「それじゃぁまた後で。上がった頃見計らって迎えに来るよ」
リオンは小型艇からアンジェとリビア、そしてカーラに語りかける。
ここはリオンの実家バルトファルト領。そこからやや離れた場所のリオン個人が所有する温泉がある浮島。
パルトナーで話した通り、温泉に入りたいと言う女性陣の要望に応えて来てたのだ。
「お手数かけますリオンさん」
リオンに会釈しながら礼を言うカーラ。
「気にするな。カーラも存分に温泉を楽しめ」
そう言ったのはアンジェだった。
「それ俺のセリフだろ」
呆れながら笑うリオン。
「ちゃんと感謝してますよ。いつも温泉の浮島まで送り迎えしてくださってありがとうございます」
フォローするように礼を言ったのはリビアだった。
リオンは「いいよ、いいよ」と笑う。
「カーラは初めてだけど、アンジェとリビアが慣れてるからな。二人に任せれば大丈夫だから」
リオンがそう言って笑いかける。
「フフッ、女同士裸の付き合いだ。かしこまらんで気楽にしろ」
カーラが答えるより先にアンジェがカーラの肩を抱き楽しそうに笑う。
「お、お手柔らかにお願いします」
アンジェに気圧されながらカーラはやや引きつった笑顔で返す。
そんな賑やかな会話を聞き三人に手を振りながらリオンは小型艇を発進させ屋敷へと向かったのだった。
屋敷へ戻るとリオンの父バルガスと共に次兄ニックスが詰め寄ってきて口を開く。
「お前、帰省のたびに女の子増やしてくるとかどう言うことだ!」
「前回の夏季休暇の時に続き公爵令嬢のアンジェリカ様と平民で特待生のオリヴィアさんに加え今回、ええっと……」
次兄に続き口を開く父親が口ごもるとリオンが答える。
「カーラな」
「カーラさん!って言うんだな!? 今度のお嬢さんは!」
そして居住まいを正し咳払いをして続ける。
「今度こそ本命なのか?」
その言葉にリオンは目を逸らす。
「目を逸らすな答えろ! 前の二人は片や公爵令嬢で身分高すぎ、片や平民と身分低すぎで釣り合わなかったろ!?
で、今回は……」
「カーラの家? カーラの実家のウェイン家は準男爵だぞ」
「準男爵! って……微妙に釣り合わなくないか?」
「あれ? リオン確かお前、今独立した男爵位だから……。って」
本来ならリオンは男爵家の三男で男爵位は継げないので準男爵の娘は打って付けだった。
だが入学前のダンジョン踏破、ロストアイテム発見の功績などで男爵位を国から下賜され、結果結婚相手は男爵か子爵の娘でなければならなかった。
何だ今回も違うのかと二人は揃って肩を落とす。
「ま、カーラは今は未だ準男爵令嬢だけどな……」
小さな声でリオンは呟く。
「ん? 何か言ったか?」
「いや、何にも。それより親父も兄貴もあんま騒がしくするなよ。カーラも色々疲れてるんだ。静養の為にやってきてるの忘れんなよ」
言いながらリオンは溜息をつく。そして何処を見るともなく宙を仰ぐ。
「今頃カーラも温泉楽しんでくれてるかな。あとあの二人、はしゃぎすぎてなきゃいいけど……」
思い浮かべるのは前回夏季休暇の時のアンジェとリビア。
勿論リオンは覗くような不埒な真似はしてないが、思い出されるのは入浴の前後のテンションの高さ。
「あのテンションに押されてなきゃいいけどな……」
言って再び溜息をつき宙を仰ぐのであった。
「あ、あの……アンジェリカ様。公爵令嬢様に髪を洗っていただくなんてやはり恐れ多いです……」
カーラがアンジェに髪を洗ってもらいながら恐縮してる。一方洗ってるアンジェは実に楽しそうだ。
「フフッ気にするな私がやりたくてやっている。自分以外でこんなに長い髪はそうそう見ないからな。
綺麗な良い髪じゃないか。後で私の髪も洗ってくれればよい。それでお相子だ」
「わ、分かりました! 心を込めて洗わせていただきます!」
「うむ。さ、泡を流すぞ」
そう言ってお湯をかける。
「すっかり綺麗になったな。本当に綺麗な紺色の髪だな」
アンジェはカーラの髪を一房手に乗せそれを眺めながら呟く。
その声色は何処か切なげであった。
「ありがとうございます……って、アンジェリカ様……?」
「ああ、スマン、ちょっと思い出していてな。ユリウス殿下の髪も紺色でな。
若し添い遂げてたらお前のような、こんな綺麗な紺色の髪の娘を将来授かったのかもしれんと。
殿下の母君のミレーヌ様には娘のように可愛がっていただき、こうして髪を洗っていただいたこともあった。
なので何れは私も娘を授かったのならこんな風に洗ってあげる、そんな未来もあったのかな、と思ってしまってな」
アンジェの言葉に気の利いた返しが浮かばずカーラも押し黙ってしまう。
「もう、アンジェったら折角の温泉なんだからしんみりしちゃ勿体無いですよ!」
沈黙を打ち破るように声を上げたのはリビアだった。
「言ったじゃないですか。アンジェを振ったユリウス殿下なんかきっぱり忘れて復讐してやるんだ、って!」
「ふ、復讐!?」
リビアの口からおおよそ彼女らしからぬ物騒な言葉が出てカーラは面食らう。
「あ、カーラさん。復讐って言ってもそんな相手を不幸にしたり蹴落としたりするんじゃないですよ。
リオンさんが言ってたんです。世の中最高の復讐は自分が幸せになることだ、って」
「ああ、そう言えば言ってたな。私が幸せになりその姿を殿下が見て後悔させるまでが復讐だって」
「な、成る程……?」
カーラは自分には思いもよらなかったリビアとアンジェの言うリオンなりの復讐に驚きを隠せずにいた。
「だから! アンジェは笑っていてください! 笑顔こそ幸せの第一歩です!」
そう言ってリビアは両の拳をグッと握り脇を締める。その勢いで彼女のたわわな胸が揺れる。
「そうだな! 幸せになって復讐してやろうじゃないか! そのためにもしんみりなどしておれんな!」
言ってアンジェも拳を握り胸を張るとリビアのそれをも上回る豊かな胸もまた揺れる。
(ゆ、揺れた!? ふ、二人とも裸になるとあらためてその大きさが凄い……!)
カーラの胸も決して小さいわけではない。スレンダーな体形と相俟って全体的なバランスでは同年代の中でも抜きん出るだろう。
だが、こと胸囲にかけてはこの二人が規格外であった。
「カーラさん……? あんまりじっと見られると流石に恥ずかしいです」
「あ、ごめんねリビアさん。いや間近で見ると凄いなぁって……同じ女として自信無くしちゃいそうで……」
言いながらリビアの豊満な胸から自分の胸へ視線を移す。
「そんなことないです! 私から見ればカーラさんのスレンダーな体形の方が羨ましいです! ウエストだって……。
ってヤダ、本当に細い……!」
言いながらリビアはカーラの腰回りに指を這わせる。
「や! ちょ、ちょっとくすぐったいってばリビアさん!」
「リビア、はしゃぎすぎだぞ。カーラだって困ってるじゃないか」
アンジェが苦笑しながらリビアを窘める。
「アンジェも見てください。本当に細いですよ!」
言いながらリビアはカーラの背後に回り脇の下から両手を回す。
「どれ。ほお、確かに細くくびれすっきりした腹周りだ。私もそれなりに細いつもりだが鍛えて絞ってるので少し筋肉質だからな。
カーラの様に細くしなやかな腰つきの方がより女性らしく、確かに羨ましくあるな」
言いながらアンジェもカーラの腹周りを撫で回す。
「ア、ア、アンジェリカ様まで何仰ってるんですか~!?」
赤面し困惑するカーラにアンジェは悪戯っぽく微笑む。
「フフッ。少々悪ふざけがすぎた。リビアもそれぐらいで……」
「ふざけてなんかいません! 私は真剣です! わわっ! 背中からお尻にかけての曲線美もステキ!」
言いながらカーラの背後、背中から腰回り、尻にかけてを撫で回すリビア。
これはそろそろ本気で止めた方が良いなと思ったアンジェはリビアの脇腹に手を伸ばす。
「ひゃぁっ!?」
アンジェに脇腹を摘まれ驚きの声を発すリビア。
「リビアは油断してると腹回りに余計な肉が付くぞ?」
言いながらアンエジェはカーラに目配せする。
意図を察したカーラは軽く会釈をしそそくさと湯船に向かうのだった。
体も髪を洗う前に洗ってたので髪だけ束ね結い上げ、かけ湯をするとそのまま湯船に浸かる。
「アハハ……色々凄かったなぁ……。わぁ、景色綺麗ー」
そう呟いたカーラは何処か放心気味であった。
そうして湯船に浸かり景色を眺めているとアンジェとリビアも湯船に入ってくる。
「全く、はしゃぐなとは言わんがもう少し自重しろ」
呆れた口調で話すアンジェ。
「ごめんなさい。ちょっとはしゃぎ過ぎました。カーラさんもゴメンなさいね」
「そういうわけだからカーラも大目に見て許してやってくれるか」
「ゆ、許すも何も気にしてませんから」
言いながらカーラは二人に視線を送る。その視線は二人の胸元に引き付けられる。
そして心の中で呟く
(浮くんだぁ……)
「で、どうだ? 温泉は」
「え? あ、ハイとってもいいお湯です。お二人がお薦めするのも分かります。あ、そう言えばアンジェリカ様の髪……」
カーラがお返しに洗うと言う話だったがリビアがはしゃぎすぎてうやむやになってしまってた。
「ん? ああ、リビアが洗ってくれたよ」
そしてリビアも先程のはしゃぎすぎた自分を思い出してかバツが悪そうに苦笑いを浮かべてた。
「申し訳ありません。私がお洗いするって申し上げましたのに」
カーラが申し訳なさそうに言うとアンジェは笑って応える。
「気にするな。連休は未だある。明日もまた温泉に来るだろう? その時に頼む」
「じゃぁカーラさんの髪は私が明日洗いますね」
「アハハ……お、お手柔らかにお願いね」
そうして三人で湯船に浸かり景色を眺めながらお喋りに花を咲かせ、楽しい時を過ごしたのであった。
そろそろ上がった頃だろうとリオンが迎えに来ると三人とも東屋で温泉で火照った体を覚ますべく浴衣で涼んでいた。
「あ、リオンさんお迎えありがとうございます」
リオンの元へ駆け寄ってきたのはカーラだった。ふわりと香るシャンプーの残り香がリオンの鼻腔をくすぐる。
「カーラ、温泉の方はどうだった?」
「あ、ハイ凄かったです……、じゃなくてとても良いお湯でした」
「そうか満足してくれたんなら良かった。 ん? 凄かった?」
笑顔で応えるカーラに満足しつつも言い回しに少しおかしなモノを感じ問い返す。
「ええっと……」
言いよどむカーラの視線がさ迷う。
その視線はリビアとアンジェの胸元、そしてカーラ自身の胸元へ。
その視線の動きから察したリオンはカーラの耳元に顔を寄せる。
「そんなに、か……?」
ゴクリと喉を鳴らしながらリオンが小声で尋ねると、カーラが頷く。直後慌ててまくし立てる。
「い、今のは失言です! 忘れてください!」
「お、おぅ……」
言いながらもリオンの視線はアンジェとリビアの胸元へ――。
「リオンさん……」
その声にリオンが振り向くとカーラの視線が何処となく冷たかった。
「やっぱりリオンさんも大きい方が好きなんですか?」
「え? あ、いやその……」
答えに言いよどむリオン。
正直言ってしまえば大きいのが大好きであった。だが流石にここでそれを言うほど空気読めなくはない。
何より何処か拗ねた様な声で尋ねるカーラ相手にそんな事言えるはずもなく。
「お、大きさも大事だけどバランスだよ! ウン! カーラだって小さいわけじゃないし! スレンダーなカーラにはそれぐらいがイイと思うよ!」
「ですね。カーラさんのお腹周りのくびれほっそりしてて綺麗で羨ましいぐらいでした」
言ったのは何時の間にか側に来てたリビアだった。
不意打ち気味に声をかけられたリオンとカーラが驚き戸惑っているとリビアが悪戯っぽく笑う。
「あ、そう言えばリオンさんは見たことありましたよね、カーラさんの」
「ちょ、ちょっと待てリビアそれ今言うのは……!」
「リ、リビアさん!?」
「ほぉ? 詳しく聞かせてもらおうかリオン?」
リビアに続き話に加わってきたアンジェに益々戸惑い混乱するリオンとカーラ。
「ア、アンジェ!? これはその……!」
「ア、アンジェリカ様、その……!」
リオンとカーラが戸惑っているとアンジェとリビアが吹き出す。
「すまんな。ほんの悪戯心だ。その話なら既にリビアから聞いとるよ」
「……人が悪いぜアンジェも~」
アンジェの悪戯っぽい笑顔にリオンはへたり込む。
そしてアンジェとリビアの笑顔に釣られリオンも笑う。カーラもまた釣られて笑う。
そうして互いに顔を見合わせて笑うとリオンは立ち上がる。
「じゃ、屋敷に戻るか。お袋が腕によりをかけてご馳走用意して待っててくれてるからさ」
コミックス9巻の巻末おまけマンガにかなり影響受けて書いてますw
次回は物語の大きな締め括り。第一部完的な話になります。
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