モブせか・カーラ if ルート   作:julas

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3(19)凶刃

 平穏そのものの学園生活の筈だった。

 だがそんな平穏が突如として破られる。

 白昼の凶行。それはあまりにも突然のこと。

 

 

「くたばれアンジェリカァァァッ!」

 

 髪も服も薄汚れた女子生徒がナイフを手にアンジェに襲いかかる。

 腰だめで腹の前に垂直に刃を構え突き出し、明確な殺意を露に駆け寄ってくる。

 あまりに一瞬の事にアンジェは硬直し動けずにいるとその前に人影が立ち塞がる。

 

 

「アンジェリカ様!」

 

 立ちはだかった人影、それはカーラだった。

 結果アンジェを狙った凶刃は彼女には届かず。

 だが、庇ったカーラの腹部にはナイフが深々と刺さっていた。

 カーラは腹部を深々と刺された激痛に意識を奪われそうになりながら、刺した相手の顔を見る。

 

 

「ス、ステファニー……? アンタ――」

 

 凶刃の主はかつてのカーラの寄親のステファニーだった。

 空賊との繋がりを暴かれ、ステファニーのオフリー家は当主と跡取りは処刑、彼女自身も貴族位を剥奪。

 生活に余裕が無いからか以前の特徴的な髪型にも編んでおらず、服もボロボロで見る影もない。

 だが常に他者に攻撃的だった醜悪な面構えだけは以前のままであった。

 

 

「名前の後にお嬢様を付けんかぁ! この裏切り者がぁ!」

 

 カーラに向かい激昂するステファニー。だがその心中は混乱していた。

 彼女の知るカーラはいつも怯え竦み、暗い顔で俯いていた。

 何かを言いつけたときも嫌そうにしつつも逆らうことも出来ず渋々従う。

 そんな彼女が主の為に身を呈して庇うなど考えられなかった。少なくとも自分と寄親寄子の間柄だったときは。

 そんな混乱し戸惑うステファニーの頬に鈍い痛みが走る。

 

 

「カーラから放れろぉ!」

 

 アンジェの拳がステファニーの顔面にめり込み吹き飛ばす。

 その拳は比喩ではなく実際に燃えていた。

 アンジェは火炎魔法の使い手でもあり、怒りのあまり無意識のうちに炎を発現させていた。

 インパクトの瞬間爆ぜた爆炎はステファニーの体を十メートル近く吹き飛ばす。

 

「カーラ! しっかりしろ! カーラ!」

 

 アンジェは崩れ落ちるカーラの体を抱きとめその腹部に視線を落とす。刃の根元まで深々と刺さったナイフに夥しい出血。

 腹部に刺さった刃は痛々しいがうかつに抜けば大出血に繋がり失血死を招きかねない。

 その惨状にアンジェの顔が青くなる。

 直ぐに医務室に、と思うも学園の医務室程度の医療設備で助かるのだろうか、またそこに運ぶまで持つのだろうかと絶望的な思考がよぎる。

 足が震え思考が凍りつく。

 

 

「アハハハハ……。わ、私を裏切るからそんな事になるのよこの裏切り者が……!」

「ステファニー……!」

 

 アンジェが声のした方を睨めばそこには先ほど殴り飛ばされたステファニーが横たわっていた。

 ステファニーがカ-ラではなくアンジェを刺そうとした理由。

 アンジェとは同じ婚約破棄された同士なのに、振り切って前向きに振舞う彼女の姿に、ステファニーは未だ引き摺る自身の姿に惨めな思いを突き付けられる思いだった。

 また同じ貴族の自分より平民であるリビアを優遇する姿勢に対し妬みの思いを、苛立ちを普段からアンジェにぶつける様は多くの生徒に目撃されていた。

 極めつけは空賊討伐の件。

 空賊討伐そのものはリオンが主であったが、その後の事務処理などでオフリー家が取りつぶされる決定打にかかわったのがアンジェの実家レッドグレイブ家。

 そうした諸々の要素を鑑みれば逆恨みとはいえ、ステファニーがアンジェを狙ったのも十分合点がいくものに思えただろう。

 だが、何よりの理由はカーラを貶める為。

 寄子が側に居ながら寄親が暴漢に襲われるのを防げなかったとなれば責任問題。貴族としての身分剥奪や追放もありえる。

 自分同様貴族としての身分を失い途方にくれれば良いと言う浅はかな考えによる凶行。

 そんな目論見も他ならぬカ-ラ自身の行動により外された。

 だが刺された標的が変わっただけでアンジェとカーラにとって最悪な事態には変わりない。

 

 

 

「ヒヒッ……。バ、バカな女……。ずっと私の取り巻きしてればそんな目にも合わずに済んだものを……」

 

 ステファニーは頬を焼かれ、奥歯も折れ、鼻血を噴きながら悪態を付き続けてた。

 

「貴様ッ……」

 

 アンジェは奥歯が砕けそうなほど強く噛みしめる。

 

 

「ア、アンジェリカ様……」

「カーラ!」

 

 アンジェはカーラの顔に視線を向ける。

 口からも血が溢れ顔は土気色だった。

 喉の奥から込み上げてくる血に咽ながらもカーラは言葉を紡ぐ。

 

「わ、私、リオンさん達に出会えて幸せでした……。アンジェリカ様にも、リビアさんにも……。

皆さんと出会ってからが、今までの人生で一番幸せな日々でした……」

「もういい! 喋るな!」

 

 叫ぶアンジェの瞳からは涙が溢れていた。

 そんなアンジェの顔を見あげながらカーラは力なく微笑む。

 

 

「カーラ! 死ぬな! 死なないでくれ! 頼む! 誰か! 誰かカーラを助けてくれ! リビア! リオン!」

 

 アンジェは親友の名を叫ぶ。リビアの回復魔法なら、リオンのロストアイテムなら助けられるかも。

 だが二人が今この学園のどこに居るのか。探してる間にカーラの命は……。

 アンジェの思考が絶望に染まって行く。

 

 その時、視界を覆い尽くさん眩しい光が。

 

「回復魔法の光!? リビア、来てくれたのか!?」

 

 アンジェはその光に希望を見出し視線を巡らせる。だがその視線に映ったのは――

 

「マリエ!? 何故貴様が!?」

「うるさい! アンタこのコを助けたいんじゃないの!?」

 

 回復魔法の主はマリエだった。

 マリエ・フォウ・ラーファン子爵令嬢。腰まで届くボリュームある金髪と、同年代の女性より頭一つほど低い小柄な体躯の女生徒。

 彼女は複数の恋人を侍らせ、しかもその一人はアンジェの元婚約者とアンジェにとっては因縁浅からぬ相手。

 そんな彼女が何故今この窮地に現れたのかアンジェは混乱する。

 だがカーラが危機的な状況の今、そのような因縁など気にしてる場合ではない。

 

 

「助けられるのか!?」

「その為に今やってんでしょうが!」

 

 アンジェの方に見向きもせずマリエが叫ぶ。額にはうっすら汗が滲んでいる。

 

「頼む……。助けてくれ……。私の、私達の大切な親友なんだ……」

 

 涙を流しながら消え入りそうな声でアンジェが懇願する。

 

「……このコの名前を呼びかけ、話しかけ続けなさい。正直ギリギリなのよ」

「ギリギリ!? そ、そんな……!」

「だから! 最後はこのコ自身の精神力が決め手なのよ! 意識が途切れないように呼び続けなさい!」

 

 マリエの言葉にアンジェは力強く頷く。

 

「カーラ! カーラ……! 頼む、死なないでくれ! お前は未だこれからじゃないか! 学園を卒業したらリオンと結婚するんだろ!?

それなのにこんなとこで死んでどうする!? だから、だから……!」

 

 

 

 

 

「カーラ!」

「カーラさん!」

「リビア! リオンも!」

 

 アンジェが声のした方を向けばリオンとリビアが駆け寄ってきてた。

 二人とも息も乱れていて全速力で駆けつけてくれたのだろう。

 だがリオンはアンジェとカーラまであと数歩のその場で膝をついてしまう。

 血に染まったカーラの腹部に、広がった血溜りに、腹に刺さったナイフに、想像以上の惨状に衝撃を受け止め切れなかったのだろう。

 リビアは一瞬リオンを振り返る。

 

 

「リビア……頼む」

 

 リオンがリビアを見詰めながら呟く。その懇願する泣きそうな表情にリビアは頷きカーラの元へ駆け寄る。

 リビアが手をかざすとマリエのそれより更に強い光が放たれる。

 光が当てられた傷口からナイフの刃がせり上がってくる。まるで時を巻き戻すように。

 抜け落ちたナイフが音を立て地面に落ちると傷口を確認する。

 上着を、ブラウスの前を開けナイフが刺さってた場所を目視確認する。

 

 

「どうだ……? 大丈夫なのか?」

 

 気を取り直し体を引き摺るように側まで来たリオンが尋ねる。

 リビアは傷口のあった辺りの血を拭うと傷跡も残らず消えていた。

 傷は塞がったが失われた血の量が多いからか顔色はまだ良くない。

 だが弱々しくも呼吸は安定して来てた。

 

 

「大丈夫です。傷は完全に塞がり消えてます」

「そうか……良かっ――!」

 

 リオンは思わず目を逸らす。傷口の確認の為に服の前をはだけさせてたからだ。

 そんなリオンを見たリビアは咎めたりせずクスリと微笑む。その表情からも危機は脱したのを伺えた。

 

「良く頑張りましたねカーラさん」

「ありがとう……リビアさん……」

 

 リビアはカーラに微笑みかけるとカーラもそれに応え微笑みを返す。

 アンジェは安堵するとカーラの体を抱きしめ声を上げて泣いた。

 

「良かった……良かった……! カーラ……生きててくれて良かった……! 私のために身を挺して庇ってくれて、ありがとう……。

リビア、ありがとうカーラを助けてくれて」

「アンジェリカ様、こちらこそありがとうございます……。アンジェリカ様がずっと声をかけてくださったお陰です……」

 

 そんなカーラをアンジェは尚も優しく抱きしめる。二人を見つめるリビアの眼にも涙が浮かんでいた。

 

 

「カーラ……もう大丈夫なんだな?」

 

 リオンが視線を上の方にさ迷わせながら尋ねる。

「あっ」と声を上げたのはリビア。直ぐにカーラの傷の確認のために、はだけさせた服を直し

 

「もう大丈夫ですよ」と声をかける。

 

 リオンが心配そうにカーラの顔を覗きこむ。

 その顔は今にも泣き出しそうな幼子の様でもあった。

 

 

「リオンさん……心配かけてごめんなさい」

「全くだ……。無事、とは言い難いが、でも生きていてくれて本当に……」

 

 言いながらリオンはしがみつくようにカーラに抱き付き、抱きしめる。

 

「本当に……本当に生きててくれて良かった……!」

 

 そう言ったリオンの声は嗚咽混じりで目からも涙が滲んでいた。

 

「ごめんなさい……。ありがとう、リオンさん……」

 

 言いながらカーラはリオンの背中に手をまわす。

 その手に抱き返すほどの力はない。

 だがその手にカーラの命を感じリオンは安堵の涙を流す。

 そんな幼子のように泣いてたリオンが真顔になる。

 

「アンジェ、リビア……カーラを頼む」

 

 そして僅かに低い声で呟いた。

 

 

 

 

 

「ふざ……けんじゃないわよ。あれでくたばらなかったって言うの……? 許さない……。私の全てを奪った裏切り者のくせに……!」

 

 ステファニーが呪詛の言葉を吐きながらのろのろと立ち上がる。

 ステファニーにカーラを刺すつもりは無かった。だがそれならそれで復讐になると思った。

 それであんな言葉を吐いた。

 ――バカな女。ずっと私の取り巻きしてればそんな目にも合わずに済んだものを、と。

 そして期待した。自分から離れたことを後悔する言葉が出るのを。

 

 だがカーラの口から紡がれた言葉はリオンやアンジェ、リビアと出会えたことへの感謝、共に過ごした日々が幸せだった、と言うもの。

 それは例え命を落とそうともステファニーの元にいた頃に戻るなど御免被るという意思、離れた事に後悔はないと言う気持ちの現れ。

 ステファニーに対する明確な拒絶の意思。

 カーラのその言葉はステファニーを一層惨めな気持ちにさせた。

 

 ステファニーの心に澱む負の感情、それは空賊との繋がりを暴かれ家が取り潰された逆恨み。

 そしてカーラとアンジェの仲睦まじい様子に対する嫉妬。

 アンジェと一緒に居るときのカーラの表情。それは自信と誇りに満ち輝いていて、向ける視線には信頼と敬愛に溢れていた。

 そしてアンジェがカーラに向ける視線からも安心して全てを委ねた全幅の信頼を置いてるのが伺えた。

 それは貴族の寄親と寄子の理想の姿に見えた。ステファニーが心の奥底で密に望んでも手に入らなかったもの。

 そんな二人を見たステファニーの心に浮かんだのは激しい嫉妬だった。

 そして思った。思い込もうとした。あんなのは上辺だけの取り繕ったものに決まってる。その化けの皮を剥いでやる、と。

 だが皮肉にもそれが上辺だけなどではなく真に結ばれた絆ということを見せ付けられる結果となったのだった。

 

 負の感情に支配されたステファニーは、拳を叩き込まれ焼かれた痛みで足元もおぼつかない体で、膝を振るわせながら歩き始める。

 その視線の先には先程までカーラに突き刺さっていたナイフが。

 そんなステファニーの前に立ち塞がる人影が。何時の間にか目の前にリオンが立ってた。

 

 

「お前の事忘れてるとでも思ったか……?」

 

 その貌は能面のように表情が消えており、それはどんな鬼のような形相よりも恐ろしく見えた。

 だがその貌に恐怖する間も無くステファニーの顔面に拳が叩き込まれそのまま地面に後頭部を叩きつけられる。

 鼻は潰れ上の前歯も全て叩き折られ白目を剥き血の泡を噴きながら痙攣するステファニー。

 そんな意識も無いかもしれないステファニーに向かってリオンが呟く。

 

「俺の女に手を出したんだ。その程度で済むと、楽に死ねると思うなよ」

 

 表情が消えた顔で底冷えするような低い声で言い放ったリオンは一瞥もせずカーラの元へ駆け戻る。

 

 

 

 

「結局オリヴィアが居れば私なんか必要なかったってことよね。所詮主人公様には敵わないってか」

 

 リビアが到着後治療が済んだ後も事の成り行きを見守ってたマリエは自嘲気味に呟く。

 必死に魔力を振り絞り回復魔法をかけ続けたのにマリエのそれは現状維持で手一杯だった。

 だがリビアの回復魔法は段違いでそんな重症を瞬く間に治してしまったのだ。

 血の滲む思いで習得した回復魔法も敵わなかったことに少なからぬショックを受けていた。

 

 

『それは違います』

 

 そんな落ち込むマリエに慰めるように声をかけたのは何時の間にか側に来ていたルクシオンだった。

 

『オリヴィアの到着をただ待っていたら、カーラは絶命してたかもしれません。

そのため、より近い場所にいたマリエに到着まで命を繋いでもらう必要がありました。

感謝しますマリエ。あなたのお陰でカーラは助かったのです』

 

 リオンに告げた別途打つ手、それがリビアが到着するまで持たせる為にマリエの回復魔法で命を繋ぐことだった。

 マリエもまた回復魔法が使えることを表向きは隠していたのだがルクシオンの調査の前には隠しきれなかったようだ。

 そしてマリエをこの場所に導き回復魔法を使うよう頼んだのだった。

 五人の王子達貴族令息達をたぶらかし悪名を轟かせたマリエだったが決して根っからの悪人ではない。

 少なくとも命の重み大切さは理解してる。その為ルクシオンの救命要請にも応じたのだろう。

 

 

「マリエ……」

 

 声のした方を向けば未だ眼に涙を浮かべたアンジェの姿が。

 

「お前とは色々因縁もあるが……だが今は、心から感謝を述べたい。カーラの命を救ってくれてありがとう」

 

 そう言ってアンジェは深々と頭を下げる。

 

「私からもお礼を言わせてください。私が到着するまでマリエさんが頑張ってくれたお陰でカーラさんは助かったんです。

本当にありがとうございました」

 

 次いでリビアも頭を下げた。

 

「マリエ様……あなたのお陰です。ありがとうございます……」

 

 そしてカーラも立つ事も叶わない力が入らない体で、アンジェに抱かれたまま声を振り絞り感謝の意を伝える。

 

 

「ふ、ふん! 別にお礼の言葉が欲しくて助けたんじゃないわよ! どうしてもって言うのなら目に見える形で示しなさいよね!」

 

 言いながら顔を逸らすのは照れ隠しだろうか。

 

「それより悠長に話してるんじゃないわよ! 傷が塞がって命の危機は脱したとは言え血を沢山失ってるんだから!

さっさと医務室でも病院にでも連れて行ったら!?」

「そうだなそうさせてもらうよ」

 

 言ったのはリオンだった。カーラを横向きに、背中と膝裏に手をまわし抱きかかえる。

 言われるまでも無く当人もそのつもりだったのだろう。

 

「カーラもこんな状態だ。この場では満足に礼もできなくて申し訳ない。後日あらためてさせて貰う。本当に助かった」

 

 そう言って会釈するとリオン達は立ち去っていったのだった。




マリエ様登場! 彼女の登場には運命めいたものを感じました。
ステファニーが逆恨みの報復に走る構想自体はだいぶ早い段階からありました。しかし……刺すとは(汗

次回も引き続きマリエ様の登場です! 第一章の頃は彼女の出番無しで、この先出番あるか心配してたぐらいだったのにw

☆発売されたばかりのドラゴンエイジ12月号のスピンオフのモブ幼稚園で
園児カーラちゃんの出番多くって可愛くって、今回最高過ぎて大歓喜!
カーラちゃんマジ天使すぎて召天しそう(尊
そのタイミングで刃傷沙汰の話投稿とかどうなのよ(汗

あなたのお気に入りヒロインは?

  • カーラ
  • リビア
  • アンジェ
  • マリエ
  • ヘルトルーデ
  • その他(上記以外&未登場の原作キャラ
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