遊撃小隊ってモンド各地を回っているらしいですね。徒歩かな?徒歩だよね?テイワット馬見たことないもんね?ね?
モンド、ダダウパの谷周辺。
穏やかな風が頬を撫で、サワサワと周囲の草木がその葉を鳴らす。
実に良い気持ちだ。これがお仕事でなければね!
現在、エウルア隊長閣下と遊撃小隊の通常業務であるモンド各地の巡回を行っている真っ最中。徒歩でモンド中を駆け回る……しんどいんだぜ?これ。
え?またエウルアと2人なのって?しょうがねぇだろ、マジの人手不足なんだよ!!
「暇だわー。なぁ、エウルア。もう今日は何にも起きなさそうだから『鹿狩り』行って酒でも飲もうぜぇー」
「君はそればかりね?隊長の前で怠惰を口に出すなんて、この恨み忘れないわ」
「はいはい、いつものやついつものやつ。本当にお前はガキの頃から変わんないねー。もうちょい肩の力抜いていこうぜ?“龍災”の最中ならいざ知らず、今はファデュイやアビスの動きも落ち着いたしな。まぁ、“栄誉騎士”様さまってことで」
そう、実は一時期に比べて遊撃小隊のお仕事はかなり減ったのだ。理由は簡単、“龍災”の解決が大きい。
そしてその解決に大きく貢献したのが、先ほど会話に出た“栄誉騎士”。ちなみにだがこの称号はモンドでの多大な功績を讃えられたもので、俺たちは専ら出会った時の呼び名、“旅人”と呼んでいる。
「確かに龍災は落ち着いたけど、モンドへの脅威が完全に排除されたわけではないわ。ファデュイは常に各国を暗躍しているし、アビスに至ってはモンドでは動向が掴めていない。気を緩めている暇はないわ」
そう言われると何も言えねぇー。エウルアの言うことは正しいんよなぁ。
七国が一角、冬の国スネージナヤ。極寒の女皇が統べるこの国はファデュイという外交組織が存在する。まあ、外交ってのは表向きの話で実際は裏で暗躍して武力、策謀、金の力全てを駆使して侵略を進めてくるヤベー奴らだ。更に上にファトゥスとか呼ばれてる奴らもいて、そいつらはもっとヤバい存在らしい。うん、スネージナヤ、ヤヴァイぜ。
「ファデュイは今のとこモンドってよりは他国でやることがあるっぽいけど、アビスについては正直今までと変わらねぇんだよなぁ」
「……旅人の功績を貶める気はないわ。彼女の行動で、確かにモンドの秩序は格段に良い方向に向かったわ」
「エウルアちゃん、なんやかんやアイツのこと好きだもんねぇ?表立っては褒めないけどねぇ」
「う、うるさいわね!事実を言っているだけじゃない!!」
エウルアちゃん、旅人と仲良いからなぁ。まぁ、とりあえず言いたいことはわかるわな。
アビス教団と呼ばれる人外の者たちの人外組織。こいつらはもうね、マジで厄介で何考えてるかわからん。ヒルチャールを従えて襲ってくることもあるし、裏でコソコソと暗躍することもある。うん、“龍災”のことですね。本当にありがとうございます。
ファデュイとアビス。この二つの勢力が勢いづいた原因が何度も話に出てきた“龍災”……元々モンドの守護をしていた存在一つ、風魔龍トワリンの暴走だ。そりゃあ、勝手に大変なことになってる国に手を出すのは楽だろーさ。俺様から言わせれば、火事場泥棒は死ぬほどダサいけどな!
「はいはい。モンドの状況は旅人のおかげで好転したけどそれを無駄にしないように油断せずに行こうぜ……ってことよな?お前って本当に不器用でツンデレで、ケツがデカいよなぁ……っげハァ!?」
「無駄話は終わりよ。巡回任務を続けなさい」
「イエス、サー……オェ」
強めのボディブローを受けて、真面目に任務に就く俺。うーん、社畜ぅ。
さて、尊敬して止まない隊長様のありがたい肉体言語……腹部が痛むお言葉により、それから数時間は任務を真面目に続けた俺様。ダダウパの谷を離れてモンド城に近づいた頃に、エウルアが待っていた言葉を口にした。
「ふぅ、ベルカス。そろそろ帰るわよ」
「その言葉を、待っていた!!あへぇぇえ!!お酒飲みたいー!度数高いお酒でキメたいぃいいー!!」
「少しは慎みなさい!下品すぎるでしょ!!」
無事に任務が終わった俺。やっと帰れると思った、その時だった。
茂みから、ガサガサと音が聞こえた。それと、生き物の気配も。
「エウルア…何かいるぞ!」
「ええ、でもこれは」
「来るぞ…!」
エウルアは何かを言いかけるが、俺はすぐさまリカーブボウを構える。
プロ意識の違いだぜ?エウルアちゃん。
臨戦態勢はバッチリで、茂みから飛び出してきた影を迎え撃つ。
『ぶきぃい!!』
「あ、これイノシシだ……ぶげぇ!?」
はい、正面からぶっ飛ばされました。アイツら意外に動き早いよね?キリキリ回転しながら地面にバウンド。
いてぇぇ。
「無様ね。最近気を緩めているからそうなるのよ」
アッサリとイノシシを仕留めこちらを見下すエウルア。くそっ、油断した!
そして、正面から見上げるコイツの太もも……うーん、破壊力!
「偶然だけどイノシシを狩るなんて、少し懐かしいわね」
「え、ああ…そうだな。まぁ、あの頃は切実に食い物がなかったからなぁ」
「ふふっ、本当にあの時は毎日毎日、森の中でイノシシを獲ったり池に飛び込んで魚を獲ったり。今じゃ考えられないわね」
口元に手をやり笑みを溢すエウルア。
どうやらあの頃のことを思い出しているみたいだけど、俺は結構トラウマなんだが?なかなかの暗黒時代だったぞあれは。
ローレンスの血族としてまだ力がないため半ば迫害されていたコイツと訳あってならず者一歩手前でモンドのはずれで細々生きていた俺。何も起きない訳はなく……うん、何なら宝盗団どころか遺跡守衛すら相手にしてた記憶があるわ。
「マジでよく生きてたよな。それよりも、お前に一言言っておきたい。お前のその服、股にスッゲェ食い込んでね?エロくね?」
「ふんっ!!」
「ゔぉっぅ!?」
思いっきり腹を蹴られました。
おいおい隊長?部下に対する扱いが酷すぎませんかね?
「下品なことを言っていないで帰るわよ。ちょうど明日は非番なんだから、このイノシシを肴に一杯やりたいわ」
「えぇー、解体からやるのはめんどくせぇよ。つまみ作るの俺じゃぁーん。『鹿狩り』に行こうぜー?サラちゃんにも会いたいしー。明日非番なんだったらワンナイト狙えるかもしれんし……あ、冗談です帰りますそして作ります」
笑顔で氷気を纏い始める幼馴染にして上司が怖すぎて俺のオフの予定は確定しました。
あー、もう何作ろうかなぁー?
⁂
「こいつデケェから重てぇー、これ家まで運ぶのぉー?辛いんですけどぉー」
うなじ近くで短く一本結びにした焦げ茶色の髪を揺らし、目の前でブツブツ文句を言っている青年はベルカス。私の幼馴染……いや、腐れ縁と言った方がしっくりくるわね。
西風騎士の鎧を申し訳程度に右の肩当のみ着用して、短めの新緑の外套を左肩に羽織り胸には軽そうな皮鎧。そして腰には風元素の文様が刺繍された緑の布を巻いている。扱う元素力は岩のくせに。
「今日はほとんど何もしていないでしょう?収穫物を運ぶ位は頑張ってほしいわね?」
「まぁ、お前に運ばせるわけにはいかないよなぁ。既にそんあ重い尻がくっ付いてんだから……ごめんなさい馬車馬みてーに運びますぅ」
元々良くない目つきを更に意地悪に歪ませて軽口を叩くベルカスだったが、私の一瞥で態度を変えてイノシシを担ぎ直す。そんなやり取りをしていると、また昔のことを思い出す。
ローレンス家再興の期待を背負って日々を過ごしていた小さい頃の自分を。
『おい、お前!ここは俺様のナワバリだって知ってんのか?あぁん?コルァア!?』
当時…今もだが口が悪かった彼は、城下町で物を売ってもらえず半ば自棄になって森を訪れた私にそう言った。
第一印象は最悪だったわね。
『ガハっ、お前、少しはやるやん?俺の狩り補佐位はさせてやってもええで?だからもう殴らないで下さい、すいませんっしたぁ』
旧貴族復権のために様々な教育を受けていた私は絡んできた彼を叩きのめし…いえ、丁重に諫めたのよね。うん、決して馬乗りになってボコボコになんてしていないわ。よく覚えていないけれど。
そこから彼との奇妙のな縁が始まった。
『お前がローレンス家?うん、わかった。え?旧貴族を知ってるのかって?知ってるに決まってんだろ!んなこと今カンケーねぇから!てゆーかその話、今ですかねぇ!?あぁ!?早くイノシシを追い込め!3日振りのたんぱく質ぅうう!!』
私は自分の家名を伝えた。そして、返ってきた言葉がこれだった。
食料調達のために彼と一緒に狩りをする。そんなことを繰り返して1か月程が経った。その頃には既に私にとってはローレンスの人たちよりは気の置けない存在にはなっていた……気がする。
そんな中で私が少なからず…いや、それなりに……その、かなり気を遣ってやっと自分の家のことを言えたのに、彼はあっけらかんとした様子で再びイノシシを追いかけた。当然、捕まえた後もいつも通りに私と肉を分けていた。
『え?もう会わない方がいいんじゃないか?いや、来いよ。もう二人での狩りに慣れちまったからお前は、その……必要だ。あ、狩りだぞ!狩りにな!』
彼はローレンスのしてきたことも現在の境遇も本当に全てを知っていた。だというのに、私を拒絶しなかった。
それどころか、必要だと言ってのけた。
『それにお前とつるんでりゃ、ローレンス家が再興されたら甘い汁吸えそうだしな!』
それに対して私は家の復興に興味がなくてただ復讐したいだけだと伝えたが、聞いているのかいないのか彼はこう言った。
『よっし!お前の復讐、手伝ってやるよ。エウルア・ローレンス。改めて、俺は“無敵狩人”ベルカス・ナハトだ!お前の復讐の強力な味方が出来てよかったなぁ!!』
仁王立ちしてゲラゲラと品なく笑うベルカスを見て、私も思わず笑ったのを覚えている。こうして、お互いのフルネームを初めて伝え合ってから私は更にベルカスと色々なことをした。
狩場を広げて池に行って魚を泳いで捕まえたり、木に登って卵を取ったり、時には宝盗団と遭遇して戦ったりもした。遺跡守衛やヒルチャール達に見つかって命からがら逃げまわったりもしたわね。うん、今考えると私達よく生きていたわね……
長い年月が経って私も随分と変わった。ベルカスのすぐ後に出会ったお節介焼きな少女とその祖父によるところも大きいけれど、それでも私の最初の味方は彼だった。まぁ、あの頃から現在進行形で彼の下品な言動や素行は改善されていないのだけれど。
「ふふっ、まったく、あの頃の恨みも含めて……忘れないわよ?」
「あぁ?なんか言った?イノシシが邪魔で振り向けないんだけど?尻がデカ過ぎて爆発でもした?」
……うん。やっぱりベルカスはあの頃から変わらないわね。変わらない彼の言動に安心すら感じるわ。私は、瞼を閉じて息を吸い、最初の味方である彼の足にローキック打ち込んだ。
「ギょんっ!?」
汚い呻き声と共に、そのまま蹲るように崩れ落ちるベルカス。うん、イノシシの重さもあって綺麗に潰れたわね。そんな彼を尻目に私は先にモンド城を目指した。
……あと、私のお尻はデカくない!
読んでいただいた方、ありがとうございますm(__)m
エウルア様の過去捏造+妄想m(__)m。