面白くなってきたな」
アキトが踏みしめた大地が爆ぜる。だが屍人に襲いかかるはずの死の風は、屍人どもがそれを躱した事によりただの風と化した。
「スピード、いや反応も良くなってるな」
面白い。こうでなくては『趣味』として楽しめない。これがやりがいだ。楽しむ価値がある。
アキトは全身を喜びに打ち震わせると、再び化け物どもに襲いかかっていった。
つづく