モブせか・カーラ if ルート   作:julas

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原作でも6巻エピローグでリビアが悪夢を見ました。あれと似たような現象が此方のカーラにも……。リビアじゃないので悪夢の内容は王都炎上ではありませんが。


14、悪夢

「いやあぁぁぁっ! ……ゆ、夢!?」

 

 深夜、飛び起きて呟いたカーラの顔は真っ青だった。

 よほど酷い悪夢だったのだろうか。

 体も寝汗でぐっしょり濡れていた。片手で胸を押さえもう片方の手は掛け布団をきつく掴んでる。呼吸も荒く息も苦しそうだ。

 目を閉じると再び悪夢が瞼の裏に浮かびそうで、とても直ぐ眠る気にはなれなかった。

 寝汗も気持ち悪いし気分転換を兼ねて部屋に備え付けのシャワー室に足を運んだ。

 

 シャワーを浴びて服も着替えたが気分の晴れないカーラは部屋を出た。

 パルトナーは広い艦なので気分転換に散歩でもしようと歩き始める。

 歩きながらカーラの脳裏に始めてリビアと出合った時の事と先程の悪夢が浮かぶ。

 学園祭の前日、初めて出合ったリビアはリオンの話題になると嬉しそうに楽しそうに話を弾ませるのだった。

 その時カーラは最初多少引きつつも、だが誇らしげに語るリオンの活躍に魅入られるように聞き入ったのだった。

 だが――

 

 悪夢の中のカーラは話をそこそこに切り上げ取次ぎの約束だけすると早々に去ってしまった。

 おそらくその心の内にはリオンへの興味も関心もなく、ただステファニーを恐れるあまり命令をこなすことしか頭に無かったのだろう。

 そして喫茶店催すリオンの教室に出向き罠と明かすこともなく、ステファニーの指示のまま偽の救援要請だけ伝え去ってしまった。

 

 その後もステファニーに言われるまま従いリビアにも酷薄な態度を。

 そんな夢の中の自分に向かいカーラは何度も「止めて!」と叫ぶが、声は届かない。

 ステファニーに虐げられるリビアを助けようと手を伸ばすがその手は空を掴むばかり。

 その後も冷たい態度を取り続ける夢の中の自分と、辛そうに顔を曇らすリビアの姿に胸が引き裂かれるような思いで見つめるしか出来なかった。

 そして空賊の先遣隊を打ち破ったリオンが夢の中の自分に向けた視線と言葉。

 それはリオン達を罠にはめた"敵"とみなす容赦のない冷淡なものだった。

 その視線と声に耐え切れず叫びを上げたところで夢から覚めたのだった。

 

 

「リオンさん……」

 

 カーラは両手を自分の二の腕に回し、抱きしめる様に掴みながら呟く。

 今直ぐにでも逢いたい逢いに行きたい。

 逢って確かめたい。夢は夢。現実のリオンは悪夢の中のリオンと違って、いつも通り優しい眼差しと言葉をかけてくれると。

 だが逢いたいと言う気持ちと同時に――

 

 

「カーラ……?」

 

 声のした方に目を向ければそこにはリオンがいた。

 今、正に逢いたいと思ってた人の姿に安堵し駆け寄ろうとするも足が動かない。

 それは悪夢のせいだろうか。

 夢は夢で現実とは関係ないはず。

 リオンが夢で見たような言葉も態度も取るはずがないと分ってる。

 

 だが若し夢で見たような冷たい視線を向けられたら……そんな思いが足をすくませる。

 カーラの様子に尋常じゃないものを感じたリオンは駆け寄る。

 急に距離を詰められカーラが身を翻そうとするとリオンに手首を掴まれる。掴まれたカーラは身を強張らせ反射的に目を瞑る。

 そして恐る恐る目を開けてリオンの方に視線を向けるとリオンは膝をついていた。

 その姿は姫にかしずく騎士の様でもあり、幼子をなだめる親の様でもあり。

 カーラを見上げ見つめる視線は気遣う気持ちが滲み出てる優しいものだった。

 リオンの優しい視線に表情に安堵したのか、カーラは力が抜けたように崩れ落ち膝を付くとリオンは優しく受け止める。

 

 

「リオンさん……。リオンさんは、私の……敵じゃないですよね? 私は……リオンさんの敵じゃないですよね?」

「当たり前だろカーラ……。俺達はお前の友達だし、お前は俺達の大事な友達だ」

 

 言いながらリオンはカーラを優しく抱きしめる。

 

「うん……うん。リオンさんならそう言ってくれると信じてました。信じてた筈なのに……」

「カーラ? ……とりあえず俺の部屋に来るか? 落ち込んだときや気持ちが沈んだときに良く利くお茶もあるんだ」

 

 リオンの言葉にカーラは頷くとリオンに支えられ連れられリオンの部屋に向かう。

 

 

 

 

「ごちそうさまでした。優しい味で、とても美味しかったです」

 

 ここはリオンの部屋。カーラはリオンが淹れてくれたハーブティーのお陰か気分も大分落ち着いたようだった。

 

「そうか……。なら良かった。なぁ、聞いてもいいか? いや、話したくないなら無理に話さなくても」

 

 カーラはしばらく空になったティーカップに視線を落としていたが、意を決したように口を開く。

 

「夢を……見たんです。とても怖い夢。私じゃない私がリオンさんやリビアさんに酷い事してた夢……」

 

 聞いた瞬間リオンの顔が強張る。その表情を見た瞬間にカーラの顔に怯えの色が出たので、慌てて表情を緩めリオンは微笑む。

 

「ああ、スマン。思いもよらない話だったんでビックリしただけだ。怖がらせるつもりは無かったんだ悪い」

 

 そう言ってリオンは軽く頭を下げる。

 

「い、いえ気にしてませんから……」

 

 そうして二人とも押し黙ってしまいどこか気まずい空気が流れる。

 

 

 

「話すのが辛いなら無理に話さなくても良いから……」

「いえ、聞いてください。多分、胸に仕舞い込み続ける方が苦しい気がしますので……」

「分った。ゆっくりでいいよ」

「ハイ……」

 

 そうして話し始めたカーラの見た悪夢の話にリオンは内心驚きを隠すのに精一杯だった。

 それは、まるであの乙女ゲームの本来の空賊イベントに沿ったもののようだったからだ。

 厳密には少し違う。本来リビアと五人の攻略対象の誰かとのみこなす筈なのに、リオンもその場にいたので。

 そうした違いを除けば概ねはゲームのイベント通りと言った感じだ。

 だが夢の内容以上にリオンの意識を持っていったのは、それを語るカーラの表情がまるで懺悔でもするように辛くて苦しそうだった事。

 特にリビアのことを語ってる時は殊更辛そうだった。

 パルトナーに乗って以来、いや学園祭の時からカーラとリビアがどれだけ親しくしていたかはリオンも知ってたから。

 それだけにその心中は十分察することが出来た。

 そしてそれに加え――

 

 

「夢の中のリオンさん、凄く怖かった……。夢の中の私に向ける視線がとっても冷たくって……。

現実の、本物のリオンさんはとっても優しいの知ってるのに……」

「カーラ! もういい!」

 

 言いながらリオンはカーラの頭を自身の胸に押し付けるように抱きしめる。

 

「ただの夢だ! 現実のカーラと俺やリビアとは何の関係もない! だから、何も申し訳なく思う必要も、怖がる必要もないから……!」

「リオン……さん、でも」

「それでも怖ければ俺を呼べ。例え夢の中だろうと駆けつけて助けてやる。カーラを泣かせるやつはどんな相手でもやっつけてやる!」

 

 リオンのその言葉に腕の中のカーラは視線を上げリオンの顔を見上げる。

 瞳に映るのは力強くも優しい瞳で見つめてくるリオンの顔だった。

 

 

「リオンさん……。良かった、夢の中の怖いリオンさんじゃない。やっぱり私の知ってる優しいリオンさんだ……」

 

 カーラはリオンに体を預けその背中に腕を回す。

 リオンもまたカーラの体を優しく抱きしめる。

 そうしてしばらく抱きあってた二人だがやがてカーラの腕がリオンの背中から離れるとリオンも抱きしめる腕をほどく。

 

 

 

「もう大丈夫そうか?」

 

 リオンの問いにカーラは頷く。

 

「そうか。じゃあ部屋まで送るよ」

 

 

 

 

 カーラを部屋まで送り届けたリオンは部屋を後にしようとするがドアの前でカーラを振り返る。

 見れば未だどこか心細そうな顔をしてる。

 

「未だ不安か……?」

 

 リオンはカーラに手を伸ばすと優しくそっと髪を撫でる。

 

「いえ……その……。ハイ、未だ少し」

「そうか」

 

 リオンは髪を撫でる手をカーラの額にまわしそっと前髪をかき分けるとその額に優しく口付けをする。

 

「寝付くまで側に居てやるよ。それでいいか……?」

 

 カーラはリオンの口付けに頬を染めはにかみ、そして頷くようにリオンの胸に頭を預け

 

「ハイ……」と小さく呟くのだった。

 

 

 

 

 

 リオンはベッドの側で椅子に腰掛ながら、静かに眠るカーラを見つめていた。

 そっと髪に手を伸ばし愛しげに優しく撫でる。

 そんなリオンにルクシオンがリオンにだけ聞こえる小さな声で囁く。

 

『カーラの呼吸脈拍、共にとても安定してます。今なら多少離れても大丈夫です。少々お時間よろしいでしょうか』

 

 リオンは頷くと椅子から立ち上がる。

 カーラの寝顔を名残惜しそうに見つめつつ、起こさないように細心の注意を払いながら静かにドアを開け部屋を後にする。

 

 

 

「とりあえずカーラのこと知らせて起こしてくれたの助かった。礼を言っとく」

 

 カーラが艦内を散歩してたときリオンに出会ったのは偶然ではない。

 ルクシオンがカーラの異常に気付きリオンを起こし知らせたのだった。

 パルトナーの運行などを司るルクシオンは乗員の状態などにも注意を払い健康状態なども把握している。

 

『おや、珍しく素直ですね』

「どうせ俺は捻くれてるよ。全くお前は余計な一言を言わずに済ませらんねぇのかよ……」

 

 ルクシオンの憎まれ口に溜息をつくリオン。

 

「まぁ、いい。それで、何だ話って」

『カーラの夢の話です。マスターはどのように思われますか』

「夢は夢だ。そこに深い意味なんて無いだろ」

『本当にそう思われますか?』

 

 言われてリオンは押し黙る。

 

 

『カーラの語った夢。まるで以前マスターが仰ってたゲームのイベントの様ではありませんでしたか?

もしや彼女もマスターの言う"転生者"なのでしょうか』

「イヤ、それはないだろう。先ず、カーラの夢にはゲームに登場しない"リオン"、つまり俺が登場してた。

それに、カーラの語り口は俺のようにゲーム越しに見聞きしたって感じじゃない。

もっと生々しい、まるで体験談みたいに……」

『体験談ですか。それは以前マスターが仰ってた娯楽媒体の物語の一ジャンル。ループ、繰り返し、というヤツでしょうか』

「ループねぇ。それこそ非現実的じゃないか? それに若しループだとするなら立ち回りがあまりにも不器用じゃないか」

『不器用、ですか。そういうカーラの不器用なところをマスターは嫌いではないように見受けますが?』

 

 その言葉にリオンは視線を逸らし押し黙る。その沈黙をルクシオンは肯定と受け取る。

 

『それより非現実的と言うのなら、私からすればマスターの転生者と言う話も十分非現実的ですが』

「お前は未だ疑ってるのかよ」

 

 ルクシオンはリオンが旧人類の遺伝子と知識を持つことに大いに関心を寄せつつも転生者と言う話には懐疑的な態度を取ってた。

 

 

 

「もういいだろルクシオン。転生者とかループとかそういうんじゃなく、カーラのアレはただの悪夢。

カーラはずっとあの性悪伯爵令嬢に無理やり従わされて苦しんでたんだ。

そして若しあの性悪に屈し俺達と敵対してたら、そんな怖れの気持ちが、最悪の悪夢って形になった。

あんな悪夢を見てしまうくらいあの性悪の圧が酷かったって事だろ。

俺が知ってる乙女ゲーのイベントに似たような感じになったのはただの結果論。それだけだ」

 

 リオンは一息つくと続ける。

 

「大事なのはカーラが悪夢で苦しんでた。俺はそれを放っておけなかった。それで十分だろ」

『……わかりました。マスターがそれで良いのなら』

 

 喋る前、ルクシオンに妙な間があった。まるで溜息でも付くような。

 

 

 

 話が終わったと判断し、リオンはカーラの部屋に戻ろうとする。

 

『御自分の部屋に戻られないのですか?』

「いいだろ。今夜一杯はカーラの側に居てやりたいんだ」

『過保護ですね。そこまで大切に想いながらキスを唇ではなく額で済ます辺り、相変わらずの安定のヘタレっぷりですが』

「おまっ……!」

『大きな声出すとカーラが起きますよ?』

(こ、この腐れ人工知能が~!)

 

 癪に触るが実際大声を出すわけにも行かないのでリオンは黙り込む。

 

 

 

 椅子に腰掛けカーラの寝顔を眺めながらリオンは思う。

 先程のルクシオンとの会話で口に出さなかった仮説、可能性。

 それは平行世界の記憶。そんなものが本当にあるのか。それとて結局は戯言の範疇を出ない推測。

 だがリオンにとって重要なのはそこではない。

 それはどうしても口に出したくなかったこと。

 出してしまえば認めてしまうようだったから。

 カーラを誰にも傷つけさせられたくなかった。

 それなのにそんなカーラを傷つけたのが平行世界とは言え自分自身だなんて断じて認めたくなかったから。

 

 また、悪夢を見たのがこのタイミングと言うのも気にかかる。

 それは件の乙女ゲーでは空賊討伐後ウェイン家の当主との顔合わせを最後にカーラは物語から退場してた。

 運命の強制力修正力なんてものがあったとして、まるでそれがカーラに退場を促すように悪夢を見せたように思えた。

 

(イベントが終わったからお役御免で退場しろとでも言うのか……!? ふざけるなよ! カーラは舞台装置なんかじゃねぇんだぞ!)

 

 リオンは思わず眉間にシワを寄せ奥歯を強く噛み締める。

 

 

 その時微かな衣擦れの音を耳にする。

 見ればカーラが寝返りを打っていた。そしてほんの僅かにはだけた掛け布団。

 それを見たリオンはそっと布団をかけなおす。

 カーラに目をやれば、とても安らかな寝顔に安堵する。

 

 若しかしたら本来の乙女ゲーを意識するのならイベントキャラや舞台装置と割り切りこの後距離を置くのが正解かもしれない。

 だが最早カーラはリオンにとってそんな言葉で割り切れる存在ではなくなっていた。

 リオンはカーラの髪に手を伸ばしそっと撫でる。

 カーラを愛しげに見詰める優しいその眼差しは、それはリオンにとってカーラの存在がどれ程のものかを何より雄弁に語ってるようだった。




今回や6話のリオンのセリフには私の気持ち感情が色濃く反映されてたりします。原作の空賊編のカーラに対する風当たりの強さ(作中でも読者視聴者からの反応でも)には、読んでて胸が痛かったので……。

次回は温泉回です。今回とは温度差ギャップがエライことになっとりますw

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