先日の騒動の後、首飾りについてはリビアやカーラには絶対近づけないよう厳重に管理の上、ルクシオンの監視の元で解析が進められている。
乙女ゲー的重要アイテムだが一旦は保留と言う形。
その後連休の残りはリオンの婚約成立で家族で大いに盛り上がったりもしつつ、女性陣に温泉を楽しんでもらったりと概ね平穏に過ぎて行った。
そして連休最終日の前日。バルトファルト邸の一室でリオンの絶叫が響き渡る。
「子爵に陞爵ってどういう事だよおぉぉぉぉ!?」
先の空賊討伐、昇進したくなかったリオンはその功績を自分の力など微力と言わんばかりに周囲に押し付けた。
カーラの実家ウェイン家を主導と言うことにし、更には手伝ってくれたブラッドとグレッグにも功を押し付けて。
だが彼らが揃いも揃って感謝の意を表したいと王宮にリオンの功を上奏したのだった。
特にカーラの父は、オフリー伯爵家が取り潰しになった事により治める者が居なくなった浮島を引継ぎぐ領主にリオンを推薦したのだ。
更にはアトリー伯爵家からも昇進の働きかけが。
アトリー伯爵家、そこの令嬢であるクラリスは、リオンがエアバイクレースで代理出走したジルクの元婚約者。
リオンは代理出走の条件としてジルクにクラリスへの婚約破棄の正式な詫びを要求した。
アトリー伯爵は、婚約破棄後荒れてた娘が、その時の侘びを切っ掛けに大分落ち着きを取り戻した事に甚く感謝し、それについての礼らしい。
そうした複数貴族からの上奏と元伯爵家の領地一部を受け継いだ事、それらを総括して結果子爵への陞爵と相成ったわけである。
「えっと……何か申し訳ありませんお父様が、その……」
申し分けなさそうに口を開くカーラ。
カーラの父、コンラッド男爵は娘の婚約を甚く喜んでくれて、上奏も浮島の領地割譲もその感謝の表れだったのだろう。
聞けばコンラッド男爵、婿殿のためと相当息巻いていたとか。
「あ、いや普通の貴族の感覚からしたら昇進陞爵は名誉なことだから……まぁ普通はそうなんだけど、それも分かるけどさぁ~。
それに伴う責任の増加の方が問題なんだよ~!」
言いながら頭を抱えるリオン。
「わ、私も頑張りますから! 実家の陞爵に伴い上級クラスに編入になるので、これを切っ掛けに私も領地経営の学科取ります! 将来妻としてリオンさんをお支え出切るように!」
「私も頑張ります! リオンさんやカーラさんみたいに貴族じゃないけど……でもその分一杯勉強してお支えします!」
落ち込むリオンを元気付けようと励ますカーラとリビア。
「カーラ、リビア……二人ともありがとう……。うん、俺も覚悟決めて頑張るよ」
真摯な二人の言葉にリオンは覚悟を決めたかのように二人に向かい微笑むのだった。
「フフッ。こんな出来た婚約者が二人もいてリオンは果報者だな」
言いながらアンジェはリオンの肩に手を置く。
リオンは振り返りアンジェにじろりと視線を送る。
「アンジェ……面白がってねぇか?」
「そんなことはないぞ? リビアもカーラも二人とも私の大事な親友だ。リオンも何かあれば私とレッドグレイブ家を遠慮なく頼れ。な、子爵様」
アンジェがニッコリ微笑むとリオンはやれやれと苦笑を漏らすのだった。
「そういうことだからカーラとリビアも遠慮なく私と私の家を頼れ」
そしてアンジェはカーラとリビアに向かっても笑顔で語りかけた。
「貴族としての領地経営御指導御鞭撻よろしくお願いしますアンジェリカ様。それと……」
カーラはアンジェの側に近づくとそっと耳打ちする。
「……子爵に陞爵しちゃいましたねリオンさん。あともうひとつ爵位が上がれば……」
「カーラ、それは……!」
話しながらアンジェの脳裏に浮かぶのは先日リオンがカーラとリビアと婚約を結んだ日の事。
そのあとカーラと交わした会話。今は未だリオンは男爵、アンジェは公爵家令嬢で身分的に婚姻は結べない。
だが若しリオンが陞爵すれば……。
その時はたわいない例え話のつもりだった。
だが実際こうして陞爵が現実になると――。
勿論、上がったとはいえ未だ子爵。公爵家と釣りあう為にはもう一つ上の伯爵位まで上がる必要がある。
とは言え男爵位よりは現実味を帯びてきてるのも事実。
あと一つ上げれば――。
そこまで思いを巡らせたアンジェは頬が熱を帯びるのを感じる。
「アンジェリカ様……赤くなって可愛いです」
カーラの呟きにアンジェは益々顔を赤らめる。
「あ、主を! 寄親をからかうものじゃない! 全く……」
「申し訳ありません」
言って頭を軽く下げるカーラであったが、その顔には何処か悪戯っぽい笑みが浮かんでた。
そんなカーラに向かいアンジェは苦笑を浮かべるも満更では無い様子。
「少し外の風にあたりたい。ついて来い」
「お供いたします」
言って笑顔で付き従うカーラ。
今までの寄子たちになかった信頼感と近しい距離感に、心地良さを感じながらアンジェはバルコニーへ向かうのだった。
明後日からは再び学園生活が始まる。明日には学園の寮に戻る。
バルトファルト邸でのんびり過ごせる最後の日はこうして過ぎて行った。
連休も終わり通常の学園生活が戻ってきた。
リオンたちは、聖なる首飾りの謎に気を掛けながらも概ね平穏な日々を送っていた。
そんなありふれた日常のある日。学園の中の一室。そこは主に上位貴族の令息令嬢がお茶会を開く際に貸し出される豪奢な部屋。
今日もまたお茶会が催されておりその場にリオンはもてなされていた。そしてその隣にはリビアも同伴していた。
ホストを務めリオン達をもてなすのはクラリス・フィア・アトリー伯爵令嬢。
ボリューム感あるオレンジ色の髪と女性にしては高い身長にモデル体形のリオン達の一つ上の先輩。
クラリスとの縁は、リオンが彼女の元婚約者に婚約破棄の詫びを入れさせけじめを着けさせ、その事に彼女が恩義を、いや或いはそれ以上の――
今回のお茶会はそうした礼も兼ねてのものだった。
また、リオンも先日の上奏、それに加え最高級のカスタムエアバイクも贈られていたので礼を述べる良い機会と招きに応じていた。
上奏は置いておいてもエアバイクに関してはリオンは素直に喜んでいたので。
「先日はご大層な贈り物ありがとうございました」
「そう、喜んで貰えて嬉しいわ。こちらこそジルクのことで骨を折ってくれたの感謝してるわ」
リオンの礼にクラリスもまた笑顔で礼を述べる。
「それと、子爵への陞爵おめでとうリオン君」
「先輩のお父様からの上奏もあってのお陰です」
口ではこう言ってるがリオンの心中は複雑であった。
複数の上奏が絡み合った結果の陞爵。どれか一つでも無ければ昇進は仕方なくても、せめて陞爵はなかったのかもと思いつつも口には出せず。
「子爵ともなれば結婚相手の幅も広がるわね」
今迄リオンは男爵位だったので結婚相手は男爵家子爵家の令嬢に限られていた。
だが子爵に陞爵したことで上は伯爵家令嬢にまで選択の幅が広がった。
そしてクラリスもまた伯爵家令嬢。
勘のいい者、空気が読める者なら何が言いたいのか察することも出来たろう。
いやむしろそれを想定してればこそ――
「いえ、婚活の事なら今はもう悩んではいないですよ。最高の伴侶たちを見つけましたので」
言ってリオンはリビアの肩に手をやり抱き寄せる。
そしてリビアは照れくさそうに、そして幸せそうな笑顔を浮かべる。
「え? あれ? そのコ、確かアンジェリカのお気に入りの平……特待生。それに達、って?」
リオンの言葉にクラリスは面食らう。
貴族間でさえ爵位が離れすぎると婚姻は成立しない。
ましてや平民との婚姻など以ての外であった。
なのにリオンの発言は平民の娘を娶ると言ってるように聞こえたから。
「ご挨拶が遅れました。この度リオンさんと婚約を結ばせていただいたオリヴィアと申します。以後お見知りおきくださいクラリス先輩。
仰る通り私は平民です。なので成婚後は側室に納まる予定です。
正室として婚約されてるのはカーラさん――カーラ・フォウ・ウェイン男爵令嬢です。彼女の推挙で私も婚約を結ばせていただきました」
そう言ってリビアは満面の笑顔でクラリスを真っ直ぐ見据える。
今回のお茶会で招待を受けたのは本来リオン一人だった。
だが女の勘と言うやつであろうか。
その場にリオン一人で向かわせることにリビアもカーラも難色を示した。
当初カーラを伴うのを想定したが、その場合アンジェまで着いて来そうな勢いだった。
本来、寄親の行く先に寄子が付いて行くのは当然として、逆はありえないのだがアンジェはカーラのことを甚く気に入ってたので。
そしてアンジェとクラリスが鉢合わせるのは避けたかった。
彼女らはお互い婚約者に婚約破棄された同士だが、そのことで同調するどころか対立してたので。
なのでカーラを伴ってアンジェまで着いて来られるのは得策ではなかった。
結果リビアが伴う事になったのだった。
そのことにカーラもアンジェも心配もしたがリビア自身が任せてくれと胸を張って見せた。
彼女も婚約者と言う立場を確立した事で覚悟が決まり、より腹が座ったのだろう。
そして今堂々と受け答えして見せたことによりそれが証明されたような形に。
「そ、そう。婚約者見つかったのね。それはおめでとう。でも男爵ならいざ知らず子爵ともなれば結婚相手も子爵以上が望ましいのでは?」
想定した流れから外された成り行きにクラリスは内心動揺しつつもそれを顔には出さず応答する。
「御心配いたみいります。ですが私もカーラさんも未だ一年生。卒業までには時間も沢山あります。
それまでにしっかり学び、卒業して結婚する頃には立派にお支え出切る知識と力を身に付けてみせます」
かつてリビアは上位貴族の令嬢相手には気後れすることも多かったが、今はそんな様子を感じさせないほど正面から受け止めている。
「ふ~ん? でも家の後ろ盾とかも重要よ? その、カーラさん?の家も男爵家なら心許ないんじゃないかしら?」
「それも心配いりません。カーラさんの家は男爵家ですが、彼女の家はアンジェの、レッドグレイブ家の派閥です。
公爵家です。後ろ盾というのならこれ以上ないくらい頼もしいです。
またカーラさん自身もアンジェとは寄親寄子の密な関係、絆で結ばれてますので」
「それでも妻となる女性には少しでも家格の高い家柄の女性を迎えるのがよろしいのではなくて?」
「問題ありません、私とカーラさん、二人力を合わせてリオンさんをお支えしてみせますから」
表面上はクラリスが心配しリビアが受け答えているようにも見える。
会話を交わす二人もその顔には笑顔を浮かべている。
だがリオンが感じる場の空気はまるで氷点下のように感じていた。
二人の視線の間にもまるで火花が見えるよう。
リオンはそっとティーカップを口元に運ぶ。
流石伯爵家の令嬢が用意しただけあり、茶葉も上質で煎れ方も見事で味も香りも素晴らしい、筈なのだが――
場の緊張感が、圧が凄まじすぎて味を堪能する余裕が全く無かった。
正直今なら上等なお茶でもただの白湯でも違いが感じられないほど。
最早お茶会なのか修羅場なのか、どうやって切り上げようかなどと、そんなことでリオンの頭の中は一杯だった。
そんなリオンの前に前触れなくルクシオンが光学迷彩を解き姿を表す。
リオンと限られたもの以外の前では姿を表さない彼が姿を表したと言う事実は緊急性を感じさせた。
そして次に発せられた言葉は耳を疑うものだった。
『マスタ-緊急事態です。カーラが危険な状態です。オリヴィアと共に指定する場所に急ぎ向かって下さい』
「カーラに何があった!?」
リオンは驚きの声を上げ立ち上がる。
「ルク君どういうこと!?」
リビアもまた血相を変える。
『詳しく説明してる暇はありません。コチラの孫機の誘導に従い急いでください』
言うとルクシオンのボディが開き、ルクシオンをそのまま小さくしようなピンポン玉ほどの機械の球体が現れる。
ちなみにルクシオンの本体が巨大飛行戦艦なので、普段リオンのサポートなどを受け持つ球体ボディは子機。故に更に小さい球体ボディは孫機。
『私は別途手を打つ為先に行かせて貰います』
言うとルクシオンは猛スピードで行ってしまった。
リオンとリビアも動き出した孫機を追い部屋を後にしようとする。
クラリスは謎の球体――ルクシオンの出現に加え、大声を発したリオンのただならぬ様子に驚き戸惑っている。
「リ、リオン君?」
「スミマセン、先輩! 急ぐので失礼させていただきます!」
「な、何かよく分からないけど分かったから行って! 大事な人なんでしょ!?」
リオン達は「恩にきます」と会釈するとクラリスが言い終わるか終わらないうちに駆け出し、その姿はあっと言う間に見えなくなっていた。
マリエルートではニックス兄貴がオフリー伯爵領継いだことで伯爵になったの思えば、伯爵領の一部を継いで、更にこの世界線ではカーラパパのコンラッド男爵からの奏上も含めれば、原作よりも一足早い子爵への陞爵もありえるかとw
陞爵の件に当たってクラリス先輩とアトリー伯爵家にも触れたので流れで登場。
今回っ切りか今後の再登場あるかは不明。
まさかの修羅場展開、からの不穏な引きへ……(汗
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