モブせか・カーラ if ルート   作:julas

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公国王女 ヘルトルーデ 登場です


8(24)公国艦隊襲来【前】

『マスター。カーラの勘がどうやら当たってしまったようです』

「マジか……」

 

 リオンの見詰める先にはルクシオンのレンズから投影された映像。そこに映ってたのは発炎筒のようなもの。

 此処は豪華客船、リオン達修学旅行に来てた生徒たちを乗せて運ぶ船。

 生徒達にはそれぞれ各部屋が割り振られており、リオンが今居るのも自身に割り振られた部屋。

 

 

『こちら、例の女生徒の部屋から見つかりました。王国で作られたものではありません。製造元は公国製です』

「公国って、ファンオース公国か!?」

 

 あの乙女ゲーのラスボスが所属する国である。

 未だ一学年のこの時期とか早過ぎるだろうと思いつつ、決闘も空賊イベントもゲームより早かったことを思えばあり得ない話ではない。

 

 

『間違いないかと。その公国の艦隊が此方に近づいてきています。未だ大分距離がありますが、接触も時間の問題です』

 

 そうしてルクシオンから投影される映像が切り替わり空を征く公国の紋章を掲げた艦隊が映し出される。

 

「ってことはあの発炎筒、見つかったのは未使用だったが、もう既に使われたのもあるかもってことか!?」

『そう言う想定で動いた方がよろしいかと』

「パルトナーとアロガンツ呼び出せるか?」

『もう此方に向かわせてます。公国の艦隊と接触する前には到着します。気付くのが早かったお陰です。カーラのお手柄ですね』

「そうだな、カーラには感謝してもしきれないな」

 

 言いながらリオンはルクシオンが投影する映像を見つめる。

 

「かなりのと言うべきか流石のと言うべきか正に大艦隊だな」

 

 映し出されてるのは公国の大艦隊。おまけにモンスターまで混ざっている。

 今までに体験したことも無い強大な敵。

 規模も質も先頃討伐した空賊どもとは比べ物にならない。

 だがそれでも逃げるなど有り得ない。

 大切な婚約者達と親友を護るため。

 ならば選択肢は一つ。

 

「やるぞ、ルクシオン」

 

 そうして覚悟を決め踏み出すのだった。

 

 

 

 

 

 空に広がる大艦隊。

 その中でも一際目を引くそれは、一言でいえば建造物を背負った空飛ぶ、いや空を泳ぐクジラの様な姿の巨大なモンスター。

 その大きさ、威容、背負った建造物にあしらわれた装飾、他の艦との位置取りなどからもおそらく旗艦なのが伺える。

 

 やがて一人の女性が姿を現す。

 齢の頃はリオン達と同じくらいだろうか。

 雪のような白い肌と対照的に、漆黒の髪に漆黒のドレスと無彩色な出で立ちに、深紅の瞳の輝きがより鮮烈な印象を見る者に与える。

 その佇まいには高貴さを想起させるものがあった。

 だが旗艦と豪華客船の間にはかなり距離があり余程目が良い者でもなければ視認は難しいだろう、そう思われたが彼女の頭上にその姿が大きく投影される。

 投影された彼女の姿に豪華客船に乗る生徒たちが不安にどよめく。

 

 

『ファンオース公国、第一王女ヘルトルーデ・セラ・ファンオースが告げる。我らはホルファート王国に宣戦布告する』

 

 そんな生徒達に向かい彼女が口を開いた。

 彼女――ヘルトルーデ王女の声は、ご丁寧に拡声器により増幅されしっかりと生徒たちの耳に遍く届く。

 

 リオンもまた彼女の姿を、声を見聞きしていた。

 だがそれは他の生徒達もいる豪華客船ではない。

 公国艦隊のはるか上空に気づかれることなく愛機アロガンツに搭乗したリオンは、眼下の王女を見下ろし睨みつけていた。

 

 

「宣戦布告、言質は取らせてもらったぞ」

 

 下手に手を出すのが早すぎると、単なる演習だったなどと言い訳され逃げられかねない。

 だがはっきりと宣戦布告をした以上もう言い逃れなどさせない。

 リオンはアロガンツを真っすぐ公国旗艦と王女めがけて急降下させる。

 さながらその姿は大空を支配し獲物に襲い掛かる猛禽の様に。

 

 

『愚かなる王国貴族の子弟たちよ。覚悟を決める時間をやろう』

 

 頭上から脅威が迫ってることも気付かずヘルトルーデの宣言は続く。

 

『降伏か、それとも死か。一時間だけ待つ』

 

 言い終えた瞬間、自身に降り注ぐ陽光が陰るのを感じる。

 王女たる自身の上空を行くなど何処の不心得者か。

 そう思い視線を上げるとそこには見たこともない通常規格よりも大きな鎧が迫ってきていた。

 リオン駆るアロガンツであった。

 

 

「なっ!?」

 

 驚きの声を上げるヘルトルーデの目の前、突如としてアロガンツが降り立つ。

 巨大な質量を持った鎧の急降下により風圧が巻き起こり猛風がヘルトルーデを襲う。

 吹き飛ばされそうになるヘルトルーデをアロガンツの巨大な手が掴む。

 結果ヘルトルーデの体は風に吹き飛ばされずに済む。

 だがアロガンツは――リオンは助けるためにヘルトルーデを掴んだわけではない。

 リオンはコクピットの中、モニターに映されたアロガンツの手に握られたヘルトルーデに冷たい視線を向ける。

 

 

「一時間もいらん。今すぐ降伏しろ。お前ら公国軍がな!」

 

 アロガンツに乗ったリオンが敵意を隠さず、その鋼の手に握られたヘルトルーデに向かい言葉を投げかける。

 

「は、放しなさいこの無礼者が!」

「状況がご理解頂けてないようですねお姫様」

 

 アロガンツからリオンの冷たい声が響く。

 

「放しなさい! この――」

 

 手の中から逃れようともがくヘルトルーデに対しリオンはアロガンツの手の力を僅かに強める

 強まるアロガンツの手による拘束に思わずヘルトルーデの口から悲鳴が漏れる。

 

 

『おのれ卑怯なっ! 姫様を放せ!』

 

 公国の兵士が操る鎧達が、アロガンツの手に捕らわれたヘルトルーデを救おうと駆けつけてくる。

 

「動くんじゃねぇ! お前らの姫様が手の内に居るのが見えねぇのか!」

 

 アロガンツは腕を掲げ、その手に握る王女の姿を公国兵たちに見せつける。

 それを目の当たりにした公国兵たちの動きが硬直する。

 その隙を逃さずアロガンツは公国の鎧に襲い掛かる。

 王女を捕まえてるのとは反対側の腕に装備されたブレードを振りかざし敵鎧の腕や足を切り裂き、或いは頑強な装甲を活かした体当たり――ショルダータックルによりねじ伏せる。

 そうして王女を救おうと立ち向かった数で勝るはずの公国鎧たちは瞬く間に無力化され無様な姿を晒す。

 

 

「卑怯者……! 人質を盾にするなど……!」

 

 ヘルトルーデは悔しそうに苦悶の声を漏らす。

 そう言いながらもヘルトルーデは現状を理解していた。

 複数の鎧を瞬時に捩じ伏せて見せたそのパワーとスピードは段違いであった。

 例え自分が、人質がいなくても結果は変わらなかったであろうことを。

 自分を捕らえる鎧の力が桁外れなのだということを。

 

 

「卑怯者? 学生達しか乗っていない民間船を正規の軍隊で襲っておいて言えた言葉か」

 

 ヘルトルーデに向かい冷たく言い放ったリオンのその声には怒りが滲み出ていた。

 あの船には大事な婚約者達も親友も乗っている。

 そんな彼女たちを人質に、或いは殺そうとした相手に情けなど掛ける筋合いは無いと言わんばかりに。

 

 

「観念してさっさと降伏宣言しろ。王将であるあんたが取られたんだ。詰みなんだよ」

 

 リオンはヘルトルーデに向かい冷たく言い放った。

 その言葉にヘルトルーデは項垂れ俯いていた。

 そんな彼女が長い黒髪を振り乱し面を上げる。

 その顔は笑っており、その瞳は狂気の色を帯びていた。

 

 

「アハハハッ……。王国の騎士は本当に愚かね。こんな場所にヘルトルーデ様がいらしてると本当に思ったの!?」

「なっ!?」

 

 その言葉にリオンは驚きを露にする。

 

「王女の影武者を捕まえたぐらいで何をそんな得意気に! 滑稽すぎて笑ってしまうわね!」

「戯言を!」

 

 リオンは動揺を隠すように手に握られたヘルトルーデに向かい吠える。

 

「嘘だと思うのなら殺せばいいわ。尤も影武者の首なんか取っても何の功績にもならないでしょうけどね」

 

 リオンは目の前のヘルトルーデの言葉を信じられないといった目で見る。

 

 

「ルクシオン……どう見る?」

『ブラフだとは思いますが決定付ける決め手がありません。厄介なことになりましたね』

 

 影武者であれば人質にも交渉材料にもならない。

 影武者など助ける必要無しとばかりに襲われれば手に握られた"王女"は単なる枷でしかない。

 かといって本物の可能性も捨てきれない以上手放す訳にもいかない。

 

 

『それより不味い状況かもしれません』

 

 リオンがコクピット内でルクシオンと話し合ってる間にも"ヘルトルーデ"が声を上げる。

 

「誇り高き公国の騎士たちよ! この私ごと王国の外道を討ちなさい!」

「なっ!? お前自分が何言ってるのか分かってるのか!?」

「私とて公国にその身を捧げた身! 公国のためなら惜しむ命などあろうはずもないわ!」

 

 リオンの問いに答えてるのか公国の騎士を鼓舞してるのか、尚も声を上げる"ヘルトルーデ"。その瞳に宿す色は益々狂気を帯びてるように見える。

 周囲を見渡せばいつの間にか公国の鎧たちが集まって来ている。

 本気でこの手に捕らわれてる"王女"ごと殺す気か!?

 

 

「ええい! クソッ!」

 

 リオンはコックピットハッチを開け身を乗り出す。

 

「ルクシオン! コイツを拘束しろ!」

 

 リオンの指示に従いルクシオンから無数の糸が吐き出され瞬く間に"ヘルトルーデ"の拘束が完了する。

 リオンは"ヘルトルーデ"を乱暴に抱きかかえコクピットに着座する。そして彼女を横向きに膝の上に乗せる。

 結果、リオンの顔のすぐ右に"ヘルトルーデ"の顔が置かれた状況に。

 

 

「何をする無礼者!」

 

 あまりにも近すぎる距離感に"ヘルトルーデ"は戸惑いの声を上げた。

 

「無礼者? 本物のお姫様ならいざ知らず影武者に対して無礼もクソも無いんじゃねぇのか?」

 

 リオンの憎まれ口にヘルトルーデは口ごもる。

 

「ハッ! やっぱ本物のお姫様じゃねぇかよ」

「ち、違います! これは本物のヘルトルーデならこう言う筈という……!」

「尊称付け忘れてるぞ?」

 

 リオンの言葉にヘルトルーデの顔が悔しそうに歪む。

 その顔にリオンはしてやったりと意地の悪い笑顔を向ける。

 

 

「それよりどういうつもりですか!? 私はあなたの敵ですよ!? 敵の女など捨て置けば良いものをわざわざコクピットに!」

「俺だってお前みたいな女乗せたかねぇよ! 俺の恋人たちだって乗せたことねぇってのに、クソが!」

 

 恋人だって乗せたことない、という言葉にヘルトルーデは僅かに頬が熱を帯びるのを感じる。直後、何を莫迦なことをとかぶりを振る。

 

「ジタバタすんじゃねぇ! 下手に暴れられると邪魔臭ぇ。ルクシオン、もう数本糸出して俺の体に固定させろ」

「なんですって!? いやらしい! この変態!」

 

 体に固定との言葉を聞き、今の状態でさえ距離が近いのに更に密着度が高くなるのかと顔を赤らめ声を上げた。

 

 

「煩え! お前の貧相な体になんか欲情するかよ! そういう言葉は俺の婚約者みてえにグラマスになってから言え!」

「貧相!? 失礼ね! 無駄な肉の無いスレンダーな体形と言いなさい!」

「スレンダーってのは細くしなやかながらも出るとこは出てるのを言うんだよ! 俺のもう一人の婚約者みてぇにな! お前みたいに何もついてねぇのはスレンダーとは言わねぇよ!」

「何もついてない!? 貴方本当に失礼ね!」

 

 ヘルトルーデの髪や肌は妖艶な魅力を放っていたが、その体は起伏に乏しく、グラマスなリビアや細くしなやかながらも起伏あるカーラに比べればリオンの目には見劣りするのだろう。

 もっとも、それこそ女神の様に美しく豊満で妖艶な女性だったところでリオンは二人の婚約者以上に心惹かれることなどありはしないだろうが。

 

「それにな! 見てくれだけじゃねぇ! 二人とも気立てが良くて優しくて健気で可愛い最高の恋人で婚約者たちさ! お前みたいな可愛げのない女と違ってな!」

 

 勢いに乗ってさらに捲し立てるリオンにヘルトルーデは怒りと羞恥で顔を赤くする。

 

 

「なんて失敬なのかしら王国の騎士は! それより敵の女を助けるような真似どういうつもりですか!?」

「俺は捻くれ者だからな! 目の前で死にたがってるようなやつを素直に死なせてやるほど優しくないのさ! それに目の前で人死にとか寝覚めが悪くて嫌なんだよ!」

「何? 貴方騎士のくせに人死にが怖いの? とんだ腰抜けね王国の騎士は」

「ハッ! じゃぁそんな腰抜け騎士にやられる公国の騎士は腰抜け以下だな!」

「貴方、正気!? この数を相手に勝てるつもり!?」

 

 その言葉が示すように周囲には無数の公国の鎧が集まって来てた。

 その内の一体が剣を大上段に振りかぶり襲い掛かってくる。

 一刀両断にしそうな勢いの剣をブレードで受け止めると、相手の剣の方が砕け折れる。アロガンツはそのままブレードを振るい相手鎧の手足を切り飛ばす。

 

 

「この野郎……今のは完全に中に居るお姫様ごと両断するつもりの一撃だったぞ! 自国の王女ごと斬ろうとするとか正気か!?」

「だから言ったでしょう。影武者だと」

「お前まだその設定続けるつもりかよ!?」

 

 リオンは呆れたように声を上げるとルクシオンが答えるように語る。

 

『おそらく本物でも影武者でも関係ないのでしょう。偽物、影武者なら助ける理由はない。本物ならば勝利の為に身を捧げた王女としてプロパガンダとして有効活用するつもりでしょう』

「自分たちで殺しておいて美談にすり替えるとか反吐が出るな」

 

 リオンが唾棄するように呟いた。

 

 

「覚悟が違うのですよ。国の為なら命を捧げるのなど当然でしょう」

「命を捧げるのを無理強いするとか本当に最低な国だな!」

「訂正しなさい! 誰も無理強いなどしてません!」

「だったら洗脳か!? どっちにしろ最低だな!」

「崇高な自己犠牲を侮辱するなんて貴方こそ最低よ!」

 

 コクピット内でそんな口喧嘩を繰り広げながらもリオン駆るアロガンツは次々と襲い来る公国の鎧を打ちのめしていく。勿論相手の命を奪うことなく。

 その圧倒的強さを目の当たりにヘルトルーデの口数は少なくなっていく。

 

 

「な、何なのよ貴方……! この圧倒的兵力差でどうして優位を保って戦えるのよ! まさか……ロストアイテム!?」

「ほぉ……よくご存じで。流石本物のお姫様」

「ですから……! それより思い出しました。王国に冒険者として名を上げた若い騎士がいると。貴方でしたか。まさかこんな人も殺せない腰抜けとは……」

「相変わらず口の減らねぇ。その腰抜け一人に束でかかっても勝てないこの現状でよくそんな減らず口叩けたものだな」

 

 言われて苦虫噛み潰したような顔になるヘルトルーデ。

 

 

「……そうですね。確かに貴方には敵わないようですね悔しいですが……」

「やっと観念したかよお姫様。だったらもう降伏宣言出してくんねぇかな」

 

 これでやっと終わりかとリオンがため息をついた。

 だが次いで口を開くヘルトルーデの表情は諦め受け入れたようなものではなかった。

 

「ええ、貴方には敵いません、ですが他の皆はどうでしょう。豪華客船に乗った他の生徒たちはどうなったのでしょうね?」

 

 言ってヘルトルーデはその口を三日月形に歪める。




リオンとヘルトルーデの口喧嘩が煩せぇwww
本編では後手に回った対公国戦。この世界線ではカーラの勘が当たったお陰で先手を取れましたが、それだけで勝てるほど戦いは甘くはなく……?
不穏な引きのまま次回も引き続き対公国戦です

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