伝説の勇者の息子として産まれましたが、拳で抵抗していきます 作:社畜マークII
かなり強い光が瞼を貫き目を焼いてくる。今は何時だ…?昨日は何をしていたっけ…、といつものように自分の状況を把握するために思考を起こす。
たしか、今日は会社の朝礼でスピーチをする予定だったはずだ、ハゲの課長が嫌味ったらしく「〇〇くんは優秀だから、皆さんのためになることを話してくださいねぇ?」とか言ってきてた気がする。ああ、憂鬱だ。
「この子は全然泣かないなぁ、大丈夫なんだろうか…」
「私と貴方の子です、きっと強く優しい子に育ちますよ」
ん?なんか誰かの声が聞こえる。俺の住まいは安アパートで極狭の壁薄だから人の声が聞こえるのは珍しい話ではないけど、それにしたって声が近い。
「そうだね、僕達の息子、次代の英雄
「……そうですね」
いや、これはおかしいな、流石の俺でもわかるわこれは。ちょっととりあえず身体を起こして状況を把握しなければ。そうと決まれば、よいしょっと。
「お、寝返りを打った。表情は相変わらず乏しいけど元気みたいだ。うつ伏せになっちゃったけど…」
「ユリウス、顔をうつ伏せにしてはいけませんよ」
あ、やばいわこれ。認めたくない現実が一気に押し寄せてくる。情報量が多すぎて頭がパンクしてしまう。今の寝返りで見回した景色だけで得られた情報がこれだ。
1.金髪碧眼夫婦がこちらを愛おしそうに見ている。
2.明らかに小さい身体の自分。
3.中世、明らかに日本ではない室内。
こりゃダメだ、どうしようもない。絶対に夢ではない感覚があるし、恐らく現実なのだろう。最近流行りといえども短絡的すぎるだろ。それに、トラックに轢かれた訳でもないし、魔法陣的なのを踏んだ覚えもない。これは、あまりにも唐突な異世界転生だ。
いや、わりと前の世界に未練あるんですけど俺。勝手に飛ばすのやめてもらっていいですか?
「ほらほら、顔を上にしなきゃダメだろう。息ができなくなるぞ。って、顔渋いな。どうしたんだユリウス」
「梅の塩漬けみたいな顔していますね、どうしたんでしょう」
誰が梅干しフェイスじゃい、というかこの世界に梅干しあるのか。異世界の意外な食文化の発達に少し度肝を抜かれながらも、少しでも情報を得るためにしっかりと目を開けておく。
「剣術の修行に魔法の習得、勇者の力の継承も追々はしなきゃな。僕達もずっと見てられるわけじゃないから、自衛の手段は多ければ多いほどいい、特に子供のうちは」
「……魔王はまだ存命、割合的には人間領が半分を上回っているとはいえ、種族個体の性能差で見れば人間は大幅に劣りますからね」
「…冷たく見える?」
「いえ、それがあなたの愛情だというのは伝わっていますよ。ただ、この子がどう思うかというのが少し不安なだけで」
なんか話が深刻になっていってるぞ、自衛がどうとか勇者がどうとか。おい、父よ、まさか貴様勇者の一族とでも言うんじゃないだろうな。創作の中というのであれば勇者は憧れの存在だが、実際自分がそうなると無理としか言えない。しかも魔王もいるとか、厄ネタにも程があるだろ。
「まぁ、僕が戦えるうちに魔王を倒せるならそれが1番だ。ようやく倒すための方法もわかってきたし」
「ナインさん、アルフさん、リーさんにももう一踏ん張り頑張ってもらわないといけませんね?
「やめてくれ…僕はそんな大層なもんじゃないさ」
居心地が悪そうな父親と少し揶揄うような顔の母親、そこには穏やかな空気が流れていた。そこに、ノックの音が響く。来客が来たようだ。
メイドと思わしき目つきの悪い黒髪の女性が入ってくる。眼光がとても鋭い。
「カムイ様、クリスティーナ様、パレードの準備が整いました」
「了解した。クリス、もう行けるかい?」
「ええ、ユリウスも大人しくしてくれてるみたいなので大丈夫ですよ」
お、抱き上げられた。なに、パレード?千葉にあるネズミの楽園みたいな感じのやつやるのか?ジャンボリしたほうがいい?
「相変わらずユリウス様は賢く聡明な顔をしてらっしゃいますね」
「まぁ、賢くなったとしたらクリスの影響だろうな。僕は剣を振る以外はからっきしだし」
「そうですね」
「いや、そこは否定してよ」
メイドさん強いな、お母様も笑ってるところを見るに結構気安い関係なのだろう。無表情で言い切るところに長年の付き合いを感じる。
「魔王軍幹部との戦いの時に剣が折れて、その辺に落ちてた木の棒で幹部を叩き斬った貴方を見た時から、私は貴方を理解するのを諦めました。御子息様であるユリウス様にはもう少し理知的に戦っていただきたいです」
「ぐうの音も出ない」
「私はカムイの戦い方好きですよ?」
「クリス!!」
イチャイチャし出した両親を冷たい目で見ながらメイドさんはテキパキと準備を始めている。お、服の着替えか。
「ユリウス様、失礼します」
なんかすごいゴテゴテした服だな、キラキラで埋め尽くされておる。動きにくいし、ジャージとかじゃダメですか?
「梅の塩漬けのような、ロックボムのような顔…」
おい、誰がばくだんいわじゃ。
パレードはだいたい想像通りだった。なんか、明らかに物理法則を無視した動きをする花火とか箒で飛んでる奴とかいたけど、異世界だしなぁ、という感想で全てまとめた。
「あー、疲れた…ああいう場はやっぱり疲れるなぁ。クリスは大丈夫かい?」
「少しつかれました。しかし、国民の皆様にユリウスの顔を覚えてもらうためですからね」
あ、やっぱりそういう目的なのね。俺産まれて早々人気者になっちゃうなぁ。なお、物心つくころには強制的に何かと戦わされる模様。終わってるね。
「まぁ、パレード中ずっと目が死んでたけどね…」
「疲れたのでしょう、今日は早めにお休みしましょうか」
そう言ってお母様はベビーベッドに俺を寝かせる。おい、俺に優しくするな、好きになっちゃうだろ!と、手足をジタバタさせる。
「お、珍しいなユリウス。遊びたいのか?」
「あら、本当ですね。」
ふぅーっ、疲れた。この貧弱ボディ、使い勝手が悪すぎる。いきなり動かなくなった俺を見て両親が見かねたのか近寄ってくる。
「いきなりバタバタして静かになったな」
「パレード中は大人しくしてくれてましたからね、動きたくなったのでしょう」
そう言ってポンポンしてくれるお母様。あ、寝てしまうこれは。抗えない赤ちゃんボディ特有の急な眠気に逆らえずに、瞼が閉じてしまうことを予感する。
「あら、寝ちゃいますか?」
まぁ、これからのことは明日考えるとして、今はこの眠気に身を任せるとしますか。
「ふふ、おやすみなさい。ユリウス」
おやすみなさい。心の中でそう言って俺は意識を落とした。
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