翌日、放課後。
「本当にいいんだな?」
「何ビビってんのよ。首飾りに相対するのは私よ? コッチはとっくに覚悟決まってるっての!」
不安そうなリオンに対し、自信ありげに胸を叩いて見せるマリエ。
「……そうだな。分かった首飾りは俺の船パルトナーの一室に保管してる。デカい船だからここには呼べないから、そこまでコイツで向かう」
言って小型艇に乗るよう促すとマリエもそれに従い乗り込むとリオンは発進させるのだった。
「……お前も苦労してたんだな。ってか野生の獣狩って肉を食って飢えをしのぎ毛皮を売って日銭を稼いで、ってそれが年端もいかねぇ貴族の娘のやることかよ!? 平民だってもっとマシな生活送ってるぞ!?」
「まあね。クソみたいな毒親の元に生まれたのが運の尽きってやつよ」
パルトナーに向かう小型艇の中、到着まで雑談でもと話し始めたが、マリエの身の上話があまりにも酷くリオンはドン引きしてた。
「服も穴が開いたの繕ったり継ぎ接ぎだらけのボロしか着る物無かったって……。お前の親って実の親なんだよな……?」
「ええ、腹立たしいことに正真正銘血の繋がった実の親子よ。物語とかだと再婚した継母に辛く当たられる前妻の子とか、逆に再婚した連れ子が前妻の兄姉に冷たくされるなんてあるけど現実なんてこんなものよ」
「マジかよ……。俺の場合おふくろが妾で、それで親父の本妻の婆とその子供に毎日のようにいびられてたけど、でも血の繋がった親父とお袋と兄貴は凄く優しくて弟も可愛くて……。
それなのにお前は血の繋がった家族にそんな目にあわされてきたのか!? 俺より不幸な家族環境とか想像の斜め上過ぎるだろ……」
言ってリオンは自らの顔の上半分を手で覆う。
「同情してくれるんだ……。まぁアンタの本妻の婆とその子供に虐げられた境遇可哀想と思うけど、私から言わせれば血の繋がった肉親はみんないい人ばかりで羨ましいぐらいよ」
厳密にはリオンは実の姉妹もいたがあまり仲良くなかったので意図的に伏せた。だがその姉妹でさえマリエの家族より遥かにマシに見えてより心中複雑だった。
「そうだな……。まさか自分の境遇が未だマシで恵まれてる方だなんて思わされる日が来るとは思わなかったよ。でもだからと言って逆ハーは、いやその……」
言いながらリオンは言葉に詰まる。頭では婚約者の居る男を誑かし奪い逆ハーレムなんて間違ってると分ってる。
それでもマリエの不幸すぎる境遇を聞いた後では否定の言葉を口にするのは躊躇われた。
「いいわよ。私も逆ハーは欲をかき過ぎたって思ってるから。まぁ不幸のバネ反動が強すぎて上見すぎちゃったのかもね」
言ってマリエは遠い目をする。
「そうだな……そういう意味じゃ俺も人のこと言えねぇかもな。本妻の婆に無理やり五十過ぎの後家に婿に行かされそうになって、それが嫌でチート戦艦のルクシオン手に入れたわけだし」
「そのチート戦艦と一緒に手に入れたのがアンタのあのチート鎧ってわけね。決闘の時ユリウス達フルボッコにされたときは正直恨んだりもしたけれど、今となってはそれで良かったのかもって思えるわ」
「そうか……。うん、まぁそう思ってくれてるんなら」
そう言ってリオンは黙り込む。
『まもなくパルトナーに到着接舷します』
沈黙を破るようにルクシオンの電子音声が告げる。
「おっと到着か。悪いなこれから首飾りの調伏ってのにテンション下がるような話しちまって。これが済んだら飯でも行くか? 奮発して奢るぞ?」
「いいの? そりゃ嬉しいけど婚約者が居るのにそんな他の女と続け様にご飯に行くのも不味くない?」
「それもそうだな……。よし、じゃぁカーラが完治全快したら快気祝いするからその時来てくれるか?」
「そうね、それならいいわ。オッケー。じゃぁ、ちゃっちゃと済ませちゃいますか」
言って二人パルトナーへ移るのだった。
「うわぁ……本当に黒い靄溢れだしてるじゃん」
パルトナーの一室。そこに結界で囲まれ安置された聖なる首飾りからはリビアを乗っ取ろうとしたあの時のまま黒い靄が溢れだしていた。
それは結界から這い出そうともがいてる様にも見える。
「この野郎……未だ性懲りもなく悪あがきしてるのか……!」
そう言って首飾りを睨みつけるリオンからは強い敵意が溢れだしていた。
そんなリオンに気付いたのか黒い靄の動きが激しさを増す。
その動きに苛立ちを覚えたのかリオンが強く床を踏みつけ大きな音を立てる。
だが靄は怯む様子はなく、その足踏みはただ側にいたマリエを驚かせただけ。
「悪い。驚かせちまって……」
「別にいいわよ。ちょっと吃驚しただけだから……」
リオンはマリエに向かい詫びの言葉を述べつつも視線は首飾りを尚も睨み付けたまま。
そして何かに気付いたように声を上げる。
「オイ、ルクシオン。コイツの修復したのか?」
リオンがリビアから首飾りを引き剥がしたとき強引に引き千切ったのだが、目の前の首飾りは千切られた跡はなく繋がり輪を成していた。
『いえ、どうやら自己修復機能が備わってようです』
「修復って……アンタ何やったの!?」
「ああ、コイツがリビアを乗っ取ろうとしたとき、リビアから引き剥がす為にチェーンを引き千切ってやったんだ」
「な、中々過激なことするのね……」
リオンの答えにマリエはやや驚いた様子を見せる。
「でも最初にリビアを助けようと動いてくれたのはアンジェで、でも主にそんな危険な真似させられないと手を伸ばしたのはカーラだった。
アンジェを護りリビアも助けようと……。とは言え女の細腕で引き千切れる程柔じゃなくてな。
いや重要なのはそこじゃなくて、アイツは俺なんかよりよっぽど勇気も思いやりもあって、それなのに俺と来たら予想外の事に戸惑い、とっさに動けず出遅れちまって……」
己を責めるリオンの背中をマリエは優しく叩く
「いいコ見つけたじゃない。大事にしてあげなさいよ」
マリエがカーラと出会い接したのはあの刃傷沙汰からの回復魔法の時だけ。だがその時の怪我の理由がアンジェを身を挺して庇ったことによるもの。
そして気位が高いはずのアンジェに因縁深いマリエに泣いて懇願するほど大事に思われてる。
今聞かされた友であるリビアを助けようと動いた話。
他者のために体を張れる情に厚い心根の優しい娘なのは十分伺い知ることが出来、そんな女子がリオンの――前世の兄の恋人なのが嬉しく思えた。
「ああ……、俺には過ぎた伴侶だよ。一生をかけて大事にする」
リオンはその脳裏にカーラのことを思い浮かべてるのか、呟いた顔はとても優しげだった。
その言葉にマリエは満足気に頷き首飾りへ視線を送る。
「さてと、そろそろ始めようかしらね」
言いながらマリエは首をコキコキ鳴らし肩を回す。
『その前にマスター。念のためコレを』
そう言ってルクシオンがリオンに手渡したのは厚手のグローブだった。
リオンが受け取って手に嵌めるとマリエが「何それ?」と聞いてくる。
「ああ、さっきリビアが首飾りに乗っ取られそうだったときカーラが外そうとしてくれたって言ったろ。
その時首飾りが外されまいと抵抗して黒い稲妻を発してな。お陰でカーラが手の平に酷い火傷負っちまって。
まあ火傷自体は後でリビアが治してくれたんだけどな。ついでに言うと俺も少々手の平をやられた。
コイツは若しまたそんな事になった時の、万が一のためのな」
「私がしくじりそうになった時のフォローもバッチリってわけね」
「いやお前の事信用してないわけじゃないけど一応念の為に……」
「分かってるわよ。ありがとね……。――いちゃん」
「ん? 今なんて?」
最後にマリエが呟いた言葉は小さすぎてリオンの耳は拾えなかったようだ。
「何でもないわ。それよりちょっと拳を突き出してくれる?」
言われてリオンが拳を突き出すと、そこにマリエが自身の拳を軽く当てるのだった。そしてリオンに笑顔を向ける。
「じゃ、ちょっくら降してやりますか。いいわよ、首飾りの拘束解いても」
マリエの言葉にルクシオンはリオンの方に目をやると、リオンは頷く。
『拘束解除します』
ルクシオンの声と共に首飾りの拘束が解かれ、瞬間首飾りとそれを包む黒い靄は襲いかかってきた。
だがその矛先はマリエではなくリオンだった。
「相手を間違えてんじゃないわよ!」
マリエは直ぐ様リオンの前に立ち塞がり両手を突き出す。そしてマリエは首飾りの黒い靄と、手四つで組み合うような形になる。
「お、おい大丈夫なの……」
「黙って見てなさい!」
マリエの声に気圧されリオンは口を噤む。
まさか黒い靄と正面から取っ組み合うとは思っていなかったリオンは驚きを隠せなかった。
あんなモン素手で立ち向かって大丈夫なのかと心配するも良く見るとマリエはうっすらと光に包まれていた。
「あれって……回復魔法の光か?」
『正確には回復魔法と同系列の光系魔法みたいですね。あの光で体を覆うことで黒い靄に触れても大丈夫なようです』
リオンの声にルクシオンが答える。そして二人はマリエと首飾りの戦いを引き続き見守る。
そうして手四つで組み合ってると、黒い靄が苦悶の声を上げるように悶えると、本体である首飾りから黒い稲妻が放たれる。
それを見た瞬間リオンの脳裏に自身とカーラが黒い稲妻に苛まされた時の様子が蘇り思わず身構える。
だがマリエに向かった稲妻はマリエを包む光に跳ね返される。
更にマリエと組んだ手の辺りから煙が噴き始めてた。
「お、おい大丈……」
『大丈夫です。ダメージを受けてるのは首飾りの、黒い靄の方です。マリエの光が徐々に黒い靄を浸食してます』
ルクシオンのその言葉が示すように組みあった手から吹き出す煙が増え、気のせいか黒い靄が最初より小さくなってる気が。
いや気のせいではないようだ。黒い靄はマリエに押さえ込まれ徐々にその体積を減らしていた。
「ドリャアァァァッッッ!」
マリエが吼えた。瞬間マリエの掌の輝きが一気に増す。
そして掌を押しこむと黒い靄の腕を形作ってる部分が一気に砕け散り始める。
マリエの掌に押しこまれ黒い靄の腕は次々と削り取られ砕け散っていく。
やがて黒い靄の腕は霧散しマリエの掌は黒い靄の腕の付け根、肩の辺りに。
そこから更に押しこみ、マリエの手は首飾りそのものを掴んだ。
「つ~かまえ……たッ!」
言ったマリエの口元が三日月の様な笑みを形作る。そして更に吼える。
「往生せえやぁっ!」
瞬間、マリエの掌の輝きが最高潮に。
そして黒い靄はマリエの光に灼かれ跡形もなく消え失せる。
光が収まったときマリエの手には聖なる首飾りが握られていた。
マリエは首飾りを首に掛ける。
「ま、ざっとこんなものよ」
言ってマリエはリオンの方を向くと腰に手を当て、もう片方の手で髪を払い決め顔でリオンに視線を送る。
その堂々たる姿にリオンは素直に感嘆の意を表す。
「いや正直、心底大したやつだと思ったわ……」
リオンの言葉にマリエは満面の笑みを浮かべるのだった。
「で、どうするの? この後」
マリエは首にかけた首飾りを指でいじりながら問いかける。
「そうだな……。もういっそお前が聖女になっちまうか?」
「いいの? アンタ、オリヴィアを聖女にするんじゃなかったの?」
リオンの声にマリエは問い返した。
てっきり自分の役割は首飾りを調伏するだけで、あとはその首飾りはリビアに渡されるものとばかり思ってたから。
「まぁ昨日も言ったが、お前に従ったからってリビアに素直に従うって保証もないからな。リビアが身に着けた途端また牙をむかれたら堪ったもんじゃねぇし」
「過保護ね~。まぁ昨日のアンタの話しぶりからすればそれも仕方ないか。凄く青い顔してたもんね。でもいいの? 主人公様じゃなくて私が聖女になって」
「なんだお前聖女になりたかったんじゃないのか?」
「なりたかった、の過去形よ今となっちゃ。だって私じゃ王家の船の力発動できないんでしょ?」
「ああ、だから役割分担だ。聖女になって船の使用申請出すのがお前。実際船に乗って使うのがリビア」
リオンの言葉にマリエは「なるほどね」と納得する。
「今のお前なら十分信頼できるからな。正直最初の頃は攻略キャラ誑かして主人公の座を奪って何やってんだこいつって思ってたけどな」
言われてマリエは視線を逸らす。
「だ、だから反省してるって! 自力でクリアしてない半端な知識でやらかしたって……」
「言ったろ。今のお前なら、って。カーラの命を救ってくれて、危険も承知で首飾りの調伏も行ってくれて。それに今、聖女の申し出も簡単には受けず慎重に対応してくれた。
もう一度言う、今のお前なら十分信用できるし、だから聖女の役割も任せられると思ったんだ。何よりあんな見事に調伏したの見せられちゃお前を認めないわけにもいくまい」
リオンの真っすぐな眼差しと評価にマリエは面喰う。
「素直に認められると調子狂うけど……いえ、私も素直に受け取って置くわ。じゃっ、王家の船動かす時になったらオリヴィアも乗せる。それでいいのね?」
「ああ、それで頼む。よろしくな、聖女サマ」
言ってリオンが笑顔で拳を突き出すと、マリエもそれに応え笑顔で拳を突き出しそれに合わせるのだった。
前中後と続いたリオンとマリエ、二人の転生者たちの話はこれでひと段落。
マリエの次の出番はまた大分先になるかと。
次回からは修学旅行、そして公国戦です。
引き続きお読みいただければ嬉しいです。
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