ダンまち世界に転生するのは間違っているだろうか 作:厨二病の末路
いつも読んで頂きありがとうございます。
ちょいと短めです。
刀を無造作に人に振るのは、初めてだ。
当然だ。真面な神経ならば、そんな機会は一生涯訪れることはないと断言出来る。
きっと、真の意味でオラリオ暗黒期というものを理解していなかったのだろう。どこかでまだ、画面越しのTVを見る感覚で今の状況を俯瞰していた。
しかし、目の前に広がる惨劇は、どうしようもなく現実なのだと脳に叩きつけられる。一時の幸せをが、音もなく崩れ落ちた。
凶刃が民衆を切り裂く。幸いだったのは、頭で理解する前に身体が動いたこと。だが、身体は理性を振り切り、騒ぎの集団を殺す事しか考えられなかった。
目の前で、化け物を見るような目で俺を見ている
人を初めて殺す事に感傷を抱くことなく、刃を振り下ろした。
だが、振るった刃が白装束の首を落とすことはなかった。
「……刀をどけろ輝夜」
「いいや、どけん。少し落ち着けザック」
あろう事か、輝夜が刀を差し込んで動きを止めていた。
2人の間に少しの沈黙が流れる。
「なんで庇う?こんな屑共に生かしておく価値なんてないだろ?」
「その意見には同意だ。こんな蛆虫共を掃除するために私は『正義』を掲げているのだからな」
「なら…!」
「だが、お前が
「…………」
「それは、お前の『夢』の翳りになる。そんな事に私はなってほしくはないんだ」
輝夜は、刀をそっと下ろしザックを優しく抱き締めた。輝夜の体温が全体に染み渡っていく。不意に涙がこぼれた。
「……分かった。ありがとう輝夜」
「いいんだ、気にするな」
暫くすると、騒ぎを聞きつけた【ガネーシャ・ファミリア】が、シャクティとアーディを筆頭に
「この数を短時間で1人で制圧したのか!?」
「あぁ、私は逃げ惑う民衆達を誘導していただけだ。もっとも、時間にして10分とかかっていないはずだがな」
「20人程居たが…。とてつもない手際だな。一体何者なんだ彼は?」
「そんなもの私が知るか。あいつは、身の上話を全然しないからな」
輝夜とシャクティがやり取りしている最中に、アーディが、少し沈痛な面持ちで、こちらにやって来た。
「…遅くなってごめんね。大丈夫?」
「謝るなよ。アーディ達は何も悪くないんだから」
表情を取り繕ってアーディに返答するが、上手くできている気がしない。すると、アーディが隣に来て並ぶように座り込んだ。
「大丈夫かどうかの返答を聞けてないよ?…もっとも表情を見る限り、平気ではなさそうだけど…」
「あ…。はは、やっぱり上手く取り繕えないわ」
「んー。えいっ」
「…急にどうしたんだ?」
何を思ってか知らないがアーディが手を取った。暖かくて少し落ち着く気がする。胸のつかえが取れた訳では無いが、幾分マシになった。
「…ありがとう。少し落ち着いた気がする」
「へへっ、そうでしょ?私も昔、シャクティお姉ちゃんにしてもらったことがあるんだ〜」
ザックの重たい雰囲気を振り払うかのように、アーディは他愛のない話をしてくれた。それこそ、ザックの表情が少し柔らかくなるくらいまで。
アーディはタイミングを見計らって、話を切り出した。
「…力になれるかは分からないけど、ザックが今何を思ってるのか知りたいな」
「………」
「ほら、話す事で見えてくる事もあるし、聞いてもらえたらスッキリするかもしれないよ?」
「……そうだな」
優しく問いかけるアーディに答えるように、ザックは深呼吸をしてポツポツと語り始めた。
「初めて…人を殺そうとした。輝夜に止められてなければ今頃、
「…うん」
「それ事態に何の後悔もしていない。悪いとも思ってない。だってアイツらは、目の前の幸せを、なんて事ないように踏み潰したんだから。でも…」
ザックは
「自分の中に、そんな底冷えするような感情があると思わなかった。まだ、感情だけなら良かったんだ。その激情に駆られて自分を制御出来なかった」
「それは…」
「仕方の無い事じゃないんだよ。実際、その場に居た輝夜は住民の避難を優先させてた。そんな事にも気付かずに俺は刃を振るい続けてた」
「………」
「人々の笑顔を守れず、我を忘れて
ザックはそれっきり口を閉じた。起きた惨状を、起こしてしまった事実を悔いるように俯く。まるで、自分が澄み切った空に晒される事を恥じるように。
きっと彼は感情が迷子になってしまっている。きっと英雄に足るであろう力を、偉業を成している彼を見て大人扱いしていたが、精神は年相応のものなのだろうと、アーディは感じた。
「……私は英雄譚が大好きでね」
「…?」
「どの英雄譚も最後はハッピーエンドを迎えるんだ。けど当然、最初から最後まで1度も間違わない英雄なんて居なかったんだ。どこかで挫折や焦燥、絶望を味わった上で最高の結末に辿り着くの」
「………」
「今回の事だって、確かに後悔する出来事だったと思う。けど失敗したとは思わない。君は誰も殺してないし、君が居なければもっと被害が広がっていた」
これは紛れもない事実で、ザック達がこの場に居なければ辺りはもっと惨憺たる事になっていただろう。目の前で起きた事にいっぱいになってザックは気づけていないが、確かにザックが拾い上げた命もあったのだ。
「ザックの言う正解なんて言うものは、私には答えられないよ。だけど、俯いてばかりいないで。君が救った命も確かにあったんだから。過ぎたことはどうしようもないんだから、未来に目を向けようよ!」
「……!」
「酸いも甘いも食べ尽くして、ザック・カールスは『最高の冒険者』になるんでしょ?ならここで立ち止まったらダメだよ。まだ私は君の物語を見せてもらってないんだから!」
「───────────────」
風が吹いた。顔を上げると、微笑んで俺が立ち上がる事を期待しているアーディの瞳がそこにはあった。ここまで言ってくれる彼女を裏切りたくない。ザックは両手で頬を叩きアーディに向き直る。
「ありがとうアーディ。そうだよな…。確かに救えた命もあったんだ。その事を少しでも誇ろう。この暗黒期で激情に身を振り回されないように、君に楽しんでもらえる冒険譚をまた1から始めて行くよ」
「…!うん。楽しみにしてるから!」
迷いが完全に晴れた訳では無い。これからもきっと今回の出来事を、一生忘れることはないだろう。だけど、自分は最大の咎を犯す前に止めてもらった。その事を噛みしめてここから進んでいこうと決意した。
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アーディ達はそのまま
「…なぁ輝夜」
「なんだ」
「止めてくれて…ありがとう。後悔するって言った意味分かったよ」
「そうか。なら良い」
「後、ごめん。デート…こんな事になっちゃって」
「お前が悪いわけじゃない。だがそうだな…。暗黒期が明けて、少しは平和に戻ったら埋め合わせをしてもらおうか」
「ああ、その時は必ずちゃんとエスコートするよ」
青かった空は赤みがかり、陽の光が空を覆っている。そんな中考える。今日は自分の中での転機だったろう。輝夜に止めてもらわなければ、きっとこの先、堕ちるところまで堕ちていた。
起きた出来事を巻き戻すことは出来ない。だが、輝夜に止めてもらい、アーディに背中を押してもらった幸運を噛みしめて、この先を生きていこうとザックは決意した。
ここまで読んで頂きありがとうございました。
ここでザックが闇派閥を殺す、殺さないで物語が分岐していきます。
大人びて見えますが、まだ14歳です。
人を殺した罪悪感に苛まされるか、はたまた人を殺す事になんの躊躇いも持たない人間になるか。
何にせよ『最高の冒険者』という夢は潰えると思います。衝動に駆られ人を殺めた自分にはその資格がないと、彼は言うでしょうから…。
turning point事に外伝でお話作っていこうと思います。本編の箸休めとしてその内書き出せたらな〜と思います。
また次回もよろしくお願いします。