「リオンさんの領、実家ってどんなトコなんですか?」
「特に何も見るところも無い土地だけど温泉だけは自慢なんだ」
カーラの問いにリオンが答える。
パルトナーの中の一室、比較的広く4人でゆったりするには十分なスペースのある談話室。
カーラの父親に報告し、オフリー家の艦隊に対してもレッドグレイブ家に任せ、ウェイン邸をあとにした一行はリオンの領地へ向かっていた。
「リオンさんの浮島の温泉、夏季休暇以来ですからね。楽しみです」
「今回慌しかったからな。温泉に浸かって骨休めといかせて貰おう」
言いながら既に気持ちは温泉に、と夢見心地な表情のリビアとアンジェ。
「夏季休暇……お二人はリオンさんの領に行かれたことあるんですか?」
「ハイ! のんびり疲れを癒すには最適ですよ。カーラさんも今回の件で色々疲れたでしょうからゆっくりしていってください」
「そうか、カーラは先日の学園祭で知り合ったばかりだったからな。私達は以前夏季休暇の長期休みの時にな。
決闘騒ぎのほとぼり冷めるまで王都、学園から離れた方が良いだろう、ということで世話になったわけだ。
あの時は毎日の様に入りに通ったものだ」
「あの決闘騒ぎも今となっては懐かしい気もしますね。あと、見ようによってはあの時と今回、似てますね」
「そう言えばそうだな。そう言うわけだからカーラも遠慮なく世話になるといい」
カーラが始めて向かうリオンの浮島が気になってるのに対し、リビアとアンジェは完全に慣れ親しんだ場所のように話していた。
「俺んちの温泉なのに、二人ともまるで自分の家みたいに話すよなぁ」
リオンが呆れを含んだように笑いながら言う。
「ふふっ、気にするな。勝手知ったる他人の家と言うやつだ」
そんなリオンにアンジェもいたずらっぽい笑みで返す。
「ま、そんなわけで大分騒がしい感じになりそうだがな。そう言うことだからカーラも気にせずにくつろいでってくれ」
「あ、はい。お邪魔させていただきます」
リオンが笑顔で話しかけるとカーラも笑顔で応える。
「また洗いっこしましょうアンジェ。あ、今回はカーラさんも一緒ですよ」
「フフ……そうだな。そういうことだ。女同士裸の付き合いだ。カーラも覚悟しとけよ」
「アハハ……お手柔らかにお願いします」
二人に圧倒されながら乾いた笑顔で応えるカーラだった。
「あれ? そう言えば……」
「どうしました? カーラさん」
「いえ、何か忘れてるような……」
言いながら顎に手を当てながら考え込むカーラ。
「ブラッドとグレッグのことか?」
リオンの言葉にカーラは得心がいったのか掌にこぶしを置く。
「それです。今回の空賊本隊相手の討伐にはお二方も尽力してくださったんですよね。そういえば今どちらに。お礼も未だ……」
「あー、あいつ等なら拿捕した空賊船の管理任せた後……」
言いながらリオンはアンジェに視線を送る。
「うむ、レッドグレイブの艦隊で引き継ぐと言ったんだが最後まで責任持つと言ってな。今は艦隊と共に事に当たってくれている」
「あいつらも何だかんだ言っても貴族の令息だからな。一応一端の責任感もあったみたいだな。
戦闘面でも想像以上の働きしてくれたし報酬もはずんでやるか」
リオンの口から語られるブラッドとグレッグの評価はかなり上方修正されてる印象だった。
パルトナー乗船前、装備も準備も不十分だった様子には閉口させられたし、先遣隊討伐直後にはリオンの逆鱗に触れもした。
結果的にはその逆鱗に触れたのを切っ掛けに、覚悟を改め本隊討伐時には十分な働きを見せてくれた。
「……それがどうして一人の女に揃いも揃って誑かされて……。本当にどうしてこうなったんだか。殿下だけでなくあの四人まで……。
一人くらい殿下を諌めようとする者が居なかったのか。いや、今からでも目を覚ましてくれれば……」
言いながらアンジェは目を瞑りこめかみに指を当てる。
完全な能無しなら未だ諦めも付こう。だが今回のようになまじ有能な面を垣間見ると余計に遣る瀬無いのだろう。
そんなアンジェを見ながらリオンが思い起こすのは空賊本隊討伐後に交わした通信。
それなりの働きしてくれたし拿捕した空賊船の管理も引き受けてくれたので報酬を弾むと話した。
だが返ってきた言葉は「これでマリエに土産を――」だったので、リオンは乱暴に通信を切ったのだった。
マリエに誑かされた現実から目を覚ましてくれるのを期待するのは無理そうかなとリオンは半ば諦めの気持ち。
その時パンと乾いた音が響く。
見ればリビアが両手を合わせていた。先程の音は彼女が拍手のように両手を叩いた音だった。
「折角空賊やっつけたんですから暗い顔なんかしないで残りの連休は楽しみましょうよ!」
言って高らかに声を上げるリビア。
「そうだな……何時までも殿下たちの事を気にしていても仕方あるまい」
苦笑しながらも頭を振り割り切るアンジェにリビアは納得の笑みを浮かべる。
「カーラさんも。あの二人のコトはそこまで気にすることないですよ。報酬もリオンさんから貰うみたいですし」
「え……でも一応私が巻き込んだみたいなものだし」
「それだって元を正せばカーラさんのせいじゃないんですから。どうしてもお礼が言いたいなら連休が終わってから学園で言えば十分ですよ。ね?」
そう言ったりビアに気圧されるようにカーラは頷く。
「よし、それじゃぁ気分転換に娯楽室にでも行きましょう。未だ遊んでない気になるゲームも沢山ありましたし」
そしてカーラの手を、もう片方にはアンジェの手を握り、二人の手を引いてリビアは駆けだすのだった。
「リオンさんも! 早くしないとおいてっちゃいますよ!」
笑顔で促すリビアにリオンはやれやれと苦笑しつつも着いて行くのであった。
その後娯楽室でリオンはリビアにそっと耳打ちする。
「なぁ若しかしてあの二人に対しあのことで未だ怒ってる?」
あのこととは空賊先遣隊討伐後カーラが倒れてる間のブラッドとグレッグとのいざこざ。
「さぁ、何のことでしょう?」
笑顔で応えるリビアだったが声のトーンが微妙に低かった。
どうやらそのようで、リビアだけは怒らしてはイカンなとリオンは肝に銘じる。
思えばリオンはあの二人から謝罪も受け実際に行動でも示してもらったので今はもうそれほど気にしてない。
だがリビアはそうではなかったようだ。
本来の乙女ゲーならこの空賊イベントを共に乗り切った攻略対象と仲が深まる予定だった。だが――
リビアと攻略対象である筈のブラッドとグレッグの間には絆どころか溝まで感じる始末。
「……結局また、あの乙女ゲーと大分違った展開になっちまったかな」
リオンは誰に言うでもなく小声で呟き、娯楽室のゲームに興じるリビアにアンジェ、そしてカーラの笑顔を見つめる。
その表情はとても穏やかだった。少なくともゲームシナリオの展開通りいかない事を嘆くようなものではない。
『もういいかげんに"ゲームのシナリオ"に拘るの止めたらどうです?』
リオンの独り言にルクシオンが声を潜め話しかける。
ルクシオンの言う通りかも、とリオンも思わないでもない。
だがここで同意するのも癪な気がして、声のした方と反対の方向に視線を逸らす。
そんなリオンの仕草にルクシオンは姿を消したまま、やれやれと言わんばかりに球体のボディを左右に振る。
そして思う。
――相変わらず自分のマスターは素直じゃない、と。
前回更新から間が空いてしまって申し訳ありません。
第一部完の、着地地点の目処が立ってきました。
多分あと三話です。もうしばらくお付き合いいただけると嬉しいです。
本編準拠短編ともどもよろしくお願いします。
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