「此処は…… テンカイか」
「うん、戻って来たよ!」
足元には雲があり、その近くには石で出来ている大きな宮殿がある。巨大なドームの周辺には複数の塔が建っており、ドームの真上には赤い地の中央に黄色い星が描かれた三角形の旗が揺らめいている。ドームの入り口では赤い服と三又の槍を持った、兵士が複数待機している。
「久々に来たな…… 以前より大きな宮殿になってないか?」
「最近増築したんだ。以前の1.5倍位は規模が大きくなったよ」
マジか。増築したのか。どうりで大きくなったなぁと思ったよ。
そして入り口にいる兵士達は以前と比べれば真面目な表情で見張っている。前は何か頼りないような感じだったけど、見ない内にかなりしっかりとした性格になったか? 兵士はしっかりしなきゃな。
「スタフィー王子! 戻られたのですね!」
「うん! 今戻って来たところだよ! キョロスケも一緒!」
「キョロスケ様! 久しぶりです!」
「おぅ、覚えてたんだな」
「はい! スタフィー王子と共に何度も世界の危機を救った英雄の親友ですからね!」
英雄の親友か。確かにその通りだな。俺も色んな敵と戦って来たんだし、俺も英雄扱いしてくれても良さそうなんだがなぁ……
この王宮の主が戻って来たんだ。となると皆やって来るんじゃねぇかな? あの色々とうるさいあいつが……
「おっ! 兄ちゃん! 帰って来たんやな!」
突然王宮の入り口から誰かがやって来た。スタフィーよりも体格が小柄で、色が桃色であるテンカイの住人。関西弁が特徴で、スタフィーとは対照的に活発で行動力がある奴。
「あ、スタピー!」
スタフィーの妹、スタピーだ。
「兄ちゃん! ワープじぞうがあるんだからそれを使えば直ぐに行けたやん!」
「あ~、お茶を直ぐに持ってこうと急いでたからすっかり忘れちゃって……」
「も~! ドジやな~!」
このやり取り、全く変わってないな…… スタフィーとスタピー、似ているようで性格は正反対だ。本当に誰に似たんだ、こいつは……
「お、ハマグリもいるやん!」
「誰がハマグリだ! キョロスケって呼べ!」
「別にいいやん、言いやすい方がええやろ!」
あぁくそ! 全然変わってねぇ! もっと良い呼び名で呼んでくれよ! ハマグリじゃなくてキョロスケさんとかさぁ!
「お、そういやハマグリは大きさとかあまり変わってないなぁ。成長期を過ぎたんか?」
「いやまぁ、そうだけどよ…… 親父とお袋も今の俺位の大きさだったしなぁ……」
「ハマグリもすっかり大人やなぁ…………」
スタピーは何やら感慨深そうな表情で頷いている。俺様が大人になった事で時の流れを感じているのだろうか?
そういやスタピーも体格はスタフィーよりは小柄ではあるものの以前よりは成長している。もう少し成長すればスタフィーを追い越しそうだな。スタフィーもその事を気にしているのか、何やら困り顔の表情で俺様とスタピーを見ている。
「久々のテンカイだし、今日は此処で泊まらない?」
「最近テンカイはめっちゃ豪華になったでぇ! 是非とも泊まりぃ!」
テンカイは王宮なのでかなり豪華な筈だ。かつて此処で冒険した事があったが、王宮だけあって立派な造りだった。俺様の家よりも立派だ。となるとベッドとか食事とか気になるな。風呂とかすごく豪華そうだし……
「そうだな。それじゃあ此処に泊まるか」
「そうした方が良いよ! キョロスケなら満足する筈だよ!」
「ほな、それじゃあ王宮に入るで!」
二人は朗らかな笑顔を見せて俺様をテンカイの中に引き入れた。夕食はかなりの御馳走が食べられそうだなと、結構期待しながら中に入っていった。
その期待を持ちながら中に入ると、王宮の中のインテリアを見て仰天しそうな程驚いた。綺麗な宝石と見間違うシャンデリア・美術品の絵画と錯覚しそうな壁・豪華な絨毯に見える床…… 以前来た時と比べものにならない程の豪華だ。王宮だけの事はある。それに加えて兵士達が沢山立っている。警備が厳重だから泥棒が潜入しても直ぐに捕まるだろうな。
「おぉ…… 中もスゲェ…… 売ったら家を造れそうだな……」
「こら! 売るなハマグリ!」
「いやいや、冗談だよ」
「でもキョロスケなら有り得そうなのが…………」
「おい!」
スタフィー! そこは否定するべき所だろぉ! そりゃ金とか宝とかには目が無いけどよ…… 流石に友達の物を勝手に売ったりしないぜ! 読者の皆もそう思うだろ!
「おぉ、キョロスケか! 久しいな!」
「えぇ、何時以来でしょうか」
「お、パパスタとママスタか」
三人で会話していると奥からスタフィーの父親と母親であるパパスタとママスタがやって来る。彼らはこのテンカイを治めている者だ。パパスタはかつてロブじいさんと共にオーグラと戦ったという伝説の戦士だ。今ではロブじいさんと同様すっかり衰えたが。これも年か。
「少し前に旅をしたんだけどよ、土産を買って来たんだぜ」
「あら、それは有難いわ!」
「今日は久々にキョロスケが来たのだ! 高級な料理でもてなすとしようか!」
「おっ! そりゃ楽しみだ!」
「昨日の残り物も少しだけ入れようかしら」
「えっ? 何て言った?」
「いや、何でも無いわ!」
何か聞こえたような気がするが気のせいだろうか? まぁ良いか。取り敢えず飯か! 王宮の飯だから物凄く美味い筈だ!
「もしかしてこれで味を占めて何度も来るんやないか?」
「いや、それは流石にしねぇよ!」
「キョロスケならやりかねないかも…………」
「ん? 何か言ったか?」
「いや、何でも無いよ」
スタフィーが何か言ったような気がするが、気のせいか? まぁ、気にしない事にしとくか。取り敢えず飯を食べられる事を楽しみにするか!
夕食時。
俺様はテンカイの食堂室で皆が夕食を食べた。運ばれる食材は全部沢山のしんじゅを出さなきゃ買えないような食材ばかり。色んな所を冒険した俺様でもこんな食材を食べた事は無い。山の幸に海の幸、より取り見取りだ。俺様の土産も皆に好評だった。ちなみに貝は出されていない。俺が“貝”だからか。
「ふぅ、こんなにたらふく食ったのは久しぶりだぜ」
「僕も普段はこんなに食べないんだ。大体今日の半分位だし」
「ふ~ん、おめぇもか?」
「勿論や! ウチがそんなに大食いな訳無いやろ」
「それもそうだな」
まぁ、スタフィー達が大食いだなんて、冒険してる最中でも聞いた事が無い。スタピーはタコ焼きを焼いてた時はあるにはあったが。その時は俺様が沢山食べてやった。
隣にいるスタフィーとスタピーの同族の子供、テンカイコドモは美味しい食事を夢中で食べている。食べ物を手で直ぐに掴んで食べている。昔の俺様の兄妹みたいだな。
「あ、これ食べるー!」
「じゃあこれは私~」
「よ~し! それはオイラだ!」
「まぁまぁ、落ち着いて。食べ物は逃げないよ」
食べ物を直ぐに取ろうとするのに夢中なテンカイコドモをスタフィーは宥めている。何だか子供を見守る長男みたいだ。微笑ましい。家族仲は良好だな。
「ははは、お兄ちゃんはいつもああやって子供達を世話したり見守ったりしてるんや。勿論ウチやママとパパもやっとるでぇ」
「幼い子供を育てるのは大変だけど、笑顔を見ると元気が湧くから頑張れるんだよな」
「はは、流石ハマグリや。弟と妹持ちだけの事はあるなぁ」
下の子を持つ者同士と言う事もあり何だか気が合う。スタフィーやスタピー達もキョロスケと同じく下の年の子を持つ者同士。育てる苦労さも分かっていて、そしてその楽しさも分かっているのだ。下の子は宝なのだと。
「スタフィー王子~! これ頂戴~!」
「あっ!? それ僕の!」
「あ、あいつの飯が盗られてる」
「ホンマや」
近くにいるテンカイコドモはスタフィーのやり取りを見てキョロスケとスタピーは苦笑いしそうな表情で見守っている。平和を具現化したような光景が繰り広げられている。こういう日常がずっと続いたらと思ってしまう。今後この日常を壊すような恐ろしい敵が現れるかもしれないが、自分達なら必ず打倒せるだろう。何故なら、今まで自身達はそういった敵を倒してきたからだ。きっとこれからも――――
「わ~! 僕の飲み物を勝手に飲もうとするな~!」
「今度は飲み物を盗もうとしてるで」
「うわっ、大胆だな……」
スタフィーとテンカイコドモが織りなす御飯の争奪戦(?)をキョロスケとスタピーは見守り、それをパパスタとママスタがその様子を見守っていた。
太陽は地平線の彼方に消え、空は暗闇に覆われて夜を生み出した。
窓から見える光景は綺麗だ。暗黒の空間では光り輝く星々が並んでいて、地球を見守っているように鎮座している。その星はスタフィーの一族みたいな形で描かれる事があるが、見た所点々にしか見えない。昔の連中は何でスタフィーやスタピーみたいな形を星として描いたのだろうな。実に不思議だ。
「ふぁあ~……………… 此処の寝室は結構気持ち良いぜ………………」
「そうやろ? 何せ一等地やからな!」
「眺めが良い場所なんだ」
スタフィー達は王宮の最上階にある寝室で寝ようとしている。最上階と言う事もありその部屋からの眺めは美しい。周辺の海を見麻渡す事が出来るし、空の眺めもかなり綺麗だ。青い海と空・白い雲の組み合わせは最早芸術。景色を眺めるだけでも楽しい。だから寝ようとしても寝れないかも、とキョロスケはそう思ってしまう。
「俺様の可愛い弟や妹を連れて来たら此処に泊めてあげたいぜ」
「うん! あの3人が遊びに来たら此処に泊めてあげるね!」
「あれ? この部屋って3人まで泊まれるんやろ? ウチらは何処で泊まるんや?」
「………………………………………… 父さんと母さんの寝室かな?」
「………… ベッドあるのか?」
「一応古いベッドが…………」
「まぁ、寝れるやろうなぁ。うちらのお古やけど」
どうやら古いベッドがあるらしい。それを使えば寝れるようだ。しかし、どうして父と母の寝室にあるんだ? 思い出として取っているとか? それなら有り得そうだな。
「さて、今日は早う寝るで!」
「それじゃあおやすみ~」
「おう、そろそろ寝るか」
キョロスケが近くにある電灯のスイッチを押して寝室の灯りを消した。
翌朝。
水平線の彼方から太陽が昇って来てこの地を、この空に光をもたらしていく。暗闇が無くなっていき、星が見えなくなっていく。この星の新しい一日が始まった。キョロスケ達は起床した後直ぐに朝ご飯を食べて今日の活動に必要なエネルギーを摂取していく。
「そういえばキョロスケ、そのお土産はまだ残ってるけど誰に渡すの?」
「そうだな、アミ―王国のマテル達に渡そうかな……」
「えっ!? マテルに!?」
「マテル」の名前を聞いた瞬間、スタフィーの目が丸っこくなる程大きな反応を見せる。そりゃ当然だろうな。マテルはスタフィーにとって初恋の相手だから。あの時はべた惚れしていて、指をもじもじとしていた位だ。だがそれも叶わなかったが…………
「おぉ、それならうちも行くでぇ! コラル王子にまた会いたいからな!」
スタピーもかなり乗り気のようだ。コラル王子はスタピーが惚れた相手だからな。無理も無い。スタピーが彼を見かけたら真っ先に近付いた位だ。スタフィーがマテルに恋してる時のようにべた惚れ状態だった。兄妹って似るんだな………… その恋も叶わなかったが…………
「それじゃあワープじぞうで行くでぇ! あれなら一瞬で行ける!」
「アミ―王国行きもあるのか」
アミ―王国に行くワープじぞうがテンカイにあるのか。アミ―王国は此処から大分離れているから行くのに便利だな。
「あぁ、マテル…… 今は何やってるのかな……」
スタフィーはアミ―王国に行く事にかなり期待しているようだ。元とはいえ想い人がいるのだから当然か。そういえばマテルとコラル王子は一体何やってるんだろうな。立派に仕事してるのか。何だか気になり始めてきた。
「ほう、そろそろ行くのか。もう少し此処にいても良いんじゃが、まぁ仕方無いか」
「現在アミ―王国とは交易している仲なんです。スタフィー達が行ったらきっと喜ぶわよ」
どうやらテンカイとアミ―王国は交易を行っているようだ。やっぱり俺様達が以前アミ―王国を救った事が切っ掛けだな。早速出かけるとするか。
「それじゃあまたねー、ハマグリー!」
「ハマグリ言うな!」
「それじゃあ行ってくるね!」
「それでは、アミ―王国に行ってらっしゃい~!」
テンカイコドモ達からはハマグリ呼ばわりされちまった…… 俺様はキョロスケだぞ! と言いたかったが我慢しながら元気そうなワープじぞうでアミ―王国に移動する事になった。久しぶりのアミ―王国。一体どうなってるのか気になるな。あの二人の事だ。王国は発展しているだろう。どんな光景になっているのか楽しみだ。
スタフィーのゲームで出来るお着換えって、どうぶつの森っぽさを感じる。
次回は2023年9月27日21時00分に投稿予定です。