終末のアルテル   作:スグリ@あれこれ書いたりする人

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作者のメンタルが不安定で執筆が遅れています。申し訳ありません。

この章はかなりの残酷描写を含むのでご注意ください。


鬼の棲む城


 ごく平凡な、勉強があんまり得意じゃない女子高生の私、朝咲柚珠ことユズは、ある日の帰り道にトラックに轢かれて異世界に転生した。

 

 その世界には魔法もなければスライムもドラゴンもいなくて、代わりにいたのはヒャッハーな悪党や四本腕の巨大ロボット。

 

 なんじゃこりゃあな事もたくさんあるけれど、そんな感じで色々あって世紀末な異世界にも慣れてきた私は今……。

 

「おはようのキスだよ、アルテル」

 

 ベッドで待っているお人形さんのような可愛らしい女の子の顔に近付き、唇をちゅっと重ねた。

 

 この女の子はアルテル。不思議の国のアリスのような可愛らしい姿からは想像がつかないほど強くて、私を助けてくれた命の恩人。

 

 そして、行き場のない私の飼い主になってくれた子だ。私は今、この子のオペレーター兼ペットとして世紀末な世の中を生きている。

 

「んーっ♪」

 

 キスをしてあげるとアルテルは満足げな表情を浮かべながらベッドから起き上がる。

 

 このおはようのキス。ちょっと前に出来心でやってみたらアルテルってば気に入っちゃったみたいで、これをしないと起きてくれなくなっちゃったんだよね。今となってはおはようとおやすみのキスは日課になってたり。

 

 おやすみのキスは、もっとすごいけど。

 

「朝ごはんできたよ」

「たのしみ、です」

 

 そしてご飯を作るのも私のお仕事。こう見えて私、お料理は得意なのです。もしかしたら唯一の取り柄かもしれない。泣けてきた。

 

「市場のお肉と野菜とパンでスープを作ったの。パンは硬いからスープに入れちゃったけど、どうかな」

 

 野菜はちょっとお高めだったけど、頑張って栄養も考えながら予算内に収めたスープだ。調味料も貴重だからここは素材の味を引き出す方向で頑張ってみたけど、アルテルの舌には合うかな……?

 

「おいしい、です」

「よかったぁー!」

「すごいです、ユズ」

 

 やった、褒められた!

 

 アルテル、すごくいっぱい食べてくれるから作る側からしても気持ちいいんだよね。いつも腕立てとか色々頑張って鍛えてるから、お腹も空くんだろうなぁ。

 

「そういえばいつも市場で売ってるのって、何のお肉なの?」

 

 これは今日ふと気になったこと。いつもとりあえず屋台でお肉を買ってるけどこれがなんのお肉か、そういえばいつもわからずに食べてなぁと。私の世界のよりもなんだか臭みがあったりするんだよね。

 

 ほんとこれ、なんのお肉なんだろう。

 

「その日に、よります。その辺りの、野生動物なので」

「わーお、ワイルド」

 

 なるほど、ジビエ。なんだか適当だし、とりあえず食べられるならいいやって感じなんだろうね、屋台のお肉は。

 

「鶏のお肉も、ありますが……高いです」

「そうなの?」

「育てていると、ローグに、襲われます。だから、用心棒、必要です」

「鶏を育てるのも命懸けかぁ」

 

 家畜のお肉を育ててたら奪いに来る奴らがいる。それで野生のお肉を食べるしかないんだ。やっぱり世紀末って大変だなぁ。

 

「おいしかった、です」

 

 結構作ったパンスープも、アルテルは見事に全部平らげてくれた。いやぁ、ほんといい食べっぷり。可愛い。

 

「着替えて、ギルド、行きましょう」

 

 どうやら今日はお仕事に行くみたい。

 

 食器を片付けると、私も服を着替えてアルテルと一緒にギルドに向かうことにした。

 

「アルテルさん? なんでそんなに見てるんですか?」

「ユズ、可愛い、です。早く脱いで、ください」

 

 ほんとこのおスケベさんは!

 

 

 

 

 

 色々とアルテルに弄ばれたりしながらも、無事に準備を終えた私たちは、再びハンターギルドにやってきた。TOSも忘れてない。

 

「来たか、アルテル」

 

 中に入ると、今日はなんだか空気が違った。いつもみたいな盛り上がりはなくて、受付の人もいつものそっけない感じじゃなくてアルテルを待ってたような感じがした。

 

「どうか、しましたか」

「依頼がある。お前しか手に負えんかもしれん」

「聞かせて、ください」

 

 どうやらアルテルにしかできない依頼があるらしい。いつもはやる気がなさそうな受付の人も今日は真剣な顔をしていて、ただ事じゃない感じが伝わってくる。

 

「依頼主は……ハンターギルドのローグ対策部、直接の依頼だ」

「おおごと、ですね」

「最近ローグによる売買目的の人攫いが多発している事は知っているな」

「奴隷、にしても、多過ぎます。遠方への、輸出……?」

「それがそういうわけでもないらしい。胸糞悪い話だがな」

 

 私はあくまでアルテルのお手伝い。依頼を受けるかどうかは決めるのはアルテルだし、私は遠巻きに話を聞いておく。

 

 ローグの人攫いって、もしかして私が出くわしたやつかな。アルテルに見つけてもらえなかったら今頃奴隷にされてたと思うとゾッとする。

 

 そんな事を考えてたら、受付の人が私に話しかけてきた。

 

「ユズ、だったか。少々気分の悪くなる話をするが、苦手なら席を外してくれ」

 

 どうやら私に気を遣ってくれたみたい。この先どんなお話をするのかはわからないけど、私の心は決まってる。

 

「ありがとうございます。でも私、アルテルのオペレーターですから!」

「ユズは、ハンターとしての私の、一部です」

 

 アルテルも、私の気持ちをわかってくれた。

 

 私はもう、アルテルに守られるだけのお姫様じゃない。アルテルと一緒に戦うオペレーターなんだ。だから、きっとここで逃げちゃだめ。

 

 私とアルテルの気持ちを聞いた受付の人は、こっちを見て頷くとお話の続きを始めた。

 

「ギルドで調査を行ったところ、ローグたちの人身売買の取引先が判明した。攫われた人々は皆、南方にある古城に運ばれている事が判明した」

「何の、目的ですか」

「食用だ。満月の夜、城主が招待した人肉嗜食者たちによるパーティーが行われる。攫われ、買われた人々は、彼らに食材として振る舞われていた事を確認している」

 

 そういえば、私を襲おうとしたローグたちも言ってた。やっぱりこの世界では、食べる為に人が売られる事もあるんだ。

 

 怖い。気持ち悪い。でもアルテルはそれと戦うんだ。私だって、耳を塞いじゃいけない。

 

「依頼内容は」

「満月……明日の夜、パーティーを襲撃して参加者全ての殺害と、地下牢に囚われていると思われる奴隷の救出をしてもらう。最優先目標は城主のカリウス・アーチボルド。こいつは絶対に逃がすな」

「皆殺しって、こと……?」

 

 アルテルの仕事は、人肉パーティーに参加した人たちを皆殺しにする事。確かに攫われた人たちをお金で買って、殺して食べるなんて酷いけど。それでも皆殺しっていうのは。それをアルテルにさせるのは、なんだかもやもやする。

 

「一人が食べるのは、一人では、済みません」

「そういうことだ。売り手のローグを幾ら潰しても、買い手がいては終わりはない。ここで大元を潰すというのがギルドの判断だ」

 

 二人の言っていることはわかる。確かに人間を好き好んで食べるような人を一人でも生かしておいたら殺されるのは一人じゃ済まないし、そんな人たちに攫った人を売るような悪い人たちもいなくならない。

 

 殺してしまうしかない。それもわかるけど、だからってアルテル一人に。いくら強いって言っても、こんな小さな女の子にそんなことをさせるなんて。

 

「だが、奴らも強力な用心棒を雇っているらしい。既に送り込んだハンター五人が消されている」

「だから、私……」

「ああ。頼めるか、アルテル」

「請け、ます」

 

 依頼を請ける。そう言ったアルテルがどこか悲しそうな顔をしているのが、横から少し見えた。

 

 

 

 

 

 ギルドで依頼のお話を済ませた後。

 

 宿のお部屋に帰った私たちは、ベッドに座って一休みしていた。聞いた内容があまりにも刺激が強過ぎて、少し気持ちを整理したかったから。

 

「食べたいからって、人を食べる人がいるなんて……」

「食べるものがなくて、死んでしまった家族を、友達を、食べないと生きられない。そんな人たちも、います」

 

 この世界にやって来て、アルテルに拾われてちゃんとご飯を食べられている私は、きっと幸せだ。だってこんな世界だもん。アルテルの言う事は理解できる。

 

「でも、彼らは、違います。お金も、食べるものも、ある。なのに……彼らは、楽しむ為に殺して、食べます。同じ、人を」

「好きな食べ物が、人間だから……」

「それは、誰かを……不幸にする、幸せ、です」

 

 そう。明日の夜、アルテルが殺すのはそんな人たちとは違う。ただ人の肉が好物で、自分の幸せの為だけに人を殺して食べる人たち。

 

 自分の幸せの為に、沢山の人を不幸にしてしまう。そんな人たちだ。

 

 でもそう考えると、なんだか胸が痛くなってきて。気がつけばつい、アルテルに尋ねてしまっていた。

 

「私が幸せになったら、誰かを不幸にしちゃうのなら……アルテルは、私を殺す?」

 

 私が幸せでいる事が、誰かを不幸にはしないって。考えてみればそんな自信はどこにもなくて。

 

「ごめん、変なこと訊いたね」

「私は、ユズの、側にいます」

 

 そんな私に、アルテルはそう言ってぎゅっと抱きついてくれた。

 

「だから、ユズも、いてください」

「うん、いるよ」

 

 離れたくない。離したくない。ずっと味方でいて欲しいし、ずっとこの子の味方でいたい。

 

 どれだけの筋肉が詰まっているのか、小さくて細い割にずっしりと重い身体を受け止めて抱き返して、アルテルの言葉に私は頷いた。

 

「明日の、夜……一緒に、来てください」

「わかった。行こう」

 

 思えば血まみれのアルテルの手を取ったあの時から、ちゃんと向き合わないといけなかったんだ。優しくて可愛らしいだけじゃない。アルテルが、人殺しだって事と。

 

 そしてちゃんとアルテルの全部を受け止めてあげる為に。私は明日、アルテルと一緒に人食いたちの城へ行く事を決心した。

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