今日も良い天気の中、元気いっぱいで巡回任務をこなす俺とエウルア隊長様。現在は星拾いの崖まで足を運び、モンドの平和を脅かす脅威がないか、目を光らせていた。
“龍災”が解決してからのモンドの情勢はその前と比べて格段に良くなってはいるがまだまだ油断はできない。ファデュイは相変わらず動きが怪しいし、“龍災”に絡んでいたアビス教団共も相変わらずモンドの各地でその姿を見かける。
「今日も異常なーし。はい、お仕事おーわり!」
「そんな訳ないでしょ?しっかり任務に当たりなさい」
「はーい、ごめんなさーい」
軽口を叩きながらも周囲を注意深く見回す俺。これでもね、騎士団としてのお仕事はしっかりしてますよ?俺は真面目なんだ。
「おっと、あそこに夕暮れの実が生ってるぜ。いくつかいただいていきますかね」
うん、ツヤツヤしてて美味そうだ。ジャムにしたらパンに合うぜぇ。
「おやぁ、ヴァルベリーもみーっけ!種も採取してっと」
コイツはモンドの特産でなかなか重宝する植物だ。ゲットぉ!
「ベルカス?」
「んぉ?あそこに仙霊いるぅ!追いかけようぜ!宝箱が隠されてるかも…」
「ベ・ル・カ・スっ!!」
「ヒェ、はい!」
「ふぅ、君の業務として物資の調達が含まれているのは承知しているけれど、メインは巡回だって言うことを忘れないでちょうだいね?」
採取や宝箱に夢中になりすぎちゃったぜ!反省反省。
ちなみに俺の遊撃隊での肩書きは、現地物資調達係。簡単に言うと任務で訪れた現場でその時々に応じて必要な物資を探索して調達するのがお仕事だ。
「わかってますー。それより仙霊行っちまうぜ?」
「まぁ、今回の巡回地域から大きく外れなければ許可するわ。ヘルターからも物資調達は頼まれているしね」
騎士団第6中隊隊長ヘルターさん。騎士団の物資管理を行う彼女に任務中に見つけた特産品や遺物等については伝えることにしている。なぜかって?以前宝箱が豊作の時に、いくつかの聖遺物を売り払ってお小遣い稼ぎしようと思ったらバレましてね?うん、ヘルターさんって怒ると怖いんだね?ジンさんとエウルアにも怒られたけど、とにかくルールって大切なんだなって改めて感じました。はい。
まぁでも、仕上げ用魔鉱を少しいただく位はバレねぇだろ。俺の弓の強化に使おう…ふひひ。
「よっしゃ!そうと決まればとっとと追いかけるぞ!げへへっ」
「君って内心が本当に顔に出るわね。まぁ、私がジャッジメントするから好きにしてちょうだい」
えぇー?エウルアちゃん、今すっごい怖いこと言った?ジャッジメントされたらすっごい物理ダメージ食らっちゃうぅう!?
さて、気を取り直して仙霊を追う俺様。薄緑色に揺らめいてふわふわ移動する仙霊。こいつらはそれぞれ庭と呼ばれる場所に所属しているらしく、その場所の台座に案内してやればアラ不思議!なんと宝箱が現れるのだ。うーん、原理はまったくわからんが俺は貰えるものは貰う主義!
「おお、まぁまぁ遠くに行きそうだな!だが、逃がさないぜ!」
ふわふわ浮遊しながら朽ちかけの石柱の上に移動する仙霊。逃がさんという強い気持ちと共に柱をよじ登る。そこで、俺の耳に、聞こえた。聞こえてしまった。
「誰かぁー助けてくれぇー!だ・あ・れ・ぇ・か・ぁー!!」
エウルアを見る。すると、無言で頷いている。眉を少し潜めながら……はい、そういうことですね。あぁあ!マジかぁー!!
「…行きますかぁ?」
「…行きましょう……はぁ」
ふと横目で仙霊を追うと、既に崖の下に移動したようでもう視界からは消えていた。はい、追跡終了でーす!くそっっ!!
内心の悪態を顔に思い切り出しながら、俺は声のする方に全力疾走した。
●
「助けてくれてありがとう!まさか、ここで魔物に襲われるなんて思わなかったよ」
パラド。
俺達が数分前にヒルチャールに襲われているのを助けた青年の名前だ。凛とした表情で俺達にお礼を言ってくる。
「いやいや、無事でよかったよパラド。怪我はないか?なくしたものとかも大丈夫か?」
「ははは、大げさだよベルカスさん。この通り、元気いっぱいだよ!」
「そうかそうか!本当によかった!」
俺はパラドの肩を叩きながら彼と笑い合う。そして、そのまま肩をグッと掴み、そのままギリギリと力を入れていく。
「それじゃあ、いいかな?」
「いいかな?べ、ベルカスさん?なにを、あの、肩が痛……イタたたたたっ!?」
「…ベルカス、ほどほどにしておきなさい?」
既に両肩からの万力の握力でパラド…いや、“うっかりパラド”は悲鳴を上げて身もだえている。もちろん、俺は笑顔だ。ついでにエウルアは呆れたように額を抑えているが止める素振りは一切ない。
「さて、いいかな?言っても?」
「え?な、なにを?」
顔を引き攣らせながらも全く状況を飲み込めていないパラド君に至近距離でこの気持ちを伝えよう。
「何・回っ!!同じ・場所でっ!!襲われとるんじゃいっっ!!!」
星拾いの崖に俺の声が響く。うーん。我ながらよく通る声だねぇ。
「おいコラパラド…お前星拾いの崖で、ヒルチゃーるに襲われんのはこれで何回目だ?あぁ?」
「え、えっと、どれくらいだったかなぁ…はは」
「8回目だボケぇ!お前はなんなの?2,3回なら百歩譲ってギリギリ許すよ?でもさ、仮にも冒険者をしてるいい年の青年がさ?何度も来ている地域で全く同じ形でヒルチャールに何回苦境に立たされてんの?せめて4回目で何か対策をしてからこいや!」
「つーかお前もう一人で出歩くんじゃねぇ!どーせヒルチャールに襲われるんだから!!大体さっきのヒルチャールだって最早お前に対して若干棒立ちだったよ?『またコイツか…』って感じで若干困ってたよ?完全に棍棒の所在なさげにしてたよ?ヒルチャールにまでご迷惑かけてんじゃねぇよ!!」
「どうりで囲むだけで一向に襲ってこなかったわけだね。納得したよ!」
「まずは反省しやがれぇい!!」
肩どころか胸倉を使ってメンチを切りながらパラドに思いの丈をブチまける。それを苦笑いで受け止めるパラド。コイツのメンタルどーなってやがんの?強っよ!?
戦慄する俺の後ろでエウルアが大剣を顕現させながら、声をかけてくる。
「ベルカス、君の野蛮な大声のせいで周りのヒルチャール達が集まって来ているわ。この恨み、覚えておくわよ?」
「その割には、そんなに怒ってないじゃん?」
「それは言いたいことを言ってくれたんだもの。多少の温情はあるわ」
そう言いながら、パラドを横目で見るエウルア。俺でもぞくっとする位の眼光を見て、ようやくパラドは顔を真っ青にしてくれた。
「パラド、動くなよ?こいつら蹴散らしたらもう一回説教してやっからな!」
「ええ、私からも改めて言いたいことがあるわ」
「……はい。すみませんでした」
パラドがガックリと肩を落とし謝ったのと同時に、先ほど追い払った数よりもはるかに多いヒルチャール達が襲い掛かってきた。しかし関係ねぇ。ひとまずお前らで憂さ晴らししてやるぁ!
俺は弓を構え、エウルアは氷気を放出し、その大剣を振りかぶった。
●
「“うっかり”もほどほどにしないと本当に取り返しのつかないことになるのよ?肝に銘じておきなさい?」
「はい、はい…本当にすみませんでした…」
「うし、じゃあ行け。いいか?くれぐれも“うっかり”を起こすんじゃあねぇぞ?特にヒルチャールが少しでも見えたらそっちには行くなよ?見つからなきゃひとまず大丈夫だからよ。あと今度冒険に出るときは誰か他の奴もつれてて‥‥」
「‥‥僕との冒険、みんな行きたがらなくて…」
「あ、ごめ…その、頑張れ…」
ヒルチャールさん達を蹴散らした後ガッツリ正論でエウルアさんに叱られたパラドは意気消沈しつつも、自分の認識の甘さを理解してくれたようだ。
いやね?こっちだって嫌味で言っているわけじゃないんだぜ?俺達遊撃隊はモンド各地を回ってヒルチャールはもちろん、その他の魔物と戦っている。そのため、パラドの危機管理の甘さは到底看破できるものではなかったのだ。
まぁ、俺は手間かけてんじゃねぇって気持ちが強いが、エウルアちゃんは真面目だからね。
「さて、俺らも帰るかぁ?」
「まだ巡回終了には時間早い…と言いたいところだけれど、今日のところはいいでしょう。何より、彼の相手は疲れるわ……」
「それな。まぁあんだけ言ったんだからこれで当分無茶は……んん?」
俺が見た方向は、パラドが歩いて行った方向だ。そして、遠ざかっていくパラドが見える。
うん、ここまでは何の問題もない。離れたら小さくなっていく。遠近法的にも問題なし。
しかし、問題はここからだ。
「なぁ、エウルア。俺の目がおかしくなったのかな?パラドの奴、なんか脇道に逸れてない?しかもヒルチャールが踊ってる方向に」
「そうね。晶蝶を見つけて追いかけているみたいね。うん、私の目もおかしいのかもしれないわ」
「そうだねぇ。あ、ヒルチャールがパラドに気付いたねぇ。ただ踊っていただけなんだけどねぇ」
「そうね。そしてたった今、パラドが囲まれたわね」
「「………っハァー」」
お互いに目線も合わさずにエウルアは天を仰ぎ、俺は地面を見つめて同時に大きな溜め息を吐く。
数分後、パラドはヒルチャール達から助けられ、エウルアと俺にバチクソに怒られた。それはもう先ほどの比じゃないくらいにやってやった。
最後は冒険者協会のサイリュスに引き渡して、今日の巡回任務は終了となった。
みんな、“うっかり”もほどほどにな!!モンド遊撃小隊との約束だぞ?
読んでいただけましたらありがとうございますm(__)m
余談
・パラド
うっかりもほどほどにしとけよおまえまじで。
・第6中隊隊長ヘルター
地味だが西風騎士団の隊長格。このお話では割かし偉いポジションになるかも。現地調達したものはとりあえずヘルターさんへ報告義務があるとかないとか。獣肉とか野菜とかの食料品は各隊の裁量で消費してもよしという妄想。
・仙霊
追え!追えー!!(時間があるときに)