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いよいよ、満月の夜がやってきた。
「うわぁ、ファンタジー……」
私たちがやって来た南の古城は、如何にもファンタジーって感じの西洋風のお城だった。こんな状況じゃなかったら興奮してるとこだと思うけど……。
「行き、ます」
浮かれてる場合なんかじゃない。今からアルテルはたくさんの人を殺す。それを私は見届けるんだ。
音を立てないように、静かにアルテルの後ろをついていくと、お城の前に人の姿が見えた。
「それにしたって悪趣味だよなぁ。人肉パーティーだって」
「金持ちの考えることはわからん」
どうやら警備の人が二人。愚痴が聞こえてくるし、きっとお金で雇われたんだと思う。
隙を見て飛び出したアルテルは、物音を立てずに素早く警備の背後に忍び寄ると首に飛び膝蹴りを食らわせ、あっという間に二人ともやっつけてしまった。
「その人たちは……」
「気絶、させました」
アルテル曰く殺してはいないみたい。なんだかすごい吹っ飛び方したけど大丈夫かなぁ、なんて思いながら、私は先を進むアルテルの後ろをついていく。
「やっぱり強いなぁ、アルテルは」
「強い、用心棒……いません」
「アルテルが強過ぎるだけなんじゃない?」
道中何度か武器を持った警備の人が出てきたけど、アルテルは顔色一つ変えずにみんな一撃でやっつけていく。多分、殺してない。多分。
もう二十人くらいは倒してる気がするけど、それでも汗一つかいてない。もしかしなくてもアルテルって、最強だったりしますか。
結局言われていた強い用心棒とは出くわさないまま、パーティーが開かれているホールの扉の前に辿り着いてしまった。
「この先は、覚悟、してください。酷いもの、見てしまうと、思います」
「……わかった」
ここから先は気を引き締める。何があってもおかしくない。隣に立つアルテルの表情からも、今までの余裕は感じられない。
気持ちを整えてから、私たちは音を立てないようにゆっくりと扉を開けてホールに忍び込んだ。
「城主様には感謝ですわね。このような素敵なパーティーを開いていただいて」
「お陰で満月の日が楽しみで仕方ありませんよ」
何なの、これは。
綺麗なドレスやスーツを来たお金持ちっぽい人たちが、ワインを片手に言葉を交わして。ぱっと見た感じではお上品なパーティーにも見える。
だけどおかしいのはテーブルの上だ。色とりどりの料理が並ぶいくつものテーブルの真ん中には、それぞれに死んだ人の生首が飾られている。
吐き気がする。ここは、異常だ。
「それでは御集まりの皆様。本日はこの私、カリウス・アーチボルドよりメインイベントとしてこちらをご用意させていただいております」
舞台の上に出てきた。あれが、あの男がアルテルのターゲット。この狂ったパーティーを開いた奴だ。
来客へと声高く宣言し、カリウスが舞台の幕を開いてパーティーのメインだと言うそれを披露した。
「見てください、この美しき乙女を! そして!」
手錠を着けられて鎖で吊るされた、私と同じくらいの歳の裸の女の子。
そしてカリウスは鞘からナイフを引き抜き、その子の太ももを削いだ。
「あ゛あ゛あぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
「これより皆様にはこの乙女の肉を、その手で削ぎ、食していただきます!」
女の子の悲鳴が響き渡る中、会場のあちこちから拍手が鳴る。
狂ってる。ここにいる人たちみんなおかしいよ。どうしてこんな事ができるの。湧き上がる怒りで手が震えて、いつの間にか噛み締めていた唇から血が滲んで鉄の味がした。
そんな時、アルテルは飛び出し、目の前にいた女の人の首が宙を舞った。
「何だ!?」
頭を失った身体が、噴き出る血を撒き散らしながらどさりと崩れ落ちる。
そしてまた一つ、首が飛んだ。
「きゃあーっ!」
「警備は、警備はどこだ!」
「一人も……逃さない」
パニックになり、逃げ惑う人たちをアルテルは容赦なく一人、また一人と切っていく。逃げるのなら背中から、抵抗するのならその腕ごと切り刻み、声が一つ消える度に血が噴き出て部屋を赤い血の霧で染めていく。
「アルテル……」
気がつけば、私はその名前を呼んでいた。
この狂宴を地獄に変え、今も人を喰らう
私にできるのは、見届けることだけ。人殺しのアルテルから目を背けないで、ちゃんと向き合った上で一緒にいてあげることだけ。
これでいいんだよね、アルテル。
「何が、何が起きている!」
カリウスが喚き散らすけど、誰も答えない。パニックになって逃げ出したのか、アルテルにもう殺されたのかはわからないけど、答える人はもういない。
「そうだ、用心棒だ。あいつは何をしている!」
用心棒ももう、アルテルがやっつけてしまったのかな。こんな事になっても出てくる気配はない。
こいつらを守る人は、もういない。
「待て、金ならあ……」
「死にたくな……!」
「だめ、です」
男女二人の首を纏めて切り落とし、首無しの死体を蹴り倒すとアルテルはカリウスにナイフを向け、睨んだ。
「最後は、カリウス……あなたです」
「ひぃっ!」
腰を抜かしたカリウスを、一歩、また一歩と追い詰める。
「ハンターか、なら金目当てだろう。金なら幾らでもやる。わかるな? な?」
命乞いにも聞く耳は持たず、怒りを込めた眼で睨みながら、アルテルは何も言わずに歩みを進め、そして……。
「待て、こっちに来……!」
目にも留まらぬ速さで振るったナイフが身体を頭から股まで真っ二つに切り裂き、人の肉を喰らう狂宴の主催者カリウスは死んだ。
「アルテル!」
これで終わったんだ。私が駆け寄ると、アルテルは微笑みながらこっちを見た後ナイフを振るい、捕まった女の子を繋いでいた鎖を断ち切った。
「その子の、手当を」
「いたい……いたい……」
アルテルに頼まれたんじゃ頑張るしかないよね!
女の子を任せられた私はポーチからお薬と布、包帯を取り出し、ナイフで削がれた傷にくっつかないようたっぷりとお薬を塗ってから布を当て、包帯をしっかりと巻く。
街に戻ったら病院には行ったほうがいいだろうけど、応急処置は多分これでいいと思う。
「もう大丈夫。助かったんだよ」
よほど怖い思いをしたんだと思う。まだ震えが止まらない女の子をぎゅっと抱き締め、話しかける。大丈夫だよって、落ち着くまで何度でも。
だけど、これで終わりじゃなかった。
「私は、あちらを……」
「ほう、気付いたか。それにこれだけ殺して息一つ上がらんとは、流石だな」
アルテルに気付かれて男の人が一人隠れるのをやめて舞台の裏から出てくる。
あの人も、パーティーの参加者? ううん、なんだか違う感じがする。
「あなたが、用心棒、ですか」
「ああ。名はシューギ。お見知りおき願おう」
どうやらこの人が、ギルドで言われていた用心棒らしい。確かにすごい筋肉で、なんだか強そうに見える。
でも用心棒って言っても依頼した人はもう死んじゃってるけど、今更出てきてどうするんだろう。
「
「その下衆か。そのゴミならもう用済みだ」
私が思ってたのと同じ事を訊いたアルテルの質問に、シューギは笑みを浮かべながら答えた。
「俺がこんな下衆の用心棒になったのも、貴様のような強者と戦う為だ。これまでやってきた五人は皆取るに足らん雑魚だったが、貴様は違う」
強い相手と戦う。たったそれだけの為に、この人は人肉パーティーなんてものを見逃すどころかこれまで守ってきたっていうの。強い人を呼び込む為の、餌にする為に。
そして強い人、アルテルが来たらあっさりとあいつらを見捨てた。私にもわかる。この人も、充分に悪い人だ。
「名を聞こう」
「アルテル」
「そうか。噂の首切りアリスか」
こんな相手にも知られてるあたり、アルテルはよっぽど有名なんだろう。首切りアリスと口にしたシューギは、にやりと嬉しそうな笑みを浮かべていた。
「そこの貴様は、戦士ではなさそうだ。名は」
「ユズ、です」
「ユズ、その少女を連れて下がっているといい。俺とアルテルの死闘に巻き込まれないようにな」
「離れていてください、ユズ」
「うん、わかった」
シューギとアルテル、二人に言われた私はホールの端に逃げることにした。もちろん、傷ついた女の子も連れて。
「脚、痛いよね。肩、貸してあげるから……動ける?」
「あり、がとう……」
脚を削がれたせいで、女の子は肩を貸してあげないと歩けない。歩みはゆっくりだけど、シューギもちゃんと待っててくれるみたい。きっと戦いの邪魔をされたくないんだと思う。
「彼女が、貴様の愛する者か」
「私を、愛してくれる人、です」
「そうか……」
二人の話し声が聞こえる中、ホールの端に辿り着いて向こうを見ると、戦いの構えを取る二人の姿が見えた。
「行くぞアルテル。少女とて油断はせん。貴様の力、この俺の糧とさせてもらうッ!」
そして今、戦いが始まった。