蟻と吸血鬼   作:サルオ

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吸血姫の話6

 

 戦いたい。ただひたすらに、戦いたい。

 

 蹂躙したい。ただひたすらに蹂躙したい。

 

 俺が最強であること。今この場だけでいい。俺が上で、お前らが下だという事を、事実として、体現したい。

 

 アキトの歪んだ感情が、屍人どもを蹴散らしていく。

 

 昼間からいきなり夜に変わった事、目の前の雑魚どもの動きが目に見えて変わった事。全てがアキトにとって想定外であったが、そんな事はどうでもいい。

 

 自分の力を思う存分に振る舞い、屍を積み上げていく。すでに屍なのだ。なにも問題ないだろう?

 

 アキトの裏拳が迫り来る屍人の頭を吹き飛ばす。眼前に迫った屍人の腹を、アキトの蹴りが刺し貫く。そのまま脚を振り回せば、まるで竜巻のような業風が周囲一帯を薙ぎ倒していく。

 

 豪奢ではなくても充分に美しかった街並みが、アキトの振るう暴力によって次々に廃墟と化していく。

 

「いいね。バケモノの巣にピッタリだ」

 

 脚に纏わりついていた屍人の死骸を、アキトは両手でむしり取って地面に捨てた。その余裕の態度、完全な隙を晒した獲物に屍人たちが飛び掛かる。

 

 アキトは脚を屈めて地面に蹲る。と同時に、アキトの両腿が倍近くにまで膨らんだかと思われた瞬間──、

 

「ハッ!!」

 

 地面が爆発した。と同時、アキトの姿は夜空に在った。

 

 ただのジャンプ。魔の王の候補として生み出された怪物の、渾身のジャンプ。だが蹴られた地面はその衝撃に耐えられず、周りの屍人を巻き込んで爆ぜた。

 

 宙空にふわりと浮かんだ蟻の王に、廃墟を伝って屍人どもが飛びかかってくる。あまりの数の多さ。それ故に、アキトを中心として、空中に屍人が固まった。屍人の爪や歯がアキトの肉体を引き裂かんと迫る。

 

「く、くく・・・・・・」

 

 肉団子と化した屍人の集団が地面に落ちる。そこから突き出されるのは、屍人を貫いた蟻の王の拳。血に濡れた拳が月光の下、ぬらぬらと赫く光っている。

 

「あはははははははは・・・!!」

 

 拳は手刀に。纏わりついていた屍人たちを瞬く間に切り裂いた。切り裂かれた集団から一人立ち上がるのは、全身に返り血を浴びて赫く光る蟻の王。

 

 まさに、魔王の姿そのものだった。

 

「さて、と。親玉はどこだ?」

 

 アキトは街の中心に目を向けた。恐らくこの周辺の領主のものと思われる、一際豪華な館。

 

 感じる。あの建物から、圧倒的な魔の気配が流れてくるのがわかる。それが街を覆い尽くし、屍人を操り、昼を夜に変えたのだ。

 

 自分と同じ、魔の王の気配。

 

「じゃあ、殺しても問題ないな」

 

 アキトはゆっくりと歩を進める。濃厚な死の気配を漂わせた、魔の館へと。

 

 恐らくはアキトよりも強い。だが、それがいい。

 

 これは『趣味』なのだから。敵は自分より強いくらいが丁度いい。

 

 その方がゲームのボスっぽくていいだろう。

 

 

 

 

 豪華な扉を蹴破れば、そこはあまりにも生活然とした空間だった。

 

「いらっしゃいませ、お客様。招待状はお持ちでしょうか?」

 

 ロビーに並んだメイド。その真ん中に、執事と思われる美形の男が、笑顔でアキトを出迎えた。

 

「これでいいか?」

 

 アキトは手に持っていたものを執事に放って寄越した。

 

「これはこれは・・・」

 

 執事はそれを笑顔で受け取ると、貴重な割れ物を扱うかのような丁寧な手つきで、それを横のメイドに渡した。渡されたメイドは、それを銀のお盆に恭しく乗せて、この場を去る。

 

 渡されたのは、屍人の生首だった。

 

 執事は嬉しそうに目を細める。

 

「当館にお越しになられたのは、貴方様で13人目でございます。大変喜ばしい事です」

 

 アキトは館の中をぐるりと見回した。

 

「前の12人は、館の当主様にお会いできたのかな?」

 

「残念ながら、ただの一人も」

 

「そうか」

 

 言葉を言い終わるや否や、アキトは執事に飛び掛かる。

 

 それを防いだのは、メイドたちが隠し持っていた10の刃。

 

「どうやら貴方様も、『資格なし』、のようですね」

 

 美形の執事が薄く笑う。

 

 刃が振り抜かれ、アキトの全身から血が吹き出した。

 

 

つづく

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