ダンまち世界に転生するのは間違っているだろうか 作:厨二病の末路
よろしくお願い致します!
「─────────此処は...」
目を覚ますと見慣れた天井が視界に入る。なんとか無事に
「─────痛いな」
身体を起こそうとするが至る所に幻肢痛が走る。頭痛も今までとは比にならない酷さだ。
だが、それも当然だろう。前に魔法を使用した時の状況と規模が違いすぎた。使用直後に気を失わなかっただけマシだったと言わざるをえない。
「(とは言うものの...)」
この状態に俺自身の精神が耐え続けられるかどうか、正直分からない。今でも油断をすると、身体中の軋みで声を上げてしまいそうになるし、【
問題はそれだけでは無い。今回の使用で感じたが、この魔法を使用する度に、自身では知覚をできない
「まぁ、今は気にしても仕方ないか...」
痛みで軋む身体を無理やり起こして窓際から外を眺める。変わることの無いいつもの風景をただぼーっと見る。微かに外を流れる穏やかな風がザックの頬をさらう。さっきまで起きていた凄惨な出来事がまるで嘘のようだ。
「⋯⋯⋯⋯全部、悪い夢だったら良いのにな」
思わず口をついて出た言葉に嫌気がさす。救えなかった人たちを、街の惨状を、
「俺ってこんなに弱かったんだな…。まぁ、それも当然か」
ただの一般人だった俺が、たまたまこの世界に転生して、たまたま反則じみた肉体と能力を得ただけであって、精神性そのものは平和ボケした世界で生きていた時のままなのだから。人の生き死にを直接的に実感する事など当然の如く経験がない。
輝夜と出掛けている際に、1度目の大規模な
二度と同じ過ちを繰り返さないようにこの数ヶ月間、必死に彼女らと戦場を駆けてきた。善良な民の命を一つ残らず取りこぼさぬようにと。
だが、今回も同じような結果になってしまった。しかも、襲撃の火蓋が切られたのは俺の目と鼻の先だ。魔法を行使した影響で呆けていた事など言い訳にもならない。
挙句の果てには、茫然自失とした状態で立ち尽くし、あの場をアリーゼとリューに助けてもらえていなければ、俺は今この場に居ることもなかっただろう。
「はぁ…」
「やれやれ、帰ってきて顔を見に来たら辛気臭い顔をしておりますねぇこの童貞様は」
そんな事をぐるぐると考えて溜息を漏らしていると、いつもの猫を被った口調で人を小馬鹿にする輝夜が部屋の入口に立っていた。
「辛気臭い顔で悪かったな。てか童貞いうな性悪女」
「場を和ませてあげようとした乙女の気遣いも理解出来ないとは…。だからお前は童貞なのだ。ちょっとは女の機微というものを…」
ペラペラと講釈を垂れる輝夜を見て、フッと笑みが溢れる。そんな俺を見て一瞬キョトンとした輝夜だったが、釣られて少し表情を柔らかくした。
「なんだ、弄られるのが好きなのか。童貞様もとんだ好事家ですねぇ」
「そうじゃねえよアホ。お前がいつもと変わらん調子で揶揄ってくるもんだから笑っちまったんだよ」
きっと言いたい事や聞きたい事もあるだろう。俺が先日伝えた事実に、理解できない部分もあるだろうが、俺がいつも通りの調子であれるように全て呑み込んで普段通り接してくれている。
その気遣いが少しこそばゆかったけど、同時にとても暖かに感じた。
「ありがとうな輝夜。気遣ってくれて」
「…ふん。優しくせんとお前はまた直ぐ逃げ出しそうだからな」
「童貞連呼し続けるのがお前の優しさなの!?」
「あら、なじられるのがお好きなのでは?」
「そんな事は一言も言った覚えがねえ!」
前言撤回。気遣いとかじゃなくて、ただのストレス発散なのかもしれない。
しかし、こういうやり取りも随分と懐かしい気がする。ここしばらくは気が張っていたから、自然とこういう会話をする余裕も自分にはなかったのかもしれない。
「昨日は悪かったな。魔法の事で少し余裕がなくなってて────」
謝罪の言葉を話している途中にふと思い返す。少し神経質になっていたのは確かだが、あの時胸に抱いた気持ちは────
ザックの言葉が途切れて輝夜が少し怪訝な顔を見せたが、ザックはそれに気付くことなく口を開いた。
「いや、魔法
最初に魔法が発現した時に『チートスキルじゃん!やったー!』とか言ってはしゃいだのをよく覚えてる。時間を操る魔法というのはそれほど甘美な響きだ。
だが、今生きているこの世界はフィクションなどでは無い。俺もこの世界に生きる人間なのだ。そして人の身でありながら、人智を超えた魔法を手にした。
時間は常に一定の長さで流れ続けている。神様が普通にいるこの世界でも通説的な固定概念だと思う。実際に
風や炎を使う魔法は、実際に条件が合えば魔法を使用せずとも再現は出来る。でも時間魔法は違う。俺が知る限りでは時間そのものに干渉する事はできない…と思う。
そんな魔法を何も考えず行使しまくった結果がこれだ。まだ取り返しがつく段階…と言ってもいいか分からないが、こうして自分の意思を持って会話できるのだから、最悪の状態ということはないだろう。
「誰にどう思われても構わないと思ってたはずなんだけどな」
俺の言葉を聞いて、輝夜は少し苦しげな表情を浮かべる。そんな輝夜の様子を見て、俺は少し苦笑いをして言葉を続けた。
「魔法の影響ってのも半分本当だよ。自分で言うのも恥ずかしいけど、情緒不安定になってたんだ。普段なら、2人の様子を見ても普通に取り繕ってたと思うしな」
「………」
輝夜は少し俯いて顔を上げようとしない。なんというか、らしくない気がする。まぁ、その原因を作った俺が言えた立場ではないが。
けれど、普段の自分を保てないくらい俺の事を想ってくれているんだろう。その事実が少しこそばゆくて、暗くなっている俺の心を暖かに満たしてくれる。
俺は立ち上がって、俯く輝夜の前に立つ。それでも輝夜は顔を上げようとしない。なので少しイタズラする事にした。
「ふみゅっ!?」
「はははっ。面白い顔!」
両手で輝夜の頬を挟み、無理やり目線を引き合わせてやった。
いきなりの行動で呆気に取られた様子の輝夜だったが、直ぐに我に返りそのまま頭突きをしてきた。
「ぐはっ!」
「…お前は空気一つ読めんのか?」
「だって、いつまでもらしくない表情してるからさ。俺の言い方が悪かったってのもあるんだろうけど、輝夜は何も悪くないよ」
「そう言うなら他にやり方があるだろうが。たわけ」
「いや、ないだろ。知らんけど」
「馬鹿みたいな返事をするな阿呆」
「お前の返しも大概だけどな…ふふっ」
話すにつれてどんどんとIQが下がっていく感じに、堪らず少し笑ってしまった。
少し不機嫌そうな顔をしてはいるが、こちらを向いてくれた輝夜に俺は自分の思いを伝えた。
「いつもありがとうな。俺の事を本気で心配して、想ってくれている事を本当に嬉しく思ってる」
「…ふん」
今回のことだって、元を正せば俺の心の弱さが原因で起きた話だ。だけど輝夜はいっさい俺を責めることなく寧ろ、自身の行動を省みて責めているのだから。輝夜だけじゃなくアリーゼにも─────
「………はぁ。なんで隠れてんだよ。アリーゼだろ?」
いつからかは分からないが、部屋の外で話を聞いていたみたいだ。いつものアリーゼなら、お構い無しに部屋に突撃を決めてくるだろうに…。
「…よく気付いたわね!アタシの美少女オーラが隠しきれてなかったのかしら?フッフーン!」
「はいはい。美少女美少女」
「団長…。居たなら入ってくれば良かったように」
「2人が良い雰囲気だったからお邪魔かと思ってね。いやぁ、美少女の上に気遣いまでできるアタシ…。良い女でしょ!キラーン!」
「イラッ」
「はいはい。良い女良い女」
相変わらずのアリーゼ節全開のように見えるが、少し元気がから回っているようだ。アリーゼ自身も昨日の罪悪感を感じているのだろう。
「本当にありがとうな。アリーゼ。俺を助けてくれて。あと、心配かけてごめんな」
その罪悪感を拭うように、今胸に抱いている感謝の気持ちをアリーゼに伝えた。
すると、アリーゼは少し表情を歪ませてベッドに腰掛けている俺に抱きついてきた。
「…本当よ。今日だってもう少し見つけるのが遅れていたら───」
その後ろに続く言葉を紡ぐことはせず、少しだけ抱きしめる力を強くして。
俺もアリーゼを優しく抱きしめながら頭を撫でる。目のあった輝夜が少しジト目で見ていたが、気にせずアリーゼを落ち着かせるように撫で続けた。
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すっかり日も暮れてアリーゼと輝夜が部屋に戻った後、改めて自戒する。
俺は物語に出てくる英雄ではない。いや、英雄を目指している訳ではないが、きっとそういう存在はすべからく救うのだろう。
悲観している訳では無い。全てを救う事は出来ないけど、自分の手の届く範囲で悪の凶刃から人々を守ろう。大切な人達を守る為に、俺は悪を斬ろう。
ここ数ヶ月で、
「取り敢えず、今はゆっくり休むか」
ここ最近寝てばかりだなー、と思いつつ直ぐに意識を落とした。なぜか夢を見ることはなかった。
翌日、色々黙ってた事をアストレア様にしこたま怒られた。
読んで頂きありがとうございます。
テンポ上げて書いていけるように頑張ります!