大人コレイと記憶喪失のショタ   作:エクソダス

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第1話



 

「……今日も異常なし、だな」

 

 

 スメール地方にある、ガンダルヴァー村付近の森林地帯。

 一人のレンジャーが今日も辺りの見回りを終え、手に持っていた弓を手元から離し、粒子として消滅させる。

 

 

「コレイさん、こちらの偵察が終わりました」

「お疲れ様、じゃあ皆は村の方に戻って薬草の整理をしてくれ」

 

 

 コレイがレンジャーの仲間に指示をし、彼らが村に歩き出すのを確認した後、今日回収した薬草やキノコを整理する。

 

 

(……うん、採取はこれで十分、かな)

 

 

 コレイは丁寧に全ての数と種類を確認。

 少なすぎないか、逆に過度に取っていないかを確認した後、もう一度袋に入れた。

 

 ――レンジャー。

 

 それはガンダルヴァー村を拠点とする集団で、道の整備や観光客、遭難者の道案内……この森林を管理する者達。

 コレイもその一人だ。

 

 

「さて、後はキノコンがいないかもう一回確認して終わりだ」

 

 

 コレイは腰に手を当てて、ふんっと鼻をならした後に緑髪をサッとなびかせ、水面に浮かんでいる自分を見る。

 

 

(へへっ、私もだいぶ様になってきたな♪)

 

 

 自分のかっこよさにうぬぼれながら、コレイは小さなバッグから今日の昼食を取り出そうとする。

 しかし、

 

 

「……ん、あれ?!」

 

 

 バッグの中には、持ってきたと思っていた昼食が無かった。

 

 

「ど、何処だ……?!」

 

 

 その後、コレイは服のポケットやらまわりの茂みやら、挙げ句の果てには靴の中などを漁った後。

 ――持ってくるのを忘れた、という事実にようやく気がつく。

 

 

「し、しまらないな。私はいつもこうだ……」

 

 

 コレイは自虐気味に笑った後、がっくりと項垂れる。

 レンジャーになってから短くない年月が経過した。必死に努力したこともあり、ある程度はレンジャー長の指示無くやるべき事を理解できるようになった。

 

 

「どれだけ努力しても、結局初心者みたいな初歩的ミスをする……まだ見習い気分が抜けてない証拠だ。うぅ……」

 

 

 しかし、どれだけ優秀になろうとも彼女は内気。

 事あるごとに失敗をし、そのたびにヘラっている。

 

 

「アンバー、いつになったら彼女に追いつけるんだ……」

 

 

 と、コレイが目元の希望の光を消し、大きな木の根元で膝を抱えて寝転がった。

 その時、

 

 

「……ん?」

 

 

 ふと、キノコン独特の匂いが鼻をついた。

 レンジャーは基本的に鼻が利く、それは薬草の判別するときや異常事態の察知、天候の把握などレンジャーにとっては無くてはならない。

 ――なので、基本的な匂いなら、コレイも嗅ぎ分けることが可能だ。

 

「キノコン、か? いや……それにしては……」

 

 

 しかし、今回の匂いはいつもとは違う気がした。

 いや、違うというより何かが微かに混じっている匂い。

 

 ――もっと汗のような根本的な、フェロモンにも似た緊張が肌を打つ匂い。アドレナリンか?

 

 

「興奮しているのか……? 見に行ってみた方が良いな」

 

 

 コレイはすぐさま立ち上がり、匂いのする方へ向かう。

 

 

 □ □ □

 

 コレイは道なき道、草木をかき分けて崖を上る。

 キノコンが興奮しているということは、誰かが襲われている可能性がある。

 そして、その匂いがするのは何も無い木々の中であり、遭難している可能性がある。

 コレイはできるだけ早く、できるだけロスタイムなしで走り続ける。

 

「見つけたっ」

 

 

 そして、コレイはキノコンのいる場所に着いた。

 コレイは近くにある大きな木に登り、何があるのか確認する。

 

 

「な――っ。くっ……!」

 

 

 コレイは木の上に立ち、目の前の状況を確認すると同時。

 彼女はキノコンの数を数える事無く、すぐさま弓を構えた。

 

 なぜなら、キノコンの中心にはまだ幼い少年がいたからだ。

 

 

「てやぁぁああ――っ!」

 

 

 その刹那、コレイはその少年めがけて風の翼を広げ、そのまま右足で地面を潰すかのように急降下する。

 その瞬間、キノコンの頭上から無数の矢が降り注ぎ、ダメージを与える。

 

 

「ていっ、やぁあああ――っ!」

 

 

 間髪入れずコレイはブーメランを投げ、それにより打ち上がったキノコンを弓で狙撃する。

 

 

 ――一、二、三、四。

 

 見事に全ての狙撃に成功し、キノコンは消える。

 その所要時間、約五秒。その姿はまさに歴戦のレンジャーの姿だ。

 

 

「きみ! 大丈夫か?!」

 

 

 戦闘後、コレイはすぐさま膝を付き男の子の状態を見る。

 

 

「っ、これは――!」

 

 

 □ □ □

 

 

「うっ……ここ、は?」

 

 

 少年は気がつくと、見知らぬベッドの上にいた。

 天井には茶碗のようなお椀から大きな草が飛び出しており、周りを見渡すと木製の机やイス、棚には無数の紙とツボが飾られている。

 

 

「あ、気がついたか」

 

 

 そして、そのイスには緑髪の女性が座っていた。

 歳は二十代くらいであろうか、長袖の黒いワンピースで方にショールを羽織り、後ろのマフラーが特徴的だ。

 

 

「ここ、は?」

「ここはガンダルヴァー村だ。何処か痛いところは無いか?」

「大丈夫、です」

「そうか、よかった」

 

 

 その言葉を聞き、女性はほっと優しい吐息を吐いた。

 少年が頭を抑えながら起き上がった後、女性は話を続ける。

 

 

「わたしの名前はコレイ、レンジャーをやってるんだ」

「レンジャー……って?」

「え、っと……森を守る奴ら、見たいな感じだな」

「森の精霊、見たいな?」

「あははっ、そうかもな」

 

 

 少年がそう言うと、女性――コレイは楽しそうに笑った。

 それを見て彼も微笑み、自分も自己紹介をしようとする。

 

 

「えっと、初めましてコレイさん。僕の名前は――」

 

 

 と、そこまでは口に出せるが、それ以上が出てこない。

 出てこないのだ、いつも言っていたはずの自分の名前が。

 

 

「あ、れ? 僕の、名前は……?」

「……まだ混乱しているみたいだな。飲み物でも持ってくるよ」

 

 

 そう言って、コレイは机に戻り、いつも飲んでいるお茶を入れる。

 その瞬間、何故か背中から脇腹あたりが露出し、ブラジャーのようなインナーに目が吸い寄せられるが、すぐに首を振ってそっぽを向く。

 

 □ □ □

 

「なるほど、これは記憶喪失って奴だな」

 

 

 コレイは少年とお茶を飲んだ後、現状を確認した。

 どうやら、少年には記憶が全くなく、名前すらわからないという。

 

 

「名前も覚えておらず、どこに住んでたかもおぼろ。親の顔ももやが掛かっているよう、と」

「はい……ごめんなさい」

「だ、大丈夫だ。お前が謝る事じゃ無いっ!」

 

 

 悲しげに俯いてしまう少年に、コレイはあわあわと励ます。

 そして、コレイは自分の胸に手を置いた。

 

 

「大丈夫、絶対わたしがどうにかするから、安心してくれ。絶対家にも帰すし、家族にも会わせる。記憶もできるだけ最善をつくす。な?」

「…………」

「こ、これでも一応良いところの学校出身なんだ。任せてくれっ」

「あり、がとうございます」

 

 

 コレイの少し不安になるおどおどした言葉と、優しい笑顔で落ち着いたのか。

 彼はにっこりと笑って見せた。次の瞬間、

 

 ――ぐぅぅうううっ

 

「…………」

 

 

 突如、少年のお腹から音が鳴る。

 少年は顔を朱色に染め、コレイはくすりと笑った。

 

 

「ちょうど良かった、ちょうどお昼が残ってるんだ。食べるか?」

 

 

 コレイはそう言うと、小さなバッグから何かを取り出して少年に渡す。

 それは、パンのような物の中にトマトやレタス、獣肉などが入ったサンドイッチに似た何かだった。

 

 

「これ、は?」

「ピタっていうんだ。お、おいしいぞ」

「……なんで震えてるんですか」

「む、武者震い、かな」

 

 

 そう言ってコレイは引きつった笑みを浮かべる。

 思えば自分の料理は身内以外だと友達と旅人、そして小さな飛行体にしか食べさせたことが無い。少し緊張する。

 しかも、持って行き忘れた奴だから冷めてるし……。

 

 

「……あむっ」

「ど、どうかな」

 

 

 コレイは恐る恐ると言った様子で、少年の顔色をうかがう。

 すると、

 

 

 ――むしゃむしゃむしゃむしゃ…………

 

 

 どうやら、コレイの怯えは杞憂だったようだ。

 

 

 □ □ □

 

 

「すぅ……すぅ……」

「寝た、か」

 

 

 空が暗くなり始めた頃。

 コレイは全てのレンジャーの仕事を終わらせて部屋に戻ると、少年が寝息を立てていた。

 

 

「……相当疲れてたんだな」

 

 

 目を離したと言ってもほんの三十分程度のはずなのに。

 コレイは少し悲しい顔をし、イスに座る。

 

 

「…………さて」

 

 

 そして、コレイは何かの薬の調合を始めた。

 適量の薬草と花で調合、すり鉢で潰して作り置いていた塗り薬と混ぜる。

 調合した塗り薬を大きめの草の上に出し、それを持って少年の目の前に立つ。

 

 

「…………」

 

 

 そのままコレイは……ゆっくりと少年の服を上に上げ、胸元を露出させる。

 

 

 

 

 ――そこには、黒ずみ堅い鱗のような物があった。

 

 

 

 

「また、この病気を……しかも子供で見ることになるとはね」

 

 

 

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