モブせか・カーラ if ルート   作:julas

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5(21)転生者達【中】

 マリエの懸念事項、それは目の前の【リオン】が前世の兄なのか、そして若し兄だった場合、相手に自分を妹と気づかれてはならない。

 そのために慎重に言葉を選びながら口を開く。

 

 

「さっきの話の、兄にクリアしてもらった妹って部分に随分食いついてたみたいだけど、察するにアンタにも妹が居て、その妹に頼まれてあの乙女ゲークリアしたってこと?」

「ああ、その通りだ」

「へぇ、ちなみにその妹ってどんなコ? 若しかしたら私の知り合いかもしれないし」

「そうだな、この際だから話しておくか。アイツは……」

 

 そうしてリオンは前世の妹について語り始めた。

 その話を聞き進めるうちにマリエはやはりリオンが兄かもと疑惑が強まって行く。

 だが、リオンから両親は自分より妹を信頼してたと聞き、やはり違うかもと思う。

 何せマリエは、両親は自分より兄を信頼してたと思ってたから。

 そのことにホッとすると同時に何処か寂しくも思う。

 

 

「わざわざ妹の為にクリアしてあげるなんてとんだシスコンかと思ったら、話しぶりからすると兄妹仲あまり良くなかったみたいじゃない。

それなのにどうして頼みを聞いてクリアしてあげたの?」

 

 マリエの言葉にリオンは顔をしかめ溜息一つ着いて答える。

 

「俺の妹、いわゆる腐女子ってやつでな。こともあろうに自分のコレクションを実家の俺の部屋に隠しやがったんだ。俺が一人暮らし始めたのいいことに人の部屋勝手に使いやがってよ。

それがおふくろに見つかって、お陰で俺がソッチの趣味と誤解されちまってよ。それであのアマ、おふくろに誤解解いて欲しかったらクリアしろって押し付けてきやがって……」

 

 聞いた瞬間マリエの顔から血の気が引く。

 

 

(ヤッベェェェッッッ! その話! コレ、コイツが兄貴で確定じゃんん~~!)

 

 マリエは背中に冷たい汗が流れるのを感じる。

 今までは疑って掛かるレベルだったがココまで詳細なエピソードが一致するともう疑う余地は無かった。

 また、リオンの言う両親は妹の方を信頼してた発言も、腐男子疑惑への否定を両親が聞き入れてくれなかったことに起因するなら辻褄が合う。

 だが狼狽を顔に出し気付かれてはならない。

 平静を装い慎重に言葉を選ぶ。

 

 

「へ、へぇ~。アンタの妹って腐女子だったんだ~。じゃぁ私じゃないわね。私は普通に男女のノマカプが好きだし?」

「そうみたいだな……。察しがついてるかもしれないがお前の事妹じゃないかって疑ってたが違ったみたいだな。ま、安心したよ。若し生まれ変わった先で妹に会うようなことがあったら、ぶちのめしてやるつもりだったからよ」

 

 リオンのぶちのめすという言葉にマリエの脳裏に顔面を叩き潰されたステファニーの顔がよぎり背筋が凍りつく思い。

 最悪の場合あの怒りが自分にも向けられてたかもと思うと恐れ慄かずにはいられなかった。

 

 

「そういうわけだから別人で良かったよ。恋人の、カーラの命の恩人にそんな真似せずに済んだからよ」

 

 ――別人で良かった。その言葉にマリエはまた寂しさを感じる。

 兄からの報復の心配が消えた反面、兄に妹だと打ち明けられないのはやはり寂しかった。

 

 

「っと、そろそろ話を戻すか。こう言う他愛無い前世の話も悪くないんだけどな。こればかりは親兄弟や恋人にも話せない話だから」

「そうね、私も久しぶりに前世の話出来て、まぁ悪くなかったわ」

 

 マリエはとりあえず現状確認できただけでも良しとしようと思うのだった。

 

 

「さて、五人の王子達攻略キャラを篭絡した後、若しかしてラスボスとのバトルも戦って勝てるつもりでいたのか?」

「当然よ。アンタも見たでしょ私の回復魔法。そりゃオリヴィアには及ばないけど……でも私のだってオリヴィアを除けば誰にも負けない!

回復魔法の使い手であることが聖女の条件なんだから私だって……」

 

 言いながらマリエはハンドバッグに手を入れ何かを取り出そうとする。

 

 

「それだけじゃ駄目なんだよ。聖女の力だけじゃ」

「え?」

 

 リオンの言葉にバッグに手を突っ込んだマリエの動きが止まる。

 

「俺と殿下の決闘覚えているか? 途中のリビアの【演説】に観客一同が聞き入ってたの。まぁ、お前や殿下達には響かなかったみたいだけど」

 

 言われてマリエが気まずそうに視線を逸らす。

 忘れたくても忘れられない。観客を惹きつけたリビアにマリエは格の違いを見せ付けられたようで屈辱感を覚えてたので。

 

 

「あの演説、アンジェの心にもかなり影響及ぼしたみたいでな。アイツ、決闘のあの瞬間まで最悪お前と刺し違えるなんて言うほど思い詰めててよ」

 

 その言葉にマリエは思わず冷や汗をかく。

 

「そんなアンジェの憎しみ恨みつらみ嫉妬も綺麗さっぱり……とまでは行かなかったが殆ど洗い流しちまったほどなんだよ、リビアの言葉は。

それが聖女の力じゃない【リビアの力】だ。

この先レベルアップを重ね、更にはあの乙女ゲーの最終兵器、王家の船でその力を増幅させることでやっとラスボスに勝てるんだよ。

それと同じ真似がお前に出来るか?」

 

 言われてマリエは黙り込む。

 

「その沈黙、納得したと受け取らせてもらっていいんだな?」

 

 尚も黙り込んだままのマリエに、リオンは受け入れてくれたものと捉える。

 

 

「まぁそう言う訳だからラスボス戦はリビアに頑張ってもらわないと駄目なんだよ。だから、これ以上はくれぐれも邪魔しないでくれよ」

 

 リオンがひとしきり言い終わった後、ややあってマリエは溜息をつくと口を開く。

 

「分かったわよ。悔しいけどやっぱり所詮私じゃ主人公様には敵わないってことなのね。だったらもうコレは私には無用の長物よね」

 

 そう言って取り出されたマリエの手にしたものにリオンは驚きの声を上げる。

 

 

「なっ!? お前それは……!」

 

 マリエが手にして見せたもの。

 それは聖なる腕輪。

 聖なる首飾りと並び、あの乙女ゲーでは主人公が聖女になるための最重要アイテムの一つ。

 腕輪を目にし驚いてるリオンに向かってマリエは腕輪を放り投げる。

 

 

「あげるわよ。私も勝てないと言い切られて戦うほど馬鹿じゃないしね」

 

 腕輪を受け取ったリオンは未だその表情に驚きの色を宿したまま口を開く。

 

「あ、ああ。まさか拾得済みだったとは……。っと、それより大丈夫だったのか?」

「大丈夫って? あぁそう言えばアンタ空賊倒してたのよね。ってことは首飾り入手済みってことよね。やっぱそっちにも出たんだ。

まぁ楽勝、とまではいかなかったけどしっかり調伏してやったわよ」

 

 マリエの返事にリオンは驚きの声を上げる。

 出た、と言う言葉からやはり腕輪も首飾り同様あの黒い光や靄が発現したのが伺えた。それに加え――

 

 

「あ、あれを降したのか!?」

「な、何よ私にだってそれぐらいできるわよ! それにどうせそっちもオリヴィアが調伏したんでしょ? なんてったって主人公様――」

「出来なかったよ……」

「え……? 今なんて? 出来なかったって……?」

 

 マリエはリオンの答えが聞き違いかと思い聞き返した。

 

 

「危うく乗っ取られかけ、今は首飾りは厳重管理してる……」

 

 リオンの返事にマリエは驚きの声を上げる。

 

「マジ!? え? いやだって……」

 

 マリエはリオンの言葉をにわかには信じられなかった。

 何せ自身のそれを遥かに上回るリビアの回復魔法の力は先日目の当たりにしてたばかりであったから。

 マリエから見たリビアは悔しいほどに主人公で聖女だった。

 底抜けに善良でお人よしで慈愛の塊みたいな女。

 それは正に自分とは正反対な――

 正反対?

 

 

 

「……あっ? ……そう言うことか……?」

「何か分かるのか?」

「推論なんだけど……聖女に選ばれ、聖なるアイテムを手にするコなんて大概オリヴィアみたいな頭お花畑――」

「あぁっ!?」

 

 マリエの言い回しが勘に触ったのかリオンが不機嫌な声を発すると慌ててマリエが言い直す。

 

「っっ……じゃなくて優等生のイイコちゃんばかりよね?

今迄も聖なるアイテムはそれを手にした、そう言うお花……じゃなくて、優等生でイイコな女を乗っ取るのを繰り返してきたんじゃないかしら。

で、オリヴィアもその例に漏れなかったから、そう言う相手は聖なるアイテムにとって与し易いタイプ。私とは正反対の。だから……」

「危うく乗っ取られかけた……」

 

 マリエの言葉を次ぐようにリオンが呟く。

 その顔は血の気が引いて真っ青だった。

 

 

「俺は……そんなものをリビアに渡しちまったのか!?」

 

 罪悪感と後悔に押しつぶされそうな顔で頭を抱えるリオンに向かいマリエが慌ててフォローするように声をかける。

 

「こ、こんなの普通分かりっこないわよ! 大体あの乙女ゲーでだってそんな描写無かったし! それに乗っ取られかけただけで無事だったんでしょ!?

じゃなきゃあの場にオリヴィアが居なかったわけだし?」

「ああ、その通りだ。危ないところだったがすんでのところで……って何でおまえは平気だったんだよ!?」

「そうねぇ……。考えられるとしたら私はイイコじゃないから、かしら? 言ったでしょ? 正反対、って」

「なるほど……」

 

 マリエの答えにリオンは納得の声を上げた。確かに将来有望と目された貴族令息を次々篭絡したような女は、想定外だったのだろう、と。

 

「……あんま素直に納得されるのも腹立つわね。まぁ言いたくは無いけど私性格悪いからね。そんな女、聖なるアイテムも出会ったこと無かったんじゃないかしら?」

「ああ……確かにそれなら辻褄が……」

 

 言いながらリオンは顎に指を当て考え込む。

 

 

 

 

 

「マリエ……聖なる首飾りも手に取ってみるか?」

 

 ややあって考えが纏まったリオンが口にした言葉にマリエは「え?」と驚きの声を上げる。

 

「無理強いはしないが、現状アレをどうにか出来そうなのお前以外に居なさそうなのも事実だ。勿論リスキーなのは承知してるし嫌なら拒否しても――」

「いいわよ」

「なっ……、そんな即答! いいのか? さっきも言ったが危険が……」

 

 リオンは自分自身から提案したもののそのリスクの高さから受け入れて貰えるとは、受け入れてくれたとしても暫く熟考してからと思ってたのにまさかの即答。

 

「面白いじゃない。主人公様にもどうにも出来なかったことをゲームにも登場しなかったこの私、【マリエ】がやってのけるなんて痛快じゃない?」

 

 そう言ってマリエは胸に手を当てウインクしてみせる。

 その姿にリオンは呆気に取られるも直後頷き納得の表情を見せる。

 

 

「大したクソ度胸だな。そういやアンジェも褒めてたよ。カーラが刺されてどうしていいか狼狽えてた自分を叱咤してくれたって。

後であの時のことを振り返って、婚約者を奪われた恨みもどうでも良くなるくらいお前の事を心底大したヤツだと見直し感服した、と」

 

 アンジェから高く評価されたと聞き、マリエは照れくささと気まずさが混じったような表情を見せる。

 

 

「そう言う訳だから信じて任せてみるよお前に」

 

 言うとリオンはカップに残った紅茶を飲み干し椅子を引き立ち上がる。

 

「っと、コイツも未だお前が持って置け」

 

 リオンは聖なる腕輪をマリエの前に置く。

 

「お前の話疑うわけじゃないが、やっぱ首飾りに取り憑かれかけたことがあるから、リビアに渡すの怖いんでな」

「そうね。私に従ったと言っても、他のコが身に付けても大人しく従うか分からないものね。いいわ引き続き私が管理しとく」

 

 そう言ってマリエは腕輪を手に取るとバッグに仕舞ったのだった。

 

 

「じゃぁ今日の所はコレで一段落ってことで」

「行くの?」

「ああ、カーラの所にも寄らなきゃだしな」

「本当お熱いわね。私はもう少しここに居るわ。ちょっと食べ過ぎたみたいだし」

「そりゃアレだけ食えばな……。じゃぁ後で連絡する。また後日」

「ん。カーラにもお大事にって伝えておいて」

 

 そうして部屋を出て行くリオンをマリエは見送るのだった。

 

 

 

 

 

 

 リオンが部屋から去り完全に遠ざかったのを確認したマリエの瞳から涙が溢れる。

 

「兄貴……、お兄ちゃん……! 良かった……お兄ちゃんも生まれ変わって、生まれ変わった先でちゃんと元気に、無事上手くやれてたんだ……。

前世では女の子の好意に気付かない鈍感野郎だった癖にちゃんと婚約者まで見つけて……本当に良かった……!

でも……今世では二人も娶るなんて極端すぎよ」

 

 そう言ったマリエの表情は泣きながら笑っていた。

 兄妹の仲と言うのは単純な好き嫌いでは計れない。

 手玉にとっていいようにこき使ったり、根っこの部分で怖がってたりもした。

 普段そんな態度で接してても、自分が本気で困ってれば、その都度何度も助けてくれた兄が大好きだった。

 例え兄から好かれず疎まれてたとしても。

 

 そんな兄が自分のせいで死んでしまったときは辛くて悲しくて心底後悔し泣いた。

 償えるものなら償いたかった。

 そして今、正に償いの機会を得たのだ。

 自分が妹だと名乗れないのは歯痒いが、だが我慢する。

 前世の兄妹と名乗っても上手く行かないのが目に見えてるから。

 反面【マリエとリオン】なら比較的良好な関係を築けてる。

 ならばマリエとリオンのままでいい。

 それで果たせなかった前世の罪滅ぼしが出来るのなら、と固く誓うのであった。




次回 マリエ VS 聖なる首飾り
レディー・ファイッ!

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