モブせか・カーラ if ルート   作:julas

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第二章スタートです。


第二章
1(17)首飾り


『おや? マスターそれは……』

 

 ルクシオンの視線の先、リオンの手にあるのは聖なる首飾り。

 乙女ゲーの主人公オリヴィア――リビアが聖女になる為に必要なアイテム

 当初リオンはリビアには攻略対象の誰かと添い遂げるのを支援し、首飾りも彼らの誰かから渡してもらうつもりだった。

 だが――

 

 

「ああ、俺も覚悟決めたからな……」

 

 先日カーラから、そしてリビアから告白され共に受け入れた。

 もう、モブだからと言い訳してリビアから逃げることはしない。

 これからは攻略キャラに頼らず期待もせず自分がリビアを護る。聖女として、自分の将来の伴侶、婚約者として。

 そしてその第一歩としてこの首飾りを渡そうと決心したのだった。

 

 

 

 リオンはドアをノックする。

 

「ハイ」

 

 返事と共にドアを開け顔を見せたのはもう一人の婚約者、カーラだった。

 

「あれ? カーラ? ここアンジェの部屋じゃなかったっけ?」

「あ、ハイ合ってますよ。アンジェリカ様のお部屋広いのでみんな集まってたんです。リビアさんもいらっしゃいますよ」

『全員ここに揃っていたようですね』

「今、いいか?」

「勿論ですリオンさん。アンジェリカ様、お招きしてもよろしいですよね?」

 

 カーラがアンジェに確認を取るとアンジェは「勿論だ」と笑顔で応えてくれた。

 

 

「リオンさんも、ルクシオンさんも、お二方ともどうぞ」

 

 そうしてカーラはリオンとルクシオンを招き入れる。

 先日の告白から婚約の際に姿を表して以来、ルクシオンはリビア、アンジェ、カーラの前でも姿を隠さなくなっており、自己紹介も済ませていた。

 因みに呼び方はアンジェがそのまま呼び捨て、リビアは【ルク君】と愛称で、カーラはさん付けである。

 

 リオンはリビアを探し最初彼女に宛がわれた部屋に向かったが居らず、次いでアンジェの部屋を尋ねたのだ。

 先程カーラが言った通りアンジェの部屋が一番広いのでもっぱら三人そこに集うことが多くなってた。

 三人とも本当に仲が良いよなと微笑ましく思いつつも今回は少々複雑な気分であった。

 

 

「ステキな首飾りですね。どうしたんですか?」

 

 カーラがリオンが手にした首飾りを見詰めながら言った。

 

「ああ、先の空賊討伐でヤツ等の宝物庫で見つけたんだ。見た目も豪勢だが特殊能力が付与されてるらしくてな。

どうやら回復魔法の補助効果があるらしいんだ」

「回復魔法……ってことはリビアさんに?」

 

 カーラの言葉にリオンが頷くとカーラがリビアを呼ぶ。

 

「リビアさーん。リオンさんからプレゼントあるみたいですよ」

 

 呼ばれてリビアが駆け寄ってくる。

 

 

「なんかスマンなカーラ」

「何がです?」

「いや、その、二人とも俺の婚約者なのにリビアにだけって……」

「私が貰っても回復魔法使えないので宝の持ち腐れになりますし。それに、そうして気遣ってくださるだけで十分嬉しいですよ」

「悪りい。あとで埋め合わせするから」

 

 申し分けなさそうなリオンに対しカーラは気遣わないでくれて良いですよと微笑みで返す。

 

 

 リオンはリビアに首飾りを手渡しながら先程カーラに言ったのと同じような説明をした。

 

「……と言うわけで回復魔法に対し補助や底上げがあるらしいんだ。そう言う訳なんで首にかけてみてくれるか?」

 

 聖女のアイテムだと言うと身構えて恐縮し着けてくれないかもと言うことで、あくまで回復魔法補助具と言う体で渡した。

 

 

「回復魔法の、ですか……分かりました」

 

 言うとリビアは首飾りを首にかける。

 

「ど、どうでしょうか?」

 

 そして少々照れながらポーズを取って見せる。

 その姿にリオンとカーラ、そしてアンジェもまた誉めそやす。

 

「で、どうだ何か魔力の底上げ的なの感じるか?」

「そうですね。言われてみれば……」

 

 言いかけたリビアの瞳から突然光が消え表情も虚ろに。腕もダラリと脱力しまるで糸の切れた操り人形のように垂れ下がる。

 

 

「「リビア!?」」「リビアさん!?」

 

 突然のことにリオンたちは驚きの声を上げると、首飾りが妖しげな輝きを放ちそして黒い光が迸る。

 

『マスター。異常事態です。直ぐ様首飾りをオリヴィアから外してください。マスター?』

 

 予想外の事態に狼狽したリオンにはルクシオンの声も耳に入らなかった。

 ゲームの知識からこれが正真正銘の聖なる首飾りであることは確信してた。

 だからこそだろうか、あまりにも想定外の事態に硬直してしまった。

 目の前のそれは聖なるどころかまるで呪いのアイテム。

 

 

「リビア!」「リビアさん!」

 

 リオンが呆然と立ち尽くしてるとアンジェがリビアに駆け寄り首飾りに手を伸ばそうとする。

 その間にカーラが割って入る。

 

「いけません! アンジェリカ様!」

 

 カーラにとってアンジェは先日寄親寄子の誓いを交わした間柄である。主であるアンジェに危険な目に合わせるわけにはいかない。

 

「カーラどけ! リビアが……!」

「リビアさんは私が!」

 

 言ってカーラはリビアの首飾りに手を伸ばす。

 アンジェも敬愛する主で寄親だがリビアもまた大切な親友だ。

 目の前の異常事態に目を瞑るなどできない。

 明らかに異常の原因である首飾りをリビアから外そうとそのチェ-ンを握る。

 瞬間首飾りから黒い稲妻が迸る。

 

 

「きゃああぁぁぁぁっっっ!」

 

 稲妻を受けたカーラの口から悲鳴が上がる。だがその手は尚も首飾りのチェーンを握ったまま離そうとせず引き千切ろうとする。

 しかし彼女の力では引き千切るには力が足りないのか強度が想定以上なのかビクともしない。

 そうして握り続けてる間も首飾りから放たれる稲妻がカーラを苛む。

 

 

「手を離せカーラ! このままではお前の体まで!」

「駄目……です! 手を離せばリビアさんが……!」

「カーラ離せ! 俺がやる!」

 

 駆け寄ってきたリオンがチェーンに手を伸ばし握る。

 リオンの声を聞き安心し気が緩んだのかカーラの手が緩むとアンジェが引き剥がす。

 そしてリオンは稲妻の激痛に耐えながら渾身の力を込めチェーンを千切ろうとすると首飾りは抗うように更に黒い稲妻を発する。

 直後、稲妻が一瞬消えた。その時リオンの頭の中に声が響いた気がした。

 だがリオンはその声に気を留めることはなく、むしろその一瞬の機を逃さず渾身の力を込めチェーンを引き千切った。

 そして首飾りを壁に向かって投げ叩きつける。

 

 

「リビア! 大丈夫かリビア!」

 

 リオンはリビアを抱き抱え声を掛ける。

 黒い稲妻に手の平をやられたカーラも気に掛かるが、そちらはアンジェが見てくれてるのでリオンはリビアに応対する。

 リオンの声にリビアがゆっくりと目を開く。

 

 

「リオンさん? 私一体……?」

「リビア、覚えていないのか? 首飾りを……」

「首飾り……そういえば首飾りをかけてたら突然意識が遠くなり……、痛っ!?」

 

 リオンが力任せに乱暴に引き千切った為か首元に擦り傷をつくってしまったらしい。

 

「あ、あれ? 首飾りは?」

 

 どうやら首飾りが黒い光や稲妻を発してたときのことは覚えてないらしい。

 首に擦り傷を負わせてしまったが、だがそれを除けば大丈夫そうでホッと胸を撫で下ろす。

 

 

「リオンさん? 一体何がどうなって……カーラさん!? どうしたんですかその手!?」

 

 状況を把握しようと周囲に視線をめぐらせていたリビアは視界にアンジェに抱き抱えられたカーラを目に驚きの声を上げた。

 カーラの掌は黒い稲妻を受けたせいで酷い火傷を負っていた。

 

「そうだリビア、カーラの手を診てやっ――」

 

 リオンが言い終わるよりも先にリビアはカーラの元に駆け寄っていた。

 カーラは駆け寄って来るリビアに大事無いか尋ねる。

 

「リビアさん……大丈夫だった?」

「何言ってるんですか!? こんな酷い火傷! 大丈夫じゃないのはカーラさんの方でしょ!? と言うか何があったんですか!?」

 

 言いながらリビアはカーラの掌に向かい回復魔法を掛ける。

 回復魔法の光に照らされ手の平の火傷が徐々に消えて行く。

 

 

「温かくていい気持ち……。ありがとう、やっぱ効くなぁリビアさんの回復魔法」

 

 リビアの回復魔法による治療を受けながらカーラは目を細める。

 そんなカーラに向かいアンジェが口を開く。

 

「カーラありがとう。私達の為に体を張ってくれて……」

 

 申し訳なさそうにしてるアンジェに向かいカーラは首を振って答える。

 

「アンジェリカ様。私幸せなんです。心の底から尊敬できる方にお仕えし体を張って頑張れることが。もっとも、結局私何の役にも立て……」

「そんなことない!」

 

 言葉を遮り声を発したのリオンだった。

 

 

「本来なら俺が真っ先に動かなければいけなかったのに呆けてて出遅れちまってそのせいでこんな怪我させちまって」

「いいんですリオンさん。それでもリオンさんのお陰で……。リオンさん! 後ろ!」

 

 カーラの声にリオンが振り向きリビアとアンジェもその背後に視線を向けると、そこには女性のようなシルエットの黒い靄が立っていた。

 そしてその首元には先程リビアから引き剥がし壁に叩きつけた首飾りが。

 首飾りを付けた女性の様な姿の黒い靄はリオン達に向かい歩を進めてくる。

 おそらくあの靄は先ほどの黒い光や稲妻同様首飾りから発せられたものであろう事は想像に難くない。

 

 

「何なんだよお前は……!」

 

 怒気を声に含ませリオンは三人を庇うように首飾りと靄の前に立ち塞がる。

 大事なキーアイテムだからと当初躊躇っていたが、そのせいで大事な婚約者達が傷つけられたのだ。

 そのことにリオンは目の前の首飾りと、そして自分自身に腹を立ててた。

 

 

「リビアにもカーラにもこれ以上は手を出させてたまるかよ……!」

 

 リオンは怒りのままに今にも飛び掛りかねないほど昂ぶっていた。

 そんな黒い靄が手を伸ばす。まだリビアを諦めず手を出そうとするのか。

 だがその手はリビアではなくリオンを求めてるようにも。

 黒一色の顔は何かを語りかけてくるようにも見える。

 思い返せば稲妻が途切れた一瞬リオンの脳裏に声が聞こえた気がしたがあれは首飾り――黒い靄が語りかけてきたのではないか。

 若しリオンが平静ならそう気付けたかもしれない。

 だが今のリオンは大切な婚約者達を傷つけられた怒りでそのような思考に至る余裕はなく、ただただ怒りに打ち震えていた。

 

 

『マスターもお下がりください』

 

 そんなリオンの前にルクシオンが姿を表す。

 ルクシオンの周りには更に小型の複数の球体ビットが浮遊している。

 

『行きなさい』

 

 ルクシオンが指示すると球体ビットは首飾りと靄に向かい飛んで行き多面体型に取り囲み電磁シールドの結界を張り包みこむ。

 

『先ほどまではオリヴィアを巻き込む恐れがあったので手出ししませんでしたが、そうでなければいくらでも対処しようがあります』

 

 そうして球体ビット達は互いの距離を縮めるとみるみる多面体は小さくなり両手で抱えられる程度の大きさに収まった。

 

 

『さてマスターどうしますか、この首飾り』

 

 リオンは結界に拘束された聖なる首飾りを睨む。

 

「正直バラバラの粉々に砕いてやりてえ。だが疑わしいがこいつが聖なる首飾りなら迂闊に……」

「聖なる首飾りだと!?」

 

 驚きの声を上げたのはアンジェだった。

 リオンは思わず声に出してしまったことを悔いるように口に手を当てる。

 

 

「何処かで見たことのあると思ったら……。だがどういうことだ!? 私達の目の当たりにしたあれは……あれではまるで呪いのアイテムではないか」

 

 リオンは迂闊に口走ったのを後悔しつつ、だがアンジェなら何か詳しいこと知ってるかもと気を取り直す。

 

「アンジェ、何か知ってるのか?」

 

 だがアンジェは悩ましげな表情で首を横に振るだけ。

 少なくともアンジェも聖女のアイテムにこんな忌まわしいものが取り憑いてるなど聞いた事がなかった。

 

 

『マスター、コチラの管理私に一任いただけますでしょうか。非常に興味深い存在なので色々調べてみたく思います』

「絶対逃がしたりするなよ。若しまたリビアとカーラに危害を加えようものならそのときは消し炭に……いや流石にそれはまずいが……。

兎に角勝手な真似させないよう厳重に管理しとけ……痛ッ!」

 

 リオンは自分の掌に目をやる。

 首飾りが捕縛されたことで緊張の糸が切れアドレナリンも切れたからか、リオンは掌に火傷を負ってたのを思いだす。

 チェーンを握ってた時間は短時間。加えて冒険者として研鑽を積んでたリオンの掌の皮は分厚く、その為カーラに比べれば軽症であった。

 自分より酷い火傷を負ってたカーラの手の平は大丈夫だろうかと視線を送ればリビアの回復魔法のお陰で綺麗に完治しており胸を撫で下ろす。

 そう言えばリビアの首にも、と思い視線を送ればそちらもリビアが自分自身に回復魔法を掛けていた。

 

 

「二人とももう大丈夫か?」

「あ、ハイ。リビアさんの回復魔法のお陰で……ってリオンさんの手も大丈夫ですか!?」

「ああ、カーラに比べれば俺のなんか掠り傷みたいなものさ。ま、それでもちょっと痛むな」

「あ、リオンさん直ぐ回復魔法かけますね。本当何があったんですか?」

 

 回復魔法を掛けながら問うリビアに、リオンは苦虫を噛み潰したような顔で押し黙って、ややあって口を開く。

 

「悪い……正直俺にも何が何やら」

 

 

 回復魔法による治療が終わるとリオンはそれを確認するように掌を握って開いてみせる。

 

「サンキュな、リビア」

 

 そう言ってリビアの頭の上に手を置くとリビアは頬を染めはにかんでみせる。

 そして次にカーラの元に歩を進める。

 カーラの手を取りその手の平を見る。

 リビアのお陰で火傷の痕は綺麗に消えていた。

 終わってみれば其々が負った怪我もリビアの回復魔法のお陰で綺麗に直り大事無く済んだ。

 だが一歩間違えれば――。

 

 あの時首飾りから迸ってた黒い光や黒い靄は、リビアを乗っ取ろうとしてたのではないか?

 若しそうなら、そして乗っ取られていたら――

 最悪の若しもを思い描きリオンは身震いする。

 そうならずに済んだのは――

 

 

「リオンさん?」

 

 リオンは手に取ったカーラの手の平をそっと自分の頬に当てる。

 

「ありがとう……カーラ」

 

 カーラがあの時率先して首飾りを外そうと動いてくれなかったら。

 確かにカーラの力では首飾りを外すことは叶わなかった。

 だがその行動が呆気に取られ出遅れたリオンを突き動かした。

 リオンの力強く大きな手に比べればか細い指小さい手で立ち向かったカーラの心意気。

 そんな彼女をリオンはいじらしく誇らしく、そして愛おしく思うのだった。




聖なるアイテムの呪い発動です。
マリエルートではリビアは呪いに屈してしまったが、本編で装備したとしたらどうなってたか不明。
マリエルート同様に屈してしまう説と、呪いを抑え込んでみせる説と意見分かれますが、この世界線では呪いに屈しかける結果になりました。

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