始めてリビアやリオンに会った時、寄親に逆らって、全てを打ち明けてたら?
カーラがリオンと初めて出逢ったその時から分岐する物語。
勇気を持って踏み出した彼女のその一歩は「運命」に如何なる影響をもたらすのか。
リビアの出番も多め。書きながら流石正ヒロインやっぱりいいコだよな~って。
1、出会い
この世界は前世でプレイした乙女ゲー、自分は転生者。そうのたまうのはリオン・フォウ・バルトファルト。黒髪中背、引き締まった体躯の少年。
もっともこの事は公言していない。言っても誰も信じないだろうと。時折独り言で愚痴りはするが。
そんな彼が学籍を置くのは、日本で言えば高校生相当の年齢の貴族の子弟が学ぶ王都の全寮制の学園。そこでは今、学園祭が催されていた。
学園祭初日。リオンたちのクラスで催してた模擬喫茶店は横暴な女子生徒達による嫌がらせで目茶苦茶に荒らされた。
その女生徒を撃退するも今度は逆にやり過ぎて尊敬する師匠から説教を受けたりと散々な出だしであった。
そんな嵐のような出来事の連続にもうそのまま店じまいにしようかと思ってた。
そんな時だった――彼女が訪れたのは。
「カーラ・フォウ・ウェインです。バルトファルト男爵、お見知りおきください」
艶やかな紺色の腰まで届く長い髪とスレンダーな体形の中々の器量好しの女生徒。
彼女――カーラはこの教室の模擬喫茶の主、リオンに向かい自らの名を告げ挨拶する。
カーラは昨日リオンの友人リビアと知り合い、今日の出会いの約束を取り付けてもらったらしい。
リビアという呼び名は親しい友人からの愛称で本名はオリヴィア。
ショートボブに切り揃えられた亜麻色の髪と豊かな胸、愛らしい顔立ちの彼女は平民ながら特待生としてこの学園で学ぶリオンの友人。
そしてリオン曰く、彼女こそ前世でプレイした乙女ゲーの【主人公】であると
「わざわざリビアに紹介させた理由を聞いても良いかな?」
カーラに向けられたリオンの言葉は普段より声のトーンも低く凄みを帯びていた。
それというのも人を挟んだ紹介は仲介人の、今回のケースだとリビアの顔を立て断りづらくなる。
それはリオンからすればリビアを利用したようにも映り、故にその経緯にリオンは警戒心を露にする。
とりなし、仲介を介し約束を取り付けてまで聞き届けて欲しい理由があるのか。
或いは裏があるのではと疑っているのか。
そしてリオン以上に強い警戒心を露にする生徒がもう一人、アンジェリカ・ラファ・レッドグレイブ公爵令嬢。
家族や親しい友人からはアンジェの愛称で呼ばれている。
金色に輝く長い髪を纏め上げ、真紅の瞳はその意思の強さを表すように強い輝きを放ち、その面立ちは高貴さと美しさに溢れ、豊かな胸はリビア以上。
リビアとは身分を超えた親友で、それ故カーラに厳しい眼差しを向けてた。
とは言えリオンが相対してるので静観を決め込んでるようだ。
「流石は出世頭。他の男子とは大違いですね。ええ、お察しの通りです」
リオンの凄みを帯びた低い声に圧されまいと笑みを浮かべ言葉を返すカーラ。
リオンは入学前に未発見ダンジョンの攻略やロストアイテムの発見など、この歳としては異例の功績を立て男爵位まで賜っている。
冒険者が尊ばれるこの国においてダンジョン踏破はそれだけの偉業で、出世頭とはそれらを評しての言葉。
(この凄みと威圧感……! 数々の噂は伊達じゃないってことなのね……。この方になら私の命運を……)
リオンから発せられた威圧とも取れる態度にカーラは慄く。だが同時にその眼差しにどこか期待の光が見えるようであった。
緊張が滲み出す固い表情を浮かべるカーラ。
先ほどは笑みを浮かべて応答してみせたものの、実際には余裕もなくギリギリなのだろう。
二人の間に流れる剣呑な雰囲気にリビアは困惑の声を上げる。
「リオンさん、いったいどうしたんですか? なんか雰囲気が――」
「オリヴィアさん」
カーラがリビアの言葉をさえぎるように口を開いた。
リビアが昨日初めて出会ったときのカーラは朗らかで優しげであった。
だが今のカーラの昨日までとは明らかに違う雰囲気にリビアは口を噤む。
だが邪険にしてると言う感じではない。緊張しすぎて他に構う余裕がないと言う感じか。
そう察したリビアは黙って一歩引く。
リオンもそんなリビアの雰囲気を察してか自身の張り詰めた気を緩める。
そして視線をカーラに移すと口を開く。
「いいだろう、要件を聞こうか」
リオンに促されカーラは片膝を突き胸に手を当てこうべを垂れる。貴族の子女らしい優美な所作で。
そして口を開く。
「男爵……私を、ウェイン家を、いえ――私たちを……」
そこでカーラの言葉は途切れた。そして床に零れ落ちる雫。
それは先ほどまでの気を張り緊張感が滲み出てた態度とはかけ離れた……いや張り詰めすぎたが故に糸が切れたのか。
カーラの目からは涙が滲んでいた。
「私を……あの女から救ってください!」
言い終えたカーラの目からは涙が溢れそのまま泣き崩れてしまった。
リビアは泣き出し始めたカーラのもとに駆け寄り肩を抱き背中をさすりながら宥める。
リオンは突然泣き出したカーラに戸惑いながらも声をかける
「え、えっと……とりあえずお茶飲む? お菓子もあるよ? 幸いここは喫茶店だから文字通り売るほどあるし?」
そしてしばらく後
「申し訳ありません。お見苦しいとこお見せしてしまって……」
カーラは未だやや涙声ではあるが先ほどよりは大分落ち着いたようである。
リビアが「大丈夫ですか?」と声をかけると小さな声で「ありがとう」と返事をするカーラ。
そんなカーラの雰囲気は昨日リビアと出会った時に戻ったかの様であった。
「大丈夫? 未だ落ち着かないようならもう少し待つけど?」
カーラに向かいどこか気遣い気味に声をかけるリオン。
「ありがとうございます。もう大丈夫ですので」
そして軽く深呼吸するとおもむろに語り始める。
「私の実家ウェイン家の有する浮き島は今、度重なる空賊による襲撃に脅かされてます。
そこでバルトファルト男爵の武力によってお救い戴きたくお願いに上がりました。
つきましては男爵には船を出していただき我がウェイン領にお出で願いたいのです。
そのさい船には私も同乗させていただきたく思います」
この世界は空に浮く浮島が人々の住まう土地であり、浮島同士の行き来は飛行船によって行われる。
そしてその飛行船を襲う賊も存在しており、それが空賊である。
「つまりはカーラさんが道案内を?」
「はい、そしてその道中……」
そこでカーラは一度言葉を切った。
「空賊を手引きし船を襲わせよ。それがお嬢様――私の寄親から下された命令でした」
一瞬で一堂に緊張が走る。
「カーラさん!?」
「貴様! 一体どういう!?」
同時に驚きの声を上げるリビアとアンジェ。
特にアンジェは今にも掴みかからん勢いだった
それに対しリオンは手を挙げ二人を制す。
「つまり、俺を罠にはめようとしたってことか」
リオンの言葉にカーラは黙って頷く。
「だがここでバラしたってコトはそのお嬢様――アンタの寄親を裏切るってことだよな。どういうつもりだ?」
やや圧を感じさせるリオンの言葉が重く響く。
「もう……イヤなんです。あの女に付き従うのも悪事の片棒を担がされるのも……」
そう口にしたカーラの目には再び涙が滲み始めていた。
リビアは先ほどのようにカーラに駆け寄ろうとするもアンジェに肩を掴まれ阻まれる。
アンジェは黙って首を横に振る。未だ話は終わってないし、何よりアンジェは未だカーラへの警戒心を解いていない。
静寂が支配しカーラのすすり泣く声だけが聞こえる。
ややあってカーラが多少落ち着いたのを見計らいリオンが口を開く。
「聞いてもいいかな。どうして……いや、何時裏切ろうと決心した?」
カーラが袖で涙をぬぐいながらコクリと頷き再び話始める。
「切欠は……オリヴィアさんから男爵の話を聞いた時からでした」
「私の?」
リビアの声にカーラは静かに頷く。
「続けて」
そしてリオンは話の続きを促す。
「昨日、男爵に取次ぎをお願いする為にオリヴィアさんに声をかけました。
その時オリヴィアさんの口から色々な話を伺いました」
「色々……」
言いながらリオンはチラッとリビアに視線を向ける。
その視線にリビアは目を逸らしどこか照れたような表情を見せる。
「ええ、主に男爵の武勇伝などでした。その時のオリヴィアさんは本当に楽しそうで誇らしげで。
オリヴィアさんの語る男爵はまるで神話の勇者か叙事詩の英雄のようでした。
そう、どんな強敵でも打ち破り必ず勝利する無敵の勇者様……。
それで思ったんです。男爵の噂は聞き及んでましたが、実際には若しかしてその何倍も凄い方なのかな、って」
カーラの言葉にリビアは両手で顔を覆いその耳は赤く染まってる。
そんなリビアの姿にリオンまで照れくさそうであった。
アンジェはそんな二人に毒気を抜かれ先ほどまでの警戒心敵愾心も何処へやら。
「え、えっとそれが切欠?」
照れくさそうな気まずそうなそんな声でリオンが尋ねる。
そして尋ねながら心の片隅である推論が芽生える。
それはリビアの力――言葉の重さ。
彼女の言葉は強い説得力を秘め、不思議と胸の奥底まで届き響く。
そんな彼女と一対一で正面から向き合いリオンの武勇伝を聞かされたのだ。
それがカーラの心に、悪事を企む寄親から離反する決意を抱かせるのも十分ありえるだろう、と。
そして続くカーラの言葉はリオンの推論を決定付けるに十分だった
「そうですね。それで思ったんです。そんな凄い方を罠にはめて亡き者にするなんて許されないこと……。
いえ、そもそもそんな凄い方なら逆に罠を看破され返り討ちにされるのでは、って」
返り討ち。
その言葉を聞きリオンは自分と所有するロストアイテム――人工知能を積んだ飛行戦艦ルクシオンなら十分可能だろうなと思う。
ロストアイテムとは、現代の技術を遥かに超える再現不可能な古代の超遺物で圧倒的な性能を誇っている。
そしてカーラがその寄親の命令でリオンを、いや正確にはゲームの主人公への襲撃の手引きをする件は前世のゲーム知識として知ってたのだから。
「むしろ、そんな凄い方なら私をこのしがらみから、あの女の魔の手から開放して、救ってくれるのでは、って……そう思ったんです」
カーラの放った"あの女"という単語には強い敵意憎しみが滲み出て、膝の上の手は硬く握られ震えていた。
「あの女の魔の手、か。カーラさんアンタそうとうその寄親のこと苦手みたいだな」
「苦手、と言うより大嫌いで憎んでます。あの女含めたオフリー伯爵家丸ごと碌でもない人間の集まりで。
そもそも件の空賊自体がオフリー伯爵家とグルなんですから」
「終わってんな、そいつら……」
唾棄するようなリオンの呟きにカーラは頷き続ける。
「特にあの女は普段から誰か貶める事しか考えてなくて、自分の周りの人間にも不機嫌撒き散らし当り散らす。
逆らえば自分の寄子だろうと容赦なく叩き潰す。そんな女の顔色をいつも伺って怯え、まるで針のむしろでした。
家同士の繋がりもあってあの女の寄子というしがらみを切りたくても切れないのは本当に苦痛の日々でした……」
そう語るカーラの表情は苦しみに満ちた沈痛な面持ちで、その表情がそれが如何ほどの苦しみだったかを雄弁に物語っていた。
「相当酷い女みたいだなソイツ」
リオンが呆れたように口をを開くとカーラは真っ直ぐリオンを見つめる。
「……男爵も顔を合わせてるはずですよ」
「俺?」
リオンは自分を指差しながら聞き返す。
「私がこちらに伺う少し前、叩きのめされた亜人の奴隷や使用人を引き連れ逃げるようにここを出ていく女が居ましたよね?
髪を頭の両側で三つ編みを輪っかにした女。アレです。アレが私の寄親ステファニー・フォウ・オフリーです」
「アレかぁ!?」
思わずリオンは声を上げる。
思い出されるのはおおよそ貴族の子女にあるまじき、というより人間として最低最悪な暴言と振る舞い、もとい暴行。
言いがかりを付け怒鳴り散らすわ、食器や未だ熱い茶が注がれたティーカップごと給仕を務めてたリオンに投げつけるなど酷いもの。
この世界は何故か極端なまでの女尊男卑の風潮が蔓延ってる。
故に男子生徒は女子に横柄に振舞われても逆らう事が出来ず泣き寝入りを強いられるもの多数。
そして男子が逆らえないのをいいことに増長し横暴に振舞う女生徒も少なくなかった。
件の伯爵令嬢はその中でも一際ひどい部類。
とは言え超えてはならない一線はあるが、それをも踏み越えてしまった。
それはその時たまたまお忍びで訪れた王妃に、それと気付かず暴言を浴びせてしまったのだ。
知らなかったでは済まされない大失態。
結果的にはそれが切欠でそれを理由に叩きのめして叩き出したのだった。
「アレが寄親かぁ~。それは苦労が偲ばれるし、そら裏切りたくなるわ」
リオンは憐みと同情を含んだ声で天井を仰ぎながら呟いた。
そんなリオンの声にカーラは溜飲が下がる思いを感じた。
こうした不満自体今まで誰にも吐露したこともなかったのもあって。
そうして寄親の企みも、自分の胸の内に貯め続けて来た思いも打ち明けたカーラは片膝を付き頭を垂れた礼をとり口を開く。
「あらためてお願いします。どうか私を……私をあの女の魔の手から……」
言いながらその声は嗚咽に埋もれていく。
「カーラさん!」
そんなカーラにリビアは駆け寄り抱き絞める。
「リオンさん! 私からもお願いします! どうか! どうかカーラさんを助けて上げてください!」
カーラの代わりに頼み込むように声を上げたリビアの眼にも涙が滲んでいた。
横暴な貴族女子に酷い目に合わされた経験はリビアにもあった。
貴族達の為の学園において平民でありながら特待生として学籍を置いているリビア。
そして貴族の子弟の中にはそんな平民のリビアを快く思わない者も多く、彼らから嫌がらせや心無い言葉を浴びせられたことも少なくなかった。。
そんな彼女にとってカーラの抱えた辛さは人事に思えなかったのだろう。
リビアに抱かれたカーラもまたそのままリビアに抱き付きそして堰を切ったように再び声を上げ泣き始めた。
そんなカーラをリビアはそっと抱きしめ優しく背中をさすって上げるのだった。
リビアに抱き付き声を上げて泣くカーラを見つめるリオン。
そんなリオンの側にアンジェが立ち声をかける。
「私からも頼む。カーラを救ってやってくれないか」
アンジェの言葉にリオンは少し驚いた表情を見せる。
カーラとリビアも同時にアンジェの方を見る。
「いいのか? むしろアンジェは反対するかと思ってたんだが」
「最初は私もそのつもりだったさ。だがオフリー伯爵家の酷さは私も聞き及んでたからな。
アレをここまで放置して来た責任が王国の上級貴族として無いとは言いきれん。
何より、今ここでカーラを突き離せばリビアを悲しませる。それは私の本意ではない」
そう言いながらリビアを見つめるアンジェの瞳は優しかった。
そんなアンジェにリオンは微笑んで頷く。
「いいだろう! 空賊も! そしてその背後に居るオフリー伯爵家も纏めて叩き潰してやる!」
力強く発せられたその言葉にカーラは嗚咽混じりに感謝の声を上げる。
「あ、ありがとうございますバルトファルト男爵!」
リビアもまた嬉しそうに声を上げる。
「リオンさん私からも礼を言わせて下さい! ありがとうございます! カーラさん良かったですね!」
「オリヴィアさんも! アンジェリカ様も! ありがとうございます!」
カーラ好きが高じて拗れて二次創作書くまでに至りました。読んでいただきありがとうございました。
この後、3、6、8、14話が特に思い入れの強い回なのでそこまで読み進めていただけるとありがたいです。勿論そこから先も読んで頂ければ尚嬉しいです。
15話の温泉回は途中飛ばしてこの話だけでもほぼ楽しめると思います。勿論順に読んでいただくのが一番の理想です。
☆主要キャラの登場頻度
カーラ 実質この世界線でのメインヒロイン。全編に渡り登場だが、出番無い回も
リオン 本編主人公でこの世界線でも主人公。ほぼ全編に登場
リビア 本編メインヒロインその1。この世界線でもほぼ全編登場
アンジェ 本編メインヒロインその2。4~10話出番無しながら11話以降登場頻度高し
ルクシオン リオンの相棒の人工知能。一章の中盤辺りから登場。回が進むごとに出番増
マリエ 本編の裏(?)主役ともいえるキャラ。出番は二章から
あなたのお気に入りヒロインは?
-
カーラ
-
リビア
-
アンジェ
-
マリエ
-
ヘルトルーデ
-
その他(上記以外&未登場の原作キャラ